認知症の最終段階と、お別れに対して、どのように向き合うか。親も子も気張らない「人生会議」で、今を大切に生きる。

  • 作成:2022/03/22

認知症の最終段階はどのようなものでしょうか。そして、認知症の家族を看取ることや、お別れすることを、どのように考えればよいでしょうか。今回は、認知症の人の、人生の最終段階についてお話します。超高齢化社会、多死社会を迎えるにあたって、高齢世代だけではなく、若い人にとっても考えておきたいテーマです。

アスクドクターズ監修ライター アスクドクターズ監修ライター

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認知症の最終段階と、お別れに対して、どのように向き合うか。親も子も気張らない「人生会議」で、今を大切に生きる。

重度の認知症では、体の合併症を念頭においた介護が必要になる。

中等度~重度の認知症では、移動や食事などの基本的な日常生活動作の障害が目立つようになります。筋肉がこわばり、関節が固くなるために、動作や姿勢がぎこちなくなります。転倒して骨折するリスクが高まります。

また、嚥下機能(飲み込み)が悪くなると、窒息や誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなります。食事量が減って栄養状態が悪くなると、褥瘡(じょくそう=床ずれ)などの皮膚のトラブルや、肺炎などの感染症にかかりやすくなります。

これらの合併症は命に関わることがあります。合併症は、予防しきれるものではありませんが、できるだけ安全、安心に生活するために、常時の介護が必要になります。

末期の認知症を考える3つの条件。そして、お別れまでに起こること。

「家族を識別することができない」「言語的コミュニケーションはごく僅かに限られている」「日常生活にすべて介助が必要である」という3つの条件が揃った状態の認知症の人を観察した研究があります。
この研究では、18ヶ月間観察した時点までに、41%が肺炎を発症し、53%が発熱し(肺炎を除く)、86%が食事の問題(摂取量の低下、嚥下障害など)を起こし、55%が死亡していたと報告されています(引用1)3つの条件が揃ってくると、お別れを考えなければならないと認識する必要があります。

認知症の人の最終段階は、食事や水分の摂取にムラがみられます。肺炎や心不全などの身体合併症を繰り返したり、ゆっくりと良くなったり悪くなったりしながら徐々に衰弱が進みます。

言葉でのやり取りが難しくなりますが、そばにいてあげること、視線を合わせてあげること、声をかけたり、なでたり手を握ってあげることは、本人にも伝わっていると考えられます。呼吸が不安定になりますが、死を目前とした自然なものであることが多いです。尿の量が少なくなって、ほとんど尿が出なくなると、まもなく死に至ります。個人差もあり、正確な死期の予測は難しいことが多いです。

人生の最期をどうするか話し合う「人生会議」

人生の最終段階で、どのようなケア、医療を行うかの正解はありません。人生の最後の段階を、どのように迎えるかを決めることを「Advanced care planning」(ACP)と呼びます。「人生会議」と呼ぶことも提唱されています。ACPの考え方の軸として、本人の希望、家族の希望、現実的に実施できる状況にあるかどうか、の3つの視点が大切です。

①本人の希望

最期についての本人の希望は、尊重される必要があります。最近は、本人が認知症になる前に、自分の希望を文字で残している人や、家族に伝えていることもあります。しかし、多くの場合は、認知症が始まってから、長い期間が経っていますので、最後の時点での本人の意志は、家族でもわからないことが少なくありません

その場合は、家族が知っているその人の人生を軸に考える必要があります。医療者・介護者は、その人が認知症になる前の姿を知らないことが普通です。人生の統合、つまり、認知症の人が、「いい人生を生ききった」と思うことを支援するためには、認知症の人の人生と、「その人らしさ」についての情報、そして現状の快・不快といった状況を、関係する人で情報共有することが大切です。

②家族の希望

家族は、介護のために生活が変化し、BPSD(行動・心理症状)や合併症の対応をして、様々な経験をしてきています。やりきったという思いと同時に、後悔もあるはずです。最期を迎えるにあたって、家族の想いや希望もあるのが当然です。認知症の人の人生は、その人だけのものではありません。家族の希望も、関係する人で情報共有する必要があります。また、家族に過度な負担がかかっている状況や、お金のこと、関われる人が誰か、などの個別の条件も共有します。

③現実的に実施できるか

医学的な情報として、最期までに起こる身体的な変化を関係者で確認します。その上で具体的に実施する医療処置や終の棲家について検討します。在宅か、施設か、病院かによって、介護者のマンパワー、利用可能なサービスや医療資源が変わるので、ケアの内容や医療的処置が実現可能かどうかも変わってきます。

本人の意思、家族の思い、医療・介護関係者の情報を共有する

痛い、辛い、苦しいを、できるだけ減らすことで、本人が身体的にも精神的にも、少しでも心地よく過ごせるようなケアの可能性を最後まで繰り返し検討し、実施します。
胃ろうや点滴などの医療的処置は、メリット・デメリットがあります。本人の人生の最期に必要なものであれば実施を考えますし、必要がないなら実施しなくても構わないでしょう。関係者が納得して合意していくこと大切です。

このように本人、家族、医療者、介護者の情報をすべて共有した上で、実現可能な処置を合意していくことを「Shared Decision Making」(SDM)と言います。家族だけで、悩むことはありません。関係者も含めて、皆で本人に向き合っていくことが大切です。

人生会議は、気張らない

高齢期の家族がいる家庭では、お別れについて考え、話し合っておくことをおすすめします。これは、人生の最終段階で、本人の人生の統合に役立つだけではありません。人生会議で、本人の希望がわかることは家族にとってもよいことです。

完璧なお別れというのは難しく、多少は後悔が残るものです。しかし、本人の希望がわかれば、できる範囲で精一杯本人に向き合あったと思えることは多くなります。家族にとっては、お別れを乗り越えて、新しい生活を始めやすくなるでしょう。
「人生会議をしなければ」と気を張る必要はありません。親と子の間の、ちょっとした会話でも構いません。お別れを考えることで、今この瞬間が、とても大切であると、感じられると思います。

まとめ
1.重度の認知症では、身体合併症への対応が重要になる。
2.認知症の予後予測は難しいが、亡くなるまでの経過を知識として知っておく。
3.人生の最終段階で、どのような対応をするかを、決めることをACPという。
4.看取りにおいては、本人の希望や人生を反映して、人生の統合を支援する。
5.情報を共有して、関わるすべての人の合意を目指すSDMというプロセスを通して、認知症の人に向き合う。
6.気張らない人生会議を通して、今をより良く生きる。

引用
1) Mitchell SLら、N Engl J Med 2009

千葉悠平

精神科医 医学博士
精神保健指定医
日本精神神経学会専門医 指導医
日本認知症学会専門医 指導医
積愛会横浜舞岡病院 医師
YUAD 代表
認知症の早期診断、画像診断、バイオマーカーなど、認知症について総合的に臨床・研究を行っている。

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