更年期障害の治療法 - 体に合ったものを選び、定期的に医師の診察を受けることが大切 -
- 作成:2025/01/08
更年期障害は女性ホルモンの量の変化だけでなく、心理・社会的要因も関わって発症し、現れる症状や程度も人によってさまざまです。そのため、自分にあった治療法をさがす必要があります。ほてりや発汗などいわゆるホットフラッシュには「ホルモン補充療法」、いろいろな症状がでている場合には漢方療法、イライラや不安といった精神症状が強い場合は心理療法や抗精神薬など、適した治療法もさまざます。ここでは、主な治療法とその特徴についてご紹介します。
この記事の目安時間は6分です
更年期障害の治療には、生活習慣の改善、カウンセリング、各種心理療法などの非薬物療法と、薬物療法があり、薬物療法は大きく分けて、ホルモン補充療法(HRT)、漢方療法、抗うつ薬・抗不安薬があります。症状や原因に合わせ、これらを組み合わせて治療を行います。
【ホルモン補充療法(HRT)】ホットフラッシュをやわらげる
減少した女性ホルモン(エストロゲン)を、飲み薬・はり薬・ぬり薬などで補充する治療法です。ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)、発汗などに効き、ホットフラッシュが現れる回数や強さを抑えることが確認されています。また、不眠や精神的症状(イライラ、不安など)、腟乾燥、頻尿の改善、骨粗しょう症の予防などにも効果があります。
子宮がある女性はエストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤を併用します。これは、エストロゲン製剤の単独使用による子宮内膜増殖症や子宮体がんのリスクを避けるためです。手術などで子宮を摘出している女性には、エストロゲン製剤のみ投与します。
かつてはホルモン補充療法と乳がんとの関係が注目されていましたが、最近の研究で、50歳代で使用する場合には影響は限定的であると考えられています。乳がん発症者の増加は、エストロゲン製剤の単独使用で1万人中8人/年、黄体ホルモンとの併用では1万人中36人/年です(1)。これは、飲酒や肥満などほかの生活習慣要因と大きく変わらない程度とされています。
近年発売された天然型黄体ホルモン製剤は、従来から使用されている合成黄体ホルモン製剤に比べ、乳がんのリスクが低いと報告されています。
ただし、子宮体がんや乳がんがある人はHRTを行うことができません。子宮の病気の既往がある人などは、医師が慎重に判断します。
なお、副作用として頻度が高いのは、不正出血や乳房の痛みなどですが、これらは多くの場合時間の経過と共に軽快していきます。
いずれにしても、ホルモン補充療法を行う場合は定期的に医師の診察を受け、なにか気になることがあれば早めに相談しましょう。
【漢方療法】心と体のバランスを整え、全体的な症状の改善に
身体症状(肩こり、疲れやすさ、頭痛など)や、精神症状などさまざまな症状がある場合は、漢方薬が適していることがあります。「当帰芍薬散」「加味逍遙散」「桂枝茯苓丸」は“婦人科三大処方”とも呼ばれ、更年期障害の治療によく使われています。HRTと併用することもあります。
漢方薬は副作用が少ないイメージがあるかもしれませんが、甘草を含む漢方薬を長期使用していると「偽アルドステロン症」といって、高血圧や高カリウム血症などが生じる場合があるなど、気をつけることもあります。体質や症状に合わせて適した漢方薬を選ぶことが大切なので、自分で判断せず医師に相談するようにしてください。
【抗うつ薬、抗不安薬】精神症状が強い場合に。ホットフラッシュの改善効果も
抑うつ、イライラ、不眠、不安などの精神症状が強い場合には、抗うつ薬や抗不安薬などが用いられることもあります。「SSRI」(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や、「SNRI」(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの神経伝達物質を調整する抗うつ薬は、神経伝達物質に関係がある血管運動神経症状(ホットフラッシュ、のぼせ、ほてり、発汗など)にも効果があることが知られています。
【カウンセリング、心理療法】精神症状だけでなく、ホットフラッシュの改善効果も
更年期障害の発現には、エストロゲンの低下だけでなく、生活環境の変化や心理的ストレスなども関係しています。そのためカウンセリングや認知行動療法などの心理療法を導入している医療機関もあります。心理療法は精神症状だけでなく、血管運動神経症状などにも効果があると報告されています。
【食事療法】肥満が更年期症状の重症化に影響
肥満は更年期症状の重症化につながるため、食事のカロリー制限を行う場合があります。カフェイン、アルコール、喫煙も症状を悪化させる可能性があり、避けた方がいいと考えられています。
エストロゲンに似た作用があるとして知られる「大豆イソフラボン」のサプリメントは、ホットフラッシュなどの血管運動神経症状を改善させると報告されています。また大豆イソフラボンの代謝物「エクオール」という成分が含まれたサプリメントも、更年期症状を抑える作用があると考えられています。ただし、大豆イソフラボンの摂りすぎは月経不順リスクを高めるため、サプリメントは用法用量を守って使用してください。
【運動療法】閉経後の骨粗しょう症対策にも
適度な運動は、抑うつ症状の改善に効果があります。閉経後に生じやすい骨粗しょう症や生活習慣病の予防にも有効です。ヨガやマインドフルネスなども更年期症状全般に効果的と報告されています。
参考文献
1)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7592147/
2006年 名古屋大学情報文化学部を卒業し群馬大学医学部に編入
2011年 沖縄で初期研修を開始し、2013年より現職
世界遺産15カ国ほど旅行した経験から、母子保健に関心を持ち産婦人科医となる。著書に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社,2017)、『産婦人科ポケットガイド』(金芳堂)、『女性診療エッセンス100』 (日本医事新報社)など。
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