てんかんの原因と予防 遺伝する確率は?後天的、大人が発症する理由は?発症自体は予防できる?

  • 作成:2016/08/03

「てんかん」と一口にいっても、てんかんの起き方にはさまざまなタイプがあります。遺伝が関係しているのも事実ですが、「親がてんかんだから、子どもてんかん」と簡単な遺伝形式はとらないのが事実です。遺伝の考え方や後天的な発症、大人で発症する原因を含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。

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てんかんの原因 遺伝は関係する?確率は?
後天性のてんかんがある?原因は?
てんかんは大人になってからなることがある?その原因は?
高齢者の場合は原因不明も多い
原因不明のてんかんは予防可能?
原因不明でないてんかんは予防可能?

てんかんには、大きくわけて、原因で2種類、脳の異常の起きる部分で2種類に分けられ、それぞれの掛け合わせで、4種類にわかれます。記事を読むうえで、注意をお願いいたします。詳しくは、こちらで解説しています。

症候性全般てんかん→病気が原因で、異常の発生部位が脳全体のもの
症候性部分てんかん→病気が原因で、異常の発生部位が脳の一部のもの
特発性全般てんかん→原因が不明で、異常の発生部位が脳全体のもの
特発性部分てんかん→原因が不明で、異常の発生部位が脳の一部のもの

てんかんの原因 遺伝は関係する?確率は?

「てんかんの原因は何か」を考えることは、「脳の神経細胞が異常興奮しやすくなる原因にはどんなものがあるのか」を考えることです。大きく2つに分けて考えられています。1つは特発性てんかんの場合で、脳に異常興奮しやすい素質(てんかん発作を起こしやすい素因)があることが原因と考えられていて、一般的に、その他に脳の異常がなく、発達や運動機能にも異常がないことが特徴とされています。一部、原因となる遺伝子が特定されているものもありますが、ほとんどは多くの遺伝子が原因となっていたり(「多遺伝子」と言います)、外的な原因が偶然に一致することにより発作を起こしやすくなると考えられています。

もう1つは、脳にさまざまな病気が存在するために脳の細胞が興奮しやすくなる症候性てんかんの場合です。ほとんどは、程度にばらつきはありますが、知的障害や手足の麻痺(まひ)などを伴っています。病気が原因となっている場合は、てんかんの発作は、脳の障害の合併症と考えて良いとされています。

てんかんは、単純な遺伝形式(いわゆる“メンデルの法則”にしたがう遺伝のこと)で遺伝するのではなく、多くの因子が重なって発症する「多要因遺伝形式」をとることが知られています。つまり、遺伝的な要因が1でないために、対応が難しくなるわけです。米国の報告では、てんかんの患者さんの子供が25歳までにてんかん発作を起こす確率は、一般の方の1%から2%に比べて6%で、約3倍と高くなっています。また、母親がてんかんの場合は8.7%、父親の場合は2.4%となっています。

親のてんかんの原因や、発作の形式は、遺伝するかどうかについて、特に関係しないことになっています。ただ、日本の研究では、263人のてんかんの患者さんの子供を調査したところ、てんかんを発症する確率は4.2%となっています。アメリカの研究と異なり、特発性てんかんで11.0%、症候性てんかんで3.2%であり、全般発作で9.2%、部分発作で1.8%から5.9%となっていて、てんかんの原因や発作の型により遺伝する確率は違っているという結果が出ています。

後天性のてんかんがある?原因は?

大脳に病変をもつ後天性の脳の病気には、さまざまなものがあります。大脳の病変がもとになって起きるてんかんは、「症候性てんかん」といわれますが、「2次性てんかん」、「後天性てんかん」ともよばれています。したがって、さまざまな脳の病気や外傷が、後天的に起こるてんかんの原因になるということです。特に、成人から高齢者では、後天性のてんかんがよくみられます。類型分類からみると、「症候性部分てんかん」の型、つまり病気が原因で発作時の脳の変化が一部にとどまるものがほとんどです。

原因としては、脳血管障害(のうけっかんしょうがい)(発症確率17%から69%)が最も多く、脳腫瘍(同2%から36%)、頭部外傷(2%から21%)、認知症(にんちしょう)(同2%から14%)、炎症性の疾患(同2%から7%)などが代表的なものです。もう少し詳しくみてみましょう。

