パーキンソン病の検査、治療 薬、手術の効果と副作用等のリスク ジスキネジアとは?水素水や脳移植に期待?
- 作成:2016/04/25
パーキンソン病は、難病のイメージが強いかもしれませんが、薬などで症状をおさえることが可能です。また、必要に応じて、頭部に対して手術を実施します。ただ、他の手術と同様で、リスクもあります。薬の副作用なども含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。なお、文中に登場する「パーキンソン症候群」というのは、「パーキンソン病のような症状が出る病気の総称」であり、パーキンソン病とは、別の病気である点に、ご注意ください。
この記事の目安時間は6分です
パーキンソン病で実施する検査とはどんなもの?
パーキンソン病の診断基準とは?
パーキンソン病の薬と副作用 ジスキネジアとは?
パーキンソン病の治療で水素水が効く?効果と科学的根拠
パーキンソン病の手術の概要 期待される効果とリスク
DBSとはどんな手術?
パーキンソン病治療で胎児の中脳を移植?
iPS細胞に期待がかかる理由 実用化のめどは?
パーキンソン病で実施する検査とはどんなもの?
パーキンソン病が疑われた場合、次のような検査が行われます。
1.一般臨床検査;
パーキンソン病の患者の場合、「血液検査」、「髄液(ずいえき;脳や脊髄の中にあり、体に栄養を送ったり、保護する役目をする無色透明の液体)検査」に異常はありません。パーキンソン病を特定できるような血液マーカーもありません。「他の一般的検査」、「心電図など生理検査」、も含めて、パーキンソン病に特別なものはなく、加齢にともなう所見だけがみられることが特徴になっています。一般的な血液検査などで異常があれば、他の病気を疑うことがあります。
2.脳画像検査 「CT:コンピュータ断層撮影(だんそうさつえい)」、「MRI:磁気共鳴画像」「SPECT:シングル・フォトン・エミッションCT」;
パーキンソン病では、「一般的な頭部CTおよびMRI検査」でも異常はみとめられません。これらの、画像検査は、非常によく似た症状を示すことがある脳の変性を起こす病気で、異常が見つかる「“多系統萎縮症」「“進行性核上性麻痺(しんこうせいかくじょうせいまひ)」「大脳皮質基底核変性症(だいのうひしつきていかくへんせいしょう)」でないかを、見分けるために行われます。
パーキンソン病の症状が典型的でない場合、「脳血管性パーキンソン病」をはじめとする、よく似た「パーキンソン症候群」と見分けるとも有用となります。「SPECT検査」と呼ばれるでも、特別の異常はみられません。「SPECT」とは、体内に注入した微量のガンマ線をだす放射性元素を利用して作る断層画像(体内を輪切りにしたような画像)で、従来のCTでは表わせなかった血液の流れの量などの情報が得られるものです。
3.心筋交感神経(しんきんこうかんしんけい:心臓の筋肉の間にある自律神経の1つ)機能検査法;
「123I-MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)心筋シンチグラフィ」という検査では、放射性のヨードをくっつけた「MIBG」という物質を静脈に注射すると、正常では心筋交感神経の末端に取り込まれるため、体外から高感度のシンチカメラで検出できます。レビー小体があらわれる病気(パーキンソン病やレビー小体型認知症)では、ヨードの取り込み機能の低下を認めます。他のパーキンソン症候群では正常ですので鑑別が可能となります。
パーキンソン病の診断基準とは?
