胎児性アルコール症候群の原因、症状、予防 胎児に障害が出る?酒の量はどう考える?

  • 作成:2016/09/15

胎児性アルコール症候群とは、妊娠中の母体の飲酒が胎児に与える影響のことです。顔の奇形などだけでなく、出生後の子供の発達障害やうつ病などにもつながっていると考えられています。症状やアルコール摂取量の考え方、予防も含めて、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。

平松晋介 監修
ちくご・ひらまつ産婦人科医院 院長
平松晋介 先生

この記事の目安時間は3分です

胎児性アルコール症候群の原因

「胎児性アルコール症候群(FAS: Fetal Alcohol Syndrome)」とは、母親の妊娠中の飲酒が影響を及ぼした可能性が非常に高いといわれている胎児および乳児の発達障害、行動障害、学習障害を指します。

具体的に、特徴的な顔面の奇形、身体発育の遅れ、中枢神経の問題、という3つの特徴が現れます。

かつては、出生児の低体重(身体発育の遅れ)と顔面の奇形のみに焦点が当てられていたようですが、現在では、以下のような広範囲にわたる悪影響との関連にも焦点が当たっています。

・ADHD→Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:脳の機能的な問題が原因となる、不注意、多動性、衝動性などが特徴的な感情や行動の障害
・うつ病などの精神的な問題
・成人後の依存症リスク

上記のような症状との関連が考えられているため、「胎児性アルコール・スペクトラム(FASD: Fetal Alcohol spectrum Disorders)」と呼ばれている場合もありますが、どちらも妊娠中の母親の飲酒が原因です。

アルコールがどう影響?

アルコールは、胃と小腸から吸収され、血液に溶け込み全身へ拡散されます。速やかに肝臓で代謝され、「アセドアルデヒド」という物質を経て、酢酸に変わり、無害化されます。しかし、肝臓の代謝能力以上のアルコールは、そのまま血液内に残ります。

まず、妊娠中に是非覚えておきたいことは、胎盤の重要性です。胎盤は母体と胎児を結んでいる大切な組織です。胎盤を通じて血液、酸素、そして豊富な栄養が胎児へ運ばれています。アルコールやアセドアルデヒドは胎盤を通過しますので、したがって、妊娠中の飲酒は、胎盤の血管を通じて、胎児にもアルコールを摂取させている状態になります。

授乳中に是非覚えておきたいことは、母乳は血液からできているということです。母乳には血液に含まれている栄養素が豊富に含まれています。したがって、授乳期間中に飲酒をすると血液に含まれているアルコールなどを母乳を介して、乳児に与えていることになります。

アルコールそのものは、麻酔薬と同じように脳の神経細胞に直接作用する事がわかっており、急速に発達している胎児、乳児の脳へ、影響する可能性は非常に高いと考えられます。

胎児性アルコール症候群の症状

胎児性アルコール症候群の具体的な症状は、乳児期の発達障害、行動障害、学習障害、低体重、顔面の奇形です。具体的には、顔面の奇形として、小頭症、内眼角贅皮(ないがんかくぜいひ、目元のひだ)、平らな顔、浅い人中、低い鼻梁、低い鼻、小さい眼型、薄い上唇、小さい顎などがあげられています。

さらに、身体発育の遅れや顔面の奇形は、成長するとともに目立たなくなってきますが、中枢神経の問題(ADHD、うつ病などの精神的な問題、依存症など)においては、成長につれ徐々に明らかになってくるといわれています。

アルコールの摂取量の考え方

日本では、妊娠中に飲酒する女性は全妊婦の約8.7%という統計があがっています。また年齢が若いほど飲酒率が高くなっているため、妊娠可能年齢といわれる世代では妊娠中の飲酒が大変懸念されています。

米国では、全新生児の1,000人に1人から2人の割合で、そして飲酒量が多い先住民族では1,000人に5.6人の割合で、新生児がアルコール症候群に該当しているという結果が出ていて、妊娠中および授乳中の飲酒と胎児性アルコール症候群の因果関係が指摘されています。また、当然ですが、母親の飲酒量が多いほど胎児性アルコール症候群の新生児も増えています。

日本では、胎児性アルコール症候群となる新生児の割合は、約10,000人に1人といわれていますが、明確な数字ではありません。

厚生労働省の調査では、約30%の妊婦が妊娠中に飲酒していたと報告されています。さらに調査の結果、妊娠中に1日60グラム(ビール1.5リットル相当量)以上のアルコールを飲酒した女性の新生児では、明らかに低体重と小頭症になっています。たとえ、大量の飲酒でなくても症例が報告されているため、米国の公衆衛生局は、妊娠中あるいは妊娠の可能性のある女性はアルコールを摂取しないよう勧告しています。

治療なし?どう予防?

胎児性アルコール症候群には治療法は存在しません。したがって、予防が唯一の対策といわれています。

胎児性アルコール症候群が発症する原因は明確ですので、妊娠中そして授乳中は絶対にアルコールを飲まないことにつきます。アルコールを飲まなければ、アルコール症候群は発症しないからです。妊娠を計画している、妊娠中、そして授乳中は、絶対にアルコールを飲まないようにしましょう。

乳児期を過ぎてから、徐々に明かになってくるといわれる、ADHD、うつ病などの精神的な問題、依存症などが懸念される場合は、心療内科や小児精神科あるいは小児科などで相談し、正しい診断を受けてください。特にADHDなどでは、子どもの知能にはまったく問題がないのに、ADHD特有の症状のために学習の遅延などが起こることもあります。正しい診断があれば、保育園や学校の先生に相談して対応してゆくことが大切ですし、専門家によって正しい対応を受けることができます。

胎児性アルコール症候群についてご紹介しました。妊娠中の飲酒の問題などに不安を感じている方や、疑問が解決されない場合は、医師に気軽に相談してみませんか?「病院に行くまでもない」と考えるような、ささいなことでも結構ですので、活用してください。

病気・症状名から記事を探す

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行
ら行

協力医師紹介

アスクドクターズの記事やセミナー、Q&Aでの協力医師は、国内医師の約9割、33万人以上が利用する医師向けサイト「m3.com」の会員です。

記事・セミナーの協力医師

Q&Aの協力医師

内科、外科、産婦人科、小児科、婦人科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、整形外科、精神科、循環器科、消化器科、呼吸器科をはじめ、55以上の診療科より、のべ8,000人以上の医師が回答しています。

Q&A協力医師一覧へ

今すぐ医師に相談できます

  • 最短5分で回答

  • 平均5人が回答

  • 50以上の診療科の医師