セックスでうつる性感染症の「ピンポン感染」って何?自覚症状なしに進む場合も…
- 作成:2021/09/05
AskDoctorsに寄せられる質問の中で、性感染症にまつわる疑問は少なくありません。もしかして自分が感染した? 感染させた? 世代を問わず、そうした不安を抱える方がいるのです。そこで、産婦人科医の宋美玄先生に「性感染症の基本」を教えてもらう連載をスタート。不安を払拭するには、正しい知識を持つことが欠かせません。性感染症の特徴や最近の動向について、ぜひ再確認してください。
この記事の目安時間は3分です
ディープキスだけで感染する病気もある
こんにちは、産婦人科医の宋美玄です。性感染症について、何となく知ってはいるけれど「自分は大丈夫」と思っている方は多いのではないでしょうか。
改めて説明すると、セックスやディープキスなどの性行為によって感染する病気を「性感染症(STI: Sexually Transmitted Infections)」といいます。かつて性病と呼ばれていた病気で、症状がはっきり現れないものも多く、本人が気づかないまま感染を広げているケースも少なくありません。
性感染症には、クラミジア(性器クラミジア感染症)、性器ヘルペス、梅毒、尖圭コンジローマ、淋病(淋菌感染症)など、さまざまな病気があります。日本ではクラミジアが圧倒的に多く、男女ともに罹患数の第1位を占めています。過去の病気だと思われていた梅毒が、ここ数年で激増しています。
このほかにA型肝炎やB型肝炎、膣カンジダ症、トリコモナス症、毛ジラミ症、疥癬なども、性行為で感染することがある病気です。子宮頸がんやエイズ(HIV)といった命にかかわる病気に発展する可能性もあります。
性感染症は、病原体を含んだ精液や膣分泌液、唾液などの体液や血液が、性器や泌尿器、肛門、のどの粘膜や周囲の皮膚に直接触れることによって感染します。セックス(膣性交)でうつると捉えられがちですが、フェラチオやクンニリングスのようなオーラルセックス(口腔性交)、アナルセックス(肛門性交)、ディープキスなどでも感染します。近年はオーラルセックスで、のどから感染するケースが増えています。
一方、「お風呂でうつるのでは…」「同じタオルを使っても大丈夫?」などと心配する人もいますが、通常は性行為以外の日常生活で感染することはありません。
夫婦間のセックスでも感染リスクあり!
性感染症の多くは、発症年齢のピークが20代前半に集中しています。10代や30代も多く、性行動がさかんな若い世代を中心に感染が広がっています。
特定のパートナーとだけセックスをしている人も油断できません。当然のことながら性感染症は最初のセックスでも、一度きりのセックスでも感染します。夫婦でしかセックスをしていなくても、パートナーが過去の恋人などから感染していたら、あなたにも感染する可能性があります。特別な人がかかる病気ではなく、誰にでも関係のある病気と言えるでしょう。
性感染症の症状は、性器周辺の痛みやかゆみ、下腹部痛など、病気や進行具合によってさまざまですが、実は「症状が出ない」、あるいは「出てもごく軽い」という場合もあります。その典型ともいえるのがクラミジアや淋病で、症状が出ないケースがほとんどを占めています。
無症状というのはとてもやっかいで、本人は気づかないままパートナーと性行為をして感染を拡大させてしまいます。また、症状がなくてもジワジワと進行し、膣だけでなく子宮、卵管、卵巣にまで広がって、不妊や子宮外妊娠を引き起こすことにもなりかねません。妊婦さんの場合は、流産や早産の原因になるばかりでなく、出産時に母子感染する危険もあります。
性感染症は何度でもかかる!パートナーと同時治療が鉄則
性感染症の多くは、飲み薬などで治すことができます。性感染症を疑うような兆候に気づいた時には、婦人科で検査を受けてください。
とくに妊娠を希望している女性は、妊娠前にパートナーとともに性感染症の検査を受けておくと安心です。妊娠前に感染していないことを確認し、さらに妊娠中のセックスは感染しないようにコンドームを使用するなど、注意が必要です。
検査で感染がわかったら、パートナーも検査や治療を受けることが大事。性感染症の多くは「一度かかれば免疫がついてかからなくなる」というものではなく、何度でも感染するため、自分だけ治療を受けて完治しても、していないパートナーと性行為をすれば、再び病気をもらってしまうことになります。こうした「ピンポン感染」を防ぐために、二人で検査を受けて、治療をする必要があるのです。男性は泌尿器科を受診するといいでしょう。
また、症状が改善すると勝手に通院をやめてしまう人がいますが、まだ病原体が残っていていることが少なくありません。医師から「完全に治った」とお墨付きをもらうまで、きちんと治療を続けましょう。
そして、しっかり治るまで性行為は控えてください。
コンドームは避妊具であり、「最強の性感染症予防ツール」
性感染症の予防で、「コンドーム」の使用が不可欠です。コンドーム=避妊具と考えがちですが、コンドームは、感染している人の精液や腟分泌液が、口や性器の粘膜に接触するのを防ぐ「バリア」の役割を果たしてくれます。オーラルセックスの時にも、コンドームを使って予防を。コンドームで防ぐことはできない性感染症もありますが、最も確実な対策と言えるでしょう。また、複数の相手との性行為を避けることも、効果的な予防策の一つです。
まとめ
性感染症は性行為がかかわる病気ということもあって、恥ずかしさから病院に行きづらいという人もたくさんいます。しかし性行為は人間が生きる上で大切なこと。ましてや性感染症は誰でもなり得る病気ですから、気軽に婦人科を受診してください。
また、性感染症の予防や治療では、お互いの理解と協力が欠かせません。日本人では女性から「コンドームを装着してほしい」「一緒に治療をしてほしい」と言いにくい社会的風潮がありますが、男女ともに性感染症の知識を身につけ、安心して性行為を楽しみましょう。
宋美玄 (そん・みひょん)
1976年兵庫県神戸市生まれ。2001年大阪大学医学部医学科卒業。2010年に発売した『女医が教える本当に気持ちいいセックス』がシリーズ累計70万部突破の大ヒット。2児の母として子育てと臨床産婦人科医を両立。メディア等への積極的露出で女性の悩み、セックスや女性の性、妊娠などについて女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。
取材・構成/熊谷わこ
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