パーキンソン病の診断基準は次のようになっています。
1.パーキンソン(病らしい)症状がある;(1)(2)のうちのどちらかがあることが基準です。
(1)典型的な左右差のある安静時の振戦(4ヘルツから6ヘルツ)がある。
(2)「歯車様筋固縮」「動作緩慢」「姿勢反射障害(バランスがとりづくらくなること)」のうち2つ以上が存在する。
*歯車様(はぐるまよう)とは、関節を他人が動かそうとすると、歯車が回るような「ガクガク」という抵抗があるための表現です。
2.脳CTまたはMRIに特異的異常(とくいてきいじょう)がない。
*特異的異常とは、「多発脳梗塞(たはつのうこうそく)」「被殻(ひかく;大脳基底核の1つの構造)萎縮」「脳幹萎縮」「著明な脳室(のうしつ;脳脊髄液で満たされた脳の中の空間)拡大」「著明な大脳萎縮」など。他の原因によるパーキンソン症候群であることを示す異常を言います。
3.パーキンソン症候群を起こす薬物および毒物への曝露(ばくろ;さらさせること)がない。
4.抗パーキンソン病薬で、パーキンソン症状に改善がみられる。
*薬物に対する反応をみるにあたっては、できるだけ「ドーパミン受容体刺激薬(ドーパミンと同様の働きをする薬)または「L-ドーパ製剤」という、2つの薬での判定が望ましいとされています。
以上、4つの項目を満たした場合、“パーキンソン病”と診断されます。ただし、4つ目の薬物反応以外の条件を満たし、4つ目の項目が検討されていない症例は「パーキンソン病疑い」とい判断になります。
パーキンソン病の薬と副作用 ジスキネジアとは?
パーキンソン病治療の基本的な薬には、「L-ドーパ(レボドーパ)」および「ドーパミンアゴニスト」という2つの種類があります。「アゴニスト」とは、受容体に作用する本来の物質と同じような働きをする薬などのことで、日本語では受容体への「作動薬(さどうやく)」または「刺激薬(しげきやく)」などと訳されています。
1.L-ドーパ(レボドーパ)の作用機序;
パーキンソン病にドーパミンが関連しているのは事実ですが、ドーパミン自体は口から飲んでも脳へは移行ません。ドーパミンになる前の段階の物質(前駆(ぜんく)物質)である「L-ドーパ」を服用します。L-ドーパは脳内に入り、神経細胞内でドーパミンに変わり、減少しているドーパミン自体を補って、パーキンソンの症状を抑える効果をあらわします。
2.ドーパミンアゴニストの作用機序;
直接、「線条体」という部分のドーパミン受容体に作用し、少なくなったドーパミンの働きを補うことにより、効果が出ます。L-ドーパの作用の持続する時間が短いのに対し、ドーパミンアゴニストは一般にそれより長いことが特徴とされています。
3.副作用;
2つの薬ともに、脳以外の組織(「末梢性」と言います)でも、ドーパミンの効果を発揮してしまうために副作用がおこります。特に消化器系の症状として悪心(おしん、吐き気)、おう吐、食欲低下などが多く、まれに動悸(どうき)や不整脈など心臓に関するものもあります。「ジスキネジア」(後述)などとともに、薬の脳に対する副作用(「中枢性」といいます)として、幻覚や妄想など精神症状および「日中過眠(にっちゅうかみん)という、突発的睡眠がでることもあります。
4.「ジスキネジア」と「ウェアリングオフ」
L-ドーパの服薬期間が長くなると、薬の効き目が変わる問題がおこります。L-ドーパは、内服すると患者さんは、すぐ動けるようになりますが、L-ドーパの作用時間が短いため、2時間もすると効果が切れて急に動けなくなります。英語で「擦り切れる」という意味の「ウェアリングオフ(wearing-off)現象」と呼ばれています。
