妊活や不妊治療を始めるときに知って欲しい3つのこと
- 作成:2022/09/19
2022年4月から不妊治療の保険適用が拡大され、不妊治療を開始される方が増えていると言われています。今回は、淀川キリスト教病院産婦人科医の柴田綾子先生が、これから妊活や不妊治療を始めるときに、ぜひ知って欲しい3つのことについて解説します。
この記事の目安時間は6分です
<目次>
1.「排卵日しか妊娠しない」は誤解
妊活で多い勘違いは「排卵日に性行為をしないといけない」というものです。
タイミング法では「排卵日に合わせて性行為をしなければ」とプレッシャーに感じている方が多いのですが、実は排卵日当日よりも「排卵日前の数日間」のほうが妊娠率は高いという報告があります。米国生殖医学会の自然妊娠の提言では、排卵日の2日前は一番妊娠率が高く、排卵日5日前から排卵日まで妊娠率が上がるというデータを紹介しています(図1)。
「排卵日に絶対に性行為を合わせなければ」と考えると、お互いプレッシャーに感じてしまいギクシャクしてしまうこともあります。「排卵日前の数日間は妊娠率が上がる」と考えると、少し気持ちに余裕ができるかもしれません。
生理アプリなどの排卵日予測や薬局で販売されている排卵日予測検査薬は、性行為のタイミングを合わせるのに役立ちます。妊娠しやすい日は、排卵日だけではありませんので、「排卵日前の数日間」に性行為のタイミングを合わせるようにしてください。
米国生殖医学会の提言では、「男性は禁欲しすぎると精子の数や質が落ちてしまうため、5日以上精子をためないように」や、「タバコやカフェインの取りすぎは妊娠率が下がったり、流産リスクが上がったりするので注意」と書かれています。(参考1)
実は、精子は貯めすぎると運動率などが下がってしまい逆効果です。精子は毎日つくられているため、適度にマスターべーションをしたほうが精子の質が保たれます。
タバコは、卵子と精子の両方の質を下げてしまいます。タバコにより精子の濃度や運動率が下がり、妊娠したあとの流産率も高くなると報告されています。妊活を始めたら女性も男性も禁煙をお勧めしています。そして、カフェインはコーヒーや紅茶、エナジードリンクに多く含まれているので、妊活中や妊娠中は1日200mg以下にするようにしてください。
図1.排卵日と妊娠率の関係
2.パートナーと一緒に早めに不妊症の検査を受けよう
2022年4月から不妊治療の保険適用が拡大されました。これにより不妊治療にかかる負担が大きく減った方もいる一方で、保険適用には年齢や治療回数(体外受精)などの制限があることに注意が必要です。
<保険適用となる年齢や体外受精の回数の要件(参考2)>
- 女性の年齢が43歳以下
- 40~43歳の方は通算3回まで
- 40歳未満の方は通算6回まで
上記の条件を超えてしまった場合、不妊治療は自費となり、治療費が高くなってしまいます。不妊治療は女性のホルモンや生理に合わせて治療をするため、毎月1回しかチャンスがなく、治療を開始してもすぐには妊娠できないことも多いです。
不妊治療開始時には保険適用になっていても、治療期間が長くなってくると、年齢が高くなり保険適用の条件から外れてしまうこともあります。
ご自身やカップルで妊活をしているのに妊娠しない場合、早めに不妊症の検査を受け、治療を開始することをお勧めしています。
また、保険適用で不妊治療を受ける場合には、ご夫婦(カップル)で一緒に受診し、医師と治療計画を立てることが必要条件になっています。不妊症の検査を受けるときは、ご夫婦(カップル)で一緒に受診してください。(※事実婚でも不妊治療の保険適用は受けることが可能です。(参考2))
3.新型コロナウイルスのワクチンは接種できます
妊活中や不妊治療中、妊娠中でも新型コロナウイルスのワクチンは接種できます。新型コロナウイルスのワクチンを接種しても、妊娠しにくくなるという報告はありません(参考3)。
アメリカとカナダの女性2100人を対象に調べた研究では、新型コロナのワクチン接種後も、妊娠率は下がっていませんでした。また、新型コロナに感染してしまった男性では、妊娠率が下がっていることも分かりました(参考4)。
妊活中に新型コロナウイルスに感染してしまうと、隔離期間などで妊活や不妊治療が遅れてしまうこともあります。ぜひ早めのワクチン接種をご検討ください。
参考資料
1)Optimizing natural fertility: a committee opinion Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine and the Practice Committee of the Society for Reproductive Endocrinology and Infertility. Fertil Steril 2022;117:53–63
2)厚生労働省. 令和4年4月から不妊治療が保険適用されます(リーフレット)
3)厚生労働省. 不妊になるって本当?妊娠中でも大丈夫?女性のための新型コロナワクチン(mRNAワクチン)解説.
4)Amelia K Wesselink, Elizabeth E Hatch, Kenneth J Rothman, Tanran R Wang, Mary D Willis, Jennifer Yland, Holly M Crowe, Ruth J Geller, Sydney K Willis, Rebecca B Perkins, Annette K Regan, Jessica Levinson, Ellen M Mikkelsen, Lauren A Wise, A Prospective Cohort Study of COVID-19 Vaccination, SARS-CoV-2 Infection, and Fertility, American Journal of Epidemiology, Volume 191, Issue 8, August 2022, Pages 1383–1395,
2006年 名古屋大学情報文化学部を卒業し群馬大学医学部に編入
2011年 沖縄で初期研修を開始し、2013年より現職
世界遺産15カ国ほど旅行した経験から、母子保健に関心を持ち産婦人科医となる。著書に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社,2017)、『産婦人科ポケットガイド』(金芳堂)、『女性診療エッセンス100』 (日本医事新報社)など。
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