運動不足やマスク生活だけではない、息切れの原因
- 作成:2021/09/03
日本全国で過去最大の感染状況が続き、収束の兆しがなかなか見えないコロナ禍。長引くステイホームなどが影響して、コロナウイルスとは直接関係がないところでも健康を損ねる人が増えています。心臓や血管といった循環器内科が担当する領域でも、患者さんや不調を訴える人の行動の変化によって、これまでとは違った状況になっています。 コロナ禍で何が起きたのか、循環器の不調に関してどんなことに気をつければいいのか、国立循環器病研究センター 心臓血管内科部門心不全科部長の泉知里先生に教えていただきました。(取材日:2021年7月28日)
この記事の目安時間は3分です
コロナ禍で心不全の患者さんに起きた変化
感染対策として、通院している患者さんに対して電話で薬を処方するシステムを多くの病院で導入していると思います。
このシステム自体に問題はないのですが、心不全で薬を飲んでいる患者さんが「変わりないので同じ薬をください」というお話をされるため、同じ薬を処方していたところ、患者さんの症状が悪化。受診したときには心不全の状態が非常に悪化していた、ということがありました。
改めて患者さんに話を聞くと「電話で薬を処方してもらっていたときから体調は悪かったけれど、病院に行くのもコロナが怖かったので、変わりないと言って薬をもらっていた」と。コロナ禍ではこういうケースが珍しくありません。
また、昨年の第1波、第2波のときは医療従事者側もコロナへの対応がいまのように体系化されておらず、心不全とコロナ陽性の判別に時間がかかっていました。風邪が原因で心不全が悪化して息切れや咳が出るというような状況は、コロナの症状と似ています。
そのため、患者さんが適切な治療にたどり着くまでに少し時間がかかったという問題もあったと思います。
心筋梗塞や精神面にもコロナ禍の影響
心筋梗塞などで、胸が痛いという症状が起こってからどれくらいの時間で病院を受診しているかを調べた論文も複数発表されています。これも、第1波、第2波のときは症状が起こっても、患者さんがかなり我慢してから病院を受診しており、その分治療が遅れて、治療結果もコロナ禍以前よりも悪くなっているというデータが出ています。
加えて、別の観点としては、入院患者さんにご家族が付き添えないというのも影響が大きいです。ご高齢の患者さんや小児の患者さんの場合は特に、家族が付き添えない、頻繁にお見舞いできないことで患者さんの精神面に影響が出てしまいかねません。
2021年に入ってからは、条件付きで家族が病院内に入れるような考慮をする病院も出てきていますが、病院としてクラスターを起こすわけにもいかないので、すぐにコロナ禍の前のように戻すことは難しいでしょう。
心不全が疑われる症状とは
心不全は中高年に起こりやすい病気であり、代表的な症状は息苦しさや息切れです。しかし、コロナ禍によって外に出る機会や運動する機会が減ると、症状に気づきにくくなります。息苦しいけれどマスクを着けているからかな、と思ってしまうこともあるでしょう。
長期間運動をしていない状態から急に運動をして息が苦しくなった場合、その原因が運動不足や体重増加によるものなら、運動を続けることによって少しずつ改善していきます。
しかし、息苦しさが改善しないようであれば、一度お近くの医療機関などを受診してみてください。血液検査でBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)という値を調べると心不全の可能性が判断できます。血液検査の結果、もう少し大きい病院に行った方がいいということになったら、早めに受診して治療を受けることをおすすめします。
症状があればためらわずに受診を
これまで流行の波を経験して、医療機関では適切な感染対策を行い、対応は改善しています。日本医師会・日本循環器連合でも「現在受けられている心血管病の治療は引き続きしっかり続けてください。心臓や血管に異常を感じたら、ためらわず速やかに医療機関を受診してください」というステートメント(※)を出しています。
※新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言下の心血管病診療に関する緊急声明
紹介状を持っていても受診しない方もいらっしゃったりしますが、それはどうか避けていただきたいです。通院している場合、症状がある場合はこれまでと変わらずに受診をして、治療を受けるようにしてください。
泉 知里 先生
国立循環器病研究センター 心臓血管内科部門心不全科部長。
医学博士。総合内科専門医・循環器専門医・超音波専門医・超音波指導医・心エコー図専門医。
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