新型コロナワクチン、若い人は重症化しにくいから接種しなくて良い?
- 作成:2021/10/17
2021年の春から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種。国は11月には希望する人への接種完了を目指していますが、ワクチン接種を悩んでいる方もまだまだおられます。その中には、「若い人は重症化しにくいから、ワクチン接種をしなくても良いのではないか」と考えている方もいるのではないでしょうか。 確かに、これまでに得られてきたデータや知見からは、新型コロナウイルス感染症は40代以下の若い世代では重症化するケースは多くありません。そのため、「もし罹っても風邪みたいなものだから大丈夫」と考えてしまいがちです。しかし、ここで考えてもらいたいのは、「重症化しなければ、本当に大丈夫なのか」ということです。
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若い世代は確かに「重症化」しにくいが、「重症化」とはどんな状態のことか?
まず、「重症」が意味する状態を正しく理解していないケースがあります。軽症とは、38℃くらいの熱が出て少し咳も出るくらい。中等症とは、38℃を超える熱が出て、咳も結構出て夜には眠りづらいくらい。重症とは、39℃を超える高熱が出て、咳や倦怠感で眠れないくらい。そんな風に認識している人もいるのではないでしょうか。
しかし、実際の新型コロナウイルス感染症の重症度分類では、これらは全て「軽症」に分類されます1)。呼吸困難があって酸素投与が必要な状態になって初めて「中等症」になります。この「中等症」は、恐らく多くの人にとって“人生最大のつらさ”になると考えられます。ここから更に進んだ「重症」とは、人工呼吸器をつけられICUに入っている状態・・・言わば“瀕死の状態”です。つまり、40℃の高熱が1週間続いても、咳で夜に全く眠れなくても、食事が一切喉を通らなくても、呼吸困難がなければ分類上は「軽症」になります。
そのため、「若い人が重症化しにくい」というのは、決して「風邪のような症状だけで済む」というわけではなく、「人工呼吸器をつけられて生死の境をさまようような事態にはなりにくい」という意味であることを、まずは押さえておく必要があります。
実際に日本でも、20代で16名、30代で50名、40代で171名と、40代以下の若い世代でも新型コロナウイルス感染症で亡くなってしまった方が少なからずいらっしゃいます2)。また、9月の時点では“入院治療が必要なほどの状態”にある方が、10代未満で3,190人、10代で5,426人、20代で14,390人、30代で10,174人、40代で11,077人2)いらっしゃったことも考慮すると、決して「風邪のような症状だけで済む」保証はありません。
重症化しなくても、様々な“後遺症”に悩まされる可能性が高い
もう1つ、新型コロナウイルス感染症が“ただの風邪”と大きく異なることは、たとえ軽症で済んだとしても、“後遺症”に長く悩まされることが多いという点です。実際、自宅療養で回復するくらいの軽い症状で済んだ16~30歳の新型コロナウイルス感染症患者のうち、実に6割を超える人たちが、味覚・嗅覚の異常、倦怠感、息苦しさ、集中力の低下、記憶障害といった後遺症に半年以上悩まされている、という調査結果があります3)。また、さらに若い18歳未満の人でも、入院するほどの症状があった場合には、4人に1人が食欲減衰、感覚障害、睡眠障害、身体活動・感情表現の減衰といったトラブルを半年以上抱えている、といった調査結果もあります4)。
これらの報告からわかるのは、新型コロナウイルス感染症に感染すると、たとえ軽い症状で済んで、重症化しなかったとしても、その後に長い期間、様々な後遺症に悩まされることになる可能性がある、ということです。こうした後遺症は、仕事や学業にも多大な影響を与えると考えられます。効果的な治療法もまだ解明されていませんので、対症療法をしながら治るのを待つしかありません。
若い世代も、ワクチン接種の検討をお勧めします
最近、ワクチン接種によって、こうした後遺症のように長引く症状を大きく減らせることがわかってきました5)。そのため、若い世代にとってワクチン接種は「重症化を防ぐ」ことよりも、「長引く後遺症を防ぐ」ことの方が、より身近に感じやすいメリットになるかもしれません。
新型コロナウイルス感染症は、感染すると“つらい症状”に悩まされるだけでなく、味や匂いがわからなくなる、息苦しさや倦怠感が長く続く、集中力や記憶力が低下するといった後遺症に長く悩まされることもあります。最近の調査では、脱毛6)のように見た目に大きく影響するような症状を引き起こすという報告もあります。
“ただの風邪”のような症状で済んで、2~3日ほど寝ていればすぐに元通りになる・・・というような感染症では決してありません。若い世代の方でこれまで様子見をしていた人も、ぜひ改めてワクチン接種をご検討いただければと思います。
1) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第5.3版
https://www.mhlw.go.jp/content/000825966.pdf
2) 厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(速報値) 2021年9月15日
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000833306.pdf
3) Nat Med . 2021 Sep;27(9):1607-1613. PMID:34163090
4) Eur Respir J . 2021 Jul 1;2101341. doi: 10.1183/13993003.01341-2021. Online ahead of print. PMID: 34210789
5) Lancet Infect Dis . 2021 Sep 1;S1473-3099(21)00460-6. doi: 10.1016/S1473-3099(21)00460-6. Online ahead of print. PMID: 34480857
6) Sci Rep . 2021 Aug 9;11(1):16144. PMID: 34373540
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