てんかんの疑問 治る?再発する?寿命に影響?突然死がおきやすい?患者数はどれくらい?
- 作成:2016/08/04
てんかんについては、さまざまなタイプがあり、治りやすいタイプがあり、子供のてんかんは、大人に比べて治りやすいといえます。再発可能性、寿命への影響や、突然死のリスク、患者数を含めて、医師の監修記事で、わかりやすく解説します。
この記事の目安時間は6分です
てんかんは治る?
小児てんかんは治りやすい?
てんかんは治ってから再発することがある?
てんかんは寿命に影響する?
突然死が起きることも
てんかんの患者数は日本にどれくらい?
てんかんには、大きくわけて、原因で2種類、脳の異常の起きる部分で2種類に分けられ、それぞれの掛け合わせで、4種類にわかれます。記事を読むうえで、注意をお願いいたします。詳しくは、こちらで解説しています。
症候性全般てんかん→病気が原因で、異常の発生部位が脳全体のもの
症候性部分てんかん→病気が原因で、異常の発生部位が脳の一部のもの
特発性全般てんかん→原因が不明で、異常の発生部位が脳全体のもの
特発性部分てんかん→原因が不明で、異常の発生部位が脳の一部のもの
てんかんは治る?
「てんかんが治るか」については、てんかん発作の原因、重症度、脳の障害の有無および程度によって変わってくることはもちろんですが、一般的には、適切な薬物療法によって、発作の消失、発作の回数を減少させることができると考えられています。また、発作が消失している期間が、小児で2年から3年、成人で5年以上続き、担当の医師が服薬の中止が可能であると判断した場合、3カ月から6カ月をかけて、ゆっくりと薬の量を減らしていくことになります。現在、治癒の確実で客観的な指標があるわけではありませんが、服薬を中止した後も発作の再発がなければ、「てんかんが治癒した」と考えてもよいといわれています。しかし、お薬の中止後も発作が再発する場合もありますので、半年から1年に1回程度、脳波検査を含む検査を定期的に受け、経過を見ていくことが大切になります。
小児てんかんは治りやすい?
小児のてんかん、とくに特発性てんかん(原因が不明なもの)については、比較的に「治る」可能性の高い病気といわれています。特別な治療が不要なケースもありますが、多くの場合は、適切な診断と抗てんかん薬の服用などの治療によって、発作を起こさず生活することができます。また、外科手術で「治る」こともあります。小児てんかんの治りやすさは、次のようなタイプです。
(1)治療で発作が消失するタイプ;
(a) 脳波の検査で「中心・側頭部に棘波(きょくは;とげのようにとがった脳波)をもつ良性小児てんかん(良性ローランドてんかん)」:通常、成人になるまでに完全に治ります。
(b) 「小児欠神てんかん」:大部分は成人になるまでに治ります。全身けいれんのみられないタイプは、治りが良いとされています。
(2)治療で完全に発作が抑えられるタイプ;
「若年ミオクロニーてんかん」:適切な抗てんかん薬を続けていくことによって、発作を抑えることができます。
(3)治療で発作が抑えにくいタイプ;
「ウエスト症候群」、「レノックス・ガストー症候群」:いわゆる「難治性」といわれるてんかんですが、新しい抗てんかん薬の発売により、効果のある治療ができるようになってきています。
てんかんは治ってから再発することがある?
てんかんの種類、つまり「特発性か症候性か」、「小児発症か成人発症か」などによって再発の確率は大きく異なってきます。
画像検査上原因となるような所見がなく、他に、てんかんを発症するような基礎疾患が見当たらない、いわゆる「特発性てんかん」の中で、治癒しやすい良性てんかん(前項の(1)治療で発作が消失するタイプなど)の場合には、再発率は5%から10% 程度といわれています。ただし、特発性てんかんの中でも、「若年ミオクロニーてんかん(前項(2)治療で完全に発作が抑えられるタイプ)」などは、高い確率で再発することが知られています。また、脳に原因となる所見があるような「症候性てんかん」の再発率は、30%から40%という報告があります。
一般的に、成人では「良性てんかん」というものの報告はなく、小児期発症のてんかんより、発作再発のリスクが高いことが知られています。また、再発が起こる場合、1年以内に起きることが多く、2年以上たつと再発する確率は、かなり減少するとされています。
前項でも述べましたが、てんかんの場合、治療の終結(「治癒した」とする)が、医師にとって最も難しい判断の1つとされています。小児のてんかんでは、発作が消失してから2年未満に治療を終了すると、2年以上治療を続けた場合に比べて、発作再発のリスクが高く、1.32倍になります。特に、部分発作の場合で1.52倍、脳波の異常がある場合で1.67倍と再発リスクが高くなります。小児については、2年または、それ以上の寛解を待って治癒したと判断すると再発の危険は少なくなります。
成人のてんかんでは、2年以上発作が寛解していた患者さん1,013例を対象にした調査で、さらに2年後に、治療を続けていた患者さんの群では再発率22%に対して、治療を終了させていた患者さんの群は、41%に再発がみられたということです。成人では、再発にかかわる最も重要な因子は、発作寛解期間の長さである(発作消失後も治療を長く続けるほど、再発は減るということです)ことです。したがって、成人のてんかんの場合、小児よりも長い5年以上の寛解を再発の面からも治癒の目安とするのが一般的なようです。
てんかんは寿命に影響する?
