なぜその健康法は続かないのか− 「健康に関わる4つのアセット」① アセットマインド
- 作成:2021/10/18
「健康のためにやせなければならない」、「このままだと糖尿病になると言われたからダイエットが必要だ」口に出しては言うものの、3日坊主で続かない人は多いもの。だからこそダイエット本が巷にあふれているのです。何百種類も出ているダイエット本ですが、このような「やり方だけに目を向けたHow to本では、持続的なダイエットは不可能」と、行動変容外来を立ち上げた横山啓太郎氏は言います。どのように行動を変えればいいのか、まず健康に関わる4つのアセット(健康を財産とすること)から、アセットマインドについて解説いただきました。
この記事の目安時間は6分です
健康管理が長続きしないのは、その方法が自分に合っていないから?
ダイエットや生活習慣の改善など、健康法に取り組んでも長続きしないのは一時的に目を向けるだけで、「あり方」に目を向けていないためと私は考えています。
あらゆる行為は、「あり方=自分は何者か?何故それを行うのか?」と「やり方=どのようにアプローチするか?」によって定められています。生活習慣の改善などに取り組むとき、今まで医療従事者は、後者のやり方のみに目を向けてきました。
スタンフォード大学でBe wellプログラム作成に参画された近本先生によれば、生活習慣病の改善は、1960年代perceived threat(認知脅威)と次の4つの行動にキッカケが加わると達成できると考えられていました。
1)その病気にかかりやすいか?
2)その病気は大変か?
3)その対策は役に立つと思うか?
4)その行動に障害があるか?
しかし、この仮説は結核のレントゲン検査がモデルであり、生活習慣病にはそぐわないと思われています。
1回だけでなく、毎日やる必要のある生活習慣病管理には適応しません。
性格に合った方法で行えば継続的に健康管理はできる!
生活習慣病を改善させる重要な要素として「自己効力感(自己肯定感)」が大切なことがわかってきました。
先に述べた「あり方」に対するアプローチが治療効果を発揮することが注目され出したのです。
自己効力感とは、自己に対する信頼感や有能感のことで、「自分ならできる!」といったセルフイメージを持てていることが、成功を導く行動に大きな影響を与えるという考え方です。
その自己効力感を高めるには、画一的なリスクとベネフィット(プラスの効果)から健康に対するアプローチをしていくだけでは効果を発揮しません。個々の人たちに注目して自己効力感を育てていくことが大切だという考え方により、我々の行動変容外来ではNEO-PI-R 人格検査、NEO-FFI 人格検査 (NEO-PI-Rの短縮版)で、患者さんの性格分析を行い、それを基に患者さんに合わせた個別コーチングを行っています。
具体的には、競争型の性格の方にはレコーディングを取り入れた管理法で競争心をあおり、健康を推進し、調和型の方には理屈や数値よりも、看護師が対象者をほめたたえるような、共感的なアプローチにより、承認欲求を満たすことで継続的な健康管理への取り組みができるよう向き合っているのです。
ほめ言葉でドーパミンを放出し、さらにやる気をあげる!
自己効力感をあげるには、楽観的になる必要があります。それには生まれつきの性格の影響が大きいですが、自分をほめる習慣をつけることも一つの方法です。
自分の努力を引き出すためには、自分をほめることが大切なのです。ほめることが運動機能の改善に結びついたという報告3)もあります。
2010年、日本を含む7か国の脳卒中患者179名を対象とした国際研究において、歩行のリハビリテーションで、ほめられた患者群は10秒間に9.1m歩けるようになったのに対し、ほめられなかった患者群は7.2mにとどまり、ほめることで改善率が約1.8倍上昇したのです。
ほめることの効果について、2つの仮説を示しましょう。
1)ほめられると気持ちがよくなって脳が活性化し、自信がついてゴールが明確になった。
2)ほめられるとドーパミンが放出され、脳がドーパミンを得やすいように自身の構造を変えようとした結果、歩くときに必要な神経回路が強化され、より歩きやすくなった。
(Dobkin BH, et al.: Neurorehabil Neural Repair. 2010; 24(3): 235-42.)。
ただ、ほめることの落とし穴には注意が必要です。
「少し運動しただけ」、「0.5kg体重が落ちただけ」でほめられると、「ほめられるのが当たり前」になってしまい、「ほめられたいから頑張ろう」という目標がなくなってしまいます。ほめるときのポイントは、(1)具体的に、(2)すかさず、(3)ほめるべきときにほめる、の3つです。
