産後のセックス「したくない」…ホルモンの変化と、女性の疲労にパートナーはどう向き合うか?

  • 作成:2022/02/26

心地よいセックスを妨げている「性機能障害」について、産婦人科医の宋美玄先生が解説します。連載第5回のテーマは「妊娠・出産とセックス」。妊娠中のセックスが不安だったり、出産後のセックスがつらかったりしてパートナーとの関係が悪化してしまうケースも。妊娠・出産で変化する体や、パートナーとの関係にどう向き合っていけばいいのでしょうか。

この記事の目安時間は3分です

産後のセックス「したくない」…ホルモンの変化と、女性の疲労にパートナーはどう向き合うか?

妊娠中のセックスに医師がSTOPをかける時

こんにちは、産婦人科医の宋美玄です。
妊娠中や出産後のセックスについて悩んでいる人は少なくありません。「セックスのことは主治医には相談しづらい」という人が多く、かかりつけではない私のクリニックに相談に来る人もいるほどです。

妊娠中の相談で多いのは、セックスをしてもいいかどうか。基本的には、セックスをしてはいけないのは主治医に止められている時だけ。つまり、出血があるとか、切迫流産や前置胎盤のときなど、セックスをすることで赤ちゃんやお母さんの体に危険が及ぶような場合です。「安静に」とか「無理は禁物ですよ」と言われたときは、控えた方がいいでしょう。

それ以外は、セックスをしても大丈夫。ただ、乳首や膣の奥を触ったり、膣内で射精をしたりした場合には、おなかが張ります。こうした張りは生理的な反応で、切迫流産や早産の兆候ではありません。とはいえ、おなかが張ると怖くなったり気になったりしてセックスに集中できない、気持ちよくないという人もいるでしょう。満足感を得られそうだと思うならセックスをすればいいし、不安のほうが強いなら無理にする必要はありません。

出産後~授乳期は、心も体は変化している

出産後のセックスの疑問や悩みについてもお話ししましょう。

出産後はいつからセックスをしてもいいの?

個人差があるので一概に言えませんが、「出産後6週間後くらいから」が目安。妊娠で大きくなった子宮は、出産後6週間で鶏卵くらいの元の大きさに戻ります。この頃になれば会陰や膣の傷も治り、悪露も出なくなるはずです。
ただし、出産後初めてのセックスは怖いという人も。まず、自分の指で膣口や周囲の状態を確かめてみることをお勧めします。「自分の指を入れるのも怖くてできない」という場合はペニスを挿入するのは難しいので、無理をしないこと。
なお、産後は生理が再開する前でも妊娠の可能性はあります。必要に応じて避妊を忘れないようにすることも大切です。

出産の傷は治っていても、セックスすると痛い

出産によるダメージから体が回復してからも、性交痛に悩む女性は多く、いくつか理由が考えられます。
まず1つ目の理由は、膣周辺が濡れにくくなっているから。女性ホルモンの一種であるエストロゲンは、出産後しばらくは分泌量が少ない状態が続き、腟のうるおいが減ってセックスの際も濡れにくくなります。とくに母乳育児をしている間は、母乳の分泌にかかわるホルモンも影響してさらにエストロゲンの分泌量が低下するため、腟のうるおい不足に加えて腟粘膜が縮んで、性交痛が生じやすくなるといわれています。

2つ目は分娩時に会陰にできた傷の影響です。傷自体は治っていても引き攣れなどが生じて以前とは違う状態になっていて、性交痛を感じることがあります。

膣の潤い不足や会陰の傷がこすれて痛いときなどは、市販の潤滑ゼリーを使ってみると摩擦が軽減され、改善できることがあります。ずっとゼリーが必要とは限らず、次第にホルモン分泌が元に戻って痛みを感じにくくなる場合もあります。
パートナーの手やペニスによる刺激が強すぎて痛みを感じる場合は、力の入れ具合を調整してもらいましょう。また、体位を工夫することで、痛みが軽くなるケースもあります。

ホルモンの影響で「セックスをしたくない」気持ちに

「出産してからセックスをしたい気持ちが起こらなくなった」というのもよくあるケースです。これも、エストロゲンの低下や、授乳中に分泌されるホルモンが影響しています。さらに、育児の疲労や自分自身の体調回復に精一杯で、産後はセックスどころではないという女性も少なくないでしょう。

セックスの再開は、女性の心と体に無理のないタイミングで

妊娠や出産は病気ではないとはいえ、心と体に大きな負担がかかります。パートナーのことを愛していても、セックスが苦痛でたまらないということもあるでしょう。セックスの再開は女性の心と体に無理のないタイミングを選び、パートナーは女性に負担が偏っていないか、我慢していることはないか、声を掛けてくださいね。

また、出産後の性機能障害が長引いたり、出産をきっかけにセックスが楽しめなくなってしまった場合は、医師や専門のカウンセラーなどに相談をするのも一つの方法です。

宋美玄 (そん・みひょん)

1976年兵庫県神戸市生まれ。2001年大阪大学医学部医学科卒業。2010年に発売した『女医が教える本当に気持ちいいセックス』がシリーズ累計70万部突破の大ヒット。2児の母として子育てと臨床産婦人科医を両立。メディア等への積極的露出で女性の悩み、セックスや女性の性、妊娠などについて女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。

取材・構成/熊谷わこ

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