てんかんの発作の原因、前兆、予防 ストレス、酒、運動、たばこも引き金?薬以外で発作予防はできる?
- 作成:2016/08/02
てんかんの場合、発作を誘因する原因があることが少なくありません。また、一部の発作については、前兆があることが知られています。ストレス、酒、運動、たばこなどとの関係や、発作の予防方法を含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。
この記事の目安時間は6分です
てんかん発作には前兆がある?
側頭葉てんかん発作の前兆
発作の原因 ストレスが発作の原因になる?
発作の原因 アルコール(酒)が発作の原因になる?
発作の原因 運動が発作の原因になる?
発作の原因 たばこが発作の原因になる?
てんかんの発作は予防できる?
発作は、薬以外で予防できる?
てんかんには、大きくわけて、原因で2種類、脳の異常の起きる部分で2種類に分けられ、それぞれの掛け合わせで、4種類にわかれます。記事を読むうえで、注意をお願いいたします。詳しくは、こちらで解説しています。
症候性全般てんかん→病気が原因で、異常の発生部位が脳全体のもの
症候性部分てんかん→病気が原因で、異常の発生部位が脳の一部のもの
特発性全般てんかん→原因が不明で、異常の発生部位が脳全体のもの
特発性部分てんかん→原因が不明で、異常の発生部位が脳の一部のもの
てんかん発作には前兆がある?
「前兆(Aura)」という言葉は、ラテン語で「そよ風」を意味し、ローマ帝国時代のギリシャの医学者ガレノスが「一部のてんかんの患者に、発作に先行して感知されるそよ風の感じ」を表すのに用いたことに始まります。それ以来、前兆は、てんかん発作としての症状に先行する非発作性の現象であると考えられてきました。しかし、現在では、てんかんの前兆は、(1)意識消失に先行し、その間の記憶が保持される一部の単純部分発作、(2)二次性全般化けいれん(脳の異常が起きている部分が全体に広がるもの)をともなわない複雑な部分てんかん発作とされています。つまり、てんかんの前兆は非発作性の症状ではなく、「てんかんの先行する発作」という考え方が主になってきています。前兆があって症状があるのではなく、かつて「前兆」とされていたものも、発作の一部であるという考え方になってきました。
側頭葉てんかん発作の前兆
側頭葉てんかんの患者さんのうち、64%に前兆が認められるとされています。側頭葉に問題の焦点がある「精神運動てんかん(自動症と意識障害が主な症状の複雑部分発作)の前兆としては、以下のようなものがあります。
(1)腹部症状が最多で、上胃部のこみあげ感が多いとされる
(2)視覚性異常。いろいろな形や色が見えるなど
(3)聴覚性異常。機械の音がする、人の声が聞こえるなど
(4)嗅覚および味覚の異常
(5)既視感(きしかん、いわゆるデジャヴ)、未視感(みしかん;知っているところを見知らぬところと感じてしまう)、およびフラッシュバック(昔の記憶が次々と頭に浮かぶ)
(6)恐怖感など感情の異常
発作の原因 ストレスが発作の原因になる?
てんかんの発作においては、80%は偶発的(偶然)に、20%は何かに誘発されて、1%は反射的に起こることが知られています。特徴的な発作の誘発因子として、光刺激、過呼吸などはよく知られており、脳波検査においても、診断のためにてんかん脳波を誘発することもあります。80%の発作は、偶発的に起こるとされていますが、非特異的誘因(発作を直接的に起こす誘因とは特定できない誘因)が存在することは想定されています。てんかん発作を起こしやすくする状況には、睡眠不足、精神的ストレス、発熱、過労、月経、妊娠、出産、便秘などがあり、日常生活の中で一般的に見られるものですし、広い意味での「ストレス状態にある」といえる状況が多くなっています。睡眠不足、心配、不安、怒りなどの心理的ストレス、および過労は、とくに、てんかんの発作に関連性があると考えられています。
科学的には、客観的なデータとして、どのようなストレスとてんかん発作の発生に関係があるのかということが証明されているわけではありません。しかし、ストレスの多い状況が重なり、結果として発作を誘発することは確実だと考えてよいでしょう。発作を誘発する状況は、誰にでも当てはまるというものではなく、個人によって差があるということになります。
それぞれの患者さんにおいては、どのようなストレスが発作を起こさせる要因となっているかをご自分で知っておくためには、発作の記録を残しておくとよいでしょう。一見関係がないような状況が重なった結果として、発作が起きることがあるようです。
発作の原因 アルコール(酒)が発作の原因になる?
