PMS(月経前症候群)の原因、症状、治療、予防可能性
- 作成:2016/10/14
PMS(月経前症候群)とは、月経前にホルモンバランスが崩れて、生活に影響が出るような状態です。原因、症状、治療や各種疑問を含めて、医師監修記事で、わかりやすく解説します。
この記事の目安時間は6分です
月経前症候群(PMS)とは?病気なの?
PMS(月経前症候群)は、思春期から閉経を迎えるまでの女性なら、誰でも発症する可能性があります。発症のピークは30歳代といわれており、「三十代中期症候群」と呼ばれていた時期もありました。
症状には、身体に変化が起こる「身体症状」と心に変化が起こる「精神症状」があります。月経のある女性のうち30%に、日常生活に影響を与えるようなPMSがあるといわれていますが、このうち治療が必要となるのは2%から5%程度です。
月経は女性ならではの特徴であり、月経自体は生理的なもので、何も病的なものではありません。しかし、月経痛がひどく、日常生活に障害を与えるような場合は「月経困難症(月経痛症)」と呼ばれる病気に分類されます。これと同じように、月経前のホルモンの変化によって、日常生活に影響を与えるPMSは病気といえます。
PMSを病気として扱うかどうかについては随分と議論されてきましたが、専門家の中では「病気に近い物として扱う」という考えが主流になってきています。「月経前になると自分ではどうすることもできないほど感情が不安定になってしまう」という状況に「PMS」という病名を与えることで、「困った状態は病気のせいだ」と受け入れることができ、周囲の人々も患者さん自身も「責めてもしかたない」という気持ちになって、PMSの症状を寛容できるようになるという、社会的な意義があります。
PMSは、就労している女性の多いアメリカでは広く知られている病気ですが、日本ではまだあまり知られていません。しかし、PMSの精神症状の中には「一人でいたいと感じる」「いつも通り仕事ができない」などのような社会活動や対人関係に対する変化もみられます。このため、働く女性の割合が高くなっている日本で、ももっと認知されるべき病気と言えるでしょう。
月経前症候群(PMS)の原因 ストレスや貧血も関係?
PMSの原因については多くの説が唱えられていますが、まだ明らかにはなっていません。
症状から推定されている原因が、卵胞刺激ホルモン、エストロゲン、黄体化ホルモン、プロゲステロンなど、生理周期に関連しているホルモンの影響です。エストロゲンは、脳・中枢神経機能、循環器(心臓血管系)、脂質代謝(コレステロールや中性脂肪)、乳房、皮膚、骨代謝や、生殖器に対しての作用を持つホルモンで、いわゆる女性的な状態を作るとされています。プロゲステロンも同様の広い作用を持っていますが、一部の作用は、エストロゲンと逆の作用を持っており、男性的な状態を作る傾向があります。この中で、脳・中枢神経系への作用が、PMS に大きく影響を与えているとされています。
つまり、排卵が終わりしばらくすると、プロゲステロンが分泌される様になってきますが、逆にエストロゲンは減少する傾向が現れてきます。この状態になると、優和な傾向が弱まり、やや攻撃的な傾向や、興奮しやすくなる傾向がでてきます。これは、動物の排卵後の行動でもみられています。これが、PMS の精神的な症状を引き起こしている可能性があると考えられています。
これ以外の症状も、卵巣ステロイドホルモンに対するホルモンの影響を受ける器官の感受性の差である程度説明がつくものもあります。
次に、最近注目されている説として、セロトニンなどの神経伝達物質の異常説があり、その中でも、「セロトニンの分泌低下」があります。
「セロトニン」とは、脳に情報を伝えるホルモンの1つで、精神運動を活発にする働きがあり、その分泌異常は、うつを初めとする様々な精神症状を引き起こします。女性ホルモンの量は、月経の2週間ほど前にピークを迎え、その後徐々に低下していきます。このとき、セロトニンも一緒に低下することが知られており、低下の結果として、イライラや不安などの精神症状が出るのではないかともいわれています。
水分貯留症状や低血糖類似症状から、レニン・アンジオテンシン系の異常が関係している可能性もあります。
月経前は、プロゲステロンの増量による影響によって、身体に水分が溜まりやすい状態になっているといいます。PMSでは身体の痛みなどの身体症状や、感じ方や考え方が変化する精神症状を引き起こしますが、これは身体の様々部位、胸やお腹、手足、脳などに水分が溜まり、むくんでしまうことが原因と考えられています。その変化は脳にも現れ、軽い脳浮腫が起こっていると考えられています。
様々な説はありますが、これらのみで全部の説明をする事は難しく、それらに加えて、もともと神経質な性格だったり、貧血など疲れやすい体質を抱えていたり、ストレスなど周りの環境からの要因が複合的に重なっていくことで、PMSが発症すると考えられています。
月経前症候群(PMS)の症状はいつから、いつまで?生理中や生理後もPMS?
