家族が「うつ病」で休職したら…周囲の対応は“4つのステージ”で変化する!
- 作成:2021/09/13
日本では、うつ病は世の中に広く認知され休職される方も珍しくなくなりました。一方で、大切な人がうつ病で休んだ場合、家族は戸惑ったり慌てたりしてしまうことがあると思います。 今回は、うつ病で休職した場合の家族の対応を、ステージに分けてケースとも組み合わせながら、精神科医が解説します。
この記事の目安時間は3分です
<ケース>
Aさんは、パートナーのBさんと3歳の子どもの3人家族です。
2カ月ほど前からBさんの元気がなく、不眠気味で食欲もない状態が続いていました。Bさんがメンタルクリニックを受診したところ「うつ病で2カ月の自宅療養を要する」と診断されました。
1.休み始めのステージ ~ 「無理のない範囲」を見極めよう
上記のケースのようにうつ病で休みが必要と診断された場合、まず家族は何をするべきでしょうか?
一番のポイントは、落ち着いて事態を受け止めることです。うつ病は辛い状態ですし軽い病気ではありませんが、一方で良くなる可能性の高い病気でもあります。慌てずに「休みが必要なんだな」と事態を受け止めましょう。
次にこのステージで重要なのは、しっかりと休める環境を整えてあげることです。休み始めの頃は、緊張の糸が切れ、今までの蓄積したダメージがどっと噴出します。この時期は、もともとの趣味などはもちろん、お風呂に入ることさえ辛いという方もいるくらいです。
そのため、とにかく休むことが重要です。例えば、家族が率先して家事を行い、身の回りのことも手伝ってあげて、無理のない範囲だけやってもらいます。「無理のない範囲」については、以下の2つのポイントを押さえておけば大丈夫です。
- ―あとで疲れることや、気合いを入れないとできないことは避ける
- ―最初に頭にポッと浮かんだことをやる
本人が無理していそうな時は「それって疲れない? 気合いを入れてない?」と尋ねてみましょう。
この時期は、「気分転換に旅行」や「大勢の人で集まる」などで元気づけようとするとかえってエネルギーを消耗してしまうので、避けた方が無難です。どうしても参加しなければいけない行事などは、主治医とよく相談しましょう。
「回復のため」と特別なことをするのではなく、本人がポッと自然に頭に浮かぶこと(第一念とも言います)だけしてもらうように心がけましょう。「回復のため」無理をさせてしまうと逆効果になってしまうことがあります。
ゴロゴロしていたければそれでOKですし、散歩など出られるようでしたらやってもらいましょう。やがて、無理なく日常のことを始め、好きなことも第一念でできるようになるでしょう。
2.回復ステージ ~ 生活リズムを戻し始める
Bさんが自宅療養をしながら通院を始めてから1カ月がたちました。当初Aさんは、Bさんに休んでもらうために家事などを中心にこなしていました。やがてBさんも徐々に元気を取り戻し、日常生活が問題なく送れるようになり、趣味だった読書などもできるようになってきました。
日常生活に支障がなくなり、徐々に趣味なども再開できるようになれば回復ステージです。家族としては、少しずつ本人ができることを増やしていけるように支援しましょう。また、生活リズムを自宅療養に入る前と同じように戻していくこともポイントです。
起床、就寝の時間を整えてもらったり、家事の分担をお願いしたりしましょう。ここでも、先ほどの「無理のない範囲」のポイントを押さえておいてください。
うつ病は状態に波がある病気です。焦らずに長い目で見ていくことが重要ですので、本人が無理をしていそうな時はブレーキをかけてあげましょう。
3.復職準備ステージ ~ 回復を確認し、再発予防も考える
AさんとBさんは相談しながら、徐々にBさんの家事の分担などを増やしていきました。Bさんは、生活リズムも仕事をしていた時のよう整い、家事や読書などで疲れることなく、活動できるようになりました。主治医からは「そろそろ復職に向けて準備をしていい」と言われ、会社の人事や産業医との面談が予定されました。
生活リズムが整い、日常生活の負担に問題なく耐えられるようになれば、いよいよ復職に向けた準備をスタートする時期になります。
復職に際して重要なポイントは、以下の2つです。
①仕事に耐えられるだけの体力・思考力が戻っていること
②再発予防策が立てられていること
