粉瘤(アテローム)の治療 2種類の手術と再発するワケは?
- 作成:2016/12/22
粉瘤(ふんりゅう)は、腫れや痛みなどの症状を薬で抑えても、完治しているわけではありません。粉瘤自体が皮膚の下の構造物となっているために、そこが化膿したりするためです。 粉瘤は、「腫瘍」の1種類ですから、薬では完治しませんが、薬を使うこともあります。また、手術には、「膿を出す」目的のものと「構造物を取り出す」目的のもの、2種類あります。手術の概要や薬の効果、意義、手術後のトラブルを含めて、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。
この記事の目安時間は6分です
- 初期はわからない粉瘤
- 粉瘤が炎症・化膿につながる理由
- 手術には2種類ある
- 細菌感染がある時の膿を出す手術
- 細菌感染がない時に行う摘出手術
- 術後のトラブル
- 通常は入院しない 保険の適用も
- 薬では完治しない
- 再発可能性のある手術と再発しない手術
- 摘出手術ができない時も
- 予防方法は「小さな傷をつけない」
初期はわからない粉瘤
粉瘤(ふんりゅう:アテローム、表皮嚢腫<ひょうひのうしゅ>ともいう)は、皮膚の表面がくぼんで、奥の方に袋状に広がった状態になっている構造物です。
「袋」の入り口は皮膚の表面にありますが、とても狭くなっています。粉瘤(アテローム)がある部分の皮膚の表面をよく見ると、「袋」の入り口が黒っぽい点として見えることがあります。「袋」はその黒っぽい点から皮膚の奥の方に大きく広がっているのです。
初期には見ただけでは、ふくらんでいるがわからず、皮膚の下のしこりとして存在していますが、やがて体の外側に隆起してきます。
袋の中にあるのは何?なぜ臭い?
袋の中は空っぽではなく、袋の壁を作っている皮膚から出た角質と皮脂成分が「垢(あか)のかたまり」となって中に詰まっています。粉瘤(アテローム)のことを「脂肪のかたまり」と誤解している人がいるようですが、粉瘤(アテローム)の袋の中に入っているのは、実際は「垢のかたまり」です。
奥に「垢」が貯まる構造になっていて、そこから皮膚の表面に通じているわけですから、嫌な臭いがするのは当然です。何もしていない時に臭いがなくても、粉瘤ができた部分を触ると、嫌な臭いがはっきりわかることがあります。
細菌感染が起こると痛みが出る
粉瘤(アテローム)は細菌感染を起こしやすいという性質があります。触ったり、衣服で擦れたりしているうちに皮膚の表面に通じている「袋」の入り口から、細菌が侵入して感染を起こすと考えられています。粉瘤(アテローム)は初期には全く症状はありませんが、細菌感染が起こると痛くなってきます。
粉瘤とニキビの違いは?
ニキビも皮膚の奥から出てくるタイプがあり、最初は皮膚の小さいしこりとして感じるため、粉瘤(アテローム)の初めのうちの症状に似ています。しかし、ニキビはそ中身が出てしまうと治っていきますが、粉瘤(アテローム)は、あくまで「腫瘍」ですから、中身が出て改善しても、同じ部分にその構造物が残ります。したがって、またそのうち同じ部位に、しこりとして再発します。
粉瘤はどこに出来るの?
粉瘤(アテローム)は、皮膚に細かい傷ができた時に、治りそこなってできると考えられます。したがって、皮膚のどこにでもできる可能性がありますが、顔、臀部(おしり)、耳たぶ、陰部、背中など、細かいキズを受けやすい部位に多いようです。
顔面の場合、ひげそりの時に傷ができたり、埋もれ毛となって皮膚にトラブルが起こったりするほか、ニキビを触っているうちに皮膚を傷つけてしまうことがあります。このような細かい傷が粉瘤(アテローム)のできるきっかけになります。
入浴の時に硬いタオルで強くこするのも皮膚に細かい傷ができる原因となります。入浴の時には柔らかいタオルでそっと洗うようにしてください。
まれに、足の裏にも粉瘤(アテローム)ができることがあり、ウイルス性のイボや外傷が誘因となっていたという事例報告があります。
粉瘤が炎症・化膿につながる理由
粉瘤(アテローム、表皮嚢腫<のうしゅ>)は、袋状の構造を持った皮膚の良性腫瘍です。袋の中は、本来、免疫(体の中に入った菌などを排除する機能)を担当する細胞が入っていない構造ですので、粉瘤(アテローム)は細菌感染に弱いという性質があります。 特に気にして触ったり、つぶそうとしたりすると、細菌感染を起こしやすくなるので、注意してください。細菌感染を起こすと炎症が起こって化膿した状態となり、患部が赤くはれ、触れると痛い状態となります。
粉瘤が破裂するメカニズムとは?