PMSの定義は「月経開始の3日前から10日前から始まる精神的、身体的症状で月経開始とともに減退ないし消失するもの」となっています。
PMSは「premenstual syndrome」の略で、preは「前」、menstualは「月経」、syndromeは「症候群」を意味します。つまり、生理前の3日から10日の間に症状が出て、生理が始まると治るものをPMSと呼びます。
対して、月経期間中に起こる下腹部痛、腰痛などの病的な痛みは「月経困難症(月経痛症)」と呼ばれます。
また、PMSと似た症候群に「PEMS」があります。PEMSは「perimenstual syndrome」の略で、「peri」は周経期症候群とよばれるものです。PEMSの定義は「月経前期から月経期にかけて起こり、月経中に最も強くなる精神的、社会的症状で、月経痛症に起因する症状である」とされています。
PMSでは「月経前」、月経困難症は「月経中」、PEMSは「月経前と月経中、両方」というように整理できます。
PEMSの症状はPMSと同じです。ただ、症状が起こる時期に注目して、生理中でも続いているような場合は「PMS」ではなく「PEMS」ということになります。
月経前症候群(PMS)と妊娠初期の見分け方
妊娠初期にみられるつわりの場合、吐き気や嘔吐、だるさ、頭痛、眠気、食欲不振、食事の好みの変化などの症状が代表的です。
更年期症状では、ほてりや発汗、動悸などの身体症状に加え、だるさや抑うつ気分、イライラ、不眠など様々な精神症状を訴えます。
PMSと妊娠初期、更年期症状は非常によく似た症状を示します。
3者を見分ける最も確実なポイントは、症状が現れている期間に注目することです。
妊娠初期のつわりは、妊娠5週から6週で現れる人が多く、そこから1カ月から6カ月間ほど続きます。つまり、身体の不調が長期間続くことになります。
一方、PMSは、月経の3日前から10日前に症状が現れ、月経が始まると症状は改善します。また、月経の前になると発症するという周期を繰り返します。
この他、「着床出血(ちゃくしょうしゅっけつ)」や基礎体温からも区別することができます。「着床出血」とは、受精卵が子宮内膜に着床する際、周囲の内膜を傷つけることによって生じるわずかな出血です。PMSでは月経以外の性器出血がみられることはほとんどありません。したがって、少量の出血がみられた場合はPMSの可能性は低く、着床出血の可能性があると考えることができます。ただし、着床出血は必ず起こるものではありません。
着床出血より確実な見分け方としては、基礎体温の計測があります。
女性の生理周期は、「低温相」と「高温相」の2つの時期に分かれています。月経周期は「月経期」「卵胞期」「排卵期」「黄体期」の4つに分けられ、月経から排卵までが「低温相」、排卵から次の月経までが「高温相」となっています。これは「プロゲステロン」というホルモンに、体温をあげる働きがあるために生じる変化です。「黄体期」に加え、妊娠中もプロゲステロンの分泌量が増えるため、高温相になります。
PMSでは正常な生理の周期があるため、低温相と高温相を繰り返しますが、妊娠中は、常にプロゲステロンが十分な量分泌され続けるため、高温相が続くことになります。
とはいえ、低温相と高温相の体温差は0.4度ほどで、いきなり計測して、自分がどちらか判断できるものではありません。基礎体温を判断の根拠に用いるためには、まずは基礎体温を毎日計測する習慣をつけることが必要です。