「アルコールてんかん」または「ラム・フィット」といわれる飲酒に関連したてんかんの発作があります。19世紀のロシアの有名な作曲家ムソルグスキーは、失恋や母の死をきっかけにアルコール中毒となり、アルコールてんかんのために42歳で死亡したことが知られています。「アルコールてんかん」とは、アルコールおよびコカインなどの薬物の依存者が、減量や中止後に離脱(りだつ)症状と共に生じる発作で、「離脱発作」ともいわれています。具体的には、断酒直前に2週間程度の飲酒期間があり、断酒後24から48時間で発作が出現するとされています。
主な発作の型は、「大発作(全般性強直間代発作)」と呼ばれる意識を消失して倒れるような発作で、発作回数はふつう1、2回で、6回以上はまれとなっています。離脱発作のおこる明らかなメカニズムは不明とされていますが、動物実験では、アルコールの慢性的な摂取を中断した後に、てんかんの発作閾値(ほっさいきち;発作が起こるレベルのこと)のアルコール量が、一時的に低下することが知られています。
また、アルコール関連発作に関わりの深い、てんかん患者さん側の要因も指摘されています。例えば、患者さんの20%に頭部外傷、5%に脳血管障害、2%に脳腫瘍などがみられるということです。ベンゾジアゼピン系の薬や抗てんかん薬の急激な減薬や中止でも、同じように離脱発作が起こることがあるとされています。
発作の原因 運動が発作の原因になる?
スポーツは健康維持や体力増進という良い面がある一方、方法が不適切であったりすると逆に体に悪い影響が出ることがあります。医師が、運動に関する指示を出すことは、「運動処方」といわれています。生活習慣病などに対する運動処方を出している診療機関は一般的になってきましたが、てんかんの患者さんに対して出されることは、未だ少ないようです。
これまで、てんかんの発作の際に、外傷や溺水(おぼれること)などの種々の危険を伴うものとして、スポーツは危険視されてきました。さらに、運動によって、てんかん発作が悪化する可能性も心配されたため、スポーツを禁止するのが一般的でした。最近では、新しい抗てんかん薬の登場、薬物の血中濃度の測定の進歩、そして手術療法の発展などにより、発作のコントロールができている患者さんが多くなっていることを理由に、スポーツを楽しむことができるようになっています。また、学童期の子供の社会的な生活訓練が、スポーツを通じて行われることも多くなっていて、運動の重要性が評価されています。
運動自体がてんかん発作を誘発するかどうかは、必ずしも明らかにはなっていません。発作は、緊張している運動中は適度に精神が緊張し、意欲に満ちているために起こりにくく、ほっと安心すると起こりやすいといわれています。てんかん発作の誘因として、身体的ストレスの中の「疲労」と、運動による「過呼吸」が挙げられているので、極端に過度な運動は避けるべきでしょう。養護学校の統計データでは、運動中のてんかんをもつ子供がけがをするケースより、てんかんを持っていない子供が運動中にけがをするケースの方が、はるかに多いことが示されています。日本てんかん協会でも、てんかんのお子さん全員にプールに入ることを勧めています。てんかんをもつ子供全体に対する運動処方をだすことは困難ですが、一般には、発作頻度に応じた運動処方が出されることが多くなっているようです。次に1つの基準例を挙げておきます。
(1)発作が数年間なければ、水泳を含めて何ら運動制限は必要ありません。
(2)発作が年に1回から2回でるときは、水泳は十分な監視下で許可されます。
(3)発作が年に3回から10回の時は、水泳は個別的な指導の下に許可されます。自転車、外泊の旅行などは十分に注意します。
(4)発作が頻発している時は、水泳、自転車、外泊の旅行は禁止するか、1対1の監視下でのみ許可されます。また、ヘルメットなどの防具を着用します。
発作の原因 たばこが発作の原因になる?
