「健康寿命を大きく左右」コロナ禍、水面下で進む「骨」のリスク
- 作成:2021/09/04
ワクチン接種が進んできているものの、収束の兆しがなかなか見えないコロナ禍。行動や生活が変わった結果、間接的にさまざまな面で健康を害する人が増えています。骨や腱、筋肉など、整形外科が担当する領域の病気にも変化が起きており、中には注意が必要なケースも。 どんな変化が起きたのか、そして特に注意が必要な高齢者の骨折について、独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)大阪病院 整形外科主任部長の島田幸造先生に教えていただきました。(取材日:2021年7月20日)
この記事の目安時間は3分です
コロナ禍で高齢者、青年・壮年、子どもに起きたこと
2020年の春先から現在に至るまで、陽性者数の波に影響されるようにして、整形外科を受診する患者さんの症状にも変化が起きています。時系列・年齢別に説明しましょう。
【2020年春・全国一斉緊急事態宣言中~】
■受診控え(特に高齢者、お子さんをもつ親御さんで顕著)
■学校の休校・部活動中止による子どものスポーツ外傷(骨折、靭帯の怪我、野球肘 など)の激減
■レクリエーションとしてスポーツをする人が減ったことで大人のスポーツ外傷(アキレス腱断裂 など)が激減
【2020年秋~】
■学校体育、部活動再開で子どものスポーツ外傷は増加してきたが、オーバーユース(使いすぎ)が原因の野球肘などはまだ増えていない
■大人でもスポーツを再開する人が増えて、アキレス腱断裂などが増加
■運動不足解消を目的としてランニングを始める人が増え、それに伴って疲労骨折が増加
下図は、当院を受診し手術に至った患者さんの推移です。高齢者の骨折(グラフ①)はコロナ禍前の2019年と比べて大きく変わらず、若者の靭帯損傷(グラフ②)は2020年に減って2021年には戻ってきています。一方で若者の野球肘(グラフ③)はまだ減ったまま、という状況です。
①のグラフで分かるように、高齢者の骨折は患者さんの数だけで判断すると、コロナ禍による影響はあまりなさそうです。ただ、その内容はコロナ禍前後で少し異なります。特に注意が必要なのは高齢者の骨折ですので、詳しく解説します。
高齢者の骨折、数は変わらないが背景は深刻に
はじめに、高齢者の骨折の概要について。骨折しやすい場所は大腿骨頸部(太ももの付け根の部分)です。骨粗鬆症で骨がスカスカになっていると、つまずいて転ぶだけで骨折してしまいます。70代以上の女性が高リスクです。
大腿骨頸部を骨折すると股関節が痛むため、立つこと、歩くことが難しくなります。寝たきりに繋がりかねないため、手術によって骨を補強したり、人工関節に入れ替えたりといった治療を行い、手術後はできるだけ早く歩行訓練を行わなければいけません。
下の図は、大腿骨頸部を骨折した患者さんのレントゲン画像です。
左が骨折したときのレントゲン画像。矢印部分に骨折がみられます。中央が骨を補強する手術を行った後、右は人工関節に入れ替える手術を行った後の画像です。患者さんの骨折の程度や骨の状態によってどんな手術を行うか判断します。
コロナ禍で骨折の背景はどう変わったでしょうか。
まず、室内での転倒で骨折するケースが増えました。これは外出自粛が影響していると考えるのが自然でしょう。室内で転んで骨折すると、ポキっとは折れないことが多いので、すぐに医療機関を受診しない場合があります。特にコロナ禍では高齢者の受診控えが目立ったので、1日~2日家で様子を見た結果、痛みが我慢できなくなって救急車を呼ぶといった患者さんも少なくありません。
加えて、受け入れる病院側でも、特に第1波ではPCR検査が簡単にできなかったことなどもあって、コロナではないと確認できるまで時間がかかり、手術するまでの期間が普段よりも1日~3日ほど延びてしまうことも発生しました。
本来高齢者の骨折は「準救急」扱いで、骨折してから数日のうちに手術をして歩行訓練を始めないと、患者さんの筋力が落ちて寝たきりになるリスクが上がったり、認知症につながったりしてしまいます。それがコロナ禍で、患者さん側と病院側の事情が重なり、通常よりも時間がかかってしまいました。
コロナ禍が高齢者の筋力に及ぼした悪影響
コロナ禍が高齢者の生活に及ぼした悪影響は他にもあります。まずは筋力の低下です。青年・壮年でもコロナ禍による運動不足で筋力が低下している人は多いですが、高齢者の場合はより深刻です。外出自粛や、通っていたデイサービスの停止・利用控えなどが影響して、筋力が低下し、一度低下すると同じような運動習慣に戻しても若い人よりも回復までには時間がかかります。
また、リハビリが十分に行えないことも、筋力低下の一因になっていると言えるでしょう。当院の場合は、入院患者さん向けのリハビリと、通院リハビリを同じ部屋で行っていたため、コロナ禍では通院リハビリを一時的に制限せざるを得ませんでした。
リハビリを担当する理学療法士も、患者さんたちとの接触に制限が発生したため、本来はもっと濃密なリハビリができるのに間接的なものにしなければならず、そうするとリハビリの精度が下がってしまいます。
そして、デイサービスでは、介護スタッフなど専門家の目が入るので、利用者の健康状態の変化に気が付きやすいという特徴があります。例えば、利用者の歩き方がおかしいことにスタッフが気付けば、すぐに医療につながりますが、コロナ禍でデイサービスに通えなくなり、家庭で家族だけが見ているとそういう変化に気が付きにくい。老々介護をしていたりするとその傾向はより顕著になります。
高齢者の骨折を防ぐために
高齢者の骨折はその後の健康寿命を大きく左右する重大な問題です。次回は転倒予防のために家庭で行える運動や、骨折のリスクをチェックできる検査、何が起きたらどんなタイミングで整形外科を受診すればいいか、といった内容について解説します。
島田 幸造 先生
独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)大阪病院 統括診療部長/整形外科主任部長。
医学博士。日本整形外科学会専門医・認定スポーツ医・認定リウマチ医。
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