月経前症候群(PMS)と更年期症状の見分け方
更年期症状との見分け方の1つしては、やはり症状が現れる期間に注目することがポイントとなります。
PMSでは、月経前に症状がみられるのに対し、更年期症状では生理が終わっても症状が続きます。イライラや抑うつ気分、だるさなどの精神症状は、「エストロゲン」というホルモンの分泌量が少ないときに現れやすい症状です。
通常、エストロゲンは性周期に合わせて増減していくものであり、減少しているタイミングで精神症状が生じるのがPMSです。
一方、40歳代、50歳代の「更年期」と呼ばれる時期になると、加齢によってエストロゲンの分泌量が減少していきます。すると、生理の周期に関わらず、エストロゲンの分泌量が少ない状態が続くため、生理とは関係なく精神症状が続くのが更年期症状となります。。
また、更年期障害の場合は、エストロゲンがほぼ0のレベルまで減少するため、卵巣を刺激するホルモン(FSH)が、脳下垂体から非常に多く分泌される様になります。その影響で、同じ下垂体から分泌されるホルモンにも影響を与え、血管の運動障害が起こる様になります。これがいわゆる冷え上せ(ひえのぼせ)の症状を出します。これも大きな違いでしょう。
月経前症候群(PMS)の自覚症状とチェック
PMSとして報告されている症状は150にも及ぶといわれており、非常に多彩な症状が現れます。大きく分類すると、身体に変化が現れる「身体症状」と心に変化が現れる「精神症状」の2つに分かれます。精神症状の中には、感情や性格の変化の他、社会活動や対人関係に関する社会的症状が含まれます。以下が代表的な症状ですので、気になる方はチェックしてみては、いかがでしょうか。
身体症状の代表的な症状→「乳房の張り」「眠くなる」「おりものが増える」「ニキビ」
精神症状の代表的な症状→「イライラ」「怒りやすい」「食欲増加」
月経前症候群(PMS)の身体症状 吐き気、眠気、頭痛、腹痛、めまいなど?
月経前症候群の身体症状は、多様ですが、おおまかに以下のように分類できます。
【よくおきるもの】
下腹部の症状として「下腹部痛」「腰痛」、乳房の症状として「乳房の張り」、その他の症状として「眠くなる」「だるい」などがあります。
【まれにおきるもの】
下腹部の症状として「下腹部の張り」、血管・神経の症状として「頭痛」「頭が重い」「肩こり」「めまい」、消化器の症状として「食欲の増加」「下痢」「便秘」、水分代謝の症状として「むくみ」「のどが渇く」、皮膚の症状として「ニキビ」「肌荒れ」、その他の症状として「疲れやすい」「おりものが増える」「アレルギーの症状が出る」などがあります。
【まずおきるとは考えられないもの】
血管・神経の症状として「手足の冷え」「動悸」、乳房の症状として「乳房の痛み」、消化器の症状として「胃痛」、皮膚の症状として「化粧のノリが悪くなる」、その他の症状として「身体がスムーズに動かない」「微熱」「寒気」などがあります。
「頭痛」「肩こり」「乳房の張り」は20代から30代前半の女性には多いものの、30代後半から40代の女性ではあまりみられません。また、30代前半以降の女性では「攻撃性」「食欲増加」が現れやすいという特徴があります。
月経前症候群(PMS)の精神症状 イライラ、うつ?食欲・過食、不眠に影響?
