てんかんと生活 運転・免許更新・仕事は可能?障害者認定となる?運転のリスクとは?
- 作成:2016/08/01
てんかん患者の運転については、法律上禁止されてきた過去があるものの、実態とかけ離れていることなどから、条件付きで認められています。運転や免許更新の考え方に加えて、仕事への影響、障害者認定の考え方を含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。
この記事の目安時間は6分です
てんかん患者は「障害者」?
障害者手帳をもらえる?ランクはすべて同じ?
てんかん患者は免許取得・免許の更新ができる?
てんかん患者の運転のリスク
てんかんの発作は仕事や就職に影響する?
てんかんには、大きくわけて、原因で2種類、脳の異常の起きる部分で2種類に分けられ、それぞれの掛け合わせで、4種類にわかれます。記事を読むうえで、注意をお願いいたします。詳しくは、こちらで解説しています。
症候性全般てんかん→病気が原因で、異常の発生部位が脳全体のもの
症候性部分てんかん→病気が原因で、異常の発生部位が脳の一部のもの
特発性全般てんかん→原因が不明で、異常の発生部位が脳全体のもの
特発性部分てんかん→原因が不明で、異常の発生部位が脳の一部のもの
てんかん患者は「障害者」?
てんかんの患者さんでも、てんかんのタイプにより自然寛解したり、内服治療や手術療法により発作もなくなり、治癒されている方も多くなっています。すべてのてんかんの患者さんが障害者というわけではありませんが、長期にわたって日常生活や社会生活に制約のある患者さんを対象に、一定の障害状態にあることを認定してもらえる公的な制度があります。「精神障害者保健福祉手帳」による証明で、福祉サービスの利用や各種減税制度が適用されます。その他、利用できる代表的サービスとしては、患者さんの自立に関する「就労支援」で、障害者雇用を行っている企業への求職活動、日常生活に関しては携帯電話や公立施設の利用料の割引などがあります。
一方、「障害者」の認定としては、その他に、身体障害者福祉法に定める身体上の障害がある者に対して行われる「身体障害者(身体障害者手帳制度)」、および以前の厚労省通達により都道府県知事が行なってきた「知的障害児または知的障害者(療育手帳制度)」の2つがあります。てんかんの患者さんで、知的障害をともなう場合、療育手帳の取得も可能となっています。20歳を過ぎても判定を受けられますが、各自治体によって違いがあるようです(現在、療育手帳制度は各自治体独自の施策となっています)。また、一般的に、てんかんの患者さんは、身体障害者手帳制度の定めるところの「身体障害者」には当てはまらないことになっているようです。
障害者手帳をもらえる?ランクはすべて同じ?
てんかんの患者さんがもらえる障害者手帳は、「精神障害者保健福祉手帳」になります。医療機関への初診日から、6カ月以上経った日から申請できることになっています。障害のランク(等級)の判定は、以下の手順で実施されます。
(1)精神疾患の存在の確認
(2)精神疾患(機能障害)の状態の確認
(3)能力障害の状況の確認
(4)精神障害の程度の総合判定
てんかんの場合、発作の種類と頻度、日常生活の自立状況などによって判断されます。具体的には、1級から3級が次のような判定基準の下に認定されています。
発作のタイプ;大きく(A)と(B)の2つに分けられますが、重症度は(B)が高くなります。
(A) 「意識障害はないが、随意運動が失われる発作」、または「意識を失い行為が途絶(とぜつ)するが、倒れない発作」
(B) 「意識障害の有無を問わず、転倒する発作」、または「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作」
「1級」から「3級」へとランク(障害程度)は軽くなっていきます。
「1級」; 「(B) の発作が月に1回以上ある」
「2級」; 「(A) の発作が月に1回以上ある」、または「(B) の発作が年に2回以上ある」
「3級」; 「(A) の発作が月に1回未満である」、または「(B) の発作が年に2回未満である」
有効期限は2年間です。障害状況をみて、更新手続きをすることにより、継続して持つことができます。
てんかん患者は免許取得・免許の更新ができる?
