不妊治療をタイミング法から薬、体外受精まで解説 期間の目安は?薬の副作用、人工授精、手術、費用、保険適用も解説
- 作成:2016/07/27
一言に、「不妊治療」といっても多様な種類があります。病気が原因となっていれば、病気の治療をしますし、手術をすることもあります。性交(セックス)のタイミングを見計らう方法から、体外受精まで、専門医師の監修記事で、わかりやすく解説します。
この記事の目安時間は6分です
不妊治療の流れ 段階を踏む必要がある?
不妊治療の種類の概要
タイミング法とはどんなもの?
女性の不妊治療で使う薬はどんなもの?クロミッド?副作用はある?
女性の不妊治療で使う注射はどんなもの?自己注射?副作用はある?
男性の不妊治療の薬はある?
人工授精とはどんなもの?国内でできる?
人工受精をするタイミング
体外受精とはどんなもの?
体外受精のメリット
人工受精や体外受精は日本でできる?
不妊治療で、女性が手術を受けることがある?
不妊治療で、男性が手術を受けることがある?
顕微授精とはどんなもの?
不妊治療の費用はどれくらい? 保険適用になる?
費用に男女差はある?
総額はどれくらい?
不妊治療に助成金が出る?
不妊治療にかかる期間はどれくらい?
不妊治療の流れ 段階を踏む必要がある?
不妊治療はまず検査で不妊の原因を解明し、年齢や原因を考慮して、治療を開始します。子宮や卵巣、卵管に明らかな異常がある場合には、まず手術を行います。排卵障害やホルモン分泌の不全、高プロラクチン血症、甲状腺機能亢進症などの病気がある場合には、内服薬などで正常になるように治療します。
明らかな原因がない場合や、女性の年齢が若い、精子に異常がない場合にはタイミング法から開始します。タイミング法は、超音波検査や黄体化ホルモン分泌の測定により、排卵の時期を推測し、性交(セックス)を行う方法です。タイミング法は保険も効きますし、不妊治療の中では最も安価です。
タイミング法を6回以上行っても妊娠しない場合には、「ステップアップ」といってもう1段階高度な治療である人工授精を試すことがあります。人工授精とは、用手法(男性の自慰行為)で採取した精子を子宮内に注入する方法です。排卵誘発薬により排卵を起こす事もあります。人工授精で妊娠する方のほとんどは6回以内といわれているので、それ以降は体外受精や「顕微授精」へステップアップします。
このように徐々に高度な医療技術を要する治療法に上げていくことが多いですが、女性の年齢が35歳以上の場合には卵子の質の低下により妊娠できる確率が低下していくので、早めに人工授精や体外受精に切り替えることもあります。
不妊治療の種類の概要
不妊治療は、多様な原因がありますので、原因に応じて治療を行います。
【男性】男性不妊における性機能障害に対しては、薬物療法、精液に異常がある場合には必要に応じて手術をします。男性不妊で自然妊娠が難しい場合には、人工授精、体外受精、顕微授精を検討します。
【女性】女性不妊における治療法は、子宮や卵管、排卵障害に対してそれぞれ行います。子宮筋腫や子宮内膜ポリープに対しては、受精卵が着床しづらい可能性が考えられる場合は、手術を行います。子宮内膜症に対しては、症状の出ている部分を取り除いたり、卵管や卵巣と周囲の組織との癒着(本来くっついていないところが、くっついていること)をはがす手術を行うことがあります。卵管や卵巣が癒着していると排卵や卵子の通過が障害される可能性があるからです。過去のクラミジア感染や腹部手術、子宮内膜症などで卵管が狭窄(せまくなっている)または閉塞(つまっている)している場合には、卵管を開通させる卵管形成術を行うこともあります。子宮や卵管に問題がある時には、これらの手術を考慮し、その後に人工授精や体外受精を行います。人工授精や体外受精を何度か行っても成功しない場合に、手術を考慮することもあります。
排卵障害に対しては「排卵誘発剤」などの薬物療法、黄体機能不全に対しては黄体ホルモンの補充を行います。
原因不明の女性不妊の場合にはタイミング法をまず行い、その後排卵誘発、人工授精、腹腔鏡検査、体外受精の順番に進むことが多いです。35歳以上の場合には、タイミング法ではなく人工授精から始めることもあります。
タイミング法とはどんなもの?
