うちの凸凹―外科医と発達障害の3人姉弟――足りないのは「相談先」じゃない!

  • 作成:2023/10/25

こんにちは。外科医ちっちです。うちの3人の子どもは、全員が自閉スペクトラム症の診断を受けており、いくつかの困りごとを抱えています。一緒に生活するうえで、「こんな発想でこんなことをしてしまうのか」と驚かされることもあれば、「こうとしか考えられないのか」と辛い思いをすることもあります。この連載では、軽度の発達障害のわが子の日常や、子育ての様子を徒然なるままに綴ります。世の中にはこんな「変わっている子」「変わっている人」もいることを、いろいろな方に広く知ってもらい、日々の生活でのお互いの摩擦を減らしたいです。 今日のテーマは「変わった子の親の立場から見て足りないもの」です。

外科医ちっち 監修
 
外科医ちっち 先生

この記事の目安時間は3分です

悲劇を防ぐために

障害のある子どもと親が追い詰められて悲しい事件が起きる度に、マスコミ報道やネット上では「こうした親子が相談できるようにすべき」という内容が流れる。

私自身、自閉スペクトラムの子ども3人を育てていて、実際に死が選択肢に入りそうになるほど追い詰められた時期も経験している。

うちの凸凹―外科医と発達障害の3人姉弟――足りないのは「相談先」じゃない!

だが、違う。
足りないのは、「相談先」じゃない。
一緒に子どもを生かす方向に考え、動いてくれる人・施設』が足りない。
相談先ではなく、「実際に支援する仕組み」が足りない。
特に知的障害や発達障害で、生活を送るのに困りごとを抱える子どもを育てる時に。
病院や役所で相談はできる。
「大変ですね」で終わり。
それぞれの場所でできることをしてもらえるが、生活全体に対して介入する施設がない。

子どもを児童相談所に預けたらいい?
預けられないことが誰よりも分かる親が、その選択肢はなかなか取れない。
そういう子ども達にとって、生活の中のルーティン・こだわりは『絶対』で、自分の命より上にある。
偏食の子なら、死んでも食べない。
行動障害の子なら、何度止められても、怪我をしてもやる。
どれだけ理不尽でも、健康を損なうものでも、簡単には修正が効かない。
それを毎日何とか成り立たせる。物凄い時間とお金と労力をかけて。

児童相談所など、複数人を相手にしていて、守るべき規則のある保護施設では、そんな個に合わせた生活は許されるはずがない。親にも分かる。

こだわりの重要さは親子にしか伝わらず、親以外はやってくれない。子どものなかの“地雷”の場所や、地雷を踏んだ時に起こること、回避できることの価値を共有する仕組みがない。
そうなると、子どものお願い=わがままになる。
どこに相談しても、「親子の希望する『わがまま』を叶える施設や方法」は紹介されない。

親が抱えきれない時に、子どもを預けられない。そうなれば、本来選ぶべきではない選択肢が頭から離れなくなる。

うちの凸凹―外科医と発達障害の3人姉弟――足りないのは「相談先」じゃない!

死んだのも、殺したのも、相談先がなかったからじゃない。

そういう報道で、何となく把握された要望で、相談先を増やすために貴重で限りある予算が使われそうなのが怖い。

必要なのは、『大変な子を一緒に抱えてくれる人・施設』。垣根ごとに独立している支援をマネジメントしてくれる人+親または子が限界になる前に短期的に離れられる施設。

次はどこに行くべきか? どういう介入・支援でどういう効果が期待できるか? などを、一部の子ども病院などにつながることができた親子は、垣根を超えた多職種連携の知識を得られる場合がある。でも、そうではない大半の子ども、特にADHDの多動症状が目立たず、通院も6か月から1年間おきくらいの子どもだと、医療が指揮をとれないために親がどうにかするしかない。

うちの凸凹―外科医と発達障害の3人姉弟――足りないのは「相談先」じゃない!

生活を支援するシステムがほしい。余裕がないまま生活をするとすべてが悪化する。かといって、余裕を生むのが難しい。

大人が病気になった時のソーシャルワーカーや、介護が必要になった時のケアマネジャーのように、実際に受けられる支援を紹介してくれる+普段の親子の様子を把握してくれる役割の人を、子育てで追い詰められた親子に対しても配置できたらいいと思っています。可能なら、レスパイト(小休止)目的の短期間の預かり施設もできてほしいですが、1人の子どもに必要な大人の数が多くなりやすく、コストで躓いてしまいそうです。

行政でも、こういう方向性自体は把握されていて、指揮をとる・全体を見る立場の人を置こうという動きはあるものの、いまだに機能はしていません。

追い詰められたら助けを求めることが難しいという前提で、各種の支援が独立せず、それぞれの目線・立場から総合的に介入していく流れが構築されると良いです。

外科医師。妻(看護師はっは)と発達障害3児の育児中。記事中のイラストは、看護師はっはが担当。著書『発達障害の子を持つ親の心が楽になる本』(SBクリエイティブ)が2024年9月発刊予定。
・ブログ:「うちの凸凹―外科医の父と看護師の母と発達障害の3姉弟
・ブログ:「発達障害の生活は試行錯誤で楽しくなる
・note:https://note.com/titti2020/
・Twitter:@surgeontitti

病気・症状名から記事を探す

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行
ら行

協力医師紹介

アスクドクターズの記事やセミナー、Q&Aでの協力医師は、国内医師の約9割、33万人以上が利用する医師向けサイト「m3.com」の会員です。

記事・セミナーの協力医師

Q&Aの協力医師

内科、外科、産婦人科、小児科、婦人科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、整形外科、精神科、循環器科、消化器科、呼吸器科をはじめ、55以上の診療科より、のべ8,000人以上の医師が回答しています。

Q&A協力医師一覧へ

今すぐ医師に相談できます

  • 最短5分で回答

  • 平均5人が回答

  • 50以上の診療科の医師