悲観的な考え方を楽観的な考え方に変え、生命財産を守る
マインドは健康に関わる4つのアセットの中心です。意思がなければほかのアセットを維持することはできません。
日本人は欧米人に比べて将来を悲観的に見る人が多いと思われます。
新型コロナウィルスによる感染が拡大していく中でイタリア人は当初、「コロナウィルスが広がってもイタリア人のハグとキスの習慣は負けない」と陽気に答えていたのが印象的でした。
これに対し、日本人はマスクをきちんとつけ、施設にはあちこちにアルコールが設置されるなど、衛生感覚の高さは世界一と言えます。これは、将来の不安を感じやすい習性から生まれているといえるもので、狩猟民族と農耕民族の違いから長年にわたって身についた国民の特性なのでしょう。
災害が起こり居住地が住みにくくなれば居住地を移す狩猟民族と異なり、農耕民族は災害が収まるのをじっと待つ習性があります。辛い環境に身を置くことを選択するのです。
物事を心配することを司る部分は脳の扁桃体です。先取り不安をしていくと扁桃体のサイズが大きくなります。このことはロンドンのタクシー運転手によって証明されています。なぜなら、ロンドンのタクシー運転手は道に迷うことを常に心配しながら生きているので、扁桃体のサイズが大きいのです。
『脳科学は人格を変えられるか?』の著者で心理学者のエレーヌ・フォックスは、将来を悲観的に考える脳をレイニーブレイン、楽観的に考える脳をサニーブレインと名づけています。レイニーブレインは危機管理には優れていています。
日本人は人間ドックにお金をかけて何もなければ「安心した」と言って喜びますが、欧米人は何もなければ「検査で何も見つからず、損をしたと」考えます。
しかし、生命財産を自分で守るために習慣を変えていくことはサニーブレインのほうが向いています。
修道院の尼僧を対象にした研究では、サニーブレインの人のほうがレイニーブレインの人よりも寿命が10年長いという研究もあります。この考え方に影響を与えるのがセロトニンとドーパミンです。
キングスカレッジの研究ではセロトニンとドーパミンの分泌が旺盛な遺伝子を持つ子供とそうでない子供ではうつ病の発症が異なることを報告しています。
マイケルJフォックスはパーキンソン病になってもうつ病になりませんでした。これは彼がセロトニンとドーパミンの分泌が旺盛な遺伝子の持ち主であったことと関係すると言われています。この結果から悲観的なものの考え方は生まれつきであって、変えられないと思われていました。
しかし、レオナルド・ディカプリオは強迫神経症の役をやったあと、しばらくはその考え方から抜けることができませんでした。逆に認知方法を変えることで、レイニーブレインからサニーブレインに変化することができると考えられています。
替えがきかない体だからこそいたわり慈しもう
「なぜ、健康に関心を持つことができないか?」ということに関する回答は「自分の体の健康だからである」ということだと思います。加えて下記2点も考えらます。
1)自分の体は生まれたときから死に向かっていて、そのことを自覚することは精神的に辛いことである。
2)仕事でストレスを抱えている現代人は食事やタバコでストレスを軽減するのが当たり前と認識している。
体はいたわるもの、愛おしいものと捉えさせ、それを手入れすることをストレス(自己犠牲)と捉えさせない考え方になることが大切です。
たとえば、見方を変えて、自分の体を車として考えてみてください。
替えがきかない自分の体は、車より手入れが重要であることは患者も理解しやすいと思います。「ストレス社会の中で自己管理をする」という考え方より、「あと40年元気に走ってくれよ」と愛車の手入れをする感覚を持つと、健康管理が精神的負担ではなくなるのではないでしょうか?
横山啓太郎
1958年生まれ。1985年東京慈恵会医科大学医学部卒業。国立病院医療センターで内科研修後、東京慈恵会医科大学第二内科、虎の門病院腎センター勤務を経て、東京慈恵会医科大学内科学講座(腎臓・高血圧内科)講師、准教授、教授。2016年、大学病院として日本初の「行動変容外来」を開設、診療医長に。2019年には寝たきりのリスクを減らす新型人間ドック「ライフデザインドック」を慈恵医大晴海トリトンクリニックにてスタートさせた。日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本腎臓学会認定専門医、日本透析医学会指導医。主な研究分野は、慢性腎臓病の進展制御と合併症研究、Ca制御機構に関する研究、血管石灰化研究、生活習慣病行動変容。2021年から東京慈恵会医科大学 大学院 健康科学教授。
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