一方、効果が切れて動けなくなるのを恐れてL-ドーパを過剰に飲みすぎると、今度は身体が勝手に動く、「ジスキネジア(不随意運動(ふずいいうんどう);振戦を含む、意思と関係なくおこる異常運動)」が出ます。2つの症状は、お薬でのコントロールの困難な例で、「ジスキネジア」と「ウェアリングオフ」は、運動機能に出る合併症の代表です。
パーキンソン病の治療で水素水が効く?効果と科学的根拠
順天堂大学(東京都)で、パーキンソン病に対する水素水の臨床試験が行なわれています。2013年に発表されたデータでは、48週間毎日1リットルの水素水を飲んだ9人のパーキンソン病の患者さんのグループが、飲まなかった8人の患者さんのグループに比べ、「パーキンソン病統一スケール(UPDRS)」での症状評価で改善がみられたと報告しています。研究の規模としては、計画段階の、患者さんの数や効果を見た期間からわかるように、小さな研究です。ただ、今後、本格的な多施設の大規模な臨床試験によるデータが発表される予定になっているようです。大規模な研究で効果が認められれば、水素水がパーキンソン病の患者さんの治療につながる可能性がありますが、現時点では不明です。
ミトコンドリア(細胞内のエネルギーを生み出す器官)から発せられる電子と酸素が結びつくことで生まれる「活性酸素(かっせいさんそ)」は、強い酸化力(酸化ストレス)で生活習慣病や老化の原因となることが、今や広く知られています。活性酸素のうち、遺伝子を壊してしまうような活性酸素だけを選択的に排除する抗酸化効果が「水素」にあることは、動物を用いた、水素水による「認知機能低下の改善」や「パーキンソン病の改善」などで示されています。
パーキンソン病の手術の概要 期待される効果とリスク
パーキンソン病に対する手術は、「定位脳手術(ていいのうしゅじゅつ)」といわれます。「定位」というのは、頭を「脳定位固定装置」を金属の枠の中に固定して、脳内のターゲットとなる部位を3次元の座標で表すことで、電極などの針を脳に非常に正確に刺すことができるからです。定位脳手術は脳を切開することなく、脳の深部の目標点に到達できるので、脳への負担が少なくて済むことが特徴です。
1.パーキンソン運動症状を改善するメカニズム;
一般に運動機能に関して脳には、A大脳の皮質→B大脳基底核(だいのうきていかく)→C視床(ししょう)→D大脳の皮質、という回路が形成されています。パーキンソン病では「黒質線条体」という部分に変化が起こり、神経の活動の異常を起こして、運動の症状がでます。手術は、回路内の異常部位をターゲットにして、異常活動を止めることにより、効果を狙います。
2.ターゲット;
Cの視床に2か所、Bの大脳基底核に1か所、合計3つです。
3.手術方法;
「凝固術(破壊術)」と「脳深部刺激術:DBS(後述)」があります。「凝固術」では、針の先端で組織を熱で凝固するため、組織は破壊されます。どちらの手術も同じような効果がありますが、DBSの利点は、電気刺激の強さなどを変更することで効果を調節でき、安全性が高いことです。
4.効果;
振戦などの主な運動症状と、飲みによる運動合併症(とくに、薬の飲み過ぎで起こる「ジスキネジア」)に対して効果があります。手術の効果が良いと、内服薬を減量することができます。ただ、自律神経症状、認知機能、精神症状、睡眠障害に対しては、効果はありません。運動症状も、構音障害(こうおんしょうがい、正しく発音できないこと)や嚥下障害には効果が少なく、悪化させる場合もあります。また、発症年齢が若い方に、より効果がみとめられます。
5.合併症;
脳の組織の破壊や出血などにより、永続的な症状が残ることがあります。代表的な症状は、「バリスム(体を投げ出すよう不随意な運動)」またはジスキネジアがあります。後遺症が起こる確率は、凝固術(破壊術)に10%前後と多く、DBSは3%前後です。手術による死亡率は、ともに1%以下になっています。
DBSとはどんな手術?