「喫煙がてんかん患者さんの発作を誘発する」というデータは見当たりませんし、また「他の人のタバコの煙がてんかん発作を引き起こす」などの報告も日本ではないようです。米国のハーバード大学から2010年に発表されたデータによると、25歳から42歳の若年女性を対象にした比較的大規模な調査で、「現在の喫煙はけいれん発作のリスクを高めた」「過去の喫煙は、けいれん発作のリスクは高めなかったが、わずかにてんかん発作の危険を高めた」というものがあります。他に、長期間のカフェイン摂取と少量の飲酒の影響もみていますが、カフェイン摂取と喫煙はともに、けいれん発作やてんかん発作との関連はないとされています。研究者らは、タバコを吸うことによる低酸素症と睡眠障害が、間接的に「けいれん発作」を導くことも指摘しています。
いくつかの動物実験では、タバコの成分であるニコチンが、けいれん発作に関係することが知られています。大量のニコチン投与で、全身性のけいれん発作が誘発され、逆に少量のニコチンは、けいれん発作に対し予防的に働くという研究もあります。今のところ、実際のてんかん患者さんでの喫煙の影響を見た、はっきりしたデータはないので何とも言いにくいですが、大量の喫煙(20本以上/日)は、てんかんやけいれんの発作だけでなく、その他の健康面の理由からも避けた方がよいでしょう。ただし、喫煙者について、完全に禁煙というのも、かえって精神的なストレスとなってしまっても良くないので、適度に楽しむ程度にしていく考え方が良いと考えられます。
てんかんの発作は予防できる?
現在では、てんかん発作の70%から80%は、抗てんかん薬や外科治療など最適な治療によって止めることができるといわれています。確かに、てんかんのタイプによっては、発作のコントロールの十分でないものもありますが、発作を再発させないためには、まず一日の決められた量の服薬を守り、絶対に中断しないことが重要です。てんかん発作の予防を難しくする第1の要因は、不規則服用(怠薬;たいやく、忘薬;ぼうやく)とされています。発作に適した抗てんかん薬を適量処方されていても、不規則服用すると、十分な抗てんかん薬の血中濃度が得られず、発作を予防することができません。また、疲れすぎや寝不足にならないことや、なるべく風邪をひかないように気をつけ、日常の生活のリズムを守り体調を崩さないように心掛けることも、発作の予防には大切になります。
発作は、薬以外で予防できる?
お薬以外には、発作の自己コントロールもあります。具体的には、「発作の誘因を避けること」、および「発作の最初の兆候(前兆)を知っておくこと」、が挙げられます。
(1)「発作の誘因を避けること」;「怒った時」「不安な時」「光のちらつきを見た時」など発作の誘因は、それぞれの患者さんによって異なります。発作を詳しく観察することにより、発作の誘因を特定しやすくなります。ある程度、誘因が同定できれば、できるかぎり誘因を避けることで発作の予防が可能となります。
(2)「発作の前触れ(前兆)を知っておくこと」;前兆は、部分発作(脳の一部に異常が起きる発作)の方に主に現れますが、すべての部分発作の人に前兆が生じるわけではありません。前兆も患者さんごとに、「手にムズムズした感じが生じる」「高い音が聞こえる」「目の前に赤や白いものが見える」などといったものがあり、多様なのが現実です。発作を持つ人の中には、前兆が生じた際に何らかの処置をし、発作を予防するように試み成功している人もいます。例えば、考えが飛ぶという前兆がある方は、一点に集中することで抑制できるといいます。「前兆の処置による発作抑制」は、てんかんのあるすべての人に効果があるというわけではありませんが、「発作の誘因の回避」とともに、発作の予防を可能にする自己コントロールになります。
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てんかんの発作の原因や前兆などについてご紹介しました。自身や近いが「てんかんかもしれない」と不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。
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