うちの凸凹―外科医と発達障害の3人姉弟~子育てにつきまとう焦りと不安。妻の小遣いが「ゼロ円」の理由
- 作成:2023/01/01
こんにちは。外科医ちっちです。この連載では、発達障害のわが子の日常や、子育ての様子を徒然なるままに綴ります。世の中にはこんな「変わっている子」「変わっている人」もいることを、いろいろな方に広く知ってもらい、「そんな人もいるよね」と受け入れてもらうことを目指しています。今回は、発達障害の子どもの保護者が囚われている「焦りと不安」の話です。
この記事の目安時間は3分です
服は買わない、化粧もしない。子連れ以外の外出もない
Webライターとして妻と子育て記事の発信を始めて、副業としての収入を得て、しばらくして久しぶりに妻が『自分のために』お金を使えるようになりました。
実は、生まれてすぐの長女に病気があると分かって仕事を辞めてから、妻のお小遣いは0円です(長女は自閉スペクトラム症+持病があります)。化粧品は切り詰め、服は買わず、一時期は髪を自分で切って暮らしていました。
私(夫)の経済的DVと思われるかもしれませんが、我が家の家計は妻が管理しています。私の給料全額を渡していますし、いつでも自由に引き出せます。つまり、妻は自分自身でお小遣いをゼロにしていました。
年に数回、新聞やエッセイの公募に投稿し入賞して手に入れた数千円の図書カードや商品券。1年間で1万円弱くらい。これが、妻が自分に許可した『自分のために使っていいお金』の全てでした。
それすら、私が気にかけていないと子どものおもちゃや絵本に使ってしまいます。妻は、自分の出費を切り詰め、
- 服は買わない
- 子どものため以外の外出はしない
- 化粧はしない
という生活です。
「健康で、倹約が生きがい。お金のかからない趣味があり、余暇も充実しています」
そういう人なら楽しいかもしれませんが、妻の実際の生活は、
- 子どもは発達障害の特性があり、労力も、時間も、お金も必要
- 夫は長時間労働、休日出勤が当たり前の職業で、家にいる時間は少ない
- 核家族で両方の両親は遠方
1人で子育てのすべてを抱える毎日です。
「自分で稼いだ給料」がもたらす、金額以上の意味
妻は、母になる前はバイクで一人旅をするなどアクティブな人でした。それが、子どもを産んでから、以前の活発さはなくなってしまいました。
私は、そのことがずっと異様に感じ、気になっていました。妻の1人の時間を作ろうとチャレンジは何度もしました。ですが、子どもたちは3人とも3~4歳くらいまで全く母と離れることができませんでした。出かけようとすると大泣き、何とか外出させても数時間不機嫌になるため、妻が気にかけて戻ってきてしまいます。
これも自閉スペクトラム症の特徴だと感じます。子ども達は、母を自分の一部だと思っているようです。祖母たちや父が対応できるのは短時間で、母が離れようとすると癇癪を起こしてしまうため、結局、「妻が母でない時間」を作ることはほとんど叶いませんでした。
極端に、自分への意識と消費を切り詰めていた妻。
ありがたいことに、Webライターを始めて、本当に時々ですが、妻に子育て記事以外のお仕事を頂けています。なので、妻は10年以上ぶりの『自分1人で稼いだ給料』を貰いました。
そうして、最近やっと、
「次に買う化粧水は○○にしてみようか?」
とか、
「気になる××という本を買ってみよう」
と、言うようになりました。
それまでは、なるべく安く生きるため、色んな欲求や余裕を切り捨て「障害者の母」としてのみ動き、修行僧のような生活を続けていたのです。少し感じる負の感情や個人としての欲求を、そもそも認めず、認識しないようにする。「理想的な母ならこうする・しない」に従い行動していました。
間違っていないどころか、本当に素晴らしい母でしたが、やっぱり無理があったのだと思います。子どもが生まれてから、少しずつ笑顔が減っていきました。
でも、今は独身の頃のようによく笑うようになりました。母でない時間に『自分で稼いだ給料』は、ワクワクするというか、罪悪感なく使えるようです。
発達障害の子育ては、お金も人でも余計にかかる
わが家では、夫婦2人ともが焦りを感じていました。空いた時間、必要最小限を超えるお金は、全て「子どもに捧げないと」という焦りです。特に専業主婦をしてくれている妻に、症状が強く出ていたのでした。
- いつか子どもに必要になるから、貯金したい
- 発達障害の対策グッズや、特性によって紛失したものの補充で普段からお金がかかる
- それでも、子育てに時間・人手がかかるから、共働きは難しい。
お金があれば、子どもたちが楽になるのは事実ですが、簡単にはいきません。結果、簡単に削れる「自分への消費」を切り詰めようという思考に至った妻。その行動は間違いなく『正しい』行為ですが、負担がかかっていました。
「できるだけのことをしたい」そんな親心が保護者を追い詰める
私が気付いた「発達障害の保護者」の問題点は、大きく2つあります。
- 発達障害の子どもの保護者への支援が少ない
- もし支援があっても、受けることに罪悪感を覚えてしまう
私たち夫婦は、視野狭窄に陥っていました。
「全てのエネルギーを子どもに向ける」。これは一見正しい気がするのですが、反対から見ると「全く余裕がない状態で子育てをする」ことと同じです。
心に余裕がないため、上手くいっている間はいいですが、なかなか上手くいかない時に、『こっちは、これだけ頑張っているのに』と子どもたちへの攻撃的な感情を持ってしまう時がありました。
こうした事態を、保護者が防ぎたければ、
- 『親』ではない「わたし個人」として過ごす時間
- 少しでもいいから、心から自由に使えるお金
が必要なのだと思います。
私は、たまたま「仕事」があり、父以外の役割がある個人として振る舞える時間と場所があったけれど、妻にはありませんでした。金額は少なくていいし、時間は短くていいから、親個人が罪悪感なく使い道を決められるお金、時間があることは本当に大切です。
我が家の場合は、妻が家でもできる仕事を始めることで、心が安定しました。しかし、共働きが難しいことの多い発達障害の子どもの子育てで、働きに出ていない側の保護者には、「親じゃない」時間を確保することが本当に難しいです。
<まとめや次回予告>
全ての保護者が、全くの悩みがなく、楽しい子育てをしているわけではないと思います。発達障害の子育てにおいては、一筋縄ではいかないことばかりで、不安や焦りが多くあります。子どものためにできることをしたい、そんな親心が保護者を追い詰めています。父・母ではない時間と、心おきなく使えるお金が少しでもあれば、子どもに対して余裕を持って接することができるのではないでしょうか。
外科医師。妻(看護師はっは)と発達障害3児の育児中。記事中のイラストは、看護師はっはが担当。著書『発達障害の子を持つ親の心が楽になる本』(SBクリエイティブ)が2024年9月発刊予定。
・ブログ:「うちの凸凹―外科医の父と看護師の母と発達障害の3姉弟」
・ブログ:「発達障害の生活は試行錯誤で楽しくなる」
・note:https://note.com/titti2020/
・Twitter:@surgeontitti
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