「クラミジア」は自覚症状が少なく、やっかいな病気!感染に気づかぬまま妊娠すると…
- 作成:2021/10/03
もしかして自分が感染した? 感染させた? AskDoctorsには世代を問わず性感染症に関する相談が寄せられています。産婦人科医の宋美玄先生に「性感染症の基本」を教えてもらう本連載。今回のテーマは「クラミジア」です。日本人がかかる性感染症の代表とも言えるクラミジアについて、詳しく伺いました。
この記事の目安時間は3分です
感染が長引くと、不妊や子宮外妊娠の原因になる
こんにちは、産婦人科医の宋美玄です。
「性器クラミジア感染症(クラミジア)」は、現在日本で男女ともに最も感染者数の多い性感染症です。感染のピークは20代前半。20~30代に次いで10代後半の患者も多く、「性体験のある高校生の10人に1人がクラミジアに感染している」という調査結果も出ています。
ところが、感染者のうち医療機関を受診する人はごく一部。症状が出にくいために感染に気づいていない人が少なくないのです。性行為をすれば感染を広げてしまいますし、感染が長く続くと不妊や子宮外妊娠、流産・早産の原因になるばかりでなく、出産の際に赤ちゃんにうつしてしまう可能性もあります。
クラミジアの原因となる病原体は、クラミジア・トラコマチスという微生物です。この微生物がセックスやキスなどの性行為によって性器周辺やのどの粘膜に感染します。子宮頸管炎や尿道炎、咽頭炎などを引き起こしますが、ある程度、進行するまで痛みなどの症状は現れません。
母子感染を防ぐために、妊娠前から検査を受けたい
クラミジアは症状が出にくいことが特徴の一つで、無症状の人がほとんど。おりものの量や色が変化したり、下腹部痛や不正出血といった症状が出ることもありますが、いずれも軽いことが多いのでなかなか感染に気づくことができません。
妊婦健診では全員にクラミジアの検査を受けますが、「3〜5%がクラミジア保有者だった」という報告があります。つまり、ずっと感染に気づかないまま過ごしてきたということ。このことからも、病気の自覚がなく治療を受けていない感染者はたくさんいると推測されます。
クラミジアは、腟から子宮、卵巣というように上へ上へと感染が広がり、子宮内膜炎や卵管炎、卵巣炎、骨盤腹膜炎などを引き起こします。しかも組織と癒着しながら感染が広がっていくため、卵管の卵子を輸送する機能が低下して卵管妊娠(子宮外妊娠)を起こしたり、卵管が詰まって不妊症になったりすることもあります。
感染に気づかずに妊娠すると、流産や早産になりやすいこともわかっています。さらに治療しないまま出産すると、赤ちゃんが産道を通る際に感染して結膜炎や肺炎を起こす危険もあります。
こうした「母子感染」を防ぐために、妊婦検診の一環としてクラミジア検査が行われていますが、できれば「妊娠をする前」にパートナーとともに検査を受け、感染していた場合はきちんと治した上で、妊娠に臨みたいものです。
「風邪かな」と思ったらクラミジアだった!?
また近年はディープキスやオーラルセックスで、のどに感染するケースがとても増えています。のどに感染するとのどの腫れや痛み、微熱といった症状が出ますが、「風邪かな」と思うことはあっても、性感染症だとは考えないもの。のどのクラミジアも放置すれば、扁桃炎などを起こすことがあるので、注意が必要です。
一方、男性は尿道に感染が起こることが多く、尿道のむず痒さや不快感、排尿痛、粘り気の少ない膿といった尿道炎の症状が現れることが少なくありません。クラミジアだけでなく淋病(淋菌感染症)や梅毒などほかの性感染症でもよく見られます。パートナーの男性にこうした症状が見られたときは性感染症が疑われるだけでなく、女性にもうつしている可能性があるので、一緒に検査を受けてください。
クラミジアの検査は、新型コロナ感染症でよく知られるようになったPCR法やTMA法などの「抗原検査」が主流です。内診で採取した子宮の入り口付近の分泌液や、のどのぬぐい液を調べ(男性の場合は尿)、クラミジア特有の遺伝物質が検出されればクラミジアと診断されます。結果が判明するまでには2~7日ほどかかりますが、かなり精度が高い検査法と言えるでしょう。
クラミジアと同時に感染していることが多い淋病も、同じサンプルで調べることができます。
感染に気づく唯一の方法は、検査を受けること。「妊娠を希望している」「パートナーが変わった」「パートナーがクラミジア検査で陽性だった」というときはもちろんのこと、性行為をしている人は定期的に検査を受けるようにしてください。
治療はパートナーと一緒に。薬を飲みきることが大切。
クラミジアの治療は、抗菌剤を1~2週間服用します。その後、2週間ほどあけて再度検査を行い、陰性であれば治療完了です。通常は一度の治療で治りますが、最初に使う抗菌剤が効かないタイプの菌に感染している場合があり、再検査で陽性が続いているようであれば、薬を変えて治療します。完治を確認するまでは必ず通院してください。
婦人科を受診することをためらい、薬局で市販されている「デリケートゾーン用」などと書かれた塗り薬を使う人もいます。こうした市販薬はスーッとしたり炎症を鎮めたりする成分が入っていて、かゆみや痛みを多少抑えることができます。しかし、性感染症の原因となっている病原体を殺す作用はありません。市販薬を使っても良くならない場合は、何らかの性感染症にかかっている可能性があるので、婦人科を受診しましょう。
クラミジアに限らず性感染症は、パートナーも同時に検査・治療を受けることが重要です。せっかく自分が完治してもパートナーが治っていなければ再び病気をもらってしまったり、パートナー間で感染させ合う「ピンポン感染」を起こしてしまうこともあるからです。
ただし男性も一緒に診てくれる婦人科は少ないので、「泌尿器科」などを受診し、尿を使って検査をすることになります。尿による検査は精度があまり高くなく、感染していても陽性にならない場合があります。陰性だったとしても、服薬治療を受けたほうが安心です。また、服薬が終わるまで性行為は控えましょう。
宋美玄 (そん・みひょん)
1976年兵庫県神戸市生まれ。2001年大阪大学医学部医学科卒業。2010年に発売した『女医が教える本当に気持ちいいセックス』がシリーズ累計70万部突破の大ヒット。2児の母として子育てと臨床産婦人科医を両立。メディア等への積極的露出で女性の悩み、セックスや女性の性、妊娠などについて女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。
取材・構成/熊谷わこ
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