うちの凸凹―外科医と発達障害の3人姉弟――「できない・苦手」の原因は何か?道具選びで「解像度」を上げる
- 作成:2024/07/03
こんにちは。外科医ちっちです。 うちの3人の子どもは、全員が自閉スペクトラム症の診断を受けており、いくつかの困りごとを抱えています。一緒に生活するうえで、「こんな発想でこんなことをしてしまうのか」と驚かされることもあれば、「こうとしか考えられないのか」と辛い思いをすることもあります。この連載では、軽度の発達障害のわが子の日常や、子育ての様子を徒然なるままに綴ります。世の中にはこんな「変わっている子」「変わっている人」もいることを、いろいろな方に広く知ってもらい、お互いの日常生活が少しでも楽で、楽しいものになると嬉しいです。今日のテーマは「道具を介して『できない・苦手』の解像度を上げる」ことです。
この記事の目安時間は3分です
違う状況・方法を試すからこそ、細かく分かる
数検の過去問で、小3の次男は大問1(学年相当の四則演算が10問ちょっと)の計算を苦手にしています。
そこで、試しに「まほら学習帳」(合理的配慮に対応した学習帳/大栗紙工)1ページにつき1~2問だけにしてみると、間違えた問題を出すとスラスラ解けました。
小さな数字を読んだり、小さな空き枠に書いたりすることが間違えてしまう原因だと本人は言語化ができないものの、普段の過去問の解き方と違う状況を準備することで、親側の理解が進みました。
子どもの困りごとに対して、細かい原因が絞れるのは本当に大事なことです。
親も子も時間・体力は有限で、無駄なことは避けたいです。特に苦手なこと・嫌いなこととしてイメージが定着してしまうと単純な労力以上に取り組む時に消耗してしまうようになります。消耗を防ぐために一番簡単なのは、取り組まないことですが、タスクによってはその選択肢を選べません。なので、普段から「子どもたちは、どの道具を使ったら楽にできるのか?」は、頻繁に考えています。
大きく数字を書いた時の正答率から考えると、次男は「四則演算の原則自体は理解している」みたいだから、計算の練習時間は少なめで良さそうと分かりました。
「とにかく問題を解かせる」が逆効果を生むリスク
苦手なこと、できないことに対する『配慮や支援』には、どうしても「施す」「労力がかかる」イメージが伴うことがあります。でも、実際には
- 何ができて、何ができないのか?
- どういう道具・環境なら、(独力で)できるのか?
を分かりやすくして、どの部分には介入が必要ないのか? どういう介入は無駄なのか? の解像度を上げてくれる側面があります。
こういう介入なしだと、「とにかくたくさん問題を解かせよう」が一つの案として出るかもしれません。しかし、次男が解けない理由は、字の読み書きの影響が大きいので、たくさん解かせると多分疲労のために正答率は逆に落ちます。
計算に関して何度教えても「口頭では伝わるし、正解を答えられるが、プリントだと解けない」が続くことになります。次男にとっては苦手なことを繰り返させられるイメージと計算が結びついてしまう危険もあります。
繰り返しになりますが、大人側も、子ども側も時間と体力には限界があります。だからこそ、「どう使うか?」は突き詰めて考える必要があります。
学校との話し合いで、「忙しいから対応はできません」と言われることがあるけれど、実際には「忙しいからこそ、診断を問わず全ての子にお互いの労力が減る・理解が進む介入は全部やります」になってほしいと思います。
そうしないと、子どもはずっと「解像度の低い『できない』状態」になりやすく、大人側は無駄な部分に介入することになるからです。
時間がないし労力も割けないなら、道具の選択肢の幅を広くして「大人から見て変わった子が、道具が違うことでどう反応を示すか?」を観察して、一番合う方法で過ごせるようにすることが関係者全員の時間と体力を省略できて楽になります。
例えば、テストが解けない場合に見直す道具としては
- 問題用紙、計算用紙
- 筆記具
- 机、椅子
- イヤマフなどの感覚過敏への対策グッズ
等があり得ます。
道具を試すことの「許可制・申請制」はストレスに
そういう道具を試す時に、避けてほしいのが許可制・申請制です。
理由はいくつかあって、その一つが「申請制だと、子どもは基本的に黙っている」です。そもそも、「道具を変えるとできるようになる」という経験がなければ、本人側に言い出す気はありません。「できない」と人に言うのもストレスです。
わざわざ申請が必要なければ、他の子どもに「○○君だけなぜ違う道具?」と言われることもないでしょう。気になった子どもも試せばいいのですから。なるべく人を介さない方が、子どもも気楽に試せます。
今回の次男の場合だと「大きな見やすい紙」という道具で、できないことが改善しました。学習帳一つをとっても、選択肢を広くしておくと、学校の先生同士の引き継ぎでの混乱も避けられるし、担任の技量に依存せずに済みます。
合う道具を探すときは、大人側が「労力を割いて『できない』ことを手伝う」より、「『できる道具、条件』を探す」といった感覚になれたほうが、お互いに精神的に消耗しにくいです。
「何ができないか」を絞れないと、大人側は労力が報われない介入を続けることになり、子ども側は分かっていることやどうしてもできないことをただ強制されることになります。
「障害に対する配慮や支援」という名前からは、やりだしてしまうとずっと負担になるものみたいなイメージを持つ方がいて、「最初から断ろう」の方向に心が動いてしまうことがあります。
しかし、むしろこうして解像度を上げるためにも配慮や支援は必要であり、さらに解像度を上げて「何ができないか」が詳しく分かると、大人側の介入の成功率を上げられるし、必要性を下げられることもあります。
こうした側面は、特に面倒くさがられがちな学校に伝わるといいなと思っています。
外科医師。妻(看護師はっは)と発達障害3児の育児中。記事中のイラストは、看護師はっはが担当。著書『発達障害の子を持つ親の心が楽になる本』(SBクリエイティブ)が2024年9月発刊予定。
・ブログ:「うちの凸凹―外科医の父と看護師の母と発達障害の3姉弟」
・ブログ:「発達障害の生活は試行錯誤で楽しくなる」
・note:https://note.com/titti2020/
・Twitter:@surgeontitti
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