排卵日の2日前から排卵日までの間に性交(セックス)をすることが、最も妊娠の確率を上昇させると考えられています。この考えに基づき、排卵日を医学的に診断して、セックスのタイミングを合わせる治療法のことをタイミング法といいます。排卵日の推定には、膣から機械を挿入し超音波を用いて卵巣を観察する「経膣超音波検査」や、尿中の排卵ホルモンをはかる方法が用いられます。基礎体温でも排卵を予測することができますが、経膣超音波や尿中の排卵ホルモンを測定する方法を合わせると、より確実に排卵を予想できます。
経膣超音波検査は、排卵予定日数日前に病院を受診し、卵巣内の「卵胞」と呼ばれる卵子が入っている袋の大きさを測定します。卵胞の大きさが約20mmを超えると排卵するといわれています。
尿中の排卵ホルモン測定法は、脳から分泌された黄体化ホルモンが、排卵の前に急激に上昇する事を検出する方法です。そのホルモンが尿中に排出されることを利用した測定方法です。最近では、薬局やドラッグストア、インターネットなどでも医師の処方箋がなくても自分で排卵検査薬を購入することができます。
女性の不妊治療で使う薬はどんなもの?クロミッド?副作用はある?
不妊治療で使う内服薬を紹介します。内服薬(飲み薬)は、注射薬に比べて毎日の通院や自己注射の必要がないという利点があります。
(1)女性ホルモンの分泌を整える薬
無月経や月経の周期が不安定な方は、女性ホルモンである「エストロゲン」と「プロゲステロン」の分泌がうまくされていないため排卵が起こっていない可能性があります。排卵が起こらないと妊娠できないため、内服薬でエストロゲンとプロゲステロンを補充する治療を行います。エストロゲン剤には、内服薬のほかに注射薬と貼付薬(貼るタイプ)があります。プロゲステロン剤には、注射薬と膣座薬(膣から入れるタイプ)もあります。
プロゲステロン剤は、「黄体機能不全」の状の方に単独で投与されることもあります。黄体機能不全とは、排卵後に「プロゲステロン」の分泌が不十分で妊娠を維持できない状態のことです。基礎体温を測定し、高温期が10日以内の方は黄体機能不全の可能性が考えられます。産婦人科を受診すると排卵後のプロゲステロンの量を採血で調べ、黄体機能不全の有無を確認します。
どちらの薬にも副作用はあります。エストロゲン剤を内服後には、血栓、不正出血、腹痛、悪心(吐き気)、嘔吐、頭痛、肝機能障害、乳房の不快感などの副作用が出現することがあります。足の痛みや呼吸困難、めまいやふらつきなど体に異常がある場合にはすぐに病院に連絡しましょう。症状が軽度の場合には経過観察になることもありますが、治療を必要とすることもあります。
プロゲステロン剤を内服すると、肝機能障害、血栓症、発疹、食欲不振、下痢、不正出血、腹痛、頭痛、倦怠感、眠気などの症状が表れることがあります。エストロゲン剤と同様に、体に異常を感じたらすぐに病院に連絡するようにしましょう。
(2)排卵を誘発する薬
排卵を誘発する内服薬には、「クロミフェン」および「シクロフェニル」があります。それぞれ、「クロミフェン」「セキソビット」などの商品名です。比較的軽い排卵障害がある方に使用される内服薬で、脳から放出される卵巣を刺激するホルモンの分泌を促すことで卵巣を刺激する作用があります。実際には、排卵があっても妊娠しない方や、人工授精を行う時に排卵日を設定するために使用されています。副作用は比較的少ないといわれていますが、使用方法によっては双子以上の多胎妊娠がやや増加するといわれています。
(3)高プロラクチン血症に対する薬
母乳を分泌させるホルモンは「プロラクチン」と呼ばれますが、このホルモンが高い(量が多い)と排卵が抑制されることが分かっています。プロラクチンが正常値以上に高い状態のことを「高プロラクチン血症」といい、プロラクチンを抑える作用のある内服薬を処方されます。「ブロモクリプチン(パーロデル)」「テルグリド(テルロン)」「カベルゴリン(カバサール)」などがありますが、カベルゴリンは持続性が高いため週1回に飲めばよいという特徴をもっています。副作用は、悪心、嘔吐、めまい、眠気、発疹、倦怠感などが起きることがあります。
(4)多嚢胞性卵巣症候群に対する薬
「多嚢胞性卵症候群」とは、卵巣に多数の嚢胞ができる病気で、排卵障害を伴います。症状が軽い場合には、クロミフェン療法で、規則的に排卵が誘発することができます。しかし、クロミフェン単独で排卵が起きない場合には、クロミフェンに加えて「プレドニン(ステロイド剤)」や「メトフォルミン(インスリン抵抗性改善薬)」といった薬を併用することがあります。漢方薬である温経湯(うんけいとう)や柴苓湯(さいれいとう)を併用する場合もあります。「カウフマン療法」という、一時的にホルモン剤を投与して、卵巣への刺激を抑えて、卵巣を休眠状態にした後に、再度排卵誘発を行う治療方法もあります。これらの治療でも排卵が起きない場合には、注射薬である「FSH(卵胞刺激ホルモン)製剤」やLH(黄体化ホルモン、排卵を誘発)と同様の効果のある「HCG製剤」を使用して治療します。
多嚢胞性卵巣症候群の治療を行う時には、「卵巣過剰刺激症候群」とよばれる重篤な副作用に注意しなければいけません。卵巣過剰刺激症候群とは、多くの卵胞が刺激されて大きく発育し、卵巣が腫れたり、お腹の中に水がたまる状態のことを指します。重症の場合には、お腹が腹水で張ることによる腹部膨満感、腹痛、脱水、胸に水が溜まることによる呼吸困難などを起こすこともあります。腫れた卵巣がねじれて痛みを起こすこともあるので要注意です。
女性の不妊治療で使う注射はどんなもの?自己注射?副作用はある?