月経前症候群の精神症状も、多様ですが、おおまかに以下のように分類できます。
【よくおきるもの】
「イライラ」「怒りやすい」などがあります。
【まれにおきるもの】
「攻撃的」「無気力」「憂うつ」「落ち込む」「涙もろい」「不安が高まる」「集中できない」「情緒不安定」などがあります。
【まずおきるとは考えられないもの】
「自分はつまらない人間だと思う」「弱気になる」「気分が高揚する」「感情を制御できない」「性欲の変化」「弱気になる」「涙もろい」
社会的症状のうち、社会活動の変化としては「物事が面倒くさい」「整理整頓したくなる」などがみられます。この他、「いつも通り仕事ができない」「効率の低下」「健康管理ができない」「女性であることが嫌になる」などの変化がみられることもあります。
対人関係の変化としては「一人でいたいと感じる」「家族への暴言」などがみられます。この他、「他人と口論になる」「家に引きこもる」「誰も自分のことを理解してくれないと感じる」「人付き合いが悪くなる」などの変化がみられることもあります。
月経前症候群(PMS)の症状が出やすい人がいる?
PMSは、出産経験がない場合は身体症状が現れやすく、出産経験がある場合は精神症状や社会的症状が現れやすいことが報告されています。
さらに、就労の形態によって「専業主婦」「パートタイム」「フルタイム」の3つに分けると、以下のような特徴があるとされます。
専業主婦では精神症状の「怒りやすい」、パートタイムでは身体症状の「腰痛」「乳房痛」「おりものの量が増える」、フルタイムでは社会的症状の「いつも通り仕事ができない」「他人と口論になる」の割合が高くなる傾向にあるようです。就労状況によって、PMSの症状も変化すること考えられているわけです。
月経前症候群(PMS)での病院受診は婦人科?精神科でもよい?
PMSは、症状は多彩でも、どの症状も月経と関連がしています。問診や血液検査、尿検査はどこの診療科でも行える診察、検査ですが、女性ホルモンの変化による症状や月経に伴う症状について、よく知っているのは、産婦人科の専門領域になります。
「PMSかな」と感じた際は、わずかな症状を見逃さないためにも、まずは産婦人科への受診をおすすめします。
PMSの症状のうち、精神症状が強い場合は「精神科」による治療が加わることもあります。例えば、ゆううつや落ち込みなどの抑うつ気分、イライラ、不安感、情緒不安定などが強い場合に治療が行われます。治療には抗うつ薬や精神安定剤を使用します。
月経前症候群(PMS)の検査と診断基準
PMSの検査では血液検査や尿検査が行われます。 PMSの原因は女性ホルモンの急激な変化といわれていますが、詳しいことは分かっていません。そこで、「PMS」と診断するためには、その症状が他の病気によるものではないことを否定する必要があります。
例えば、むくみ、のどが渇くなどの水分代謝の異常は、腎臓が悪い場合にも起こる症状です。腎臓に病気がある場合、腰痛が起こることもあります。一方、疲れやすい、だるい、頭が重いなどの症状は、肝臓が悪い場合や貧血を起こしている場合にもみられる症状です。
肝臓は、栄養素の合成や不要になったものの分解する機能があり、腎臓ではミネラルの吸収や排泄する機能があります。血液検査によって、なんらかの成分が多すぎないか、少なすぎないかを調べたり、血液中の赤血球の数を測定して、貧血があるかどうかを調べていきます。
貧血や腎臓・肝臓の病気が考えられるような原因が見当たらなければ、PMSが有力ということになります。
また、PMSは妊娠初期の症状と非常によく似ているため、尿検査では妊娠の有無を調べます。
診断基準の大前提は、月経前に症状が発症していることです。これに加え、以下の5つの項目が診断基準に含まれます。
(1)排卵性周期である(妊娠していない)
(2)黄体期に症状がある
(3)症状がおおむね月経開始とともに消失する
(4)日常生活に影響する程度に症状がある
(5)周期的(定期的)に発症している
月経から次の月経までを「性周期」と呼び、性周期は「月経期」「卵胞期」「排卵期」「黄体期」の4つの段階に分かれています。排卵からおよそ14日後に月経が起こるため、「黄体期」は月経前のおよそ14日間になります。
周期性とは、「性周期ごとに必ず症状が現れては治る」ということを意味しており、性周期にかかわらず症状が続く場合や、生理前に毎回ではなくたまに症状が出る場合などは含まれません。
月経前症候群(PMS)の治療に使う処方薬の作用機序と副作用 ピルも効果?
