日本脳炎の原因、感染経路、症状、後遺症、死亡率 蚊、豚が危険?発症率、検査も解説

  • 作成:2016/07/21

日本脳炎は、蚊が媒介して感染する病気で、時に重症化することもあります。現在では、広く予防接種がひろまっていますが、日本で発症がまったくないわけではありません。症状や後遺症、豚が危険視されている理由なども含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。

アスクドクターズ監修医師 アスクドクターズ監修医師

この記事の目安時間は6分です


日本脳炎の原因はウイルス?
日本脳炎の感染経路 蚊や豚が関係?
日本脳炎の発症率 感染しても全員発病するわけではない?
日本脳炎の症状はどんなもの?
日本脳炎の検査はどんなもの?
日本脳炎を発症した際の死亡率
日本脳炎発症による後遺症はどんなもの?確率は?

日本脳炎の原因はウイルス?

日本脳炎の原因となるのは「日本脳炎ウイルス」です。このウイルスは日本の医学者である野口英世が感染し亡くなった黄熱病(黄熱ウイルス)、2012年にアメリカで流行し話題になった西ナイル熱(ウエストナイルウイルス)、2014年に首都圏で69年ぶりの感染例が報告されたデング熱(デングウイルス)と同じ「フラビウイルス属」という分類になるウイルスです。

日本脳炎ウイルスは、1935年に脳炎を発症したヒトの脳から初めて発見されました。日本脳炎は東南アジアや南アジアに多くみられ、年間3万から4万人が発症していますが、日本と韓国ではワクチンの定期接種により最近の流行はありません。

日本では1871年以降、夏から秋の時期に流行する脳炎があることがわかっていました。しかしその原因はわからないまま1924年には6000人以上の人が脳炎を発症し、約60%が死亡していました。1935年にこの脳炎の原因となるウイルスが見つかり、「日本脳炎ウイルス」と名づけられました。1954年に日本でワクチンが開発されて、国によって予防接種が勧められたため、1966年に約2000人が日本脳炎を発症したのをピークにその後は患者が減少し、1992年以降は年間10人程度の発症となっています。しかし最近では2015年に11か月の子供が発症し、後遺症が残ったと報告されています。

日本では日本脳炎を診断した医師が7日以内に届け出なければならない、「第5類感染症」に指定され、発症した場合、すべての症例が把握が必要な「全数把握疾患」となっています。

日本脳炎の感染経路 蚊や豚が関係?

日本では、水田にいる「コガタアカイエカ」が主にウイルスを媒介(ばいかい:病気を人にうつすこと)します。日本以外ではその他の蚊も媒介することがわかっています。

しかし、日本脳炎ウイルスは人から人に直接感染することはありません。それは、日本脳炎ウイルスに感染しても、人の血液中ではそれほどウイルスが増えないためです。しかし、動物によっては、日本脳炎ウイルスに感染すると、その動物の中でウイルスが増幅し(ぞうふく:増えること)、血液内にウイルスが増えたタイミングで蚊がその動物から血を吸い、その後人を刺すと、人に日本脳炎ウイルスが感染します。特に豚はコガタアカイエカが血を吸うのに好きな動物で、豚が日本脳炎に感染すると血液中のウイルス量が多くなるため、日本では増幅動物として重要です。

厚生労働省は、毎年感染がピークとなる夏に、国内の豚が日本脳炎ウイルスにどの程度感染しているかを調べ、間接的にウイルスの広がりを調査しています。その結果、毎年日本脳炎ウイルスをもつ蚊は発生していることが分かっています。2007年の調査では、三重県より西の地域での養豚場の豚における日本脳炎陽性率は80%以上と高い率でした。日本脳炎は発生に地域差があり、西日本で多いことがわかっています。

蚊は子を産む時期に栄養を得るため、積極的に動物の血を吸います。そのため、蚊が出てくる5月から9月が日本脳炎に感染しやすい時期と言われます。増幅動物である豚の感染は6月から10月がピークです。休耕田が増加し、農薬の使用の広まったため、蚊は減っていますが、猛暑が予想される年は蚊の活動時期も長いことが予想されます。1日の中では蚊の活動は日没後に活発になるため、夏の夜には不要な外出はしない方が安全です。その他に家では窓を開けたままにせず、網戸を使用し、外出するときには長袖長ズボンを着用、さらに虫よけスプレーを使うことが、蚊から身を守り日本脳炎の予防になります。

日本脳炎の発症率 感染しても全員発病するわけではない?

蚊によって日本脳炎ウイルスに感染しても、実際に日本脳炎を発症するのは250人から1000人に1人程度です。ほとんどの人は日本脳炎ウイルスが体内に入っても症状が現れない「不顕性感染(ふけんせいかんせん)」で終わります。

2000年から2010年度の間に人を対象に行った調査では、日本脳炎のワクチンを接種していないにもかかわらず、日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有していた人は7.9%でした。「抗体」とは体にウイルスが入った時に、ヒトの体の中でウイルスと闘うために作られる成分です。つまり、「予防接種をしていないのに抗体を持っている」ということは、1回以上、日本脳炎ウイルスが身体に入ったことがあるということになります。しかし体に入ったウイルス量が少なかったり、免疫力によって自然にウイルスを倒したことにより症状が出なかっただけなのです。これが不顕性感染です。もし、この時に風邪などを引いていて免疫力が低下していたら、体に入ったウイルス量が多かったら、日本脳炎を発症していたかもしれないのです。

ですから、周りに日本脳炎になった人がいないからといって、「自分や自分の子供は日本脳炎にならない」とは言えないことを認識しましょう。特に、日本脳炎ウイルスに感染して発症しやすい年齢は60歳前後と5歳未満の幼児と言われています。

日本脳炎の症状はどんなもの?

