食欲旺盛なのに、なぜかやせる。息切れや動悸、イライラも…。もしかして甲状腺ホルモンが多すぎる病気?
- 作成:2022/06/08
喉のほぼ中央にある甲状腺は、「甲状腺ホルモン」を作っている臓器です。甲状腺ホルモンは、ちょうどいい量が分泌されることが重要で、多すぎても少なすぎても様々な不調をきたします。仮に甲状腺ホルモンが多すぎると全身の代謝が高まり、息切れや動悸・手の震え・多汗・食欲旺盛なのにやせる・倦怠感・下痢・イライラなどの症状が現れます。今回は、甲状腺ホルモンが多すぎて起こる病気について、専門医の法村尚子先生に解説していただきました。
この記事の目安時間は3分です
免疫の誤作動で起こる「バセドウ病」
甲状腺の病気の中でもよく知られるのがバセドウ病は、免疫の異常によって発症します。免疫が正常にはたらいていれば、外敵が体に入ってきたときに抗体を作り、身を守ります。ところが、バセドウ病では自分を攻撃する自己抗体(TRAb、TSAb)を作ってしまい、この抗体が甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるようになります。
【主な症状】
- 甲状腺が大きく腫れる
- 頻脈
- 眼球突出(目が外側に飛び出し、見た目の変化が起こることも)
ほかに手の震えや多汗、食欲旺盛なのにやせる、倦怠感、下痢、イライラなど。喫煙は眼球の症状を悪化させますので、禁煙を心掛けてください。
【診断】
症状などからバセドウ病が疑われた際には、血液検査で甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモン、自己抗体などを測定します。また、甲状腺の大きさを診たり、腫瘍がないか診るため甲状腺エコー検査を行います。より確実な診断のために、アイソトープを用いた画像検査(放射線性ヨウ素の摂取率検査、テクネシウムの摂取率検査)を加えることもあります。
【治療】
1)薬物治療
甲状腺ホルモンの分泌を抑える内服薬「抗甲状腺剤」を使用する方法です。
治療の中で最も手軽なため、多くの場合、まずは薬物治療から始めます。薬で甲状腺ホルモンの分泌を抑制できれば、2カ月ほどで正常化します。しかし、副作用(血液中の顆粒球が失われる無顆粒球症、かゆみ、肝機能異常など)の頻度が比較的高く、治療効果にも個人差があります。また、一旦落ち着いても、再燃、再発することもあります。動悸や手の震えがひどい場合は「β(ベータ)ブロッカー」という動悸や震えを抑える薬を併用することもあります。薬物療法を2年以上継続しても薬を中止できる見通しが立たない場合は、別の治療法も検討します。
2)放射性ヨウ素内用療法
放射性ヨウ素のカプセルを飲む治療です。放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれると、甲状腺ホルモンの産生が抑えられます。ただし、甲状腺の機能が低下しすぎて、甲状腺ホルモン薬の補充が必要となる場合もあります。まれに眼球の症状が悪化することがあることも報告されています。放射線を使用するので、小児や妊婦・授乳婦はできません。
3)手術
甲状腺ホルモンを過剰に分泌している甲状腺を摘出します。最も早く確実に効果が得られる方法です。当院では、再発を防ぐために全摘を検討することが多く、術後は甲状腺ホルモン薬でのホルモン補充が必要となります。
手術のデメリットとしては、首に傷が残る、合併症が起こることがある(出血、感染、反回神経麻痺による声がれ、低カルシウム血症等)が挙げられます。
バセドウ病は治療をせずに放置すると、心臓や肝臓に異常を来たしたり、高血糖になったり、骨がもろくなったり、妊娠にも影響します。また強いストレスを受けた際に、甲状腺ホルモンが突然高値になる「甲状腺クリーゼ」になった場合は、命にかかわることもあります。バセドウ病になったら、適切な治療を受けることが必要です。
甲状腺の中にしこりができる「機能性甲状腺結節」
甲状腺の中に甲状腺ホルモンを産生する結節(しこり)ができ、甲状腺ホルモンが過剰になる病気です。結節は一つだけのこともあれば、複数ある場合もあります。
【主な症状】
- 甲状腺のしこり
そのほか息切れ、動悸、手の震え、多汗、食欲旺盛なのにやせる、倦怠感、下痢、イライラなど。
【診断】
血液検査での甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモン、自己抗体を測定します。甲状腺エコー検査、甲状腺シンチグラフィーなどの画像検査も行います。
【治療】
手術での摘出、放射性ヨウ素内用療法、腫瘍にエタノールを注入して腫瘍を壊死させる「経皮的エタノール注入療法」、ラジオ波やレーザー等で病巣を熱焼する方法などがあります。甲状腺ホルモンが過剰で、動悸や手の震えがひどい場合はβブロッカーを投与することもあります。
甲状腺に炎症が起こり、痛みや発熱を伴う「亜急性甲状腺炎」
甲状腺に炎症が起こり、甲状腺が壊れて甲状腺ホルモンが漏れ出し、体内の甲状腺ホルモンが過剰になる病気。原因ははっきりわかっていませんが、ウイルスが関係しているとも言われています。
【主な症状】
- 痛みや発熱などの炎症症状
そのほか息切れ、動悸、手の震え、多汗、食欲旺盛なのにやせる、倦怠感、下痢、イライラなど。
【診断】
血液検査で甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモン、自己抗体、炎症反応を測定するほか、甲状腺エコー検査なども行います。
【治療】
基本的には数カ月で自然軽快します。痛みや発熱の症状がひどい場合は、抗炎症薬やステロイドの投与も行います。甲状腺ホルモンが多く動悸や手の震えがひどい場合は、これを抑えるβブロッカーを投与することもあります。
甲状腺が壊れて甲状腺ホルモンが漏れ出す「無痛性甲状腺炎」
何らかの原因で甲状腺が壊れて甲状腺ホルモンが漏れ出し、体内の甲状腺ホルモンが過剰になる病気です。亜急性甲状腺炎とは違って痛みや発熱などはありません。
【主な症状】
息切れ、動悸、手の震え、多汗、食欲旺盛なのにやせる、倦怠感、下痢、イライラなど。
【診断】
症状として痛みを伴わないこと、ほかのタイプと同様に血液検査による甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモン、自己抗体の測定、甲状腺エコー検査を参考にして診断します。ただし、バセドウ病との鑑別が難しい場合、アイソトープを用いた画像検査(放射線性ヨウ素の摂取率検査、テクネシウムの摂取率検査)で、鑑別することもあります。
【治療】
基本的には数か月で自然軽快します。甲状腺ホルモンが多く、動悸や手の震えがひどい場合はβブロッカーを投与することもあります。
原因が甲状腺以外にある病気
脳に異常が起こる「TSH産生腫瘍」
脳の下垂体に、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を産生する腫瘍ができ、必要以上に甲状腺へ指令を出して、甲状腺ホルモンが過剰になる病気。治療の第一選択は手術での摘出ですが、薬物治療や放射線治療を併用することもあります。
一時的に起こる「妊娠性一過性甲状腺機能亢進症」
妊娠初期に分泌されるホルモン「ヒト絨毛性(じゅうもうせい)ゴナドトロピン(hCG)」が甲状腺を刺激して、一時的に甲状腺ホルモンが過剰になる病気。妊娠中期ころには自然に軽快することが多いものです。
香川大学医学部医学科卒業。乳腺専門医・指導医、甲状腺専門医、内分泌外科専門医、外科専門医等の資格を持つ。医学博士。患者さんの立場に立ち、一人一人に合った治療を提供できるよう心掛けている。プライベートでは1児の母。
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