てんかんは、原因が不明なものも病気の場合もありますし、発作の症状も多様です。原因や症状の出方にさまざまなタイプがある以上、「てんかん全体が寿命にどのような影響があるか」をみたデータはないようです。
内服薬(飲み薬)により、てんかん発作を完全にコントロールできた状態を「寛解(かんかい;根本的に治ってはいないが、見かけ上は症状の発作は消失した状態)」といいます。てんかんの4類型での、内服薬による寛解率は、以下の通りです。
・特発性部分てんかん(良性ローランドてんかんなど)→100%
・特発性全般てんかん(若年ミオクロニーてんかんなど)→80%
・症候性部分てんかん(側頭葉てんかん、前頭葉てんかんなど)→50%から60%
・潜因性(せんいんせい;症候性のうち、おおよその原因はわかっているが確定していないもの)全般てんかん(レノックス・ガストー症候群、ウエスト症候群など)→20%
予後(治療後の見通し)は4類型の間でも、かなり異なっています。特発性の部分および全般てんかんでは、寛解率する確率が高いことから、寿命にほとんど影響がないことが予想されます。
突然死が起きることも
てんかんの患者さんに「予期せぬ突然死(Sudden Unexpected Death in Epilepsy;SUDEP)」があることが知られています。突然死は、もちろん一般の方にも起こりますが、てんかんの患者さんの場合、突然死が、てんかんがない若年成人の40倍多く、また、てんかんの患者さんの死因の2%から18%を占めるとされています。SUDEPの危険因子は、「発作の回数」が最も強く関連していて、次いで「若年での発症」と「罹病期間(りびょうきかん;てんかんの場合は寛解せず症状が続いている期間になります)が長いこと」になっています。したがって、発作がコントロールできない難治てんかんでSUDEPは多くなります。治療が長引く慢性てんかんや難治てんかんでは、死亡率も一般に比べ2倍以上になるというスコットランドのデータもあり、寿命も短くなっている可能性が高いと考えられます。
てんかんの患者数は日本にどれくらい?
日本において「てんかん」という病名で受診している患者さんの数は、2011年の厚生労動省の患者調査によれば21万6000人(総人口の0.2%弱)となっています。疫学(えきがく;病気の原因と考えられる原因と病気の発生の関連について、集団や地域を対象に統計を利用して調べる方法)的には、先進国のてんかんの有病率(ゆうびょうりつ;ある時点の患者さんの数のことです)は、若年者で1000人に約5人(0.5%)、高齢者で100人に約1人(1.0%)とされ、年齢とともに患者さんの数は増加します。しかし、これまでの厚労省患者調査をみると、患者数は年齢が上がるにつれて、減少する傾向を示しているために、患者動向調査では、成人および高齢者の患者数が正確に把握(はあく)されていないことがわかっています。「てんかん」が主な病名になっていないために把握できないことが、主な理由とされています。
厚労省の患者調査とは別に、最近の研究では、健康保険組合のレセプトデータの分析に基づき、てんかんの有病率を人口1000人あたり7.24人、つまり0.7%程度と推計しているものがあります。また、現在進行中の40才以上の住民検診に基づく調査でも、一般に人口の0.5%から1.0%とされるてんかんの有病率に一致する結果が得られる可能性が高いようです。てんかんの有病」率が高齢者で上昇する事を考え合わせると、高齢者人口の急増する日本においては、てんかんの患者数100万人(人口の0.8%)という数字が、妥当な推計とされています。てんかんは、決してまれな病気ではなく、神経の病気の中でも最もよくみられるものの1つになっています。
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てんかんの治療可能性や寿命への影響などについてご紹介しました。自身や近いが「てんかんかもしれない」と不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。
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