①に関しては、日常生活に加えて、仕事に類した勉強をしたり図書館に通ったりして準備するといいでしょう。
②の再発予防に関しては、家族が相談相手になることが重要です。復職を焦っていないかどうか、人事や産業医に自分の気持ちや状態を伝えられているかどうかなどを確認し、時にはアドバイスしていきます。不調になった原因や対策が立てられていれば安心なので、家族だけでわからなければ主治医などに相談しましょう。
また、再発予防として家庭環境の見直しもポイントになります。仕事以外にも本人の負担になっていることがあれば、無理のない範囲で見直していきましょう。
4.復職後のステージ ~ 再発のサインを見逃さない
BさんはAさんとも相談をして、再発予防策を立てて無事復職することができました。
共働きということもあるので、定期的に惣菜を買ってお互いの家事負担を減らしたり、お互いの両親の手伝いも得て育児の負担を分散したりしました。
その後もAさんはBさんが疲れていそうな時は「無理をしないで」と声をかけ、再発予防に努めています。
復職したあとに家族ができることは、再発のサインがないか、無理しすぎていないか確認していくことです。あらかじめ、「具合の悪くなる時のサイン」を本人と共有しておくのが良いでしょう。例えば、不眠や疲れやすさ、イライラなどがサインとして表れる方が多いので、これまでの様子を振り返り、「寝付けなくなったら要注意」などと把握しておくのです。
うつ病は再発しやすい病気でもあるため、復職後も油断せずに様子を見て、徐々に100%を目指すのが理想です。
また、全体を通して言えることですが、きちんと服薬ができているか確認することも重要です。
服薬の管理は本人が基本ですが、状態が悪い時や忙しい時などは忘れがちです。お互いの見える場所にお薬を置いておいたり、服薬カレンダーなどを使って無理なく管理できるようにしておきましょう。
5.サポートする家族の心掛け ~ 一人で抱え込まず、共倒れに注意する
他にも家族としては下記のような点を心がけると良いでしょう。
①色々な手続きの手伝い
うつ病などメンタル疾患で通院をする場合は、「自立支援医療制度」が使えることがあります。収入に応じて医療費を補助してくれる制度です。主治医や居住地の自治体に問い合わせてみてください。
また、会社との手続きや傷病手当金などの申請が必要になる場合があるので、本人が難しい場合は手伝ってあげるといいでしょう。
②主治医とのやりとり
うつ病で辛い時期は話したいことがまとまらなかったり、聞いたことがよく理解できなかったりします。そのため、通院に同行するのも良いサポートになります。 同行が難しい時は、本人に主治医宛の手紙などを託しても良いでしょう。
もし、家族が主治医としっかりと話したい場合は、事前に電話などで問い合わせてみてください。時間を確保してくれる場合もあります。
③共倒れはしない
ある意味で、ここが一番重要なポイントになるのですが、うつ病の本人をサポートしようとするあまり、家族が倒れてしまっては元も子もありません。自分の生活は維持しつつ、必要に応じて相談できる専門家などとも繋がっておきましょう。
相談できる相手としては以下が挙げられます。
- 親族や友人
- 家族会(例:全国各地にある会、オンライン家族会)
- こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)
- 精神保健福祉センター、保健所
- 医師、臨床心理士
うつ病が世の中に広く認知されたとは言え、いざ自分の身内がうつ病になり休養が必要になると慌ててしまうことでしょう。性別、年齢にかかわらず、どんな人でもうつ病にはなり得ます。対応は変わらないので、大切な家族を守るためにもこの記事を参考にしていただければと思います。
弘前大学医学部卒業後、東京女子医科大学精神科で助教、非常勤講師を歴任。 現在はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷の副院長とスタートアップへのアドバイザー業務を務めるとともに、企業や行政機関の産業医を10か所以上担当。ブログや著作、研修などを通じて、メンタルヘルスや健康経営、産業保健の情報発信も行っている。 共著に「企業はメンタルヘルスとどう向き合うか―経営戦略としての産業医 」(祥伝社新書)がある。
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