パーキンソン病の症状 初期症状は?認知症、振戦、便秘等と関係?ヤール分類、精神症状、合併症も解説
- 作成:2016/04/25
パーキンソン病は、手の震えや嚥下障害(食べ物を飲み込むことの障害)、便秘などが主な症状の病気です。認知症との関係や、初期症状、合併症も含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。なお、文中に登場する「パーキンソン症候群」というのは、「パーキンソン病のような症状が出る病気の総称」であり、パーキンソン病とは、別の病気である点に、ご注意ください。
この記事の目安時間は6分です
パーキンソン病のヤール重症度分類 生活への影響は?末期もある?
パーキンソン病には初期症状がある?
自律神経異常で起きる初期症状は?
パーキンソン病で嚥下障害になる?
パーキンソン病で歩行に影響が出る?その特徴
パーキンソン病で振戦が出る?
パーキンソン病で便秘になる?
パーキンソン病で精神症状が出る?幻覚が見える?
パーキンソン病と認知症の関係
「レビー小体」って何?
パーキンソン病の合併症はどんなものがある?
パーキンソン病患者に特有のにおいがあるって本当?
パーキンソン病のヤール重症度分類 生活への影響は?末期もある?
パーキンソン病の症状の程度をあらわすのに、ホーエン先生とヤール先生という方が作った分類方法で、「ホーエン&ヤールの重症度分類(ヤールの重症度分類ともいわます)」があります。以下の6つのステージに分けられます。
ステージ0;パーキンソン症状(パーキンソニズム)なし。
ステージI;体の片側だけに症状がある。「一側性パーキンソニズム」
ステージII;体の両側に症状がある。「両側性パーキンソニズム」
ステージIII;軽度から中等度のパーキンソニズム、姿勢反射障害(しせいはんしゃしょうがい:バランスがとりづらくなるため、前かがみの姿勢になり、すり足で小刻みな歩行になります)がある。
ステージIV;高度な障害を示すが、歩行は介助なしにどうにか可能である。
ステージV;介助なしでは、ベッドまたは車椅子生活を余儀(よぎ)なくされる。
ステージIII度以上では日常生活に支障がでてきます。日本の厚生労働省の研究班が定めが「生活機能障害度」という分類もあり、「1度;日常生活、通院にほとんど介助を要しない」、「2度;日常生活、通院に部分的介助を要する」、「3度;日常生活に全面的介助を要し、独立では歩行起立不能」、となっていますが、指定難病の認定には、ヤールの重症度分類ステージIII以上かつ生活機能障害度2度以上が対象とされます。生命の予後は悪くない、つまり発症することによる寿命への影響は大きくありません。ただ、転倒と肺炎により寝たきりとなることが多く、年齢にもよりますが、寝たきりとなってからの生命予後は1年間程度といわれています。
>パーキンソン病には初期症状がある?
パーキンソン病の初発症状として、最も多いのは「手のふるえ(「振戦(しんせん)」と言います)です。一般には症状は片方だけで、机や膝(ひざ)の上に手を置いているような時に目立ち、動かすと止まるタイプです。1秒間に4蛔から6回程度のややゆっくりとしたふるえです。
他に運動の症状として、初期にみられるのは、「手足の動きが悪くなる」ものです。「痛みやしびれ」といった、手足の運動ではなく、感覚の症状で発症する患者さんもいます。「五十肩」だと思って治療していたが良くならず、そのうち典型的な運動症状(振戦)が出現して診断がつくこともまれではありません。
「嗅覚(きゅうかく;五感の1つで、“におい”を認識する感覚です)の障害」は、パーキンソン病の他の症状より、4年以上先行して起きることがあるといわれています。また、運動症状で診断される前に、「うつ状態」や「睡眠時の異常行動(REM睡眠期行動異常症:RBD)」がみられることも多いようです。
>自律神経異常で起きる初期症状は?
パーキンソン病では自律神経(じりつしんけい)の具合が悪くなることで、さまざまな自律神経症状もあらわれます。特に初期症状として多いのが「便秘」です。パーキンソン病が先か、便秘が先かといわれるくらいパーキンソン病には便秘がよくみられることが知られています。「性機能の障害(いわゆるインポテンツなど)」も発症前に認められることがあります。
自律神経の障害は、他にも排尿(はいにょう)や発汗(はっかん)の障害、起立性低血圧(きりつせいていけつあつ)などがありますが、初期から、とくに起立性低血圧をはじめとする自律神経症状がそろってみられたり、症状の程度が強い場合は、パーキンソン病ではなく、同じ脳の病気で、パーキンソン症のような症状が出る病気の1つである「多系統萎縮症(たけいとういしゅくしょう)」の可能性が高くなるとわれています。
パーキンソン病で嚥下障害になる?
