妊娠糖尿病の胎児・母体への影響 奇形・巨大児が多い?切迫早産、帝王切開との関係も解説

  • 作成:2017/02/13

妊娠糖尿病の場合、先天奇形や巨大児のほか、胎児の死亡の可能性もあります。また、胎児だけでなく、母体に影響がある可能性もあります。可能な限り早期対応することが重要です。妊娠糖尿病の胎児への影響について、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。

アスクドクターズ監修医師 アスクドクターズ監修医師

この記事の目安時間は6分です

女性医師

妊娠糖尿病患者は、3%から12%

妊娠糖尿病は、妊娠後に初めて発見、または発症した糖代謝異常のことを指します。妊娠前から糖尿病と診断されている場合には、「糖尿病合併妊娠」と呼びます。2010年に診断基準が改正され、今までの基準より厳しくなったため、妊娠糖尿病の割合が増えました。具体的には約3%から12%の妊婦が、妊娠糖尿病と診断されます。

食事によって摂取された糖分は、インスリンという膵臓から分泌されるホルモンで分解されエネルギーとして使用されます。インスリンの分泌が低下していたり、インスリンが効きづらくなっていると血糖値が上昇します。妊娠中は胎盤からインスリンに対抗するようなホルモンが分泌されるため高血糖になりやすいですが、健常な場合にはいつもより多くのインスリンが分泌されて血糖値を正常に保ちます。

しかし元々インスリンの分泌が少ない人やインスリンに対する抵抗性(インスリンが正常に働かない傾向)が強い人は、妊娠中に血糖値が上昇し妊娠糖尿病と診断されることがあります。妊娠糖尿病は母体だけでなく、胎児への影響もあるため早めに診断して治療を行うことが大切です。

奇形、巨大児の可能性も 新生児にも影響

妊娠糖尿病による胎児への影響にはどのようなものがあるのでしょうか。血糖値が上昇すると血管に悪影響が起きることが分かっており、妊娠中は母体と胎児をつなぐ胎盤の血管に悪影響が出ます。結果としては、胎児仮死、胎児死亡、先天奇形、巨大児、肩甲難産などによる分娩障害を引き起こします。

新生児の時のリスクとしては、新生児低血糖症、高ビリルビン血症、低カルシウム血症、多血症、呼吸窮迫症候群、肥大型心筋症、胎児発育遅延と呼ばれる病気がある場合があります。成長してからも肥満や糖尿病のリスクが高いことが分かっています。

胎児への影響を防ぐためには、インスリン注射による血糖コントロール治療が必要です。血糖値を適正にコントロールできれば、先天奇形や巨大児などになることを防げる可能性があります。もし適正にコントロールできない状態が長く続くと、早産、流産、先天奇形などのリスクが上昇するので、医師から妊娠継続が危険であることを伝えられる可能性もあります。

妊娠糖尿病の母体への影響

妊娠糖尿病は胎児だけでなく母体へも影響を及ぼします。妊娠初期には、妊娠自体による体調の変化があるだけでなく、初期の糖尿病の自覚症状も分かりづらいため、自分で妊娠糖尿病に気づくことは難しいと言われています。そのため妊婦健診などで早めに診断し治療をすることが大切です。治療をしないと母体に糖尿病合併症や産科な観点からの合併症を引き起こします。糖尿病合併症は、糖尿病ケトアシドーシス、糖尿病網膜症、糖尿病腎症などです。産科的合併症は、流産、早産(後述)、妊娠高血圧症候群、羊水過多症(後述)、巨大児による難産などの可能性があります。

妊娠糖尿病と帝王切開の関係 なりやすい?関係ない?

妊娠糖尿病では帝王切開になる確率を高めます。

赤ちゃんはお母さんの血液を通して栄養を受け取っているので、お母さんの血糖値が高ければ、赤ちゃんの血糖値も高くなります。妊娠中のお母さんは赤ちゃんに栄養を届けるためにインスリン抵抗性があがっています(インスリンが効きにくい状態)が、赤ちゃんは高血糖を維持する必要がないので、血糖値に合わせてインスリンも盛んに分泌されます。インスリンには、糖質を脂肪に変換して蓄積する働きの他、成長を促進させる作用もあります。インスリンが多く分泌されると、赤ちゃんは身長も体重も増加します。妊娠糖尿病では、巨大児の頻度が高いことが知られています。

