感染急増、その時医師は…第6波に必要な備えは

  • 作成:2021/12/14

新型コロナウイルスの「第6波」に備え、政府は公立・公的病院の専用病床化、病床使用率の向上などで新たな病床を確保。「第5波」の3割増の3・7万人が確実に入院できる体制を11月末までにつくるとしました。3回目のワクチン接種も12月から始め、経口治療薬の年内実用化をめざす、としています。しかし、楽観できないのが新型コロナ。国内の感染者は激減していますが、オランダやドイツでは感染が再拡大し、変異株「オミクロン株」が日本にも上陸しました。「第1波」が始まった昨年4月から、在宅でのコロナ感染の最前線に立ってきた、東京都新宿区の訪問診療医、英裕雄先生(新宿ヒロクリニック院長)に、第5波から学んだことと、第6波への「備え」を聞きます。(3回連載の第1回)

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感染急増、その時医師は…第6波に必要な備えは

大都市東京・新宿での窮状を前に考えたこと

先生は当初からコロナとかかわってきましたが、昨年末から新年にかけての「第3波」では、東京では3000人近くの感染者が出ました。このときの新宿の状態はいかがでしたか?

第1波、第2波からずっと、コロナの在宅療養支援をやってきましたが、それまでは呼吸器症状が悪化した人を、在宅で診ることはありませんでした。ところが、第3波では中等症の方への対応が出てきました。5人くらい症状の重い方がいて、入院するまでに時間がかかった方もいました。

5月からの「第4波」は、東京ではそれほど深刻ではありませんでしたが、関西の感染状況は大変でした。東京都医師会は、5月に「第5波」に向けた対策づくりを、都と都下の医師会に呼びかけたわけですが、新宿区ではどんな対応が取られましたか?

感染が拡大したとき、とくに保健所の業務がひっ迫する可能性が高いということで、そのサポート体制、具体的に言うと自宅療養中の陽性者に対する対応についての議論が、新宿医師会で4月20日ころから始まり、そこに我々も参加しました。

新宿区の場合は、それ以前から保健所と医師会の連携ができていたということですか? 

ある程度は連携していました。新型コロナの感染者については、それまでは保健所が業務をずっと担ってきましたが、4月から東京都に「フォローアップセンター」ができ、自宅療養者の対応はセンターが行うことになりました。ただ、センターの業務は生活支援と看護的な電話相談が中心だったので、もう一歩進んだオンライン診療や往診が必要なケースについては、地区医師会がそれぞれ構築しなければいけない。それについてどう対応できるかというアンケートを東京医師会が行いました。区によっては体制の構築ができないということで、アンケートが保留になったところも多かったと聞いています。

新宿区はいかがでしたか?

アンケートが来たときに、医師会で「どうしますか」という話が出て、当院はそれまでもずっと在宅療養者支援をやってきていたので「やりますよ」と手上げしました。それで新宿区では、当院が24時間360日対応をすることになったんです。

7月末から感染者が増加し、東京の医療体制がひっ迫してきました。そして、8月2日に政府が「感染者が急増している地域では自宅療養を基本とする」という、新型コロナウイルス感染者の療養方針見直しを決めました。それを聞いてどう思われましたか。

そのときには、中等症や重症の方を自宅療養させるという理解ではなかったので、ほかの疾患と同じように、療養できる方を自宅で診るということについては、僕は賛成でした。軽症の方は自宅療養し、病状に合わせて適切な療養場所にシフトするというのであればいいのですが、中等症の方を自宅で診るというのは、もちろん想定外でした。

8月初めに、東京の感染者は1日1万人を超すのではないか、という想定も出ました。先生はどんな予測をお持ちでしたか?

そういう危険性はあると思いました。感染者が1000人を超えた段階で、東京では医療が逼迫し、酸素濃縮器も枯渇しそうになっていましたからね。対応体制もまったく追いつかない中で、何とか在宅療養の方を支えてはいたけれど、これ以上の数になったら支えきれないし、対応もできない。亡くなっていく方が増えるんではないかと、最悪の事態を想定したというのが実情です。

今年4月からのデータを見せていただくと、6月には12人だったのが、7月には118人の自宅療養者の受け入れをされていますね。都のフォローアップセンターから69人、保健所から49人。うち電話とオンラインでの対応が93人、往診は25人でした。

5月にはフォローアップセンターから19人、保健所から4人の依頼があり、オンラインにするのか、往診にするのかを検討しながら対応していました。7月末からは急激に往診依頼が増え、新宿区保健所、フォローアップセンターからの対応依頼は、昼夜を問わずひっきりなし。他の区の患者さんからもHPからの直接の依頼や、ホテル療養中の方からも相談に乗ってもらえないかと連絡がありました。

軽症・中等症・重症のトリアージをしたくても、手元にパルスオキシメーターがないので、電話やオンラインでの対応にも限界があります。かといって、すべての依頼を受け、往診をしたり、訪問看護に訪問させることもできません。トリアージ以前に電話対応だけで業務が回らなくなっていました。

先生は第5波でも、早い時期から地域全体の対応体制を考え、「私論」という形で8月8日のSNSで発信していらっしゃいます。
「1.地区ごとに酸素飽和度測定器、対症薬、酸素濃縮器が迅速に配置できる配送システムをつくっておく(行政か?)」「2.地区ごとに24時間コールセンター、軽症・中等症・重症のトリアージをできるようにしておく(地区医師会か?)」「3.オンライン診療・電話診療などを有効に組み合わせながら、必要な往診を的確にできるようにする。入院必要事例は速やかに保健所に連絡の上、療養継続されるときには、酸素導入や点滴を躊躇しない。(各地域医療機関)」「4.訪問看護と協働した見守り、フォローアップシステムをつくっておく(訪問看護ステーション)」「5.退院連携や、自宅での治療の在り方について、病院との協働体制をつくっておく。(病院)」というように。

それは個別対応で1つずつやらなければならなかったからです。保健所からの依頼で感染者宅に電話をすると、パルスオキシメーターどころか、体温計もないような人たちもいます。だから、まず、パルスオキシメーターを当院から届け、ご自分で酸素濃度を測ってもらい、往診が必要なのか、濃縮酸素が必要なのかを判断するということをやっていたんですが、それにはパルスオキシメーターを確保していないといけない。さらにそれを配送するシステムが必要だとか、酸素濃縮器の管理だとか・・・。やりながら必要なことを気がつかされました。

あの当時、東京で始まった第5波は、1か月から2か月でどんどん地方に波及するのではないかと心配していました。なので、ほかの地域も早く準備を始めたほうがいいと思って、ああいう提言をしたんです。

聞き手・まとめ:中澤まゆみ(ノンフィクションライター)

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