検診で「がんの可能性」を指摘されたら

  • 作成:2021/05/10

「がんの可能性があります」と言われると、ほとんどの人は大変驚き、ショックを受けます。人によっては気が動転して、何を言われたのか覚えていない、どうやって病院から帰ったのかもわからないということがあります。 医師の田所園子氏は自身もがんの経験者で、「一番にお伝えしたいことは『落ち着いて』ということです。検診でがんが疑われても、まだ“可能性”を指摘された段階にすぎません」と語ります。落ち着いて情報を整理し、何から始めたらよいのか、解説してもらいました。

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検診で「がんの可能性」を指摘されたら 画像素材:PIXTA

1.実際に検診で「がん」が見つかる確率は…

がん検診とは、自覚症状がない人に対し、がんがあるかどうかを調べる検査です。一次検診(スクリーニング)で「要精密検査」(異常あり)、または「精密検査不要」(異常なし)を判定し、要精密検査の人は精密検査(二次検診)でがんの有無を詳しく調べます。

ただ、検診でがんの可能性を指摘されても、精密検査を重ねる過程で「がんではない」と判断されることもあります。がん検診で異常ありと判断される確率は10%以下ですが、そのうち実際にがんと診断される割合は5%以下と非常に少ないのです。検診でがんの可能性が指摘されても、慌てず、落ち着いて行動しましょう。

逆に、本当はがんなのに検診で見つからない場合もあることは、気に留めておきたいものです。がんの種類や進行度、発病した場所など様々な理由によって、検診をすり抜けてしまうようなことがあります。

私自身は検診でがんが見つかりましたが、主治医から「あなたのがんが検診で見つかるのは奇跡だ」とも言われました。ですから、私は患者さんに「早期発見のために、がん検診を受けましょう。でも、見つからない、見つかりにくいがんもありますからね。検診で異常なしでも、“真っ白”とは限らないですよ」とお伝えしています。

2.「がんかもしれない」と言われた患者さんの気持ち

私の場合は、何も自覚症状がなく、軽い気持ちで受けたがん検診で「異常あり」と指摘されたので、まさに青天の霹靂でした。「そんなはずはない」「まさか自分が」と事実を否定することから始まり、帰宅してからも数時間前のことが現実とは思えませんでした。

何かしら思い当たる節がある方は、がんの可能性を指摘されて「やっぱり」と感じるかもしれません。でも、ショックを受けることは同じだと思います。ある患者さんは、2カ月も咳が治まらず、「これまで2カ所の診療所に行ったけれど、風邪と言われた。でも、こんなに治らないなんておかしい」と病院を受診されました。精密検査で肺がんだとわかった時には、「やっぱり風邪ではなかったのですね。もらった薬は全部きちんと飲んだのに全く治らなくて。がんだから風邪薬が効かなかったってことか…」と肩を落としていました。

がんと確定診断がついたあとは、治療方法を決めるために、がんの部位や種類、大きさなどをさらに詳しく検査します。患者さんは、その度にびくびくしながら結果を待つことになり、精神的に疲弊します。仮に、「転移はなかった」という検査結果が出ても、がんであることに変わりはなく、気持ちが晴れるものではありません。

でも、患者さんは次第に変わっていきます。私の場合は、ある時から「こうしている間にも、がん細胞は体の中で自由に動き回っている」と感じるようになりました。目には見えないがんを現実のものとして受け入れ、向き合い始めたのです。がんになっても、ずっと塞ぎ込んだ気持ちだとは限りません。

3.「先生はお忙しいから」と遠慮する必要はない

がんがあるとわかり、医師と治療方法を相談する時は、「すべてお任せします」という姿勢ではなく、自分で自分のがんをよく知ることが大切です。医師から提案された治療法をしっかり聞き、治療によってがんはどうなるのか、自分の身体や生活はどう変わるのかなどを考えましょう。

最近は、インターネットを使って自分で治療法を調べる方が多くなりました。しかし、ネット上には誤った情報も含まれていますし、正しい情報でも自分に当てはまらないこともあります。疑問に思ったことは書き出して、医師や看護師に質問するといいでしょう。知ることは患者さんの権利です。「先生はお忙しいから…」などと遠慮する必要はありません。

もしも、精密検査の結果、「がんではない」と診断されたとしても、医師の説明をよく聞くことは重要です。その時点でがんではないにしても、今後がんになる可能性が高い「前がん病変」のこともあります。次の検査は必要なのか、必要だとするといつ頃かなど、確認しておきたいポイントです。また、検診で異常を指摘されたことをきっかけに、日常生活を見直すことも考えましょう。

4.不安や恐怖は一人で抱え込まないで

検診でがんの可能性を指摘されると、ほとんどの人は戸惑い、不安や恐怖を感じます。人によっては現実逃避し、医師の説明も聞かず、精密検査を受けないことさえあります。そうした気持ちを、身近な人がサポートしてくれると非常にいいと思います。多くの場合、家族がその役割を果たしますが、友人や職場の仲間などが支えてくれることもあります。

私にがんが見つかった時は、まだ子どもが小さく、実家は遠方で話を聞いてくれる人が近くにいませんでした。同じような状況の方は珍しくないでしょうし、心配をかけたくなくてあえて周囲に打ち明けない方も多いと思います。でも、不安や恐怖を一人で抱え込まないようにして下さい。病院の中にある「がん相談支援センター」(がんの相談窓口)を利用するなど、だれかに気持ちを話すことで、落ち着いて行動できるようになることもあります。

 

田所園子(たどころ・そのこ)

医療法人生寿会 かわな病院/内科、緩和ケア、麻酔科

1995年高知医科大学医学部卒業。 同大学医学部麻酔科蘇生科入局。41歳の時に子宮頸がんが見つかり、手術を受ける。しばらくはがんであることを受け止めきれず、周囲に言えない日々を過ごした。現在は、がんの経験を生かして緩和ケアに携わり、患者によりそう医療を提供している。

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