前置胎盤の診断、症状、対応 運動はダメ?帝王切開や入院が必要?出血の特徴は?エコーでわかる?仕事の可否は?
- 作成:2016/05/09
前置胎盤とは、お腹の中の赤ちゃんの胎盤が子宮の入り口をふさいでしまう状態で、症状として、特徴的な出血がみられます。帝王切開になるかや、仕事、運動の考え方な度を含めて、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。
この記事の目安時間は6分です
前置胎盤の症状 剥離で出血が起きる?
胎児の場所の異常も起こる可能性
前置胎盤の診断 エコーでわかる?
前置胎盤だと要安静?なぜ?
前置胎盤の時、運動してよい?仕事は続けてよい?
前置胎盤だと入院する?
前置胎盤だと帝王切開の出産になる?
前置胎盤の症状 剥離で出血が起きる?
前置胎盤の主な症状は性器からの出血です。出血には妊娠後期にみられる「警告出血」と、出産の時の「分娩時出血」があります。
「警告出血」は、妊娠28週ごろの妊娠後期に入るころに突然起こる不正出血のことです。痛みを伴わず、鮮血であることが特徴です。子宮の入り口付近は本来の胎盤の位置ではないため、子宮と胎盤の接着面がずれやすくなっています。妊娠後期には子宮の収縮が頻繁になり子宮口が開いてくるので、胎盤の一部が子宮の壁から剥がれて出血が起こります。はじめのうちは少量で自然に止血しますが、妊娠週数が進むほど出血の頻度が高くなり、量が多くなります。警告出血の時期が早く、血の量が多いほど、前置胎盤の程度が重いというサインです。初めのうちは少量でものちに大出血に発展する可能性があるので、産婦人科に行って注意深く経過をみることが大切です。
前置胎盤の場合には、胎盤が内子宮口を覆っているので、基本的には経腟分娩は不可能です。辺縁前置胎盤の場合には、経腟分娩ができる可能性がありますが、分娩時には大量に出血することが予測されます。前置胎盤は「癒着胎盤」になりやすく、たとえば帝王切開で赤ちゃんが出た後、胎盤の排出がスムーズにいかないことも珍しくありません。通常は、のちに脱落膜となる子宮内膜の表面までにしか胎盤は根を張りませんが、胎盤が内子宮口付近に付着している前置胎盤の場合には、子宮口近くは子宮内膜が薄いため、胎盤の根が子宮の筋肉や子宮頚部本体にまで到達してしまう可能性が高くなります。脱落膜よりも深く根を張ってしまった胎盤は、出産後もうまく排出されず、無理にはがそうとすれば大量出血の原因となります。胎盤をはがすことが難しければ、子宮を全摘出することもあります。
胎児の場所の異常も起こる可能性
出血以外の症状としては、胎位異常があげられます。胎盤が正常な場合よりも下の方にあるため、骨盤の中に胎児の頭が入らず、頭が上にある状態の「骨盤位」(いわゆる逆子)や、頭も足の下に降りてこない「横位(おうい)」が頻繁に見られます。胎位異常があると通常の経腟出産は難しくなりますが、そもそも前置胎盤は帝王切開での分娩になるので、赤ちゃんの位置に関してはそれほど気に留めることはありません。
前置胎盤の診断 エコーでわかる?