日本では、医療用の医薬品として、PMSの薬効を持ち治療薬として販売されている医薬品はありません。よく似た症状の月経前緊張症の薬効を持っている薬品には、アセタゾラミド(ダイアモックス)、フロセミド、トリクロルメチアジド、ノルエチステロン・メストラノール配合剤(ソフィアA)があります。アメリカでは、経口避妊薬の「ヤーズ」が唯一PMSを薬効として取得しています。持続的な投与が効果的との研究報告があります。
PMSへの治療には、以下のような薬を用います。
・利尿薬
・ホルモン剤
・経口避妊薬(ピル)
・選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
【利尿薬】
利尿薬は尿量を増やす薬です。PMSの原因の1つとして、身体の中に水分が溜まってしまうことが挙げられていますが、尿量を増やすことで、余分な水分を出すことのできる薬です。
「身体の中に水分」には血液中の水分も含まれており、副作用として低血圧によるめまいや立ちくらみが起こることがあります。また、人間の体は、筋肉を動かすためには「カリウム」というミネラルを使っていますが、尿と一緒にカリウムも排泄されてしまうことで、筋力低下や便秘などが起こることもあります。そのため、投与量を通常より少なめにする事もあります。
【ホルモン剤】
黄体期に、女性ホルモンの「エストロゲン」の分泌量が若干減少する事が知られており、これが PMS に関連すると言われています。また、黄体期には、もう一つの女性ホルモンである「プロゲステロン」が上昇し、エストロゲンの作用を抑えてしまうことも、特に精神的な症状をよく説明できる様です。
黄体期に少量のエストロゲンを投与する事によって、症状が軽快する方がいらっしゃいます。
【ピル】
女性ホルモンの分泌量は、排卵の前後に変化することが知られています。ホルモンの変化で、胸やお腹の痛みや、精神の不安定感などが現れます。ピルは排卵を起こさせないことで、生理痛の改善や避妊効果をもたらす薬です。排卵を抑えることで女性ホルモンの分泌量を一定に保ち、PMSの症状を抑えることができます。
副作用として、特に喫煙者で血管の中で血栓ができやすくなってしまうことが知られています。
【SSRI】
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は抗うつ薬の1種です。PMSの原因として、精神を安定化させる働きのある「セロトニン」という物質の分泌量が低下してしまうことが挙げられます。
「セロトニン」は、神経と神経の間にある「シナプス間隙(かんげき)」と呼ばれるすき間に放出され、隣の神経に情報を伝達します。放出されたセロトニンは、しばらくすると元の場所に戻って、再び取り込まれ、リサイクルされます。セロトニンは、シナプス間隙で作用するホルモンなので、再取り込みのペースが速いと、それだけセロトニンの働きも弱くなってしまいます。
この再取り込みを起こしづらくするものが、「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」です。セロトニンが働く時間を延ばすことで、精神の安定化をもたらします。副作用としては吐き気やめまい、眠気などが報告されています。
月経前症候群(PMS)に効果のある漢方薬はある?
