支援の狭間に落ちてしまう「できるのに、できない」問題を知ってほしい。
- 作成:2022/05/14
こんにちは。外科医ちっちです。発達障害の子ども3人の子育てを通して思ったこと、役に立った情報の発信をしています。独特な発想をしてしまうことの多い我が子たちとの日々を発信することで、「発達障害」という名前からは誤解されがちな部分の等身大の発信を目指しています。 今回は、『できない』を見つめ直したお話です。 発達障害の子どもたちを育てていて、「できる・できない」という言葉に関して、よく考えるようになりました。発達障害の人にとって、単純に「できる・できない」と分けることはできません。 「できるけど、苦手(疲れる)」という易疲労性(いひろうせい:通常より疲れやすい体質)があることは、少しずつ知られ始めています。ただ、おそらくそれだけではありません。
この記事の目安時間は3分です
「脳内の声」が大きくて、人の話が「聞こえるけれど、聞けない」
うちの子どもたちは、平均的なIQ・発語あり・ふらふらしつつも何とか授業中も椅子に座ることができるので、普通学級に在籍しています。明らかに『できない』ということは少ないです。ですが、実際には小さな困りごとがたくさんあります。
長女いっちは中学1年生。
目の前で人が話していても、たとえ目が合っていても、話は聞いていません。「脳内の声のボリューム」のほうが大きいので、脳内が落ち着いていないと、外の音は処理されないのです。たぶん、ほとんどの人ができる会話の音声と、自分の思考の音声の調整ができないので、脳内が多動の時は、大音量のロックを聞きながら会話をしているような状況です。
おとなしいし、一応の返事はするから、気付かない大人もいるけれど、「聞いている=把握している」ではないので、一部の人には嫌われてしまいます。言ったはずのことができなかったり、少し前に言ったのに何度も質問したりするからです。
脳内が落ち着いている時に、きちんと相手の言葉が頭に入ってきたら、できる。
そうでない時は『できるのに、できない』。
脳内の声のボリュームは自分では決められない。
数年単位で一緒にいて、やっと少し伝わった長女いっちの感覚です。
文字が小さいと、解ける問題も解けなくなる
一方、長男にっちは、計算問題や漢字問題の字が小さいと解けません。拡大コピーしたら解ける問題でも、小さいと解けないのです。さらに、ある程度、字が大きくても、1ページに載っている問題数が多いと解けません。学校ではできる問題でも、家で宿題として解くとできません。
計算も一応できる。記憶力も悪くない。
口頭諮問ならほとんど答える。
字は苦手ですが、一応読める。
なのに、紙のテスト形式で問われると、途端にできない。
字の大きさやフォント、1ページ当たりの情報量など、周囲には同じに見えても、本人にだけは難易度が大きく変わるようです。やりたいことでも、取り組めないこともあります。
このように、長女と長男は形式は違うけれど、『できるのにできない』ことがあるのです。
当事者の親として考え始めるまでは、支援は「常にできない」ことに与えられるもの、というイメージがありました。しかし、一部の子どもに対しては、むしろ「本来ならできることを、できる方法・タイミングでこなすため」の支援が必要だと感じます。
このことを、上手く言葉にして、関係する人みなさんに伝えたいのです。
明らかに「できない」ことだけの支援だけでいいの?
発達障害の実際が知られていくにつれて、「できない」には少しずつ支援が充実してきています。
「できるけど、すごく疲れる」も、できないことよりは簡単ではありませんが、何となくは定型発達からも想像できるので、少しずつ知られてきています。
ただ、どうしても、「時々なら簡単そうにできてしまう。なのに、今日はできない」は、間近で何度も経験しないとわからない感覚だと思います。
正直、字面だけ見たら、意味が通らない話です。できる? できない? どっち? となります。
「できるのに、できない?? 何で??」となってしまうのです。
現状のほとんどの、特に学校の支援は、診断名や、普段明らかにできないこと、苦手なことに基づいて与えられています。当然です。そうしないと無限に助けないといけなくなりますから。
ただそうすると、漏れてしまう部分が確かにあると、上の子2人を見ていて感じます。
明らかにできない、苦労することへの支援だけでは、うちの上の子ども2人が受けられる支援はごく少ないのです。こうした環境では、この子たちが「本来持っている能力」が発揮されないままにならないか?
でも、そこまでお膳立てが必要なら、そもそも「単純に能力が足りない」だけ?
うーむ、本当の「できる・できない」って何だろう? 公平や平等とは?
みたいな、袋小路の自問自答を最近よくしています。
一番、悔しい思いをしているのは本人たち
現実的な問題もあります。
「できるけど、できない」という不思議な状況を間近で見ている親にも、実際には「いつできるのか?」「そもそもできるのか?」「いつもできていることが、その日にできない理由は何なのか?」がわからないので、学校に支援を頼もうにも、どうしたらいいのかがわかりません。
そんな不思議な状況は、「クラスの数十人のうちの1人」として対応している担任の立場だったら、理由や原因どころか、存在すら理解できないこともあり得ます。たくさんの仕事があって、ほかの生徒は同じ条件で学んでいる中、細かいところまで考える余裕もありません。
だからこそ、存在すらわかりにくい「できるけど、できない」には、ほぼ支援がないのです。
どこまで支援がなされるべきかは、親である自分自身でも答えはありません。
一方で、確かに「いつもならできること」が、状況が変わると「できなくなってしまう」ことが多い我が子たちを見ていると、せめてこうしたことがあると知って欲しくて記事にしました。
今回の記事を『甘え』として感じられる方もおられると思います。
ただ、実際に身近で見ていて、一番悔しい思いをしているのは本人たちです。普段通りならクラスメイトと同じようにできていることができない時、それに甘えてできないままでいる子どもは、たぶん少ないのです。悔しいですから。わざとでも何でもなく、本人たちができない自分に怒っています。それでもできないことがあるのです。不思議ですよね。
少しだけ、この記事を読んでくれた方の感じる世界が広がることを祈っています。
外科医師。妻(看護師はっは)と発達障害3児の育児中。記事中のイラストは、看護師はっはが担当。著書『発達障害の子を持つ親の心が楽になる本』(SBクリエイティブ)が2024年9月発刊予定。
・ブログ:「うちの凸凹―外科医の父と看護師の母と発達障害の3姉弟」
・ブログ:「発達障害の生活は試行錯誤で楽しくなる」
・note:https://note.com/titti2020/
・Twitter:@surgeontitti
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