切迫早産時の生活 食事、風呂、寝方、咳、運動、飛行機はどうする?腹帯の効果や骨盤を高くする理由も解説

  • 作成:2016/08/31

切迫早産で「入院が必要」と判断されなければ、家で生活することも可能です。ただ、「胎児の準備ができずに生まれてしまう可能性がある」わけですから、通常通りに動いて良いわけではありません。食事、寝方、お風呂、運動の可否などを、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。

近藤恒正 監修
落合病院 副院長
近藤恒正 先生

この記事の目安時間は6分です

目次

切迫早産時の生活 食事と体重管理の考え方

切迫早産では食事制限の必要はありませんが、食べ過ぎは禁物です。成人の1日あたりの標準摂取カロリーは1,800 kcal から2,200kcalといわれています。妊娠中は、妊娠初期で+50kcal、中期で+250kcal、後期で+450kcalのプラスが必要とされていますが、これは通常妊娠の場合です。

切迫早産では安静を指示されます。標準摂取カロリーは活動量を反映さて考えるものなので、安静にしている場合は必要カロリー数は低下し、標準摂取カロリーは1,500 kcalから1,900kcalほどになります。運動によってカロリーを消費できない状態なので、カロリーの摂りすぎには注意しましょう。

妊娠中の体重増加は、妊娠10カ月で10kgが目標とされています。太りすぎると、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群を合併しやすくなります。妊娠糖尿病では奇形や巨大児のリスクが上がりますし、妊娠高血圧症候群では胎児発育不全、非常に危険な状態になる可能性の高い「常位胎盤早期剥離」などのリスクが高くなります。一方、だからといって食事を必要以上に制限すると胎児の発育不全をもたらします。切迫早産のための安静は、退屈な時間が増え、ストレスも抱えやすいことから食事量が増えてしまうことが多くみられますが、胎児のためには適切な量の食事を心がけましょう。

切迫早産時の生活 お風呂はOK?ダメ?注意点は?

入浴は許可される場合も、されない場合もあります。切迫早産の進行度が高い場合は絶対安静となり、極力ベッドの上で横になっているよう指示されます。そうすると、お風呂に入ることやシャワーを浴びることもできませんし、トイレもおむつや尿道カテーテルの管理になる場合があります。

そこまで厳しい安静を指示されなければ、シャワーを浴びることは可能です。ただし、立っている姿勢でも座っている姿勢でも胎児には出口側へ重力がかかることになり、分娩進行を助長させるので、できるだけ短時間で済ませた方がよいでしょう。子宮は温まることによって収縮しやすくなるので、お風呂にゆっくり浸かるのも避けるべきです。

また、破水している場合には入浴もシャワーもできません。破水は、胎児を包んでいる「卵膜」が破れて、羊水が流れ出てしまっている状態です。卵膜は細菌やウイルスから胎児を守る働きがあります。卵膜が破れることによって胎児の防御が弱くなると、細菌やウイルスが胎内に侵入しやすくなり、胎児に感染してしまう可能性が非常に高くなります。

切迫早産時の生活 寝方は骨盤が高いほうがよいの?

切迫早産の方が寝るときは、骨盤の下に座布団などを敷いて10cmから15cmほど高さを作って横になったほうがよいとされています。切迫早産では胎児が出口である子宮頸管や腟の方に向かってきてしまっている状態です。子宮頸管が胎児による圧迫を受けると、分娩がより進行しやすくなります。胎児を本来の位置に戻すためには、まず重力を取り除くことが必要です。そのため、安静では横になることを指示されます。この際、無理のない範囲で骨盤を高くした方が効果的といわれています。

なお、骨盤を高くすることによって低血圧が起きて、冷汗や顔面の蒼白、頻脈がみられた場合は注意が必要です。これを「仰臥位(ぎょうがい)低血圧症候群」といいます。

背骨の左側には「大動脈」、右側には「下大静脈」という血管が走っています。動脈は血管の壁が厚いため圧力の影響を受けにくいのですが、静脈は血管の壁が薄いため、押し潰されやすい特徴があります。仰向けで寝ると胎児の重さに圧迫されて、下大静脈の血流が悪くなります。足に向かう血液(大動脈)は正常でも、足から戻る血液(下大静脈)が滞っていると、心臓に帰る血液量が減り、血圧が低下します。すると、さきほど挙げた症状や、母体の失神、胎児の酸素欠乏といったことを招く恐れもあります。「仰臥位低血圧症候群」を予防するためには、腰の右側をやや高くするように高さを調節するとよいと考えられています。

切迫早産時の生活 家事の考え方 腹帯に効果?

