家族全員コロナ感染も…コロナ「第5波」学ぶべき教訓は
- 作成:2021/11/06
一時は日々の新規感染が5000人を超えた東京都内の新型コロナウイルス感染者も、最近では50人以下になるなど落ち着いてきました。今回の「第5波」では「自宅療養者」が急増し、全国で10万人以上に。入院が必要とされる中等症Ⅱの状態でも、感染者が入院できない異常事態に、全国各地で在宅医療を行う医師たちが往診に奔走しました。桜新町アーバンクリニック(世田谷区)の遠矢純一郎先生もそのひとり。訪問診療で見た在宅療養の実情と、この冬、予想される「第6波」への提言を聞きました。 (2021年10月4日にインタビュー。全3回の連載の2回目)
この記事の目安時間は3分です
「人生で最も不安な日々」を暮らす患者さんを前に
自宅療養の患者さんは、どんな様子でしたか?
前回お話した30代の体格の良い男性は、薄暗い部屋でひとり、身動きできないほどの呼吸苦で喘いでいました。病状を伺っても、ろくに話もできない状態です。SpO2も 88-90%ですから、本来なら即入院となるレベル。苦しさのあまり前日にご自身で2度の救急要請をしたそうですが、駆けつけた救急隊も搬送先を見つけることができず、そのまま自宅に留まるしかなかった。食事も摂れず、最初に処方された解熱剤も使い果たし、高熱と低酸素の苦しみに襲われて、人生でもっとも不安な日々だったと思います。
すぐに在宅酸素を手配し、並行してステロイド治療を開始して、少しでも肺の炎症を抑え込むことにしました。そうやって時間稼ぎをすることで、なんとか病勢が落ち着いてくれることを祈るしかありません。薬局には必要な薬のお届けを、保健所には食料の配給を依頼し、当院の緊急連絡先の電話番号をお伝えして、今後は僕らがいつでも電話や往診で対応することを約束して往診を終えました。
翌日も保健所からは入院できるかどうかの連絡がなく、幸い午後には酸素濃縮器が手配できたので、酸素業者とともにご自宅に伺いました。酸素器を抱えて室内に入ってみるとベッドにもどこにも本人が居ない。保健所に問い合わせたところ、「ちょうど入院の手配ができたので、30分前に救急搬送になりました」との答え。自宅療養を支える在宅医と、入院手配をおこなう保健所が、刻々と変化する状況の中で並行して動いていることから、こうしたお互いの連携ミスによるトラブルも頻発しました。
想像と現場とのギャップに、びっくりされたこともたくさんあったでしょうね。
1年以上、コロナのことがこれだけテレビなどで報道されているのに、20代の男性がハアハアいっている横で、ガールフレンドがずっと寄り添っていたケースがありました。「いつからいますか?」と聞くと、1週間前からいるというんです。男性に「なぜ、彼女に離れろと言わないの?」と聞くと「居たいって言うから」と(笑)。いやいや、それはいくらなんでも、まずいでしょ。「危ないから、ここにいちゃいけないよ」と彼女に言い、濃厚接触者として保健所に連絡しました。その男性も呼吸困難がひどかったので、翌日には入院となりました。
在宅では換気の問題も深刻だったと思います。
病院のコロナ病床では、換気を万全にするためウイルスフィルターを常備して、医療者が容易に感染しないよう工夫していますが、自宅療養の患者さんがいるのは密閉空間。エアコンをつけていても、窓は開けていません。
回数を重ねるうちに、少しずつ慣れていくだろうと思っていましたが、目に見えないウイルスが封じ込められた在宅療養者宅のドアを開けるときには、装着したPPEやN95マスクの圧迫感もあってか、自然と呼吸が小さくなり、全身に緊張感が走りました。若い人だと、狭いワンルームでゴホゴホと咳をしながら寝ているし、家族全員が激しい咳をしているお宅もたくさんありましたから。
「家族全員感染」に見た、在宅療養での限界
家族全員が感染したお宅が多かったのも「5波」の特徴でしたね。
8月の1カ月間で、チームを組んだ3クリニックが対応したのは49ケースでしたが、その76%に家族内感染が発生していました。従来、国が軽症者の自宅療養を行ってこなかったいちばんの理由は、感染がわかった場合、ほかの人に感染させないよう即刻隔離する、というのが、伝染病法で定められた措置だからです。ところが、現状ではそうした感染者を自宅に留め置いている。
感染した方への往診をしながら、これではかえって感染者数を増やしてしまうだろうと危惧していました。とくに狭い家屋も多い東京では、感染症に対する知識の少ない一般の方が、2次感染から防護できる環境をつくるのは困難です。トイレは共用するわけだし、換気や消毒も十分ではない。やはり、本来であれば入院すべき人を自宅で診ることには無理がある。特に感染力の強い発症早期はしっかり病院で隔離して、症状の落ち着いた方を自宅で引き受けるといった、病院と在宅との役割分担をはっきりさせないと……と、つくづく感じました。
在宅酸素が足りなかったのも、大きな問題でした。
ピーク時だった8月15日に、酸素飽和度が88%の方を往診しました。肝機能も悪化し重症でしたが、当日には入院できないとのことだったので、在宅酸素事業者10社くらいに電話しました。しかし、装置はどこにもない。東京都が500台くらい確保しているという情報があったので相談しましたが、「使い切ってしまい、出せるものがない」とのこと。あのときは救命できないかもしれない、と思いましたね。翌日に酸素が確保できたのでほっとしましたが。
在宅酸素療法を導入するのはふつう1日か1晩です。しかし、感染者宅にいったん置いた酸素濃縮器は、入院や回復で不要になっても、ウイルスの活性がなくなるまで2週間程度は患者宅に置かれます。回収された酸素濃縮器は、その後、酸素業者が引き取り、消毒をし、オーバーホールをして再利用しますが、それまでには通常1カ月かかります。装置が不足した背景にはそうした事情もありました。
だったら、ボンベだけあれば酸素吸入できるじゃないか、と言ったんですが、診療報酬で支払われる対象が「酸素濃縮器あり」なので、ボンベだけは貸せないと業者は言うんです。この期に及んでそんなことを言うのかと思いましたね。診療報酬のルールなので仕方のないことですが、こうした危機的状況には臨時の措置があってもいいのにと思いました。その後、日本環境感染学会の見解を受け、厚生労働省から使い回しOKの許可が出たので、数台お借りした小型の酸素濃縮器を往診時に僕らで持参して設置し、不要になったら回収して表面を消毒して、その後、次の方に使用していました。
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