PMSに対する漢方薬としては、「加味逍遥散(かみしょうようさん)」「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」などが用いられます。
「加味逍遥散」は、イライラやのぼせ、不眠症状を落ち着ける効果のある漢方薬です。月経前後は、ホルモンのバランスが変化することで、神経が過剰に反応しやすくなっています。この反応を落ち着かせることで、心の変化を穏やかにすることができます。
「当帰芍薬散」は、全身の血行を改善させるほか、また、利尿効果によって身体の余分な水分を排泄させることで、冷えやむくみに効果をもたらします。
「桂枝茯苓丸」は、血液の循環を改善させる漢方薬です。生理前や生理の前半は、血液の循環に偏りが生じており、上半身はのぼせやすく、逆に下半身は冷えやすい状態となっています。これを改善させることで、痛みなどの身体症状やイライラなどの精神症状を落ち着かせることができます。
精神症状が強い場合は「加味逍遙散」、冷えやむくみが気になる場合は「当帰芍薬散」、身体症状にも精神症状にも悩まされている場合は「桂枝茯苓丸」というように、漢方薬は、自分の症状や体質に合うものを選択していくことが必要です。
月経前症候群(PMS)に効果のある市販薬はある?
医師の診断や処方箋が不要な一般薬としては、PMSに効くといわれる市販薬はいくつかありますが、PMSの治療薬として日本では2014年に販売開始になった「プレフェミン」があります。有効成分は「チェストベリー」という西洋ハーブで、効果としては、肌荒れや疲労感、睡眠障害などの改善が80%以上にみられ、月経前にみられる乳房の張り、頭痛、イライラ、怒りっぽいなどの症状にも効果があるようです。
月経前症候群(PMS)に効果のあるサプリはある?科学的根拠はある?
PMSを改善させる成分としては、代表的には以下のようなものがあります。
・γ-リノレン酸
・テアニン
・ビタミンB6
「γ-リノレン酸」は、月見草に多く含まれる成分です。PMSが生じる女性においては、血液中のγ-リノレン酸の濃度が低いことが分かっています。「ピュセラ(γ-リノレン酸のサプリメント)」によるγ-リノレン酸の補充によって、PMSの症状が軽減することが報告されています。
「テアニン」はお茶に含まれる成分で、リラックス効果をもたらします。テアニン粒(テアニンのサプリメント)によるテアニンの補充によって、月経前にみられる「怒りやすい」「集中力がない」などの精神症状が軽減することが報告されています。
「ビタミンB6」は、タンパク質や脂質の代謝や、セロトニンなどの神経伝達物質を合成する際に使われる成分です。ビタミンB6の補充によって、身体の中の余分なものを排泄する機能が改善することで身体症状が治まるとされます。また、十分な量のセロトニンが作られることで、抑うつ気分のなどの精神症状を軽減させることができます。
月経前症候群(PMS)の薬以外の治療はある?プラセンタ注射に効果?
PMSは、「自分がPMSを持っている」と、自覚するだけでも、日常生活や人間関係に与える影響を少なくすることができます。
月経前の体調不良や精神の不安定さから自分を責めてしまう方も少なくないかもしれませんが、「PMSによる症状」と自分自身で納得することで、食生活の改善や、適度な休息や睡眠を心がけることでストレスを軽減させ、生理前に身体に水分が溜まりすぎないよう塩分や水分を制限するなどのセルフケアすることが大切です。
また、服薬以外の治療法として、プラセンタ注射が行われることもあります。
「プラセンタ」とは、ホルモンのバランスを整える働きをもつとされており、女性ホルモン量の変化によって生じるPMSにとって有効な治療法である可能性もあります。プラセンタはもともと胎盤に存在する非常に雑多な複合的な成分を抽出したとされるものであるため、まれにアレルギー反応が起きる可能性があることを除けば、副作用は少ないことが知られています。
月経前症候群(PMS)の飲み物による改善方法 ハーブティー、カフェイン、豆乳?