パーキンソンに関連して、DBSという言葉を聞くことがあるかもしれません。「DBS」とは、「Deep Brain Stimulation」の略で、直訳すると「深い脳の刺激」ですが、「脳深部刺激療法」のことです。DBSが始められて以来およそ30年が過ぎ、世界では8万人以上、国内で5,000人以上の患者さんに対して、実施されています。
DBSは、元々、パーキンソン病の手術(後述)による治療は、さまざまな内服薬での治療による限界を迎えた患者さんに対する最後の手段として行われていました。従来の方法に比べて、DBSは手術による副作用が少ないために、薬でのコントロールが難しい運動症状へ対応するために実施されるようになり、薬の治療による運動合併症(「ジスキネジア」と「ウェアリングオフ」)の症状が出ている患者さんにも効果を上げています。さらに、近年は、早い時期から積極的なDBSの治療が、患者さんの生活の質を改善するとのデータもあり、パーキンソン病に対するDBSの位置付けは変わりつつあるようです。
DBSの方法は、脳の深い部分(現在は3カ所です)に電極を置いて、胸の前面に植え込んだ刺激装置で、脳の細胞を電気刺激するというものです。埋め込まれた脳の電極は、刺激発生装置と、皮膚の下を通したリード線で接続されます。高い頻度で刺激すると、神経細胞は、活動を休み、細胞を破壊したのと同じ効果が得られ、振戦などの症状をおさえることができます。日本では2000年4月から保険適用が認められています。DBSは、脳を破壊しないので手術による合併症が少ないかわり、体内に異物が残るため、感染を起こしたり、体内でのリード線を含めて断線のリスクがあります。
現在、定位脳手術では、凝固術が減りDBSが主流となっている最大の理由は、脳の組織の破壊が少なく、左右両側の手術も安全に行えること、また刺激の強さにより調節が可能であることによります。
パーキンソン病治療で胎児の中脳を移植?
パーキンソン病は、中脳の「黒質」という部分でドーパミン神経細胞死が進むと発症しますが、現時点で細胞死の進行を遅らせたり、止める治療法はありません。
一方で、細胞の変性、脱落に対して、神経細胞そのものを同じ場所に補充してやろうというのが「細胞移植療法」と呼ばれるものです。動物実験での有効性に基づいて、胎児の中脳(黒質)の移植が、最初に1987年にスウェーデンで、その後1990年代にかけて欧米で盛んに行われました。効果がなかった事例もあるものの、移植組織がうまく生着(いきたままくっついて、機能すること)し、徐々に運動症状が改善する報告もありました。ただ、その後、2つの臨床試験で効果が確かめられましたが、症状の改善効果が見いだせず、副作用としてジスキネジアが多数発生するという結果でした。
現在、ヨーロッパで再び大規模な臨床試験が進行中のようですが、胎児中脳の移植には、人工妊娠中絶した胎児の中脳組織を利用するという倫理的な問題や、ドナー供給不足の問題があります。
受精して胚から作る「ヒト胚性幹細胞(いわゆる「ES細胞」)」を利用することで、量の問題は解決しますが、本来なら、ヒトになるはずの胚を犠牲にするため、倫理的問題は残ります。問題を一挙に解決できると期待されるのが、iPS細胞です。
iPS細胞に期待がかかる理由 実用化のめどは?
すでに、ヒトのiPS 細胞から誘導したドーパミン神経細胞が、ラットやサルなどで生着し、運動機能を改善することが確認されています。ただ、臨床応用(医療技術として、ヒトに対して使うこと)にあたって、一番の問題とされるのはiPS細胞がもつ高い増殖性から心配される移植した組織の腫瘍化です。ただ、増殖の可能性のある細胞を排除し、ドーパミン神経細胞を選別する技術も、ほぼ確立しているようです。
また、iPS細胞は自家移植(じかいしょく、*)が可能ですが、パーキンソン病患者さん由来のiPS細胞から作製したドーパミン神経細胞が、脳内で機能するかについても検討が必要ということです。現在も、技術改良に向けた研究が世界中で精力的に行われていますが、京都大学とNIH(アメリカ国立衛生研究所)で臨床試験に向けた準備が進められているようです。臨床試験の結果次第ですが、実用化はもう少し先になりそうです。
なお、iPS細胞の場合、倫理上の問題は解消されます。なぜなら、患者自身の体からとった細胞を使って、ドーパミン神経細胞を作れるため、本来ヒトになる胚細胞などを犠牲にする必要がないからです。
*自家移植→自分の細胞からのiPS細胞をつくって、移植すること。通常の移植の場合、他人の細胞からできた臓器等が移植されるため、移植を受けた側の患者の体に合わず、機能しなかったりすることが、低くない確率で起こります。その点、iPS細胞は、自分の細胞から育てた細胞を移植するため、「体に合わない」という問題は起きない点が、画期的とされているポイントの1つです。
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パーキンソン病の検査と治療についてご紹介しました。「家族がパーキンソン病かもしれない」と不安に感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。
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