女性の「したくない…」は治療対象になる?性機能障害の原因と、パートナーにできること
- 作成:2021/10/16
セックスの悩みは話題にしづらいもの。本来、楽しく心地よいものであるはずのセックスが苦痛で、人知れず悩んでいるという女性は少なくありません。そんな「女性の性機能障害」の実態や解決策について、産婦人科医の宋美玄先生が解説する連載がスタートします。第1回目は、そもそも女性の性機能障害とはどのようなものなのか、治療ができるのか、どこに相談すればいいのかといった基本的な情報をお伝えします。
この記事の目安時間は6分です
性欲がない、濡れない、イケない、痛くてできない
こんにちは、産婦人科医の宋美玄です。
性行為をしたいのに身体が受け付けない、そんな状態を医学的には「性機能障害」と呼びます。男性では勃起不全(ED)や早漏、遅漏などがよく知られていますが、実は女性にも性機能障害はあるのです。主に次のようなものが挙げられます。
- 「性的欲求の障害」……そもそも性欲がない、セックスする気にならない、といった心理的な問題を含む障害。
- 「性的興奮の障害」……キスや性器を触るといった性的な刺激を受けても反応しない、いわゆる”濡れない」という状態。
- 「オルガズム障害」……絶頂感(オルガズム)を感じられない状態。「イケない」といったほうがわかりやすいでしょうか。
以上は性的反応の障害ですが、「ペニスの挿入に関連した障害」も珍しくありません。代表例は以下の2つです。
- 「性交疼痛障害」……挿入すると強い痛みを感じる。
- 「膣けいれん(ワギニズム)」……挿入しようとすると膣が収縮して受け付けなくなる。
性機能障害に悩む女性はどのくらいいるのでしょうか。やや古いデータですが、2005年に報告された国際的な調査(対象年齢40~80歳)では、性的関心と興奮障害は約30%、オルガズム障害は約15%、性行為に伴う疼痛は約15%とされています。
とはいえ、日本の場合は女性が性行為に関して語ることを良しとしない風潮があり、女性性機能障害の発生頻度を正確に調査するのは難しいのが実情です。誰にも言えずに悩んでいる人はもっと多いことでしょう。
当事者である女性が「困っている」なら治療を
性機能障害の原因はさまざまです。
生まれつき膣に奇形があるといった機能的な問題のほか、がんや心血管障害などの大きな病気、糖尿病などの生活習慣病も性機能障害を引き起こします。妊娠・出産・授乳や閉経といったホルモンにまつわるイベントと関連しているケースもあります。
また、意外と多いのが心理的な要因です。避妊を心配していたり、逆に不妊治療のストレスが高かったり、パートナーとの関係性の悩み、性的虐待の経験など、複数の原因が複雑に絡み合っていることも珍しくありません。
人知れず悩んでいる女性が多い性機能障害ですが、原因や症状によっては治療が可能です。
治療の適応となるのは、その問題が「当事者である女性を悩ませている場合」「パートナーとの関係に影響を及ぼしており、女性本人が治療を希望している場合」です。セックスをしなくてもお互い全く困らないなら、治療する必要はありません。
性機能障害の専門家がいる機関に相談を
治療にあたっては詳細な問診や診察を行います。性機能についての質問紙、心理テスト、内分泌(ホルモン)検査、神経系検査なども参考にしながら診断。カウンセリングを主軸に、必要に応じて手術や薬物療法、骨盤底筋(子宮や膣などを支える筋肉)のトレーニング、膣ダイレーター(膣に挿入する棒状の医療器具)やマスターベーションなどを組み合わせながら治療を進めていきます。
治療には原則として公的保険は適用されず、自由診療です。
できるだけ早く始めたほうが治療効果を期待できます。
ただし、相談や治療を受けられる医療機関は多くはありません。「女性のミカタである婦人科を受診すれば解決できますよ」と言えるといいのですが、性機能障害に対応している婦人科はごくわずか。
なぜなら、性機能障害の治療には専門知識が必要で、診察はじっくり話を聞くことが基本なので、一般診療をしている婦人科ではなかなか対応できません。そのため勇気を出して婦人科を受診しても、期待外れで終わってしまう可能性があります。
私のおすすめは、専門学会のホームページから相談先を探す方法です。
日本性機能学会の専門医、日本性科学会のセックスセラピストやカウンセラー、あるいは日本産科婦人科学会が養成している「女性ヘルスケアアドバイザー」は、いずれも一定のトレーニングを受けた医師や医療専門職です。各学会のホームページに氏名が掲載されています。
性について素直に話せるパートナーシップを
セックスは生きていくために絶対に必要なものではなく、性機能障害も絶対に直さなければいけないものでもありません。「本人がセックスをしたいのにできなくて困っている場合」に初めて治療が必要になります。要は「セックスをしたいかどうか」が大事だと思います。
とはいえ、「自分はしなくていいけれど、相手が求めてくる」など片方だけが満たされないパターンはとても難しい問題です。性機能障害に悩んで受診する患者さんに話を聞いてみると、「痛いけど我慢している」「夫から『お前がセックスに乗り気じゃないから、外で浮気をしている』と言われた」という切実なケースもたくさんあります。
「結婚=好きな時にセックスをしていい権利」だと勘違いしている男性もいます。
どちらかだけが100%我慢するセックスというのは、良好なパートナーシップとは言えません。夫婦や恋人間でもセックスのことは話題にしづらい気持ちはよくわかりますが、相手にどう思われようと、やはり話し合うしかないと私は思います。
不満を抱えているなら思い切ってパートナーに話してみましょう。ダメもとで切り出してみたら気持ちをわかってくれた、医療が介入しなくても性機能障害が解決できたというケースもありますから。セックスをするのも、しないのも、女性が自分の気持ちを言葉にできること。そして、女性の言葉を受入れるパートナーシップになることが大切です。
宋美玄 (そん・みひょん)
1976年兵庫県神戸市生まれ。2001年大阪大学医学部医学科卒業。2010年に発売した『女医が教える本当に気持ちいいセックス』がシリーズ累計70万部突破の大ヒット。2児の母として子育てと臨床産婦人科医を両立。メディア等への積極的露出で女性の悩み、セックスや女性の性、妊娠などについて女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。
取材・構成/熊谷わこ
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