(1)脳血管障害;脳卒中の中では、脳梗塞(のうこうそく)よりも脳出血やくも膜下出血の方が、原因になりやすいとされています。

(2)脳腫瘍;大脳の表面近くにできることが多い「髄膜腫(ずいまくしゅ;脳を包んで保護している髄膜から発生する腫瘍です)」に、てんかんはよくみられます。

(3)頭部外傷;硬膜下出血(こうまくかしゅっけつ;硬膜は髄膜の1つで外側の硬い膜です)は、血腫が脳の表面を強く圧迫するために、てんかんを起こしやすいといわれます。

(4)認知症;てんかんを発症するリスクは一般の方の5倍から10倍と高く、アルツハイマー病と呼ばれるタイプの認知症の患者さんでは、10%から22%が経過中に、てんかん発作を伴い、認知症の発症からてんかんの発作がでるまでの期間は平均6年といわれています。

(5)炎症性の疾患;一般的には、急性脳炎(のうえん)や急性脳症(のうしょう)の後遺症として、しばらくの期間をおいて、てんかんを発症するといわれています。

てんかんは大人になってからなることがある?その原因は?

特発性全般てんかんは小児から若年での発症が多く、25歳以降に初発することはきわめてまれとされています。部分てんかんは、いかなる年齢でも起こりうることが知られています。一方、てんかんの年齢別の発症率は、10歳以下の子供と60歳以上の高齢者に2つのピークがあります。多くの方は、てんかんは子供の病気と思っているかもしれませんが、多くの先進国では子供の発症率は低下気味であり、高齢者の発症率が増加傾向にあります。特に、60歳または65歳以上の高齢者が新規にてんかんを発症したものは、「高齢発症てんかん」と定義されていますが、日本でも人口の高齢化を反映して、増加していると考えられています。したがって、てんかんは大人、とくに高齢になってからなることは、むしろ多いということです。

高齢者の場合は原因不明も多い

若年成人の症候性てんかんの原因として多いのは、出産時の外傷、「脳皮質形成異常(のうひしつけいせいいじょう;母親の胎内で脳が形作られる段階の異常による脳の部分的な奇形)」、脳炎後遺症、頭部外傷、脳腫瘍などですが、若年や成人という年齢は、てんかんの発症率は最も低いところにあります。一方、増加傾向にある高齢発症てんかんの場合、最も多いのは脳卒中で、原因の30%から40%を占めるとされています。脳卒中後、2週間以上経ってから起こるけいれんを「遅発性けいれん」といいますが、遅発性けいれんは再発することが多く、半数が最初の3年間のうちに、症候性てんかんを生じるといわれています。脳卒中後に症候性部分てんかんを生じる率は、一般に2%から4%となっています。高齢者では、他に「神経変性疾患(しんけいへんせいしっかん;アルツハイマー病など)」も原因として多くなっていますが、原因が特定できない場合が25%から40%あり、原因不明のてんかんが脳卒中に次いで多くなっています。

原因不明のてんかんは予防可能?

特発性てんかんの場合、脳そのものには「病変(病気による変化)」が見られない原因不明のてんかんとされていますが、根本的な原因に関わる病態(病気の起こるメカニズ)は少しずつわかりはじめています。以下のようないくつかのてんかん病型で、遺伝子の異常が明らかになっています。(1)イオンチャンネルの遺伝子の異常。イオンチャンネルとは、細胞の膜にあるイオン(ナトリウムNa+、カリウムK+、カルシウムCa2+)の通り道で、細胞の電気的な活動に関与しています。

(2)神経細胞の間のシナプス(2つの神経細胞の接合部のことで、神経伝達物質を放出する「神経細胞突起終末」と受け皿である側の神経細胞の「神経伝達物質受容体」からなっています)の受容体(レセプター)の異常、などが知られていますが、全容の解明にはまだまだ時間がかかるようです。

根本的なメカニズムが解明されていない、原因不明の「てんかんの発症を予防」することは、今のところ無理なようです。

原因不明でないてんかんは予防可能?

一方、症候性てんかん、とくに外傷や脳卒中の後遺症として起こってくるてんかんでは、それぞれ受傷や発症の初期の治療により、てんかんになることを予防することが、ある程度可能になります。外傷後や脳卒中後すぐに起こる「早期けいれん」と、しばらく(1週間から2週間後)してから生じる「遅発性けいれん」が、特に遅発性けいれんは、再発を起こしやすく、てんかんに移行しやすいことが知られています。したがって、早期および遅発性けいれんを再発させることなく、うまくコントロールすることができれば、症候性てんかんの発症をある程度予防できる可能性があります。


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てんかんの原因や予防方法についてご紹介しました。自身や近いが「てんかんかもしれない」と不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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