絶対安静の場合は家事も禁止されますが、そうでない場合は簡単な家事なら行うことができます。ただし、やはり切迫早産の第一の治療は安静にしていることなので、夫や両親の力を借りて極力控えた方がよいでしょう。

掃除は、妊婦にとって重労働になるので、絶対安静を指示されていなくても控える必要があります。料理でキッチンに長時間立っているのもあまり好ましくありません。簡単に短時間でできるものでなければ、やはり避けた方がよいでしょう。買い物は、近くのお店で、荷物が重くならない程度に済ませましょう。

動く時は、腹帯を使用することが勧められています。腹帯は、胎児を正しい位置で支えることで、重力による影響を軽減させる働きがあります。また、骨盤を締めて安定させることで腰痛にも効果的です。ただ、圧迫しすぎて血流を悪くしないように気をつけましょう。

切迫早産時の生活 外出、運動、車の運転、飛行機はOK?

切迫早産の治療の第一は安静です。絶対安静の指示でなければ短時間の外出は可能ですが、運動は行うべきではありません。車の運転も、切迫早産のようにいつ分娩が始まるか分からない状態では危険なので控えるべきです。飛行機は、最も避けるべき移動手段です。飛行機で分娩が始まってしまったらどうしようもありません。また、普段通院している病院から離れて行き先で何か起こった場合、いつもと違う病院では医療機関にとって初めて診る患者さんで状況把握が不十分なため、対応が遅れてしまいます。

切迫早産で安静にしているときに他に注意が必要なのが、「深部静脈血栓症」です。深部静脈血栓症は、いわゆる「エコノミークラス症候群」のことで、飛行機など長時間同じ姿勢を続けることで発症する病気です。同じ姿勢を続けると、下肢の血流が滞り、血液が血管の壁で固まって血栓が形成されやすくなります。血栓ができた状態で急に立ち上がると、血栓が壁から剥がれる場合があり、血栓が血管に詰まってしまうことで、腫れや炎症が生じます。また、血栓が運悪く肺の動脈を塞いでしまうと、「肺塞栓症」になり呼吸困難や突然死の原因になります。妊娠中は、出産時の出血に備えて、「凝固因子」という血を固める成分が血液中に増えています。このため妊娠中の血液は固まりやすく、血栓が形成されやすい状態になっています。これらの理由から、妊娠中の飛行機または長時間の運転は避けるべきと考えられています。

切迫早産時に咳は危険?どう対応する?

切迫早産の場合、分娩を誘発しないために、腹圧(腹部への圧力)のかかる行為は避ける必要があります。たとえば重い荷物を持ったり、排便の時にいきむのがこれに当たります。咳も腹圧がかかるものなので、切迫早産では好ましくありません。咳が続く場合、腹圧がかかることで早産の危険性もありますが、十分な呼吸が出来ないことで母体が酸素不足になると、胎児の発達にも悪影響が及ぶ可能性があります。

妊娠中に咳がみられる場合は、早めの治療が大切です。咳の原因は、よくしられた風邪だけでなく、妊娠をきっかけに喘息を発症する場合もあります。喘息は早期に治療しないと再発や悪化につながるので、早めに受診しましょう。妊娠時は胎児への影響を考えて、安易に市販薬を服用するのは避けてください。

切迫早産の安静解除の基準、目安

安静が解除されるのは、「正期産」に入る妊娠37週頃になるのが一般的です。「正期産」とは妊娠37週以降妊娠42週未満までのことを言い、これより早いと「早産」、逆にこれより遅いと「過期産」といいます。早産では、胎児の発達が不十分であることが問題になります。過期産では、胎盤の老化のため酸素や栄養の供給が低下してしまい、「胎児機能不全」といって胎児の健康を害する原因になります。正期産に入れば、胎児は外の環境でも十分生活できるよう準備が完成しており、それ以上お腹の中に留まる理由がなくなるので、安静が解除されます。

上記のような妊娠週数以外の要素に関しては、頸管の短縮や子宮口の開大の熟化などといった切迫早産の状態が落ち着けば安静が解除されることもありますが、再度安静が必要になる場合も多く、切迫早産ではほとんどの場合で妊娠37週までは安静を指示されることになります。



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切迫早産時の生活の注意点などについてご紹介しました。切迫早産に対して、不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

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