授乳期の悩み「乳腺炎」と、あまり心配のない「乳腺症」。似て非なる2疾病を乳腺外科医が解説!
- 作成:2022/02/28
乳腺の病気には「乳腺炎」「乳腺症」などのように病名が似ながら、まったく違うものがあります。乳腺炎は文字通り乳腺に炎症が起きている病気ですが、乳腺症は病気というわけではありません。今回はこの2つについて乳腺外科専門の法村尚子先生に解説していただきました。
この記事の目安時間は3分です
「乳腺炎」はがんと似ていて、診断が難しいことも
赤ちゃんに授乳中、乳汁がうっ滞(ふさがって滞る)したり、細菌感染したりして乳腺に炎症が起きた状態が乳腺炎です。授乳期に起こることが多いのですが、それ以外に起こる人もいます。乳腺炎にはいくつかの種類があります。
うっ滞性乳腺炎
産後、赤ちゃんの飲む力が弱かったり、授乳回数が少なかったり、乳管が開ききっていないなどが原因で起こります。
母乳が乳房内にたまり、痛みやしこり、腫れ、熱感などを伴いますが、細菌感染は起こしていない状態です。細菌感染を起こすと化膿性乳腺炎となります。
対処法としては、まず乳房内にたまっている乳汁を出します。赤ちゃんにたくさん飲んでもらうことが改善につながりますが、搾乳をしたり、乳房の張っている部分のマッサージをしながら授乳するのも効果的です。
また、赤ちゃんをいつも同じ抱き方をするのではなく、横抱きから縦抱きに変えるなど、違う乳腺から飲ませることで、解消することもあります。
痛みがある場合は、少し冷やすと痛みがやわらぎます。どうしても難しい場合はプロ(助産師)に相談し、乳房マッサージを受けるといいでしょう。
化膿性乳腺炎
うっ滞性乳腺炎に細菌感染が伴い、化膿した状態です。授乳中に赤ちゃんが乳首を噛んで傷ができたりすると、そこから細菌が入り込んで感染します。
まれですが、授乳に関係なく細菌感染を起こし、化膿性乳腺炎になることもあります。これは喫煙者や糖尿病がある人などに多い傾向があります。
症状は、乳房の赤み、腫れ、激しい痛み、高熱、悪寒などです。
細菌感染しているため、治療は抗生剤の投与を行い、解熱鎮痛薬で痛みや炎症を抑えます。必要に応じて切開をして膿を出す処置が行われます。
ただ、治療をしても治りきらずに慢性化したり、何度も再発し手術が必要になることがあります。痛みがひどかったり、発熱があったりする場合には、早めの受診しましょう。また、予防として乳頭を清潔に保つことを心がけましょう。
乳輪下膿瘍(にゅうりんかのうよう)
化膿性乳腺炎をこじらせる、あるいは別の原因で乳輪の下や乳腺の中に膿がたまっている状態です。痛みのあるしこりや、瘻孔(ろうこう=膿瘍と皮膚が通じる穴)ができることもあります。喫煙者、糖尿病の方や陥没乳頭の方に多く見られます。
膿を出すと、症状はなくなりますが、何度も再発を繰り返すことがあります。その場合には、膿瘍、瘻孔、原因となっている乳管を手術で切除することを検討します。
肉芽腫性(にくがしゅせい)乳腺炎
乳腺の腫瘤(しゅりゅう=こぶ)や皮膚の赤みを伴う良性の炎症性疾患で、まれにみられます。はっきりとした原因はわかっていません。
確立した治療法はありませんが、ステロイド剤の内服が有効との報告があります。難治性で、治療に何か月もかかったり、再発を繰り返したりすることも。治らない場合は乳房を広範囲に切除することもあります。
触診や画像上、肉芽腫性乳腺炎は乳がんとよく似ており、鑑別が難しい場合があります。乳腺炎は乳がんの発症とは直接関係ありません。ただし、乳腺炎だと思ったら、炎症症状があっても痛みが少なく乳房が腫れる「炎症性乳がん」の場合もあります。おかしいと思った場合には自己判断せず、医療機関を受診してください。
乳がんに進展することもなく、特別な経過観察不要の「乳腺症」
乳腺外来では、よく「乳腺症だったか、乳腺炎だったかわからないけれど、どちらか言われたことがある」という患者さんがいます。名前が似ているので紛らわしいのですが、ただ言われたことがある、という方はおそらく乳腺症だったのではないかと思います。
前回も解説しましたが、女性ホルモンのバランスが崩れることで、乳房に痛みや張りが出たり、ごりごりとしこりのように乳腺が硬くなったりします。このような様々な乳房の症状や所見の総称を「乳腺症」と言い、病気ではありません。
生理的な変化であり、誰にでも起こる可能性があります。女性の多くはこのような症状の経験があるのではないでしょうか。月経前に症状が強くなり、月経がはじまると症状はやわらぐ傾向にあります。
痛みのみを訴えて乳腺外来を受診される方のほとんどは、悪性のものではなく乳腺症です。心配になるかと思いますが、乳腺症は乳がんに進展することもなく、特別な経過観察の必要もありません。
香川大学医学部医学科卒業。乳腺専門医・指導医、甲状腺専門医、内分泌外科専門医、外科専門医等の資格を持つ。医学博士。患者さんの立場に立ち、一人一人に合った治療を提供できるよう心掛けている。プライベートでは1児の母。
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