しつけの問題? ワクチンが原因? 発達障害にまつわる「デマ」が母親たちを苦しめている

  • 作成:2022/02/02

親世代が子どもだった頃に比べ「発達障害」という言葉は身近になりました。それだけに、発達障害にまつわる誤った説が出回ることも増え、不安に陥る親、それも母親は多いようです。小児科医の森戸やすみ先生は、「不必要に母親を責めないで」と警鐘を鳴らします。

森戸 やすみ 監修
どうかん山こどもクリニック 
森戸 やすみ 先生

この記事の目安時間は3分です

しつけの問題? ワクチンが原因? 発達障害にまつわる「デマ」が母親たちを苦しめている

発達障害は脳機能の障害で、育て方は関係ない

まず初めに、発達障害の定義を確認しておきましょう。
政府広報オンラインには、発達障害は「広汎性発達障害(こうはんせいはったつしょうがい)、学習障害、注意欠陥多動性障害など、脳機能の発達が関係する障害」とあります。日本小児神経学会のQ&Aでは、発達障害者支援法において「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などの脳機能の障害で、通常低年齢で発現する障害」と定義されています。

日常的には、ちょっと変わったところがある人や困った子のことを「発達障害ではないか」とか、「親の育て方のせいでは」などと言う人がいますが、それは間違いです。発達障害は「変わった子」という意味ではなく、医学的、法律的な定義があるのです。
脳機能の特徴なので、生まれてから成長過程のどこかで突然、発達障害になるわけではないし、親の育て方が悪いわけでもありません。血筋や家系のせいでもありません。また、特定の食べ物やサプリメント、薬で発達障害が治るかのように言う人もいますが、それも間違いです。

ワクチンが発達障害と関係というデマも

ネット上などで、混合ワクチンやワクチンに入っている水銀のせいで自閉症になるという話が出回っていたことがあり、心配に思っている人がいるかもしれません。でも、それはデマです。
もともとはイギリスの医師だったウェイクフィールドが、「3種混合のMMRワクチンではなく、麻疹、おたふく風邪、風疹それぞれの単独ワクチンなら自閉症などの発達障害にならないので安全だ」と主張したことがきっかけでした。でも、彼は単独ワクチンの特許を持っていました。MMRワクチンの論文を捏造して、自分の利益になるようなことを言ったのです。

後に第三者機関による多くの研究が実施され、混合ワクチンと自閉症の関係は否定されています。ウェイクフィールドは医師免許を剥奪されました。

水銀のチメロサールや重金属が発達障害との関連があるという説も流布しましたが、医学的根拠はありません。もちろん重金属を取り除くというキレート療法も、発達障害を改善しません。治療効果が認められれば標準治療、つまりスタンダードな治療方法として採用されますが、そのようなことはなくキレート療法は保険診療ではありません。

「愛情不足」を唱えた医師は、自説を撤回している

育て方と発達障害に関係するという間違った考え方は古くから存在し、いまだに親たち、特に母親たちを傷つけています
アメリカで初めて児童精神科医を名乗ったカナーが、1943年に「自閉症児の母親には愛情がない」と言ったことが、その間違った考え方の発端となりました。その後、アメリカの精神分析学者ベッテルハイムが追従し「冷蔵庫マザー」という言葉を広めました。母親による温かみのない不適切な養育方法が、発達障害の原因だというこの考え方は、1950年代にとても流行りました。
しかし、1964年から専門家たちによる反論が本格的に出始め、言い出したカナーは自説を1969年に破棄し、論争は集結したかのように見えます。

それでも、「父親は外で仕事をして、母親は家庭で家事と育児」という性別役割分業がまだ大勢の国々では、いまだにこの古い誤った説が生きています。子どもに、他の多くの子どもと違ったところがあると母親が非難されるのです。

子どもの人格形成のため、3歳までは家庭で母が育児をするべきだという「3歳児神話」も、すでに国内外で否定されているものの、やはり信じている人がいます。
もともとは1951年に精神科医のボウルビィが示した理論ですが、彼が言いたかったのは幼少時に信頼できる大人との愛着関係を築くことが大事だということでした。これが曲解され、人格形成が母親の責任であるかのように印象づけられています。

家庭で母だけが育児をすることがすべての人に最適ではありませんし、それが義務でもありません。両親ともに育児に関わったり、周囲の大人と接したり、保育園に通うなどすることは、子どもにとって悪くないどころかむしろ良い面がたくさんあります。

子どもに発達障害があると、不必要に母親が責められがち

また、発達障害が急に増えてきた、昔はいなかった、現代的ななにかの原因があるからだという人がいますがこれも間違いです。

昔からずっとあった病態でも、名前がつけられ定義がはっきりすると一時的にその病態が増えるのはよくあることです。一時的に過剰診断が増えたり、医師や専門家ではない人たちによる決めつけ、本人たちの思い込みが流行ったりするのです。
過去には「育児ノイローゼ」「アダルトチルドレン」「新型うつ」などが増加したかのように言われました。マスコミなどで取り上げられて急増したような印象を持つものの、実際の統計では増えていないということもあります。少年の起こした凶悪犯罪は、センセーショナルに報道されますが実際の件数は減っているのと同じです。

残念ながら、子どもが病気やケガをしたときや、困った行動をしたときに、医師をはじめ子どもに関わる専門家が、親、とりわけ母親に「愛情不足」という言葉を使うことがあります。間違っているうえに、不適切でご家族との信頼関係を壊す原因になります。そんな不名誉なことを言われて、次回も子育ての相談をしたい人がいるでしょうか? 

繰り返しますが、「親のしつけが悪かったから」「愛情を持って接しなかったから」発達障害になるのではありません。不必要に母親を責めないで下さい。

1971年、東京生まれ。小児科専門医。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内のどうかん山こどもクリニックに勤務。『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』(内外出版社)、『小児科医ママの子どもの病気とホームケアBOOK』(内外出版社)など著書多数。二児の母。

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