知ってた?AIDSの指標になる23の病気~早期発見・治療で「普通の生活」ができることも
- 作成:2022/02/06
産婦人科医の宋美玄先生が、性感染症について解説する連載。今回は「AIDS(AIDS)」についてお話します。かつては「不治の病」「死に至る病気」などと恐れられていましたが、今は治療が格段に進歩し、薬で症状をコントロールしながら普通の生活を送ることができるようになっています。やみくもに恐れるのではなく、正しい知識を身につけることが大事です。
この記事の目安時間は3分です
こんにちは、産婦人科医の宋美玄です。
AIDS(Acquired Immuno-Deficiency Syndrome:後天性免疫不全症候群)は、「HIV(ヒト免疫不全ウイルス)」によって引き起こされる感染症です。主な感染源は血液、精液、膣分泌液、母乳。感染ルートは「性行為」「母子感染」「血液感染」の3つです。
最も多い感染ルートは性行為です。性器の接触やオーラルセックスによって、HIVが粘膜や小さな傷口を通って侵入し、感染します。性行為の中でも男性同士のアナルセックスによる感染が多くを占めていますが、近年は男女間の膣性交で感染するケースも増えてきました。私のクリニックにも、セックスで男性パートナーから感染したであろう女性が来院します。
また、母親がHIVに感染していると、妊娠中や分娩時、授乳時に子どもに母子感染をする可能性があります。血液感染は稀ですが、覚せい剤の回し打ちや、医療者が感染者の血液がついた注射針を扱う際の針刺し事故で起きています。
ただ、HIVはとても弱いウイルスなので、くしゃみや咳、握手、軽いキス、プールや温泉といった日常的な接触で感染する可能性はほとんどないと言っていいでしょう。
感染しても、10年以上症状がないことも
AIDSは感染から発症するまでの潜伏期間がとても長い、という特徴があります。HIVに感染してから数週間は体内でウイルスの量が一気に増えるため、一時的に発熱やのどの痛み、だるさなどの風邪に似た症状が出ることもありますが、その後は何の症状も出ない状態が数年から10年以上も続きます。
この期間に、HIVは免疫(=体を外敵から守る働き)にかかわるリンパ球を破壊し続け、免疫機能が低下していきます。そしてある程度まで低下すると、外部の細菌やウイルスから体を守ることができなくなり、健康な時には免疫の力で抑え込めていたさまざまな病気にかかりやすくなってしまうのです。
厚生労働省ではAIDS診断のための指標疾患として、カンジダ症やニューモシスチス肺炎、カポジ肉腫など23の病気を指定しています。HIV感染者がこの中のどれか1つでもかかった時点で、「AIDS発症者」となります。
日本では、年間1500人前後が新たにHIVに感染・AIDSを発症していると報告されています。減少傾向にはあるものの、コロナ禍で検査数が大きく減った2020年でさえ、1000人を超えている状況です(※)。
この数字は、医療機関を受診した人に限ったもの。先ほどもお話ししたように、HIVに感染しても何の症状もない期間が長く続くため、感染に気づいていない人も少なくありません。さらに、気づかないままセックスをして、パートナーに感染させてしまっている危険もあるのです。
※ 国立感染症研究所
治療薬が進歩し、病気の進行を抑えられるように
HIVに感染すると、体内から完全にウイルスを排除することはできません。そのため一昔前までは感染したら早晩AIDSを発症して死に至るなどと恐れられていましたが、今はHIVが体内で増えるのを抑える治療薬(抗HIV薬)が多数開発され、免疫力を維持して普通の生活を送ることができるようになりました。
とはいえ、AIDSを発症してからの治療は発症前よりも難しくなるため、できるだけ早く発見して治療をスタートすることが大事。全国各地にある保健所などの公共機関では、HIV検査を匿名・無料で受けることができます。
検査を受ける際には、「時期」に注意を。HIVの検査は感染後に産生される抗体が血液中にあるかどうかを調べる「抗体検査」が一般的で、感染からある程度時間が経たないと抗体を検出することができません。感染が疑われる時期から3か月以上経ってから検査を受けるようにしてください。
またHIV感染に気づかないまま妊娠・分娩をすると赤ちゃんに感染する危険がありますが、現在は妊娠初期(4~12週)の妊婦検診にHIV検査が含まれているので、感染を発見しやすくなりました。HIVに感染していても「服薬を徹底する」「帝王切開で出産する」「母乳ではなくミルクで育てる」といった適切な対策をとれば、母子感染をほぼ防ぐことができます。
コンドームの装着は性行為の最初から!
性感染症すべてに言えることですが、予防や検査、治療においてパートナーの協力は欠かせません。とくに感染予防では、男性にコンドームを正しく装着してもらうことが大事。挿入直前につけるのではなく、性行為の始めから終わりまでつけていないとリスクは増加します。口を使っての性行為でも、口の粘膜から感染する可能性があるので、コンドームを使いましょう。また、コンドームの破損にも注意してください。
性感染症にかかってクリニックに受診してくる女性の中には、「彼にコンドームをつけてとは言いづらかった」という人が少なくありません。実際、コンドームの装着を嫌がる男性はたくさんいます。性感染症を甘く見て、結婚していても妻以外の女性とセックスをして性感染症にかかり、妻にも感染させてしまうといったケースは後を絶ちません。
女性側が「性感染症予防や避妊のためにコンドームをつけて」とハッキリ要求することは大事ですが、男性側の意識が変わることも必要です。それが、お互いの体を守ることにつながるのですから。
1976年兵庫県神戸市生まれ。2001年大阪大学医学部医学科卒業。2010年に発売した『女医が教える本当に気持ちいいセックス』がシリーズ累計70万部突破の大ヒット。2児の母として子育てと臨床産婦人科医を両立。メディア等への積極的露出で女性の悩み、セックスや女性の性、妊娠などについて女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。
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