炎症・化膿した状態から、さらに進行すると、次第に柔らかくなってきて、触ると熱を持っているのがわかるようになり、やがて粉瘤(アテローム)の壁も柔らかくなります。軟らかくなった状態だと、少し当たったり押さえたりしただけで、構造物の壁が破裂してしまいます。
壁が皮の下の方へ破れて破裂する、表面に傷はできませんが、周辺の組織へ炎症が広がり、全身に熱が出てくることがあります。粉瘤(アテローム)の壁が、皮膚の表面の方へ破れて破裂すると、膿が皮膚の表面へ大量に出て、処置に困ることもあります。
出てきた膿には悪臭があります。悪臭があるのは、袋の中に貯まっていた垢の塊が、膿と一緒に出てくるためです。膿が全て外へ出てしまうと、感染は治まってきます。
膿の量が多ければ病院へ
膿の量が多い時は処置を自宅で行うのは難しいうえに、炎症・化膿を抑えるために抗生物質を飲むことが必要ですから、病院を受診するのが良いでしょう。皮膚科や、形成外科、整形外科、一般の外科で対応してもらえるでしょう。皮膚科や形成外科があるような大きな病院では一般外科ではなく、皮膚科や形成外科を受診するのが適切です。
粉瘤は自分で治せる?放置すると危険?
粉瘤(アテローム、表皮のう腫)は皮膚にできた腫瘍の一つですから、自分で治すことはできません。
では、放置するとどうなるのでしょうか。粉瘤(アテローム)から皮膚癌(がん)が発生したという報告もありますが、非常にまれで、おそらく正常皮膚から皮膚癌が発生する率とほとんど変わらないと考えられます。つまり、粉瘤(アテローム)があるからということで、特に皮膚癌が発生しやすいということはないのです。
しかし、粉瘤(アテローム)の壁は皮膚の組織ですから、皮膚の角質や皮脂が少しずつ袋の中に貯まって、徐々に大きくなる性質があります。通常直径1cmから2cmであることが多いのですが、直径10cm以上となることもあります。あまり大きくなると手術で取る時の負担が増えてしまいます。
手術には2種類ある
粉瘤(アテローム、表皮嚢腫<のうしゅ>)は皮膚にできた腫瘍の一つですから、薬を飲むだけでは完治しません。治療は手術となりますが、大きく分けて以下の2種類があります。
・細菌感染がある時の膿を出す手術
・細菌感染がない時のアテロームの構造物を取り出す手術
細菌感染がある時の膿を出す手術
1つは粉瘤(アテローム)に細菌感染が起こって化膿している時に行う手術で、切開して中に貯まった膿を出す手術です。あくまで、感染症状を和らげるために行う手術で、完治させるものではありません。
手術というと、抵抗を感じる方もいるかもしれません。ただ、一旦、細菌感染が起こって、赤みが出てきた粉瘤(アテローム)が抗生物質の内服のみで軽快することは少ないようです。様子を見ていると感染症状がひどくなって、自宅で破裂してしまうことがあります。担当医に切開手術を勧められた時には、切開してもらった方が良いでしょう。
細菌感染が起きた時の手術では、膿を出すために周辺部を圧迫しますので、局所麻酔をしても。少し痛みを感じます。化膿の程度にもよりますが、通常は切開した時に膿が全部出てしまうことは少ないので、手術後に数回は通院して処置をすることが必要となります。
細菌感染時の通常の切開手術ならば、細菌の種類を調べる検査を行ったり、細菌感染症状を抑えるために、数日分の抗生物質がとりあえず処方されたりします。
切開後は、特に担当医から指示がなければ、シャワーをするのは問題無いでしょう。シャワーをして膿を流してきれいにした後に、処方された塗り薬があればそれを塗ってガーゼなどを当てておきましょう。膿がすべて出てしまうと、軟膏を塗っているうちに、少しずつ傷は閉じてきます。
手術の時に膿が全て出てしまうことは少ないので、手術後に数回は通院することが必要となります。通院では、傷がうまく治っているかどうかを確認してもらえるので安心です。経過が悪くて細菌感染が再燃した時には、追加で抗生物質が処方されることがあります。抗生物質の使い過ぎによる下痢などの副作用に注意しましょう。
細菌感染がない時に行う摘出手術
2つ目の手術は細菌感染がないときに行う摘出手術です。これは粉瘤(アテローム)の構造全体を取り除く手術で、完治させることを目指しています。摘出手術には、いくつかの方法があり、使い分けられています。
一つは、皮下のしこりの大きさに合わせて切開を行って、粉瘤(アテローム)の構造全体を目で確認しながら切り取る手術です。取り残すことは少ないため、再発の可能性は低いのですが、切開線(体を切る部分)が比較的大きくなります。
もう一つは直径5mm程度の円形の穴を開けて、そこから内容物と「壁」を絞り出すことにで、構造物全体を取る手術です。こちらは、切開部分が小さいという利点がありますが、絞りだす時に「壁」の一部が残ってしまうことがあり、これが再発につながります。また以前に、粉瘤が化膿を起こしていると、「壁」が周囲の組織と癒着(本来くっついていないところがくっつくこと)しており、うまく絞りだすことができません。うまくいかない時には、切開線を長くして全体を切り取る手術に切り替えます。