前置胎盤になっているかどうかは、超音波検査(エコー)で分かります。お腹に超音波を当てる経腹超音波診断でも前置胎盤かどうかは90%以上の確率で正しく分かりますが、腟内に器具を挿入する経腟超音波診断のほうが精度は高く、有効とされています。
妊娠中期(妊娠14週から28週)に経腟超音波検査で胎盤の位置を確認し、前置胎盤の有無を診断します。この時点で前置胎盤の兆しがなければ、その後発生することはありません。また、早い時期に前置胎盤の可能性が考えられても、その後妊娠週数が進むのに伴って解消される可能性もあります。最終診断はもう少し先になりますが、前置胎盤のフォローアップが必要かどうか判断するためにいちど中期で診断をおこないます。
妊娠後期の31週末までに、前置胎盤かどうかの最終診断をおこないます。胎盤が子宮口にどのくらいかかっているのかを確認し、全前置胎盤・部分前置胎盤・辺縁前置胎盤のいずれに該当するか、つまり前置胎盤の程度を判断します。
最終診断で前置胎盤となった場合には、帝王切開に向けての準備を始める必要があります。緊急時にも対応できる設備や体制が整った病院での出産が求められるので、医師が「自院では緊急時の対応困難」と判断した場合は、32週末までに他の医療機関を紹介してもらえます。診断をした病院で出産可能な場合は、遅くとも34週までに入院して帝王切開による出産に備えます。
なお、前置胎盤の場合は内診による検査は禁忌です。妊婦健診では医師が手を使って内診をするのが一般的ですが、前置胎盤の場合には子宮口近くに胎盤があり、直接さわることで大出血を引き起こす恐れがあるためです。
前置胎盤だと要安静?なぜ?
前置胎盤だと診断されると、医師からは安静にするようにと指示が出ます。前置胎盤は、胎盤と子宮の接着面がずれることで出血しやすく、ちょっとした刺激で大量出血につながることがあります。お腹が張るような動きや行動は危険です。運動や性交(セックス)は基本的にNGだと考えるのが良いでしょう。妊娠後期に近づくにつれて生理的にも子宮収縮が起こるようになりますから、なるべくお腹が張らないように安静にしていることが大切なのです。
しかし安静と言っても、完全に寝たきりなのか少し歩くくらいならいいのかは、その人の状態によってことなります。絶対安静が必要になるほどひっ迫した状況であれば、入院管理をすすめられるはずなので、自宅安静の場合は多少動くくらいなら大丈夫でしょう。ただし、どの程度安静にしていればよいのかは、医師に具体的に聞いておくことをおすすめします。車の運転、デスクワーク、食器洗いなどの軽い家事など、生活する上で自分がとると思われる行動が可か不可かを確認しておきましょう。あとは、実際の生活で少しでもお腹の張りを感じたら、すぐに横になるなどして体を休めましょう。安静過ごすためには、周囲の人のサポートが不可欠です。
前置胎盤の状態によっては、入院による安静を指示されることもあります。入院中は基本的にベッド上で安静にして過ごすようにして、慎重な経過観察を行います。入院安静の判断は病院によって異なりますが、妊娠中期以降で出血がない場合には、入院せずに自宅安静となることが多いようです。妊娠中期以降で出血がある場合には、入院となります。必要に応じて子宮収縮抑制剤を投与します。コントロールできないほどの出血があれば、胎児の成熟度をチェックしながら、緊急帝王切開となることもあります。
前置胎盤の時、運動してよい?仕事は続けてよい?
前置胎盤の場合、原則として運動は禁止です。激しい運動はもちろん控えるようにして、安静を心がけてください。しかし、どこまでを激しい運動とするかは判断が分かれるところです。マタニティヨガやストレッチなら問題ないと考える人もいれば、一切ダメという人もいます。まったく動かないとなると運動不足が心配になりますし、日常生活で歩いたり家事をしたりといった運動を全くしないわけにはいきません。そのあたりのバランスは医師とよく確認をとってください。ただし、運動中にお腹の張りを感じる、出血があるなどの異変があれば、すぐに中止するようにしましょう。
前置胎盤の場合は、仕事を休むかやめるかしないといけないのでしょうか?妊娠中期くらいまで出血もなく様態が安定しているようであれば、肉体労働や極端なハードワークでなければ働くことは可能です。前置胎盤の大量出血は妊娠後期から起こることが多く、中期ではまれです。ただし、突然前ぶれなく大出血を起こす可能性があることは覚えておきましょう。また、就労内容を医師に説明し、同意をとってください。体に負担がかからないよう、業務内容や勤務時間を職場と調整することが望ましいです。
妊娠後期に入っても前置胎盤が治らない場合には、緊急時に備えて仕事は休職とすることが望ましいです。妊娠28週を超えると、突然出血を起こす確率が非常に高くなります。大量出血となると、緊急帝王切開になることもあります。素早くかかりつけの病院に搬送されることが求められるので、できるだけ仕事はせず自宅で安静にするようにしましょう。
前置胎盤だと入院する?
