切迫早産の治療と診断 何週が目標?点滴や手術はどんなもの?薬の副作用は?張り返しの意味や放置リスクも解説

  • 作成:2016/08/30

切迫早産の場合、放置しておくと、胎児が外界への準備ができていない状態で出産にいたってしまうことになりますので治療の必要です。目標は、通常の出産時期に入る34週です。薬を使うこともありますし、原因に病気がある場合は、手術が必要になります。診断基準と合わせて、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。

近藤恒正 監修
落合病院 副院長
近藤恒正 先生

この記事の目安時間は6分です

目次

切迫早産はそもそも治る?

切迫早産は、治療により進行を食い止めることは可能ですが、「治る」というものではありません。一度切迫早産と診断されたら、妊娠34週を目標に、妊娠を継続させるための治療を受ける必要があります(後述)。切迫早産は今にも分娩が始まろうとしている状態ですので、胎外での生活にまだ適応できない胎児を守るためには、できるだけ分娩の時期を先延ばしにして、胎内で胎児を発育させる必要があります。

切迫早産で治療をしないと陣痛が起きて、出産に至る?

切迫早産には治療が不可欠です。切迫早産は適切な処置を行っても、30%の割合で早産に移行してしまいます。つまり、正しい処置を行わなければ、早産が避けられなくなります。切迫早産では、下腹部痛から、頸管熟化によって生じる産徴(おしるし)、前期破水を経て陣痛が起こり、早産に至ります。前期破水にまで至ってしまうと90%以上に陣痛が起きてそのまま早産に移行してしまうため、いかにそれ以前の段階を維持するか重要となります。

対応を考える上で、基準となるのが、破水の有無と妊娠週数です。

未破水ならば、安静にして、妊娠を継続して胎児を発育させることが目標になります。このときの治療法としては、子宮収縮抑制薬や頸管熟化抑制薬、抗菌薬、ステロイドなどの薬物療法や「頸管縫縮術(子宮口を縛る手術)」という手術療法がおこなわれます。

破水している場合は、妊娠34週を目標に可能な限り妊娠を継続させます。妊娠34週というのは、肺が成熟する時期の分かれ目で、妊娠34週を過ぎれば胎児は呼吸するのに十分な機能が完成していると判断されます。34週までに分娩が始まってしまうと困るので、治療によって妊娠を維持させる必要があるのです。

切迫早産の診断基準 子宮口で判断する?切迫早産気味とはどんな状態?

切迫早産の診断には、超音波検査が行われます。分娩に向けて、頸管が熟化すると内子宮口が開大し、頸管が展退(胎児の出口を塞いでいる壁となっている頸管が短くなる)します。このことから、超音波検査で子宮頚管の長さを測定することで、切迫早産の指標となります。

子宮頚管長が短ければ短いほど、早産に至る確率が高いことが報告されています。正常な妊娠では頸管長は妊娠24週で35mm、32週以降で25mmから30mmといわれていますが、妊娠30週以前に25mm以下になると、早産のリスクが高いと判断されます。

このように数値化できるため、頸管長が基準として広く使われていますが、頸管長以外にも子宮口には変化がみられます。まず、閉じていた子宮口が3cmから4cm開大します。子宮口は、未熟なうちはお尻側にありますが、成熟してくるとお腹の方に移動してきます。頸部の硬さは、小鼻くらいの硬さのものがマシュマロと表現されるくらいまで柔らかくなります。これらは内診(生殖器内の診察)で判断されます。

切迫早産の治療目標 何週ごろまで出産しないようにする?

切迫早産の治療目標は妊娠34週です。原則として、妊娠28週未満であれば、母体と胎児の状況が許す限り、子宮収縮抑制薬を使って、妊娠を継続します。これを「tocolysis(トコライシス)」といいます。妊娠34週以降であれば、胎児の肺が成熟して、胎外の環境にも適応できると判断され、tocolysisは行わずに経過を観察し、分娩を待ちます。

問題となるのは破水が起きた場合です。妊娠28~33週で、破水した場合は、子宮収縮薬による分娩の誘導または帝王切開術を行って、ターミネーション(妊娠を終了させる)を行うことになります。実際にどう対応するかは、個別に判断するしかありません。