食べ物は、「嚥下(えんげ)運動」(飲み込むこと)を通じて、胃に送られます。具体的には、口腔(こうくう)から咽頭(いんとう)へ送り込まれ(口腔期)、咽頭から食道へ輸送され(咽頭期)、食道から胃へと移動します(食道期)。パーキンソン病の嚥下障害、つまり飲み込むことができない状態は、嚥下運動のどの期にも異常があらわれ、しかも複数の異常があることがよくあります。
「口腔期」では舌や咀嚼(そしゃく;歯でかんで砕くこと)の運動の障害、「咽頭期」では、咽頭の不十分な収縮により、食物が咽頭に残ること、嚥下反射(食べ物を飲み込む時に、気管の方へ間違ってはいらないように蓋をし、食道に送り込む反射的な運動)の低下による誤嚥(ごえん)が起きることがあります。「食道期」では食道上部の「括約筋(かつやくきん;逆流などを防ぐための弁の役割をする輪状の筋肉)」と呼ばれる筋肉の機能不全などが起きる可能性があります。
パーキンソン病の嚥下障害の特徴は以下の通りです。
(1)パーキンソン病の患者さんの約半数に存在する
(2)病気の初期からみられることもある
(3)ヤール重症度分類とは必ずしも関連しない(重症になると出現するというわけでもない)
(4)嚥下障害、食べにくいという自覚に乏しい
(5)むせない誤嚥(気管に液体などが入っても”むせる”ことがないということ)が多い。専門的には不顕性誤嚥といいます。
「不顕性誤嚥」、つまりむせない誤嚥のある患者さんの肺炎の発症率は、通常の誤嚥がある患者さんの発症率の5倍にものぼるとのデータもあります。理由としては、本来呼吸のための部分に、食物などの異物が入るためと考えられます。日本におけるパーキンソン病の患者さんの死因(パーキンソン病自体から発生するもので)は、「肺炎」が約40%と最も多く、「窒息」と「栄養障害」がともに、およそ7%と続きます。3つの死因については、嚥下障害との関連が考えられているために、パーキンソン病の嚥下障害のコントロールや治療は、その後の寿命や生活の質を決定する重要な因子になります。
パーキンソン病で歩行に影響が出る?その特徴
パーキンソン病の姿勢の異常は特徴的で、歩行にも影響が出ます。歩行時は、前傾前屈(ぜんけいぜんくつ)姿勢、つまり前かがみで、膝(ひざ)も軽度に曲がり、歩幅の狭い「小刻み歩行」や「すり足歩行」となります。歩行の速度は一般に遅いですが、前傾してだんだん早く、かけ足のようになる「加速歩行(突進現象;とっしんげんしょう)」もみられます。方向を転換する時の多歩(たほ;何度も踏みかえること)、後ろに下がることの困難、歩行時の手の振りがなくなることもあります。振戦が片側にあらわれた初期の患者さんでは、一見片マヒのようにみえる足の引きずるような歩行が、ふるえがでている側に認められることもあります。
「すくみ足」は、古くからパーキンソン病の主要な徴候としてよく知られていたために、「すくみ足とは運動マヒなどの原因によらず足の裏が床面に接着剤で張り付けられたようになって歩けなくなる状態」という定義があるほどです。4大症状の「無動」に分類されますが、単に動作がおそい、自発的な動作が減るのとは違い、複雑な現象のようです。すくみ足の86%は歩行を開始したとき、45%が方向転換をするとき、25%が狭い場所を通るとき、18%が目標に近づいたときに生じるとされています。すくみ足は一般に症状の進んだ患者さんにみられ、転びやすさに結びつく症状であるので、治療によって解消しようとしても、薬に体の抵抗があることも多く、治療困難な症状です。床に歩幅に合わせた目印を置いたり、メトロノームで歩行リズムにあった音を与えると、それらに合わせて安定した姿勢ですたすた歩くことができるという奇妙な症状でもあり、「逆説的(ぎゃくせつてき)またはパラドックス歩行」といわれています。
パーキンソン病で振戦が出る?