構造物を摘出する手術は、普通は局所麻酔で行われます。麻酔液が入るときにチクチクとした感じがしますが、手術中に痛みを感じることはほとんどありません。摘出手術を行ったあとは糸で縫って傷を閉じます。
手術後の経過でトラブルが起きると、再び縫い合わせる必要が出る場合もありますから、摘出手術後のガーゼ交換のやり方、シャワーの可否は、担当した医師の指示に従ってください。
術後のトラブル
手術後のトラブルで時々起こるのが細菌感染です。初期ならば、抗生物質の内服で対応できることもあります。細菌感染の兆候は、傷跡のぬい目が赤くなってくることですが、指示通り通院して、定期的に担当医に傷を見てもらうことが細菌感染の発見に有効です。
もう一つの大きなトラブルは血腫(けっしゅ)ができることです。手術の時に粉瘤(アテローム)を取り除いた部位は、糸で縫い寄せていますが、元々粉瘤(アテローム)があったスペースに、周辺からじわじわと出血が起こって、中に血の塊を作るというトラブルです。
出血量が少ないと自然に吸収されて問題はないのですが、出血量が多いとぬい合わせた傷跡が、開いてしまう原因となります。手術後に患部をテープなどできっちり圧迫して固定しておくことが血腫の予防となります。ガーゼを自宅で早めに取ってしまい、その後圧迫がうまくできなかった時に血腫ができやすいので、ガーゼ交換は必ず担当医の指示に従ってください。
また手術部位を動かすと血腫ができやすくなります。どこまで動かして良いかは、手術部位や手術の大きさ、深さで大きく変わります。手術後患部をどの程度動かしてよいかをあらかじめ聞いておきましょう。
通常は入院しない 保険の適用も
とても大きな粉瘤(アテローム)の摘出手術では一泊入院が必要なことがありますが、通常は入院ではなく外来での手術となります。
なお粉瘤(アテローム)の手術は美容目的ではありませんから、健康保険の適応があります。通常の成人の場合、3割負担になります。
薬では完治しない
粉瘤(アテローム、表皮嚢腫<のうしゅ>)は、抗生物質を飲んで痛みがなくなることもありますが、痛みのあった粉瘤(アテローム)の感染がおさまっただけで、腫瘍が取れたわけではありません。薬のみでは、病院に行かず様子を見ていると、後日、細菌感染が再発することがほとんどです。
再発可能性のある手術と再発しない手術
粉瘤(アテローム、表皮嚢腫<のうしゅ>)は良性の腫瘍の一つです。完全に構造物を取る手術ができれば再発はしません。
手術について、注意が必要なのは、粉瘤(アテローム)の手術には2種類あるということです。粉瘤(アテローム)が化膿して病院へ行った際に、切開手術により膿を出す手術を受けることがあります。ただ、膿を出す手術だけでは、痛みがなくなっても、完治したわけではありません。
切開手術(膿を出す手術)だけでは、粉瘤(アテローム)の構造を全部とるわけではありません。粉瘤(アテローム)は細菌感染を起こしやすい構造ですから、構造物をとる手術を受けない限り、化膿して再び痛くなることが予想されます。
摘出手術ができない時も
再発を防ぐためには、粉瘤(アテローム)の構造全部を摘出する手術を受ける必要があるわけですが、ひどく化膿している時には、通常行えません。なぜなら、ひどく化膿した時は、大きく腫れているので、全部切除しようとするとかなり大きく切除することになるからです。
粉瘤(アテローム)は良性の腫瘍ですから、感染が治まって小さくなった時に全部取るのが合理的です。いったん感染したら、大きくはれますから、まず感染を抑える治療をします。その後数ヶ月痛くない状態が維持できれば、粉瘤(アテローム)は縮小します。小さくなるのを待って、全部摘出する手術を行うことになります。
予防方法は「小さな傷をつけない」
粉瘤(アテローム)の治療には少し厄介なところがありますから、できるだけその発生を予防したいものです。粉瘤(アテローム)は皮膚に細かい傷ができた時に、治りそこなってできると考えられます。
できやすさには個人差がありますが、皮膚に細かい傷をつけないように配慮することが予防につながります。入浴の時に硬いタオルで強くこするのは皮膚に細かい傷ができる原因となります。入浴の時には柔らかいタオルでそっと洗うようにしてください。
粉瘤の再発可能性や予防可能性などについてご紹介しました。粉瘤の再発に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。
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