カフェインはPMSの症状を悪化させることが知られています。神経の活動が過敏になると、イライラや不安感などの精神症状が現れ、いわゆる興奮状態になることが知られています。
神経を興奮させる神経伝達物質に「ドーパミン」と呼ばれるものがあります。ドーパミンは、通常「アデノシン」という成分によって抑制されています。アデノシンは「アデノシン受容体」と結合することで作用しますが、カフェインはこのアデノシン受容体に結合してしまうことが知られています。
カフェインをとると、アデノシンが正常に働けなくなり、ドーパミンを抑えることができなくなってしまう結果、神経の活動が過敏になってしまうのです。
PMSの症状を落ち着けるためには、カフェインを含まない飲み物や、ハーブティーなどの気持ちがゆったりできる飲み物が有効とされています。
また、大豆には、ビタミンB6が豊富に含まれています。ビタミンB6は、タンパク質や脂質の吸収・代謝を助け、セロトニンなどの神経伝達物質を合成する働きがあります。ビタミンB6が足りなくなると、身体の中に老廃物が溜まって疲れやすくなったり、むくみが生じるようになります。また、精神を安定させる働きのあるセロトニンの分泌量が低下することで、イライラや不安感などの精神症状が現れます。
ビタミンB6は、身体の中に蓄えておける成分ではないので、豆乳などで毎日摂取することが推奨されています。
月経前症候群(PMS)の食べ物による改善方法
PMSの症状が現れる時期である、月経前2週間くらいの時期を、「黄体」期と呼びます。黄体期には、卵子の着床に備えて子宮の内膜が厚くなったり、分泌液の量が増える時期であり、身体の中でのエネルギー消費量が上がっています。
食生活が不十分な場合、すぐに身体の栄養素が不足してしまいます。さらに、PMSの人では、ビタミンやミネラルなどの栄養素が不足傾向の人がいることが報告されています。PMSを改善させるためには、食生活の見直しが重要かもしれません。
月経前に多く摂りたい食品としては、以下のようなものが推奨されています。
・加工していない糖類(玄米、そば、とうもろこし)
・緑黄色野菜(にんじん、カボチャ、ほうれん草、小松菜)
・果物(いちご、ぶどう、桃)
・食物油(オリーブ油、ごま油)
・大豆製品(大豆、味噌、豆乳)
・海藻(昆布、わかめ)
・種実類(ごま、アーモンド)
また、身体の冷えは神経系に異常をきたすため、身体を温める作用のある食品を意識することで、よりPMSの症状の改善が期待できます。
身体を温める食品としては、以下のものが知られています。摂取は、バランスよく積極的な摂取が重要です。
野菜:にんじん、ねぎ、にら、にんにく、たまねぎ、生姜、唐辛子、シナモン
果物:桃、りんご、さくらんぼ、梅、ドライフルーツ
豆・穀類:栗、ごま、玄米、もち米
肉類:牛肉、鶏肉
魚介類:いわし、さんま、さけ、えび、うなぎ、かつお、あじ
調味料:胡椒、わさび、酒、酢、味噌
飲み物:紅茶
月経前症候群(PMS)の改善方法 ヨガなどの運動に効果あり?ない?
PMSや月経痛でみられる腹痛や腰痛は、筋肉の過度の緊張や骨盤内の血流のとどこおりなどが原因で生じるといわれています。
PMSや月経痛を軽減するための運動として「マンスリービクス」と呼ばれる体操があります。主に骨盤を動かす運動を行うことで、骨盤内の充血をとり、筋肉や靭帯をゆるませることで、痛みが和らぐとされています。
また、適度な運動は、精神をリラックスさせる働きがあり、PMSの精神的な症状についても改善させる効果があります。睡眠不足もPMSを悪化させる原因の1つとして知られていますが、運動による適度な疲労によって睡眠を促進することでも、PMSを改善させる効果が期待できます。
代表的なマンスリービクス「ネコの背中」の手順をご紹介します。
(1)四つん這いの状態になり、両手・両足は肩幅に開いて、床と垂直につけます。
(2)背中を丸め、頭を中に入れます。お腹を縮め、腰を伸ばすように意識しましょう。息を吐きながら4秒間かけて行います。
(3)息継ぎをして、今度は背中を縮め、身体を反らせながら頭をあげます。こちらも息を吐きながら4秒間かけて行います。
月経前症候群(PMS)の改善方法 アロマに効果はある?