パーキンソン病の振戦(しんせん)は意識しない時に出現しやすく、座って手を膝に置いているような静止時に、主に手指に、1秒間に4回から6回の、ややゆっくりとした震えが見られます。動いているときには症状が軽くなったり、消えたりしますが、一定の姿勢を取りつづけると再び出現することが、よくあります。出現部位は上肢(腕や手)が最も多く、次いで下肢(足、脚部)、顎(あご)などに見られます。手足の振戦では、ふつう片側だけから始まり後に両側で起こるようになりますが、左右に差があり、最初に起きたほうが、程度が強いことが特徴となります。頭全体に振戦があるときは、うなずくように縦に振る「ヨシヨシ型」になることが多く、頭が左右に細かくふるえる「本態性振戦(ほんたいせいしんせん;原因不明で、震えだけが症状の病気)」とは対照的です。
振戦は、パーキンソン病の4つの運動症状(他3つは、「無動」「筋固縮」「姿勢反射障害」)の中で最も特徴的な症状です。パーキンソン病の診断基準でも、パーキンソンの症状(パーキンソニズム)として成立するのに、他の症状は2つ以上あることが条件となりますが、「典型的な左右差のある安静時の振戦」は1つで十分となっています。つまり、振戦は、パーキンソン病にとって、特徴的であることを示していると言えます。理由としては、神経難病である他の脳に変化のある病気、特に「多系統萎縮症」と薬剤が原因となるパーキンソン症候群(パーキンソン病のような症状の出る、別の病気)の運動症状は、非常にパーキンソン病に似ているとされていますが、診断基準にあるタイプの振戦だけは、パーキンソン病以外の他の病気には、ほとんど見られないことから来ているようです。また、安静時のみで動作時に消える振戦は、患者さんのQOL(生活の質)にあまり影響を与えないため、消失を治療の最優先の目標にしないことが多くなっています。しかし、患者さんの生活上の支障となったり、消失を患者さんが希望する場合には治療してもらえるようになっていますので、医師らと相談してみるのが良いでしょう。
パーキンソン病で便秘になる?
腸管(ちょうかん;小腸、大腸など)の運動は、機能的に以下の3つがあります。
(1)蠕動運動(ぜんどううんどう)→腸管の中の食べものを運ぶ働き
(2)直腸(や肛門(での畜便(ちくべん)→便を貯めておくこと
(3)排便(はいべん)→便を出すこと
蠕動運動は腸管の壁の中にある自律神経の「神経叢(しんけいそう;神経細胞の集団)」というものによって調節されています。パーキンソン病では、早期から自律神経の神経叢に、異常なタンパクのかまりである「レビー小体」というものが現れることが報告されています。したがって、腸管の運動障害、とくに蠕動運動の低下は、パーキンソン病の「振戦など運動における症状」ではない症状、(非運動症状)の中でも、運動症状が出るより前から出る初期症状の重要なものと位置づけられています。
パーキンソン病の患者さんでは、健康な方に比べて、「排便回数の低下」の方の割合が21%から81%、「排便困難」が57%から67%高くなっていて、便秘が非常によく起こります。がんこなタイプも多く、長引くと、腸閉塞(ちょうへいそく、別名イレウス;腸管の内容物の通過障害が起きる)を引き起こす危険もあります。また、便秘はパーキンソン病治療薬の吸収を悪くするので、便秘を改善させることが運動症状の改善にもつながるといわれています。多くのパーキンソン病の患者さんでは、水分摂取が少ないことが知られているために、普段から十分な食物繊維の摂取と毎日多めの水を飲むことが、便秘対策として重要となっています。
パーキンソン病で精神症状が出る?幻覚が見える?
パーキンソン病の非運動症状の1つに、幻覚やうつ状態などの精神症状があり、発症する方の数は決して少ないものではありません。パーキンソン病の患者さんは、夕方に、虫や人などの幻覚(正確には「幻視」)が見えることが、多くあるといいます。軽い認知症がある場合に多いようです。軽症のうちは、幻覚であることを本人も自覚していることが多いと言われています。幻覚に対して、「お茶をお出しして」などと話していることもありますが、家庭生活の上で、ご家族があまり気にならず、患者さんの自覚のある幻覚の場合はとくに治療は必要ありません。
一方、幻覚に伴って妄想状態となるような強い症状もみられます。妄想は、嫉妬妄想(パートナーが不倫していると思い込むなど)、被害妄想(お金を盗まれたと思いこむなど)が多く、修正不能で、周囲に恐怖を感じさせるものもあり、症状の強いものは、治療が必要になります。脱水や発熱など体調の悪い時に、強い幻覚や妄想状態となりやすい傾向があるので注意が必要です。また、パーキンソン病治療薬の多くは、精神症状に影響を与えているために、薬を減量するだけで、幻覚が消えることも多いようですが、薬を減らすと運動機能の症状が反対に悪化してしまいますので、バランスが難しいのが実情です。
パーキンソン病と認知症の関係
認知症については、パーキンソン病患者の方の30%から40%にみられると言われています。しかし、パーキンソン病の診断後12年経過した方をみると、60%に認知症の症状があり、20年後では80%になるという研究もあります。高齢者野場合は、「アルツハイマー型認知症」や「脳血管性認知症」が起きていて、原因がパーキンソン病でない場合もありますが、パーキンソン病自体で認知症になり、「認知症を伴うパーキンソン病」という診断名になります。一方、先に認知症があり、パーキンソンの運動症状(パーキンソニズム)が起こるものに「レビー小体型認知症」があります。
つまり、「認知症が原因でパーキンソン病のような症状が出る」、「パーキンソン病が原因で認知症の症状が出る」という、2つのパターンがあるわけです。2つの病気は非常に類似しています。パーキンソンが先か、認知症が先かによって診断名が決まるようなあいまいなルールもありますが、2つが同一の病気であるかどうかは、まだ決定していないようです。全体を「レビー小体病」として位置づけ、「レビー小体型認知症」、「認知症を伴うパーキンソン病」、「パーキンソン病」を一連の病気とする考え方もあります。
「レビー小体」って何?