切迫早産の原因は、大半が感染症であるため、tocolysisでは子宮収縮抑制薬に加えて抗菌薬も使用されます。また、肺の成熟性を高めるため、副腎皮質ステロイド薬も投与されます。

さらに言いますと、切迫早産の感染症は、ほとんどが絨毛膜羊膜炎によるものです。絨毛膜羊膜炎は進行すると胎児にも感染を起こします。また、炎症によって子宮の働きが悪くなれば、tocolysisの効果が期待できないこともあり、妊娠週数に関わらずターミネーションを選択する場合もあります。

切迫早産の点滴治療 点滴は痛い?マグセント?「張り返し」の意味とは?

切迫早産の際、点滴治療として、硫酸マグネシウムという成分から成る「マグセント」が使われます。マグセントとは、カルシウム拮抗作用といって筋肉を形成している細胞の電気信号を鈍くさせる働きがあり、平滑筋を弛緩(ゆるめること)させます。子宮は平滑筋から成る臓器であり、平滑筋を弛緩させることで、子宮の過剰な収縮を抑える働きがあります。この働きがいわゆる「張り返し」です。

副作用としては、顔面のほてりや筋力低下があります。重篤な副作用にはマグネシウム中毒といって、呼吸停止や心停止があります。血中のマグネシウム濃度の目安は4~7.5mg/dlであり、10mg/dlを超えると中毒症状が出現します。このため、投与の際は血液中のマグネシウム濃度をモニターすることが重要となります。

この他、患者さんが頻繁に訴える副作用として、血管痛があります。マグセントの特徴として、浸透圧が高いことが知られています。浸透圧の高いものが血管内に入ると、浸透圧によって、血管壁の細胞から水分が吸い上げられます。このときに圧力がかかり、細胞が障害されることで血管痛として痛みが現れます。この血管痛ゆえに、「マグセントの点滴は痛い」と言われるのです。

切迫早産の内服薬治療 ウテメリンの作用機序と副作用

切迫早産の内服薬治療(薬を飲む治療)として、「塩酸リトドリン」という成分から成る「ウテメリン」が使われます。ウテメリンは、「β(ベータ)2刺激薬」といって、マグセントと同様に平滑筋を弛緩させる働きがあります。

作用機序は次の通りです。子宮などの平滑筋には「アドレナリン受容体(アドレナリンと結合すると電気信号を送るもの)」があり、ここに神経伝達物質であるアドレナリンが作用すると、筋肉の収縮や弛緩をもたらします。アドレナリン受容体には「α(アルファ)1」「α2」「β1」「β2」「β3」の5つの種類があります。このうちβ2受容体への効果を狙ったものがウテメリンです。β2受容体は、血管平滑筋や気管支平滑筋、子宮などにみられ、β2受容体が刺激されると、これらの組織は弛緩します。したがって、ウテメリンにも子宮収縮を抑制させる働きがあるのです。

ウテメリンを使うと、β1受容体とβ2受容体は構造が似ているため、β1受容体も一緒に刺激されます。β1受容体の働きは心臓の心筋を収縮させる働きがあり、副作用として頻脈や動悸、手の震えがみられます。

切迫早産の手術治療 どんなもの?リスクは?

切迫早産の原因となる「頸管無力症」には手術治療が採用されることがあり、「頚管縫縮術」という手術が行われます。子宮頸管が開かないように、子宮口を糸で縛る手術です。この手術は、多胎妊娠などの場合、早産予防のために行われることもあります。子宮口が開大して緊急に行う場合もありますが、多くは予防的に行われ、妊娠12週から16週に行われることがほとんどです。

頸管縫縮術では、腟経由で、子宮頸部を縫合して、早期の子宮口開大を防ぐ目的で行われます。子宮口の高さで縫縮する「Shirodkar(シロッカー)手術」と、子宮口よりやや低い位置で縫縮する「McDonald(マクドナルド)手術」の2種類の方法があります。Shirodkar手術の方が、早産予防の効果は高いものの手技が困難で、緊急時などでShirodkar手術を行えない場合にMcDnald手術が行われることが多くなっています。



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切迫早産の治療と診断などについてご紹介しました。切迫早産に対して、不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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