がん治療医100名が選んだ「がん治療を変える注目トピックス」を解説! 第1弾「乳がん編」レポート(Club CaNoW医療セミナー)
- 作成:2022/09/08
がん患者さんとご家族のための会員制コミュニティ「Club CaNoW」(https://clubcanow.com/)では7月から2ヶ月に1度、特定のがん種をテーマにしたセミナーを3回にわたって開催します。第1弾は乳がん。7月29日(金)、がん研有明病院 乳腺内科部長の高野利実先生に最新の乳がん治療の動向や患者サポートの現状についてお話しいただきました。進行役は乳がんサバイバーで、乳がん患者支援団体「メンタル・スパ」主宰の大友明子さんです。
この記事の目安時間は6分です
乳がんに有効な薬が続々登場!
今回のセミナーでは、事前に乳がん治療医100名にアンケート調査を実施。「今後1~3年の乳がん治療を大きく変える可能性のあるトピックス」を回答してもらいました。その結果を元に、高野利実先生がとくに知ってほしいトピックスを選び、「治療編」と「患者サポート編」の2つに分けて解説していただきました。
「治療編」で高野先生が取り上げたものは、以下の4つでした。
- トリプルネガティブ乳がんの治療法・治療薬が拡大
- 「ベージニオ」(アベマシクリブ)の術後ホルモン療法の適応追加
- 「イブランス」(パルボシクリブ)、ベージニオのホルモン受容体陽性HER2陰性転移性乳がんでの有効性確認
- 「エンハーツ」(トラスツズマブデルクステカン)のHER2低発現乳がんでの有効性確認
乳がんはがんの性質(サブタイプ)によって有効な薬が異なりますが、とくにトリプルネガティブタイプは、ホルモン療法や抗HER2療法が使えないこともあり、名前の通り、ネガティブなイメージで捉えられがちです。しかし、高野先生はこう話します。
「ポジティブな面もたくさんあります。抗がん剤治療が有効ですし、近年は免疫チェックポイント阻害薬など新薬の開発も盛んです」
また、ホルモンタイプの乳がんの薬として高野先生が取り上げたのは、新たな作用機序が注目されている「CDK4/6阻害薬」です。イブランスとベージニオという2つのCDK4/6阻害薬について、どのような患者さんが対象になるのか、どんな薬との併用が効果的なのか、副作用はどうかなど、詳しく説明しました。
一方、HER2陽性の乳がんは、かつて予後が悪く長生きできないとされていましたが、2001年に「ハーセプチン」(トラスツズマブ)という分子標的薬が登場したことで、予後の良いがんに変わりました。さらに「パージェタ」(ペルツズマブ)、「カドサイラ」(トラスツズマブエムタンシン)、エンハーツなど、効果が期待できる薬が次々と開発されています。
中でも日本生まれのエンハーツは、つい最近、HER2陽性だけでなく「HER2低発現」の乳がんにも有効であることが報告されました。「これまでHER2陰性とされていた方の多くは、HER2低発現ですので、そういう方たちにとって治療の選択肢が広がる可能性があります」と高野先生。現在は承認申請中で、2023年に使えるようになる見込みということです。
また、高野先生は「多くの患者さんたちが新薬の臨床試験に協力してくれたことでエビデンスが作られ、それが現在の標準治療につながっています。これからもより良い治療法の開発のために皆さんのご協力をいただきたい」とメッセージを送りました。
患者を支えるケア、サポートの充実を
「患者サポート編」の冒頭で、高野先生は「患者さんの中には治療が人生のすべてであるかのように思いつめている方もいます。しかし、治療は大きな人生の中のごく一部分にすぎません。治療のために生きるのではなく、自分らしく生きるために、医療を活用してほしい。そのために、われわれ医療者がいます」と語りかけました。
続いて、実際にどのようなサポートが行われているのか、がん研有明病院の事例を挙げながら解説しました。アンケート結果から選ばれたトピックスは以下の3つです。
- アピアランスケア関連のサポートの充実
- 妊孕性保持に関する支援の拡大
- 遺伝子検査におけるサポートの充実
さらに「子どものケア」「AYA世代がんのサポート」「学業や就労との両立支援」「アドバンスケアプランニング(ACP)」なども紹介されました。
また、こうした内容を相談する窓口として、全国のがん診療連携拠点病院に「がん相談支援センター」が設置されていることにも触れました。がん相談支援センターには、看護師やソーシャルワーカーなどがいて、治療のことだけでなく、お金や仕事に関することなど、どんな相談にも応じてくれます。がん患者や家族にとって心強い存在です。
高野先生は「自分の病院にがん相談支援センターがなくても、近隣のがん診療連携拠点病院のがん相談支援センターに相談できます。何か困ったときは、担当医や医療スタッフに相談してほしいですが、がん相談支援センターもご活用ください」と話しました。
一人ひとり、その人なりの幸せをめざす
後半の「視聴者からの質問コーナー」では、薬に関する質問が数多く寄せられました。「早期乳がんにCDK4/6阻害薬を使う場合の期間は?」「エンハーツは治療の第一選択になり得るか」といった質問や、薬の効果を示す無増悪期間や生存期間でよく目にする「中央値」の意味を問う質問も。
「治療に耐えうるコンディションを維持するには、食事や運動はどこまで注意すればいいでしょうか?」という質問に対して、高野先生は「コンディションをよくするためにやるのが治療ですから、治療のためにコンディションを維持するというのは方向性が違うと思います」とした上で、「こうしなければいけないと制限したり無理したりするよりも、おいしい、気持ちよい、と思えることが重要で、自分らしく、自分のペースでやったらいいのではないでしょうか。がんにいいとか悪いとか考えるよりも、食事はおいしくいただき、運動も楽しんでやるのが一番です」と回答しました。
セミナーの最後に高野先生はご自身が作った「ヒューマン・ベイスド・メディスン(HBM)」という言葉を紹介。視聴者に向けて、こう語りかけました。
「HBMは、『一人ひとりの、その人なりの幸せ』をめざす医療のこと。まずは、何を大切にして、これからどのように過ごしていきたいのかを医療者に語ってほしいと思います。医療者と目標を共有した上で、自分にとって最善の医療が何なのか、じっくり話し合い、納得して選択することが重要です。皆さん一人ひとりが、自分らしく過ごされることを願っています」
視聴者の感想「本当にありがたく、希望が持てた」
セミナー終了後には、視聴者から「万が一再発があっても、新しい抗がん剤がある事を心強く思った」「なかなかここまで踏み込んだ情報が得られず、わかりやすい説明も受けられないので、本当にありがたく、希望が持てた」「治療は人生の一部で、がんに振り回されることなく自分の人生を生き抜きたいと思った」など、多くの前向きな感想が寄せられました。
Club CaNoWでは、今後も月1回、専門家の先生をお呼びして、治療の助けになるような医療知識をどこよりもわかりやすくお届けする医療セミナーを開催予定です。加えて、月1回、治療生活を応援するための会員向けイベントも企画しています。
次回の医療セミナーは9月14日(水)19:00-20:15予定。
肺がん治療医100名へ「今後1~3年の肺がん治療を大きく変える可能性のあるトピックス」を募ったアンケート結果を元に、『患者さんのための肺がんガイドブック』(日本肺癌学会発行)作成委員長の澤祥幸先生が解説します。特に、治療薬に関する最先端のトピックや、ガイドブックの読み解き方法について詳しくお話いただきます。
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