日本脳炎はウイルスが体内に入ってすぐに症状が出るわけではありません。ウイルスに感染してから症状が出るまでの期間を潜伏期間(せんぷくきかん)といいますが、日本脳炎の場合の潜伏期間は6日から16日です。

日本脳炎の症状は、脳や脊髄(脳から出て背骨の中を通る神経の通り道)、脳や脊髄をおおっている髄膜(ずいまく)に症状が現れます。日本脳炎に共通して現れやすい症状は、急で数日間続く発熱(39度から40度以上)と頭痛・悪心(おしん:吐き気がでること)・嘔吐(おうと:吐くこと)・めまいなどです。小児では、腹痛や下痢が見られることもあります。

その後、急激に以下のような症状が出ます ・項部硬直(こうぶこうちょく)→髄膜が刺激されることによりみられる症状で、首を前に曲げると痛みが現れて、顎を胸にくっつけることができなくなる ・光線過敏→光に対して敏感になる ・意識障害→意識がもうろうとしたり、全く反応がなくなる ・筋強直(きんきょうちょく)→筋肉が縮んだあと、ゆるむことができなくなる ・脳神経症状→麻痺(まひ)、しゃべれない、味やにおいがわからない、めまいなど ・不随意運動(ふずいいうんどう)→動かすつもりがないのに、勝手に筋肉が動く ・病的反射→正常であれば見られない反射の総称など

けいれんは小児に多く、大人ではあまりみられません。

神経には動きをつかさどる「運動神経」と、触った感覚などを感じ取る「感覚神経」がありますが、日本脳炎では運動神経が障害されやすく、感覚の障害はまれです。麻痺は足よりも手の方が出やすい傾向にあります。

その他に、数は少ないものの、脊髄だけの障害の報告もあります。この場合は障害された部位により症状に個人差が大きくみられます。脳の症状は見られず、足の麻痺や排尿・排便がうまくできないといった症状が現れます。また脳と脊髄をつなぐ脳幹の中の一部である延髄(えんずい)と呼ばれる部分が障害を受けると、うまく飲み込めない・舌が思うように動かない・うまく話せないといった「球麻痺(きゅうまひ)」とよばれる症状が現れますが、この球麻痺だけの症状が表れた患者の報告もあります。

日本脳炎の検査はどんなもの?

検査では、必要に応じて、脳や脊髄の周りにある「髄液(ずいえき)」という液体を採取します。「髄液」は背中から背骨に細い針を刺して採取しますが、このとき、髄液の圧は上昇していることが多いです。髄液中の蛋白(タンパク)の量も軽く上昇します。髄液の中の細胞の数は増えていて、はじめは「多核球」と呼ばれる細胞が増え、その後「リンパ球」という細胞が増えます。多核球やリンパ球は病原体と戦うためにある白血球の種類です。

血液検査では炎症を起こした時に増える、白血球が少し増えます。また病気のピークの時には、膿が混じっているのに細菌が確認できない「無菌性膿尿(むきんせいのうにょう)」や、見た目は赤くない尿なのに検査をすると血液が混じっている「顕微鏡的血尿」、その他蛋白尿などのおしっこの異常が出てくることもあります。

日本脳炎を発症した際の死亡率

日本脳炎を発症した時の死亡率は約15%から40%で、幼小児や高齢者では死亡率が高い傾向にあります。

日本脳炎の死亡率が高い理由の1つは、日本脳炎ウイルスに対する直接的な治療がないためです。細菌に対する抗生剤のような治療ができないため、一旦日本脳炎を発症したら、呼吸を助けたり、血圧を保つといった全身管理をして、状態を保ちしながら、よくなるのを待つしかありません。そのため、日本脳炎は、発症してからの治療よりも、ウイルスに感染しないことが最も重要といえます。

日本脳炎発症による後遺症はどんなもの?確率は?

日本脳炎は、治療により死亡をまぬがれても、精神神経学的後遺症が50%の人に残ります。特に、小児では重症の後遺症がみられます。後遺症としては、以下のようなものがあります。

パーキンソン病様症状→動きがゆっくりになる、止まっているときでも体の一部が震える、筋肉が固くなる、バランスがとりづらくなる、歩行が難しくなる
けいれん
まひ
精神発達遅滞(せいしんはったつちたい)→年齢相当の知能よりも低く、時に社会生活で支援や見守りが必要になる
精神障害→うつ状態やパニック障害・人格の変化

医学が発達し日本脳炎の死亡率は減らせましたが、後遺症を残す確率は昔も現在も変わりありません。繰り返しますが、日本脳炎は予防が最も重要です。


【日本脳炎関連の他の記事】

日本脳炎予防接種の疑問 定期接種は再開?「旧ワクチン」「ADEM」とは?旧ワクチンはもう使ってない?北海道はなぜ特殊?
日本脳炎予防接種の効果、副反応 ADEMや死亡の確率は?時期、回数、年齢、料金、同時接種、受け忘れなどの対応も解説


日本脳炎の原因、感染経路、症状、後遺症、死亡率などについてご紹介しました。予防接種の受診に不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

病気・症状名から記事を探す

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行
ら行

協力医師紹介

アスクドクターズの記事やセミナー、Q&Aでの協力医師は、国内医師の約9割、33万人以上が利用する医師向けサイト「m3.com」の会員です。

記事・セミナーの協力医師

Q&Aの協力医師

内科、外科、産婦人科、小児科、婦人科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、整形外科、精神科、循環器科、消化器科、呼吸器科をはじめ、55以上の診療科より、のべ8,000人以上の医師が回答しています。

Q&A協力医師一覧へ

今すぐ医師に相談できます

  • 最短5分で回答

  • 平均5人が回答

  • 50以上の診療科の医師