ウェルニッケ脳症の原因、症状、治療 アルコールが危険?

  • 作成:2016/05/06

ウェルニッケ脳症はビタミンB1の不足で発症する病気で、意識障害などが起きます。多量の飲酒などが原因となり、後遺症が残る可能性がある病気のため、周りの人が注意することも重要になります。原因や症状、治療などを、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。

アスクドクターズ監修医師 アスクドクターズ監修医師

この記事の目安時間は3分です

ウェルニッケ脳症とは何?原因は?

「ウェルニッケ脳症」とは、ビタミンB1(チアミン)が不足することによっておこる脳症です。脳は糖質をエネルギー源としており、ビタミンB1は糖の代謝(物質をエネルギーとして利用するプロセス)に不可欠な補酵素(ほこうそ;酵素の働きを助ける物質)です。よってビタミンB1が不足すると、脳にエネルギーが行きわたらず、気を失う(意識障害)、眼球の動きがおかしくなる(眼球運動障害)、うまく歩けない(小脳失調)を古典的な3つの特徴とする脳の障害を起こします。

ビタミンB1が不足する原因は、栄養失調およびアルコールの摂り過ぎです。現代の日本では飢餓による栄養失調は非常に少なくなりましたが、妊娠悪阻(つわり)時、胃の全摘手術後、偏食や摂食障害が、ウェルニッケ脳症を発症する要因になるとの報告があります。

アルコールについては特に注意が必要です。アルコールはビタミンB1の吸収を阻害します。また、お酒を多く飲む人は、食事を十分にとらず、だらだらと飲酒を続ける傾向があり、ビタミンB1欠乏症を起こしやすい条件が揃っています。そのため、ウェルニッケ脳症は、アルコール依存症の患者に対して、疑うべき重大疾患に位置付けられています。

ただし、ビタミンB1欠乏症でアルコール乱用者でもウェルニッケ脳症にかからないこともあるため、原因については、他の可能性も示唆されています。たとえば、ビタミンB1処理酵素が欠損する遺伝子の異常も、ひとつです。

症状の表れ方、特徴

ウェルニッケ脳症は、意識障害、眼球運動障害、運動失調の3つが主な症状です。意識障害としては、軽いものなら注意力散漫、眠気、無関心、無反応などの症状が見られ、ひどくなると昏睡状態になります。錯覚や幻覚、錯乱を伴う場合もあります。

他覚的な眼球運動障害の所見は、いわゆる「寄り目」になる内斜視がよくみられます。また、眼球がまったく動かなくなる症状や、目の細かいふるえ(眼振、がんしん)、瞳孔の位置や反応の異常が確認されることがあります。自覚症状としては、複視(物が二重に見えること)やめまいがあります。

運動障害は、小脳に異常をきたすことから歩行障害が見られます。バランス感覚が失われ、ふらつきがちになります。歩き方としては、歩幅が狭く不安定で、脚は開き気味、動きは緩慢としているという特徴があります。

診断と治療の概要

先ほど述べた主症状の3つに、栄養不良状態(ビタミンB1の欠乏が疑われる)を加えた4つのうち2つ以上が確認できたら、頭部CTなどで他に外傷がないことを確認した上で、臨床的に診断、治療をおこないます。早期治療は重症化(ときに命にかかわります)と後遺症(コルサコフ症候群)を防ぐのに不可欠であるため、医師によっては血液検査の結果が出る前に治療を開始することがあります。

治療は、ビタミンB1の投与です。点滴または注射を少なくとも3日から5日間継続します。眼球の異常は投与後24時間以内に消失します。意識障害と運動失調は数日から数カ月続くことがあります。重症の場合は入院が必要で、アルコール依存者では断酒は必須となります。治療は早ければ早いほど効果を発揮するので、症状が見られたらすぐに受診させることが大切です。

何科に行く?

受診するのは脳神経外科か神経内科、または救急救命科です。アルコール依存者の場合は、専門の機関にかかってもよいでしょう。ウェルニッケ脳症はアルコール依存者の代表的な疾患であるため、適切な診断と治療が期待できます。

予防方法と再発可能性

ウェルニッケ脳症は予防できます。必要なのは適切な栄養管理です。豚肉やウナギ、豆類などビタミンB1を多く含んだ食品の摂取はもちろん、葉酸やマグネシウムなどバランスの良い食事をとることが大切です。アルコール依存症の患者さんの場合、そちらの治療が最優先されます。栄養管理の難しい患者さんの場合は、しばらく栄養剤を処方してもらってもよいでしょう。

栄養療法と断酒がうまくいかないと、再発可能性が高まります。ウェルニッケ脳症は再発を繰り返しているうちに慢性化し、「コルサコフ症候群」という病気を発症してしまいます。未治療の場合は80%の人がコルサコフ症候群(https://www.askdoctors.jp/articles/200455)に移行します。

ウェルニッケ脳症は重症化すると命の危険を伴い、救命できても後遺症が残ります。自覚することは難しいため、周囲の人が気づいてあげる必要があります。特にアルコールを多く飲む人が普段とは違う酔い方をしている(意識状態がおかしい)場合、ウェルニッケ脳症を疑って受診させることも重要です。

ウェルニッケ脳症についてご紹介しました。飲酒などが原因とみられる体調不良に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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