産道はスペースが限られているため、分娩には時間がかかります。分娩に時間がかかると、それだけ赤ちゃんへのストレスが多くかかる様になります。そのストレスによって赤ちゃんの血管が収縮し、臍帯(へその緒)の血流量が減少していきます。赤ちゃんは栄養の他、酸素もお母さんの血液から臍帯を通して受け取っています。臍帯の血流量が減っているというのは、呼吸が止まっているのとよく似た状態です。初めは、陣痛の間だけこの状態が起きていて、間歇期(陣痛と陣痛の間の子宮収縮の無い時間)に回復しますが、長く続けば、赤ちゃんのストレスが大きくなります。その結果、間歇期にも回復しにくくなり、状態は悪くなるため、緊急的に帝王切開が選択されることがあります。

また、頭が大きくなりすぎてしまって骨盤の広さを超えてしまえば、そもそも産道に入ることすらできません。頭の大きさが骨盤の広さを超える状態を、「児頭骨盤不均等」と呼び、このような場合も帝王切開の適応となります。

妊娠糖尿病と切迫早産の関係 なりやすい?関係ない?

妊娠糖尿病では切迫早産のリスクが高くなります。

切迫早産の原因には、赤ちゃん側の要因として多胎妊娠、羊水過多、お母さんの要因として頸管無力症、生活習慣、絨毛膜羊膜炎、糖尿病などが知られています。

妊娠糖尿病でなぜ切迫早産になるかというと、糖尿病の状態の特徴として、「易感染性(いかんせんせい)」があることが挙げられます。易感染性とは、感染症にかかりやすくなっている状態を示す言葉です。

糖尿病では、まず皮膚、粘膜などの代謝が障害されることで、バリア機能が障害されます。すると、細菌やウイルスの侵入が容易になります。また、免疫細胞の働きが低下し、病原体が増殖しやすい環境になっています。

易感染性により、絨毛膜羊膜炎などの感染症にかかると、炎症によって子宮が強い収縮を起こすようになり、赤ちゃんが今にも押し出されてしまいそうな状況になります。この状態を切迫早産と呼びます。

また、妊娠糖尿病では羊水過多症の頻度が高くなります。羊水の主成分は赤ちゃんの尿です。糖尿病の患者さんでは、多飲・多尿の症状がみられます。血糖値が高いと、身体はそれを薄めるために口渇中枢に命令を送り、患者さんはのどが渇いたと感じやすくなります。その結果、水をたくさんのみ、その分尿量も増えていきます。

喉の渇きや水分の過剰摂取は、胎内の赤ちゃんにも起こり、お母さんから水分をたくさん受け取って、その分尿量も増え、羊水量が増加します。羊水過多症の場合、羊水量の多さからお腹がはりやすく、切迫早産や早期破水の原因となります。

家族に糖尿病患者がいるとなりやすい

妊娠糖尿病になりやすい人の特徴として、家族(特に両親・祖父母)に糖尿病患者がいる、35歳以上での妊娠、肥満、尿糖陽性、先天奇形や巨大児の出産歴がある、流産や早産の出産歴があるなどが挙げられます。出産後には血糖値が正常に戻ることがほとんどですが、妊娠糖尿病と診断された人はそうでない人に比べて将来糖尿病を発症しやすいと言われているので注意が必要です。



【妊娠糖尿病関連の他の記事】


妊娠糖尿病について、胎児や母体への影響などをご紹介しました。もしかして妊娠糖尿病かもしれないと不安に感じている方や、この病気に関する疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、ご活用ください。

病気・症状名から記事を探す

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行
ら行

協力医師紹介

アスクドクターズの記事やセミナー、Q&Aでの協力医師は、国内医師の約9割、33万人以上が利用する医師向けサイト「m3.com」の会員です。

記事・セミナーの協力医師

Q&Aの協力医師

内科、外科、産婦人科、小児科、婦人科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、整形外科、精神科、循環器科、消化器科、呼吸器科をはじめ、55以上の診療科より、のべ8,000人以上の医師が回答しています。

Q&A協力医師一覧へ

今すぐ医師に相談できます

  • 最短5分で回答

  • 平均5人が回答

  • 50以上の診療科の医師