アロマセラピーは、鼻を通って身体の中に入ってきたにおい成分を、嗅覚の神経が脳に伝えることで、身体症状や精神症状に効果をもたらす自然療法です。PMSに有効なアロマとしては「カモミールローマン」「ゼラニウム」「ラベンダー」などがあげられます。
「カモミールローマン」は、不安やイライラなどの精神症状を落ち着かせる働きがあります。また、身体を温める作用もあるため、冷えの症状がある場合にも有効です。 「ゼラニウム」も、「カモミールローマン」同様、自律神経を整えることで精神を安定化させる働きがあります。
「ラベンダー」は、リラックス効果の高いアロマです。なかなか寝付けない、眠りが浅いなどの睡眠障害を改善させたり、筋肉の緊張をほぐすことで腹痛や腰痛などの痛みを和らげる働きもあります。
月経前症候群(PMS)の予防方法 食事にも注意?
PMSの原因の1つとして、身体の中に水分が溜まってしまうことが挙げられます。水分がたまることで、手足がむくみ、体重が増え、乳房の張りや痛みが生じるといわれています。つまり、身体の中に水分を溜めこんでしまう「塩分」は、可能な限り摂取しないようにしましょう。
塩分以外にも、PMSの症状を改善させるために控えた方がよい食品として報告されているのは、以下のようなものです。
・砂糖類(白砂糖、甘いジュース)
・カフェイン(コーヒー、お茶、コーラ、チョコレート)
・漂白した小麦粉(パン、ケーキ、パスタ)
・塩分(ベーコン、ハム、漬物)
・添加物(加工食品)
・肉類(豚肉、脂肪の多い肉)
・アルコール
以上のような、食品は、身体の栄養バランスを崩し、不調を招くきっかけになるため、できるだけ摂取しないようにしましょう。
また、身体の冷えは神経系に異常をきたすことがあり、PMSを悪化させる原因になります。身体を冷やす作用のある食品には以下のものが知られていますので、可能な限り避けることで、PMSの悪化を防ぐことが可能です。
野菜:トマト、きゅうり、レタス、セロリ、ゴボウ、タケノコ
果物:スイカ、梨、みかん、バナナ、メロン、キウイフルーツ
豆・穀類:枝豆、豆腐
肉類:馬肉、鴨肉
魚介類:蟹、アワビ、牡蠣、あさり、しじみ
海藻類:海苔、ひじき
調味料:白砂糖、食塩、はちみつ
飲み物:牛乳、ジュース、緑茶、ビール、コーヒー、ワイン、清涼飲料
月経前症候群は、かなり多くの女性で見られるものです。不快な症状を伴う物ですが、色々と対処法があります。経口避妊薬(ピル)や利尿剤などの薬品、漢方薬、一部のハーブなどがよく使われています。症状を感じたら、一度受診してみると良いでしょう。
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協力医師紹介
アスクドクターズの記事やセミナー、Q&Aでの協力医師は、国内医師の約9割、33万人以上が利用する医師向けサイト「m3.com」の会員です。
記事・セミナーの協力医師
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白月 遼 先生
患者目線のクリニック
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森戸 やすみ 先生
どうかん山こどもクリニック
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法村 尚子 先生
高松赤十字病院
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横山 啓太郎 先生
慈恵医大晴海トリトンクリニック
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堤 多可弘 先生
VISION PARTNERメンタルクリニック四谷
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平野井 啓一 先生
株式会社メディカル・マジック・ジャパン、平野井労働衛生コンサルタント事務所
Q&Aの協力医師
内科、外科、産婦人科、小児科、婦人科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、整形外科、精神科、循環器科、消化器科、呼吸器科をはじめ、55以上の診療科より、のべ8,000人以上の医師が回答しています。