訪問診療医が見たコロナ在宅療養「第6波」への提言
- 作成:2021/11/07
一時は日々の新規感染が5000人を超えた東京都内の新型コロナウイルス感染者も、最近では50人以下になるなど落ち着いてきました。今回の「第5波」では「自宅療養者」が急増し、全国で10万人を超え、入院が必要とされる中等症Ⅱの状態でも、感染者が入院できない異常事態に、全国各地で在宅医療を行う医師たちが往診に奔走しました。桜新町アーバンクリニック(世田谷区)の遠矢純一郎先生もそのひとり。訪問診療で見た在宅療養の実情と、この冬、予想される「第6波」への提言を聞きました。 (2021年10月4日にインタビュー。全3回の連載の3回目)
この記事の目安時間は3分です
第5波に、現場で頻発したトラブル
前回のインタビューで、自宅療養を支える在宅医と保健所との連携ミスによるトラブルが頻発したとおっしゃっていました。ほかにはどんなことがありましたか?
一家全員が時間差で全員感染してしまったお宅がありました。感染を持ち込んだ息子さんと、最初に感染した母親はすでに入院され、残されたのは父親と娘さんでした。父親はその2日前から呼吸不全に陥り、SpO2 88-90%と危険な状態でしたが、いわゆるhappy hypoxiaでじわじわ低酸素化したためか、本人にはそれほど息苦しさの自覚はないようでした。でも、SpO2は日に日に低下していたので、早急な入院治療が必要でした。
娘さんのほうは、当初は高熱に見舞われていたものの、発症7日目あたりからようやく解熱しはじめ、僕がうかがったときにはほぼ平熱化していました。ただ、往診中にもひっきりなしに咳が出て、会話も途切れ途切れになるほどでしたが、SpO2 96%と呼吸不全は見られませんでした。
父親はすぐにも入院が必要な状態なので、優先順位を上げていただくように保健所側に伝え、父親にはステロイドを、娘さんには咳止めを処方して、薬局に届けてもらうよう手配しました。それでも、その日のうちの入院は難しそうだったので、父親には在宅酸素を導入することにしました。
翌朝9時に電話をすると、父親は前日と同じように呼吸不全が続いており、入院が至急必要でしたが、娘さんのほうは咳が軽くなり、SpO2 96%で落ち着いてきているとのこと。そこで、父親にはなるべく早期の入院ができるよう保健所に連絡し、娘さんはこのまま自宅療養の継続でよさそうなので、また電話することを伝えて了解をいただきました。
それから3時間後、保健所から「父親も娘さんも入院手配ができました。これから搬送になります」という連絡が入りました。あれ、入院要請をしていない軽症の娘さんまで入院? ほかにもっと重症な方がおられるのに、なぜこちらの見立てが反映されなかったのか。これでは高リスクのなかに、身を挺して入り込む意味がなくなってしまうと思いました。
それもあって、保健所に出向いたわけですね。
在宅療養者への往診は、当日の朝、今日は何軒訪問してほしいというメールが保健所から届くことからスタートします。日々の訪問診療もあるので、これでは予定を組むのが大変です。今回のコロナ往診で、僕らは初めて保健所と直接的な連携をするようになったわけですが、どんな人たちが、どんな体制で、どんな仕事をしているのか、まったく顔が見えません。保健所側が抱える課題が見えることで、僕らの動き方も地域にさらに最適化されたものになるのではないかと考え、世田谷のコロナ往診をチームで担当しているふくろうクリニックの山口潔先生、GPクリニック自由が丘の斉藤康洋先生と3人で、世田谷保健所の感染対策課に伺いました。
課長さんたちと話してわかったのは、入院調整は東京都が一括して行っているため、地域の保健所は中等症レベルの方が発生すると都に入院要請をかけ、ひたすら返事を待っているということでした。保健所が直接、病院とやりとりをすることは許されない。災害時には然るべき体制だとは思いますが、今回のような感染爆発ではおそらく都の入院調整部もオーバーフローし、保健所への返事に時間がかかっているのも、コロナ病床の不足に加えて、調整案件の増大による処理の遅滞が影響しているようでした。
その中で、いろんな齟齬が起こってくるわけですね。
在宅往診、保健所、都の入院調整のやりとりのなかで、情報が錯綜したり、行き違いが起こることは容易に想像されます。今回のように、1日の感染者数が一気に5倍10倍になり、機能不全を起こしているのなら、早々にやり方を見直すべきだと思いました。地域のコロナ病院、保健所、在宅往診チームの間で円滑なやりとりができれば、回復フェーズに入った入院患者を早々に自宅に戻し、空いた病床に自宅で苦しむ中等症レベルを送るような動き方ができるはずです。地域の患者については地域で完結させたほうが、かえって動きがスムーズになると思います。
第6波に向け、今必要なことは
「第6波」に備えた保健所と病院、医師会が一体となった体制づくりの、芽は見えてきていますか?
保健所とのやりとりのなかで、そうした体制を深めていきましょうと話しました。区内でコロナ病床を持つ病院とも、直接やりとりできるような連携体制について相談を進めています。
実は第5波のピーク時には、3か所のクリニックだけでは対応しきれないだろうと、玉川地域では10か所の診療所が応援の手を挙げてくれまた。3か所も当番制ですが、お声かけできる先生が10か所に増えたので、すごく心強かったですね。
玉川医師会のネットワークは、もともと動きが早いですよね。
玉川で僕ら3人の医師がふだんから一緒に勉強会をしたり、在宅の専門医を育てたりすることを何年もやってきたことが、今回、すごく幸いしたと思います。普段から言いたいことを言える信頼関係があったので、あとは役割分担を決めるだけで走り始められました。
薬局の方々も動いてくださった。ステロイドが必要だと言うと、すぐに動いてくださる薬局がいくつもあったし、薬局同士がお互い声をかけあってくれたので、とても心強かったですね。訪問看護のネットワークにもおおいに支えられました。すぐに依頼に応えてくださった数か所の訪看ステーションが中心となり、玉川エリアの約10カ所の訪問看護ステーションで、コロナ在宅療養支援のための連携体制を整えてくださいました。
先生たちの日ごろのネットワークづくりのたまものですね。
実は地域の訪問看護は、医師会のような組織化がなされておらず、なかなか統率が取りにくいという背景があります。ただ今回は連絡協議会のメンバーが中心になって動き始めました。管理者同士は普段からコミュニケーションを取っていたので、そこでワッとまとまって動き始められたんです。
先生のおやりになっている勉強会に来ている人たちですか?
はい、普段からこの地域で頑張っておられる方たちです。自分たちが虚弱な高齢者宅に感染を持ち込むことへのリスク管理もあったので。コロナへの対応は在宅医も訪問看護師も最初は及び腰でした。それでもこの危機的状況に際して、自分たちがこの地域の医療を守らねばならないという使命感は強くあったと思います。
コロナ感染はこれからも続いていくと思いますが、今回、先生が学んだことがあるとすると、どんなことですか?
コロナ感染についての学びが深まりましたし、この地域の地域医療体制の定着化、保険所のことが見えていなかったこと、コロナが1年半続いてきたのに、まだこのありさまかということがあらためてわかりました。災害と一緒ですよね。実際に災害にあって、初めてこの堤防をどうしようとか考え始めるようになる。
今回は地域医療のあり方が、問われましたね。
そう思います。保健所があって、病院があって、僕ら地域の医者がいる。これだけ地域で感染爆発しているわけだから、住民を守ることが必要です。ただ医師会に所属しているだけではなく、自分もこの地域を守る役割と責任があるということを、各開業医は考えないといけないと思います。
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