医師に聞く新型コロナ「これまでからの教訓」は?
- 作成:2021/12/15
新型コロナウイルスの「第6波」に備え、政府は公立・公的病院の専用病床化、病床使用率の向上などで新たな病床を確保。「第5波」の3割増の3・7万人が確実に入院できる体制を11月末までにつくるとしました。3回目のワクチン接種も12月から始め、経口治療薬の年内実用化をめざす、としています。しかし、楽観できないのが新型コロナ。国内の感染者は激減していますが、オランダやドイツでは感染が再拡大し、変異株「オミクロン株」が日本にも上陸しました。「第1波」が始まった昨年4月から、在宅でのコロナ感染の最前線に立ってきた、東京都新宿区の訪問診療医、英裕雄先生(新宿ヒロクリニック院長)に、第5波から学んだことと、第6波への「備え」を聞きます。(3回連載の第2回)
この記事の目安時間は3分です
8月14日には、保健所、病院、開業医、訪問看護師、ケアマネジャー、地域のいろんな専門職が集まって会議をしていますね。新宿区のこういう連携はいつごろからできていたんですか?
新型コロナに関するネットワークは、昨年の9月から毎月1回開催し、今年の8月の段階で12回、回を重ねていました。これがあったおかげで基盤管理と情報共有につながりました。病院の先生方も、行政の方々も参加されていたので、それぞれの現場、立場からの発言を聞くことで、現場だけでは見えないことがたくさん見えてきました。
第5波の特徴ですが、若い人が多かったですね。先生のところも30代から50代が多かったとか。記憶に残るケースは?
いろんなケースがありました。重症の方には酸素濃縮器を導入するわけですが、酸素濃縮器が足りなくなって、家族全員で1台の機械を使い合ったとか、いろんなドラマがありました。さまざまなお宅に伺いましたが、どこの家庭もPPE(感染防護服)をつけていてよかった、というお宅ばかり。部屋の掃除も行き届かないから汚れていて、短時間ですがゴミ屋敷のような状態になっている。そういう中で皆さん、苦しい思いをしながら暮らしている状況でした。「こんな家には来てほしくなかった」という方もいらっしゃいましたね。食事をしていないとか、水を飲んでいないという方も。
酸素濃縮器の枯渇も大きな問題になりました。新宿区は区長の英断で50本のボンベを購入したとのことでしたが。
あれは本当にありがたかったですね。我々のところには、前から親しい業者さんから優先的に入れていただけるという約束だったんですが、当時は1日8台必要な状況だったのに、入れていただけるのは週に5台まで。酸素がなくなってしまったら、どんな悲惨な情景になるのかと頭を抱えていました。保健所も危機感をもっていたので、ボンベだけでもということで、ボンベの業者さんに頼んで話を進めていったんです。
先生もFacebookのメッセンジャーで、区長に直談判したそうですね。
しました。現場はこういう状況なので、なんとかしていただけないかと。区長も危機感をもってくださって、即日業者と50本購入の契約が実現しました。あと、自宅療養中の陽性者に対する官民共同で使える医療拠点をつくってほしいと提言したら、即日、場所の検討をしてくださいました。そして、中和抗体カクテル療法入退院や陽性者の退院支援のための、陽性者の送迎サービスをつくってほしいという提言にも、さっそくタクシー会社との契約に動いてくれました。新宿医師会長からも、「すべての責任は私がとるから、現場が大切だと思うことをどんどんやってほしい!」という力強い言葉もいただきました。
新宿では開業医も参戦して、「オール新宿」が合言葉になったとか。
現場の提言を即座に実行に移してくれる行政、そして、それを力いっぱい応援してくれる医師会、PPEをつけて往診に行ったり、「夜間の電話対応するよ」と言ってくれた開業医の仲間たち…。なんと幸せなことかと思いました。でも、他の地域でも、皆さん、いろんな形で頑張っていらしたと思います。9月に杉並の保健所のお手伝いをする機会がありましたが、杉並でも「困っていたら、地域の開業医の先生方が率先して協力してくれるようになった」という話を聞きました。
昨年、お話をうかがったときには、熱発した患者やPCRの検査を、先生がひとりでされていましたね。
今回は私が全面に出るというよりは、法人全体で対応してもらいました。だから、土日は休みましたし、夜間も休ませてもらいました。夜間の当番、検査、一貫した発熱者への対応も含め、15人のスタッフが全員で対応してくれました。
今回は私が全面に出るというよりは、法人全体で対応してもらいました。だから、土日は休みましたし、夜間も休ませてもらいました。夜間の当番、検査、一貫した発熱者への対応も含め、15人のスタッフが全員で対応してくれました。
災害医療とコロナ対策の違い
コロナは災害医療だとよく言われます。そう考えるべきだという医療者もたくさんいますが、先生は「そうではなく、正しいコロナ医療を」とおっしゃっていますね。それについて、もう少し具体的に教えていただけますか?
とくに第5波は医療災害レベルとのことで、当院もそのような対応をしてきましたが、そうした救護活動だけで正しいコロナ医療に結びつくとは思えません。むしろ二度と医療災害を引き起こさない体制、つまり発熱者の予防から社会復帰までを一貫して対応できる医療提供体制こそが望まれていると思っています。
従来、コロナの医療は2類感染症ということで、地域はあまりコミットメントしてきませんでした。我々は発熱者に対して検査をして診断するところまでで、それ以上については保健所、または病院に下駄を預けるという対応だった。でも、考えてみると、すべての疾患は地域の生活の中で療養しながら改善をはかるというのが第一義的です。それができない場合は、適切な医療提供の機会を得るという意味で入院する、あるいは法定療養するというのが原則です。
それの原則が、コロナでは守られなかったと。
そうです。今回、第5波で、地域がコミットメントせざるを得ない状況になって、地域がかかわることでコロナ医療が成立することが浮き彫りになりました。具体的には、いざというときの自己管理に結びつけるための市民の啓発活動、若い人へのワクチン接種の重要性、重症化を防ぐためのトリアージの体制づくりと、電話などでのフォローアップシステムの構築、いざというときの往診システムづくり・・・。今回、入院できなかった方々を地域で支える介護体制、生活支援体制をちゃんと構築しておくべきだったと思います。これからは地域もコミットメントしながら、病院は病院の役割を、保健所は保健所の役割を発揮しながら、地域全体で支えていくコロナ医療に結び付けていく必要があると思っています。
聞き手・まとめ:中澤まゆみ(ノンフィクションライター)
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