「レビー小体」とは、元々パーキンソン病で、変性を起こす「黒質」といったものをはじめとする脳の深いところにある神経細胞にあらわれる異常なタンパクの凝集物です。あらわれる部位から「脳幹型レビー小体」ともいわれます。「レビー小体型認知症」では、同じタンパクの病的な構造物が大脳皮質(だいのうひしつ;大脳の表面に広がる神経細胞が集合する層)にみられ、「皮質型レビー小体」とよばれます。どちらのレビー小体も基本的には同じ物質ですが、厳密には、細胞内での密度や構造が少しずつ違うようです。
パーキンソン病の合併症はどんなものがある?
パーキンソン病の合併症には、以下の2つがあります。厳密には、「パーキンソン病の症状や状態に関連する合併症」と「主として高齢者に多く、パーキンソン病と特に関連しない合併症」の2つがあります。
1.肺炎;パーキンソン病患者の死因として、最も多いのが肺炎です。通常の肺炎の他に、パーキンソン病の「嚥下障害(飲みこむことがうまくいかないこと)」からくる誤嚥性肺炎が特徴的です。食べものが誤って気などに入るものの、むせない誤嚥がある場合は、特に多くなるようです。肺炎は、寝たきりとなるきっかけになります。
2.骨折;パーキンソン病のバランス障害(姿勢反射障害)による転倒によって起こります。寝たきり状態の原因となることが多いです。
3.窒息(ちっそく);パーキンソン病の自律神経障害による食事性低血圧(食後に起こる低血圧)では、失神することがあるため、食べ物による窒息の危険があります。
4.悪性症候群(あくせいしょうこうぐん) 進行期の発汗障害や体温調節障害により引き起こされる「発熱、意識障害、筋硬直(きんこうちょく)」を症状とする重症の病気です。脱水の時に起こりやすく、命に関わることもあります。
5.腸閉塞(イレウス);最も多い自律神経障害の1つである便秘がひどくなり、長期間続くことで発症します。強い腹痛やおう吐を伴い、自宅や施設で医師が常時確認できないところにいる患者の方は、一般に入院が必要になります。
6.その他;パーキンソン病自体には関連しませんが、高齢な方の患者が多いため、死因となる合併症としては、悪性腫瘍(がん)、心臓病、脳血管障害の3つが一般の方と同じように多くなっています。
パーキンソン病患者に特有のにおいがあるって本当?
「特有のにおい」が診断の手がかりになる病気として有名なものには、糖尿病と乳児の「メープルシロップ尿症」などがあります。どちらの病気も「甘いにおいがする」ことが特徴ですが、糖尿病では血中のケトン体増加により、呼気や体臭からにおいがして、「ケトン臭」とよばれています。メープルシロップ尿症の場合は、尿中や汗の中に出てくる物質によるもので、メープルシロップのようなにおいがすることから病名が付けられています。ただ、パーキンソン病について、血中や尿中に「特有のにおい」の原因となるような物質は同定されていません。一般血液や尿検査では、特徴のある所見は認められないことになっています。
ヒトのにおいや体臭を考える時、一般には呼気、汗、尿などに含まれる成分がにおいの原因であることが多いと考えられます。パーキンソン病の患者さんに特有のにおいがあるという報道がありますが、「特有のにおい」というのが、具体的になっていません。患者さんに共通の成分が出ているということは考えにくいと言えます。仮に、非常に少ない量だとすると、その成分を科学的に特定できれば、診断に役立つ可能性はあります。パーキンソン病に、発汗および皮脂腺(ひしせん)分泌異常もありますので、何らかの「におい」が共通してするという可能性が、ないとは言い切れません。今後の研究の進展が期待されます。
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パーキンソン病の症状などについてご紹介しました。「家族がパーキンソン病かもしれない」と不安に感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。
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