「発達障害が食事で治る」はウソ。正しい情報の入手方法を覚えておこう

  • 作成:2022/04/30

こんにちは。外科医ちっちです。インターネットが普及し、誰もが発信できるようになった弊害は、「偽情報を、さも真実のように語る人」が現れたこと。何割かの人は、その偽情報を鵜吞みにしています。 今回は、特によく見かける「サプリや特定の食べ物で発達障害が治る」はウソである根拠と、正しい情報を手に入れる方法をお伝えします。情報化社会の今、自身で正しい情報を得て考え、判断できるすべを身に付けることが必要です。

外科医ちっち 監修
 
外科医ちっち 先生

この記事の目安時間は6分です

うちの凸凹−外科医と発達障害の3人姉弟−「発達障害が食事で治る」はウソ。正しい情報の入手方法を覚えておこう

*私は医師免許を持っていますが、専門は外科で小児発達の専門ではありません。あくまで、「非専門医が興味を持って少し調べた結果、こう思った」程度のことです。

発達障害が○○で治るはウソ。根拠は何?

サプリや特定の栄養素で発達障害が治らないという根拠はひとつ。発達障害は「脳の機能の問題だから」です。そうしたもので脳機能が劇的に変化するとは考えられません。
「発達障害は治らないのか?」という疑問の答えは「Yes」です。ただ、治ることはありませんが、症状の緩和や対応の工夫はできます。発達障害の困りごとは、環境調整や認知行動療法などによって減らすことができます。経験や成長によって、本人が対処できることも増えていきます。

自分で考え、判断するために必要なこと。正しい情報へのアクセスの仕方

ここからは少し専門的な話になります。
医師は、医学の正しい情報を手に入れたい時、世界中の医学論文を読みます

【医学論文とは?】

病気に対して有効な治療法が見つかった時に、医師は論文にして発表します。実験や観察の結果、「客観的にこの治療が効いた」という結果を発表し、これをもとに全世界の医師がその情報の検証と利用をしています。

【医学論文の調べ方−基本】

最も大きい論文検索サイトとして、世界(英語)では「PubMed」、日本では「医学中央雑誌」があります。私たち医師が詳しい治療法を調べる時や、学会発表・論文投稿する際にもここで検索します。

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実際に「発達障害・自閉症と食事療法」について調べてみましょう。

PubMedで検索してみます。

【キーワード】

  • 自閉スペクトラム障害 Autism spectrum disorder 
  • 発達障害 developmental disabilityと食事(diet)や栄養療法(Nutritional therapy)
  • 類義語含む
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このように検索結果が出ました。当然のことなのですが、英語です。この中から、10年、20年以上前の古いもの、手法・結論が客観的ではないものを除いていきます。その上で、検索結果をひとつずつ読みます。

医学中央雑誌でも同様に検索し、論文を読むと、根拠のある情報を得ることができます。

ところで、日本の医学論文ではない、民間サイトによると、「タンパク質を多く摂る」「鉄分を摂る」と自閉症が改善するという文言を見かけます。

しかし、日本の論文では、特定の栄養が自閉症や発達障害を改善させるというものはありませんでした。

海外の論文で報告がいくつかあるのが、Ketogenic Diet(ざっくり言うと「低炭水化物・高脂質食」)、Gluten Free Casein Free (GFCF)(ざっくり言うと「小麦粉・牛乳除去」)で効果があった人がいるというものでした。

でも、ここで注意が必要です。

「症状が良くなった」という情報だけで治療効果は判断できない

うちの凸凹−外科医と発達障害の3人姉弟−「発達障害が食事で治る」はウソ。正しい情報の入手方法を覚えておこう

症状が良くなった=治療の効果ではありません。

「試した→良くなった→だから効いた」という情報は、何となく正しそうにも見えますが、症状が変動する場合や、自然に治る病気の場合は成り立ちません。

たまたま、その治療を受けた人が治療に関係なく良くなったのか、それとも多くの人にその治療が有効なのかを確かめなければいけません。

確かめる方法としてわかりやすいのは、多くの人を集めて、半分の人を治療し、半分の人は偽薬だけにして、似たような集団の平均を比較するとどうなるかを調べる方法です。
多くの人をふたつに分けたので、本来ならふたつのグループの結果は大体同じになるはずです。だからこそ、片方に治療、片方を偽薬とすると、治療の影響を測れると言うわけです。

これをRCT( Randomized Controlled Trial)、日本語ではランダム化比較試験と言います。理想的には、患者も医師も、その人が治療群なのか対照(偽薬)群なのかを知らないことです。結果に思い込みが影響しないので、より信頼性が高まります。そのように、患者にも医師にもどちらの群か知らせない研究をDouble blind(二重盲検)と言います。

さて、自閉症の患者さんを無作為に治療か、偽薬(もしくは無治療)と分けて確かめたRCTの結果は、治療食と普通の食事で自閉症の症状に目立った違いはないのです。

溢れる情報に踊らされず、冷静な判断を

今のところの結論は、「自閉症や発達障害に明らかに効果の高い食事療法はない」ようです。
少なくとも、私が自分の子どもに試そうと思うほどの論文、エビデンス(根拠)はありません。

自閉症や発達障害の子どもは、もともと偏食があることが多いので、成長に必要な栄養素が足りなくなりやすい、場合によってはサプリメントで補ったほうがいいというのは事実だと思います。
特定の栄養素をたくさん摂るよりも、満遍なく栄養が摂れるようになることが、まずは一番だと思います。

最後に大切なのでもう一度言います。

発達障害が『治る』はウソです。
本人の成長や環境に適応することで、発達障害による困りごとが減ることはあります。でも、脳の機能の問題なので治りません。

正しい情報を手に入れるためには、実験や研究を通して根拠のある結論を出している、論文を参考にするとよいでしょう。

今回は発達障害と食事について実際に調べましたが、ほかにも臍帯血、タンパク質、ビタミン……様々な情報が溢れています。発達障害や病気で藁にもすがりたい保護者の気持ちを利用して、金儲けをしようとしています。その情報が正しいのか、出所は確かなのかなど、冷静な判断ができるようになることが必要です。

外科医師。妻(看護師はっは)と発達障害3児の育児中。記事中のイラストは、看護師はっはが担当。著書『発達障害の子を持つ親の心が楽になる本』(SBクリエイティブ)が2024年9月発刊予定。
・ブログ:「うちの凸凹―外科医の父と看護師の母と発達障害の3姉弟
・ブログ:「発達障害の生活は試行錯誤で楽しくなる
・note:https://note.com/titti2020/
・Twitter:@surgeontitti

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