腹腔鏡手術の傷跡、痛み、麻酔 開腹手術と比較して長所や短所は?

  • 作成:2016/06/27

腹腔鏡で行う手術は、よく知られているように、普通の開腹手術と比べて、傷跡は小さくて済むメリットがあります。痛みや麻酔の観点からのメリット・デメリットを含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。

アスクドクターズ監修医師 アスクドクターズ監修医師

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腹腔鏡手術で麻酔かける?普通よりかけ方が軽い?

腹腔鏡手術では、通常のお腹を大きく切るような開腹手術に比べて、傷も小さく侵襲は少ないですが、麻酔は開腹手術と同様に全身麻酔と硬膜外麻酔(脊椎の外側に麻酔薬を入れる方法、局所麻酔の1種)を併用します。手術を受ける場合には、麻酔の一連の流れや麻酔の危険性・合併症について説明があり、また術前の患者さんの状態を把握するために麻酔科医による術前診察があります。その際に疑問点などあれば聞くとよいでしょう。

一般的に腹腔鏡を使用するような腹部臓器の手術では、開腹で行うかどうかに関わらず、全身麻酔と硬膜外麻酔を併用することが多いです。「硬膜外麻酔」は背骨の間から細い直径1mmほどのチューブを挿入して、麻酔薬を投与しますが、全身麻酔と併用する理由として硬膜外麻酔は手術中だけでなく、手術後の痛みを緩和する目的で使用できる点が挙げられます。

腹腔鏡手術では、お腹の中の視野を確保するために炭酸ガスを注入しながら手術を行います。そのため、膨れ上がったお腹によって肺が圧迫される可能性がありますが、人工呼吸器を使った全身麻酔を使用することで呼吸を安定させることができます。

したがって、腹腔鏡手術においても当然麻酔をかけますし、普通より麻酔が軽いということもありません。開腹手術と同様に麻酔をかけて行いますので、患者さんは眠っている間に手術は終わることとなります。

腹腔鏡手術の傷跡、手術跡 通常の手術と比べてメリットやデメリットは?

腹腔鏡手術の最大のメリットはやはり傷跡が小さいことに尽きると言えます。例えば、泌尿器科で行われている腎臓や副腎の摘出術の場合、開腹手術では20cmから30cmにわたってお腹や腰のあたりを切開しますが、腹腔鏡手術では3cmから6cm程度の傷が1か所と、5mmから1cm程度の傷を数か所切開すれば手術が可能です。また、消化器外科で行われている胃がんの手術を例にしてみると、開腹して行う従来からの標準的な手術の場合ではみぞおちからへそまで約20cmにわたって切開する必要がありますが、腹腔鏡手術ではへその近くに1.5cmほどの傷とへその周りに5mmから12mm程度の傷が4か所、最後に切除した胃を取り出すためにみぞおちの辺りに5cmから7cmほどの切開を加えることになります。すべての胃がんが腹腔鏡で行えるわけではありませんが、基本的に切除する範囲や再建(生活などに影響がないように、切除した部分以外の消化器をつなぎ合わせたりすること)の方法は開腹手術と同じになります。この2例から分かるように傷口や傷跡に関していえば、開腹手術に比べると腹腔鏡手術の方が傷が小さくなることが分かると思います。

手術の傷は病気が治ったとしても一生付き合っていくものです。特に若い女性では大きな傷を負っている精神的負担も大きく、できるだけ小さな傷で済む腹腔鏡手術は精神的な負担を減らす大きなメリットがあります。また、大きくお腹を開ける手術では本来くっついていないところがくっついてしまう「癒着」も問題となります。腹腔内臓器の癒着は、将来的に妊娠の可能性がある女性にとっても、妊娠の妨げとなり、この点においても腹腔鏡手術のほうが優れていると言えます。

一方で、傷口が小さいことによるデメリットもあります。腹腔鏡手術では、カメラに映っている範囲が医師にとっての視野となるため、見えていない部分では何が起きているか分かりません。すなわち、思わぬところで器具がぶつかって出血を起こしたり、臓器を傷つける可能性があります。また、出血などの合併症で腹腔鏡手術の継続が困難だと判断された場合には、開腹手術に切り替わる可能性もあります。腹腔鏡での手術には、経験の豊かさに支えられた技術と細心の注意が要求されます。

腹腔鏡手術の痛み 通常の手術と比べてメリットあり?

腹部の一般的な開腹手術では、お腹の中に手を入れて手術操作を行うため、10cm以上の切開が必要です。さらに術中は「開創器」という器具を用いて傷口を開いた状態で固定します。そのため、腹筋をメスによって直接傷つけたり、開創器による圧迫が起きます。その結果、開腹手術後は傷や筋肉の痛みが強く出てしまいます。そのため、開腹手術では、硬膜外麻酔や鎮痛剤の注射によって痛みをコントロールしています。一方、腹腔鏡手術では、へその近くに1.5cmほどの傷と、その周りに5mmから12mm程度の傷が4か所ほどできるだけなので、腹筋への損傷もほとんどありません。したがって、腹腔鏡手術後の痛みのコントロールは、痛み止めの飲み薬で対応可能なレベルとなります。

2005年から2008年にかけて日本で行われた臨床試験(医療行為の効果を確かめる試験)では、胃切除に対して腹腔鏡手術と開腹手術の比較検討が行われました。早期胃がん患者63人を対象として、ランダムに腹腔鏡手術と開腹手術に振り分けた研究では、術直後の疼痛(痛み)に関しては腹腔鏡手術を受けた集団と開腹手術を受けた集団で、有意(統計学的に意味のある)な差はありませんでした。しかし、術後7日後の疼痛は腹腔鏡群で有意に改善していました。術直後の疼痛に関しては、鎮痛剤によってコントロールされていたために、両集団で差がなかったと考えられています。したがって、この臨床試験ではより侵襲の少ない腹腔鏡手術によって、患者の疼痛を軽減できると結論付けています。この文献では早期胃がんについての検討ですが、他の手術においても同様の結果が出ており、腹腔鏡手術は疼痛の面において開腹手術よりも患者さんへの負担が少ないと言えます。


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腹腔鏡手術の傷跡、痛み、麻酔の観点からのメリットなどについてご紹介しました。御自身や近い方の手術に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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