日本においては、1960年道路交通法が施行されて以来、てんかんの患者さんの自動車運転免許は法律で禁止されてきました。しかし、実際には違法に運転免許を持ち、車を運転する患者さんが多数いるという法律と現状の解離(かいり)に対し、日本てんかん学会などが当局に勧告を行い、柔軟に対応するよう求めていました。そして、2002年6月の道路交通法改正から、自動車などの安全な運転に支障があるかどうかは個別に判断され、免許取得・更新が可能になっています。
てんかん患者さんの運転免許の取得が可能な条件は、以下の通りです。
(1)慢性のてんかん患者さんは2年間発作が無い場合、自動車運転免許を取得することができる。
(2)運転の安全性が損なわれない単純部分発作を持つ患者さんでは、1年以上運転の安全性が損なわれるような発作がなければ運転免許を取得することができる。
(3)睡眠中にだけ起こる発作を持つ患者さんでは、もし覚醒時の発作が2年間以上の間起こらなければ、運転免許を取得することができる。
(4)上記の必要事項が6カ月以内に満たされることが予想されれば、免許は6カ月以内の間、留保(停止)することができる(免許証は警察に預けます)。
(5)てんかん患者さんは大型免許あるいは第2種免許の申請するためには、服薬無しで、5年間発作が無いことが必要である。
運転の適正に関する評価は、てんかんの専門医か主治医の証明が前提条件となります。
さらに、2014年6月1日に新しい道路交通法が施行され、「更新」を含め、以下の点が変更になっています。運転可能の条件が緩和され過ぎることに対する歯止めの側面があるようです。
(6)運転免許を取得または更新する際、病状などを確認する質問票(過去5年以内に意識を失ったことがあるか、身体が一時的に思い通りに動かせなくなることがあったかどうかなど)に正しく答えなければなりません。虚偽の申告をすると罰せられます。
(7)一定の病気などに該当する(症状を有する)者であると警察が疑った場合、運転免許の効力が最大3カ月間停止されることがあります。(この間に、臨時適性検査などが行われます。)
(8)病気が原因で免許取消になり、その後3年未満に免許取得可能な状態になった場合には、学科試験や技能試験を受けることなく免許を再取得できます。再取得した免許は、前の免許を継続するものと見なされるので、優良運転者などの経歴は継続されます。ただし、この期間に運転経歴証明書は発行されません。
(9)発作があり、運転中に事故を起こす危険をみずから知りながらも、忠告を無視して意図的に運転を続ける場合には、診察した医師が警察に申告することができます。医師は十分な説明をする必要があります。
てんかん患者の運転のリスク
(1)てんかん患者さんの交通事故率について
運転免許を持つてんかんの患者さんの自動車事故についての調査があります。てんかん患者さんで運転免許取得者の2.9%が、人身事故を起こし(うち発作が関連していたものは、1%)、一般の方の1.1%以下というデータよりは高いと報告されています。3年以上発作がない、てんかんの患者さんの事故発生率(5.3%)は、発作が抑制されていない、てんかん患者さんの事故発生率(9.6%)よりも有意(ゆうい;統計学的に意味があるということ)に低いということです。以上のデータから、てんかんの患者さんの事故発生率は調査によって違いもありますが、一般の方よりもやや高く、発作が抑制されている患者さんの場合は、抑制されていない場合よりも低くなるということがわかっています。
(2)自動車運転に関する側頭葉てんかんの危険性
しばらく前からニュースなどで話題になっている、てんかんが原因とされる交通事故については、ほとんどの場合が、側頭葉てんかんが原因であるといわれています。側頭葉てんかんは、成人から高齢者にかけての運転年齢層で最も多いてんかんの1つであり、本人に自覚がないままに無意識に行動する「自動症」が特徴的とされています。そのうえ発作の前兆がない場合には、患者さん本人は発作が起こった自覚も持つことができていないようです。したがって、側頭葉てんかんの患者さんの場合、自分の発作を過小評価してしまい、気軽に運転することにつながっているのではないかと考えられています。
てんかんの発作は仕事や就職に影響する?
てんかんの発作がある方の場合、発作が起きるた際に、就労内容に、どのような影響を及ぼすかを考える必要があります。発作が少なく、仕事をする上で、それほど障害とならなければ、職場に病気の存在を知らせる必要がない場合もあります。一方、発作の頻度が多く、けがや作業に重大な影響をおよぼす恐れがある状態では、あらかじめ病気について話をしておく必要があります。病気を申告するかどうかは、免許の適性などを含め、その人の状態によって異なりますので、病状をよく理解した上で、ご自分でよく考えて決める必要があります。
社会のてんかんに対する先入観や誤解はなくなりつつありますが、日中の発作が続いている場合は、残念ながら就職はかなり制限されてしまうのが現状となっています。ただし、てんかんの患者さん向けの特別な社会復帰プログラムなどを行うことで、就職率も高くなり、仕事場を去るケースが少なくなるということがわかっていますので、必要に応じて検討してみるのはよいでしょう。
就労は社会参加の一つの形態であることは間違いありません。仕事をすることで得られるものには、さまざまなものがあるでしょう。しかし、残念なことに、病気の状態によっては就職が困難な場合もあるかもしれません。その様なときも悲観的にならずに、現在の状態で可能な社会参加の方法を検討したり、訓練を行ったりすることにより、自立への一歩を踏み出すことが何よりも大切と考えられます。
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てんかん患者の運転や仕事の考え方などについてご紹介しました。自身や近いが「てんかんかもしれない」と不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。
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