前置胎盤で入院となるのは、妊娠中期以降で出血が見られたため確実に安静にするための「入院安静」と、妊娠後期に帝王切開による出産に向けて準備をするための「管理入院」の時です。
入院安静は、出産にはまだ早い時期ではあるけれども、確実な安静が求められる場合に医師から指示されます。出血があるケースで入院安静が必要であると判断されることが多いのですが、出血がなくても必要と判断する病院もあります。妊娠週数がまだ浅く、症状が改善されれば退院することもあります。また、そのまま入院が継続して、出産のための入院管理に移行する人もいます。前置胎盤の入院安静は長くなりがちで、数週間や数カ月に及ぶことがあります。母体と胎児の健康管理は万全ですが、投薬や点滴、検査、トイレや入浴などの制限などにより、疲れてしまう妊婦さんも多いようです。
妊娠30週から34週ごろになると、帝王切開による出産のための管理入院をおこないます。入院のタイミングは病院や妊婦さんの状態によって異なりますが、妊娠32週あたりが多いように思います。少なくとも34週までに入院することが日本婦人科学会のガイドラインでは推奨されています。帝王切開手術は、通常妊娠36週から37週あたりにおこないますが、それまでは安静につとめ、出産のための準備をします。
上記2つ以外にも、突然の大量出血のために緊急入院となる場合もあります。
前置胎盤だと帝王切開の出産になる?
前置胎盤の出産はほとんどのケースで帝王切開になります。胎盤が内子宮口をすべておおっている全前置胎盤はもちろん、部分前置胎盤・辺縁前置胎盤でも帝王切開が原則です。一方、内子宮口をおおっていない「低位胎盤」の場合は、胎盤の位置によっては経腟分娩が可能なケースもあります。
前置胎盤の場合の出産に際しては大量の出血が予想されるため、あらかじめ自分の血液を採取して保存しておく「自己血貯血(じこけつちょけつ)」をおこないます。他人の血液を輸血するのとは違い、自分の血液を使うため拒絶反応や感染症などの心配がありません。採血は、管理入院中の妊娠33週から34週頃に数回に分けておこないます。特に胎盤が子宮に癒着している場合には出血量が多くなるので、できれば十分な量の貯血を行っておくことが必要です。
最近では帝王切開手術や輸血の安全性が高いので、ハイリスク出産とはいえそれほど構える必要はありません。ただし、癒着胎盤の合併症を起こしている場合は注意が必要です。
産婦人科医にとっても前置胎盤で一番怖いのは、癒着胎盤だといいます。前置胎盤は正常な妊娠よりも癒着胎盤を起こしやすく、癒着胎盤は出産の際に大量出血のリスクを伴います。癒着胎盤の発生頻度は0.01%から0.02%とかなりまれなケースですが、最近増加傾向にあります。特に過去に前置胎盤による帝王切開の既往がある場合、癒着胎盤になる確率は格段に上がります。
癒着胎盤が厄介な理由は、術前に癒着の度合いを正しく診断することが難しいことにあります。子宮から胎盤がはがせそうかどうかは、出産後実際に患部を見てみないことにはわかりません。どうしても癒着の剥離や止血が困難な場合は、そのまま子宮の全摘手術をおこないます。
前置胎盤での出産の場合、多くの場合帝王切開になるほか、輸血と子宮摘出を行う必要が生じる可能性もあります。
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前置胎盤について、症状や対応方法などをご紹介しました。妊娠後の症状に、不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。
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