糖尿病で起きる低血糖とケトアシドーシスの治療、予防、手帳の重要性

  • 作成:2016/05/30

糖尿病では、急性合併症という命をかかわる急な症状が出ることがあります。特徴的なものが「低血糖」と「ケトアシドーシス」と呼ばれるものです。どのようなものなのかや治療、予防方法の概要を含めて、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。

アスクドクターズ監修医師 アスクドクターズ監修医師

この記事の目安時間は3分です

糖尿病の急性合併症とは?

糖尿病の合併症には急激に起こる「急性合併症」と高血糖による動脈硬化の進行などによって起こる「慢性合併症」の2種類があります。糖尿病の「急性合併症」には「糖尿病ケトアシドーシス」「高浸透圧高血糖症候群」「低血糖」などが挙げられます。

「糖尿病ケトアシドーシス」とは、極度のインスリン不足により高血糖となり、体の代謝、循環が急激に悪化する状態のことです。具体的には「コルチゾール」や「アドレナリン」などといった、ストレスがかかった時に分泌されるインスリンに対抗するホルモンが増加した時や、インスリン不足の時に、血液中のブドウ糖が急上昇し、脱水、電解質異常を引き起こします。糖尿病の患者の方は、ブドウ糖を代謝できないため、脂肪を分解してエネルギーを作ろうとする結果、血液中の脳にエネルギーを送るためにつくられる「ケトン体」という物質が増え、血液が酸性になり、様々な臓器の機能が低下する可能性もあります。このように「ケトン体」の増加によって血液が酸性になることを「ケトアシドーシス」と呼び、検査では血液中と尿中に、ケトン体を確認することができます。症状は高血糖、悪心(吐き気)、嘔吐、腹痛、脱水、低血圧、頻脈などが現れますが、意識障害や昏睡状態に陥ることもあり、治療が遅れると命に関わります。

高浸透圧性高血糖症候群とは? 低血糖とは?

高浸透圧性高血糖症候群は、感染症や脳血管障害、高カロリー輸液、薬のステロイド、手術などをきっかけとしてインスリンの作用が不足し高血糖、脱水症を起こすことを指しますが、著しいアシドーシスは伴いません。低血糖は、糖尿病のインスリン投与量、経口血糖降下薬が多い場合、食事量が少ない時に通常と同じ量のインスリンまたは経口薬を使用した場合に起こります。低血糖では、著しい血糖低下により、あくび、不快感、眠気、倦怠感、冷や汗などの症状が起こり、進行するとけいれんや意識障害、昏睡を起こして命に関わります。

ケトアシドーシスの治療法と予防法

糖尿病ケトアシドーシスは、インスリン不足による高血糖、電解質異常、脱水を起こしている状態なので、治療法は十分な輸液、電解質の補充、インスリンの適切な投与で、原因を探求することが必要となります。高血糖の状態を急に正常値まで補正すると、体が対応しきれず状態が悪化することがあるため、血糖値は徐々に下げるように調整します。糖尿病には「1型糖尿病」と「2型糖尿病」があり、1型糖尿病はウィルス感染などにより自分自身ではインスリンを分泌できません。そのため糖尿病ケトアシドーシスは、1型糖尿病の患者によく見られ、インスリン注射を行わなかった場合などに起こることがあります。2型糖尿病の患者の場合は、糖分を含む清涼飲料水を多飲することによって急激に高血糖になり、インスリンの分泌不足となった場合に糖尿病ケトアシドーシスを起こすことがあります(ペットボトル症候群ともいいます。https://www.askdoctors.jp/articles/200095で解説しています)。

1型糖尿病の場合には、適切なインスリン投与量を自分で把握しておくことが糖尿病ケトアシドーシスの予防法になります。2型糖尿病の場合には、過剰に糖分を摂りすぎないようにすることが予防になります。

低血糖の時の治療法、予防法

低血糖の治療法としては、ブドウ糖をすぐに摂取します。自分で低血糖の症状に気づいた場合には、病院から処方されているブドウ糖10グラムから20グラム程度を摂取します。もし持っていない場合には、糖分を含んだジュースでも良いです。意識を失ってしまった場合は自分で摂取することは難しいため、「グルカゴン注射製剤」と呼ばれる薬を病院から処方されている場合は、第三者が筋肉注射を行います。意識がない場合には救急車で病院に行って治療を受ける必要があるため、糖尿病患者の方は、外出時に、自分が糖尿病であることを示す糖尿病連携手帳、糖尿病患者IDカードを常に持っているようにしましょう。

低血糖の誘因としては、以下のようなものがあります。

・インスリンや経口血糖降下薬が多すぎた
・投与時間を守れなかった
・食事時間の遅れや食事量の不足があった
・激しい運動をした
・飲酒、解熱鎮痛剤を使用した
・下痢などで調子が悪かった
・肝臓や腎臓の機能が低下した

低血糖を起こさないよう、いつもと体調や状況が違う時にはインスリンや経口血糖降下薬の量の調整をできるようにすることが予防法になります。自分で勝手に調整すると逆に高血糖になってしまうこともあるため、事前に病院に対処法を聞いておくか、心配な時には早めに病院に問い合わせるようにしましょう。

糖尿病手帳の重要性

糖尿病患者さんに対して、日本糖尿病協会(http://www.nittokyo.or.jp/)はいくつかの療養グッズを無料で提供しています。自分のかかりつけの病院に言えば無料でもらうことができますが、入手できなかった場合は、日本糖尿病協会に問い合わせれば郵送してもらうことができます。

療養グッズには、糖尿病連携手帳、自己管理ノート、糖尿病患者用IDカード(緊急連絡用カード)、英文カードがあります。糖尿病連携手帳には、治療内容や検査値、合併症の状態などを記入でき、自己管理ノートには自分で測定した血糖値を記入できるようになっています。糖尿病患者用IDカードは低血糖を起こして意識を失った時に第三者(発見者)に糖尿病ということを伝えることができ、適切な処置を早急に取ってもらえる可能性があります。そのため、糖尿病の治療中の患者さんは胸ポケットなどの分かりやすい場所に携行することが推奨されています。英文カードは、海外において低血糖で倒れた場合の緊急連絡用カードで、糖尿病患者であることが5か国語で記載されています。

糖尿病の急性合併症についてご紹介しました。糖尿病にかかって、合併症の発症に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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