日本と大違い!? 海外の更年期障害治療

  • 作成:2025/01/08

日本では、更年期障害の治療法として女性ホルモンを薬で補充する「ホルモン補充療法」(HRT)、漢方療法、抗うつ薬・抗不安薬などの選択肢があります。海外ではどのような治療が行われているのかを紹介します。

柴田 綾子 監修
淀川キリスト教病院 産婦人科医長・産婦人科専門医
柴田 綾子 先生

この記事の目安時間は6分です

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国際的には「ホルモン補充療法」が主流

日本では、更年期障害の治療法としてホルモン補充療法(HRT)、漢方療法、抗うつ薬・抗不安薬のほか、カウンセリングや生活指導など幅広い選択肢があります。症状が比較的軽度の場合は漢方薬を中心とした治療を行い、漢方薬で効果が見られない場合などにホルモン補充療法が検討される場合が多いとされています。

閉経後の女性に対するHRTの使用率は、国によって大きく異なります。WHOの「MONICAプロジェクト」(心血管疾患リスク調査、1980年代~1990年代)によると、45~64歳女性のHRT使用率はもっとも高いオーストラリアで42~56%、次いでカナダ42%、アメリカ38%、アイスランド38%、フランス37~38%などです。オーストラリアや北欧、西欧、北米の一部地域で高い傾向があります。一方、日本におけるHRTの使用率は、女性看護師を対象にした調査で15.75%と低い傾向が伺えました(日本看護師健康調査、2022)。

日本でHRTの使用率が低い一因として挙げられているのが、2002年に米国立衛生研究所が発表した「WHI」(Woman's Health Initiative)という研究の中間報告です。当研究では、5年以上エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤を併用した場合、乳がんのリスクが26%上昇すると報告されました。これが全世界で報道され、日本において「HRTは怖い」という印象が広がったといわれています。

しかし、この研究結果を見る際には、注意が必要です。対象者の平均年齢は63歳と高齢で、平均BMIは 28.5と肥満傾向であり、喫煙歴が50%、高血圧症を合併している方が35%と、日本の更年期女性の平均像とは大きく異なっています。

その後の追加の分析やその他の研究では、エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤を併用しても、50歳代での使用や、治療期間が5年未満であれば乳がんリスクの大きな上昇はないことが報告されています。5年以上の使用ではわずかに乳がんのリスクが上昇しますが、飲酒や喫煙など生活習慣要因と同じか、それ以下だとされています。

さらに、海外で普及していた天然型の黄体ホルモン製剤も日本で保険適用になり、HRTはより安全性の高い治療になってきています。ホルモン補充療法は、正しく使用すれば安全に更年期症状を改善することが期待できます。更年期障害で困っている方は、ぜひお近くの産婦人科でご相談ください。

参考資料
1) Woman's Health Initiative中間報告
2) Lundberg V, Tolonen H, Stegmayr B, Kuulasmaa K, Asplund K; WHO MONICA Project. Use of oral contraceptives and hormone replacement therapy in the WHO MONICA project. Maturitas. 2004 May 28;48(1):39-49. doi: 10.1016/j.maturitas.2003.08.006. PMID: 15223107.
3) Yasui,T.,Ideno,Y.,Shinozaki,H.,Kitahara,Y.,Nagai,K.,&Hayashi,K.(2022).Prevalence of the use of oral contraceptives and hormone replacement therapy in Japan:The Japan Nurses’Health Study. Journal of Epidemiology,32(3),117–124.
4) 乳癌診療ガイドライン2022

2006年 名古屋大学情報文化学部を卒業し群馬大学医学部に編入
2011年 沖縄で初期研修を開始し、2013年より現職
世界遺産15カ国ほど旅行した経験から、母子保健に関心を持ち産婦人科医となる。著書に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社,2017)、『産婦人科ポケットガイド』(金芳堂)、『女性診療エッセンス100』 (日本医事新報社)など。

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