女性の不妊治療で使う注射は主に、排卵を促すためのものです。「ゴナドトロピン製剤」と呼ばれ、脳から放出される卵巣を刺激するホルモンが含まれています。内服薬で挙げたクロミフェンやシクロフェニルが無効な場合に、排卵誘発剤として使用されます。
ゴナドトロピン製剤と一言でいっても、さまざまな種類があります。主なものは、以下の通りです。
(1)閉経後の女性の尿から精製したFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体化ホルモン)の両方を含む「hMG製剤」
(2)hMG製剤からLH成分を除いてFSHのみ含む精製「FSH製剤」
(3)遺伝子組換型「FSH製剤」
hMG製剤やFSH製剤を連日投与することで卵胞の発育を促し、一定の大きさになったことを、超音波検査で確認後に、LH作用のある「ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)」を投与し排卵を起こします。
ゴナドトロピン製剤は注射薬で、製品によって皮下注射や筋肉注射で投与されます。通院して注射薬を打ってもらうことも可能ですが、働いていたりして、通院日数をできる限り減らしたい方の場合などには自己注射が選択されます。「自己注射」とは、医療機関で指導を受け、自分自身で太ももやお尻など適切な部分に注射薬を打つことです。
ゴナドトロピン製剤の排卵誘発効果は、クロミフェンなどよりも強いことが分かっています。しかし副作用としては、排卵誘発による多胎妊娠(双子以上の妊娠)の増加、卵巣過剰刺激症候群(卵巣がはれて、致命的になる可能性のある症状)などが挙げられます。
男性の不妊治療の薬はある?
男性の不妊症に対する治療法には、生活習慣の改善、不妊の原因となる内服薬の中止、薬物療法、手術療法などがあります。内服薬には抗うつ薬や「ホスホジエステラーゼ阻害薬」などが使用されます。抗うつ薬は、射精時に精液が膀胱に逆流する症状がある時に処方されることがあります。ホスホジエステラーゼ阻害薬は、細胞内のカルシウム濃度を上げる薬で、勃起不全による不妊症に対して処方されます。その他、ビタミン剤や漢方薬、血流改善薬などが、精子の数が少ない場合や運動率が低い場合に用いられることがあります。ただ、精子の数や運動の問題に対する薬の投与は、医学的に有効性を証明された治療法ではないため、経験的治療(医師が、経験上有効だと判断して実施する医療)となっています。
人工授精とはどんなもの?国内でできる?
受精の時には、卵管の「膨大部」と呼ばれる少し広い部分で卵子と精子が出会うといわれています。「人工授精」とは、男性が用手法(自慰行為、マスターベーション)で採取した精子を人工的に子宮内に注入して受精を補助する治療法のことです。
人工授精の適応(医学的見地から選択される)になるのは以下のような方です。ただ、人工的に注入するための調整した後の精子の数が100万から500万までが人工授精の限界といわれているので、それ未満の場合には顕微授精(後述)の適応になります。
・乏精子症(精子濃度1500万/ml以下)
・精子無力症(運動率40%以下)やそれに準じる方
・頸管粘液が少なくて精子がうまく通過できない方(フーナーテスト不良)
・性交がうまくいかない方
・パートナーに、精子を攻撃する抗精子抗体がある方
・原因不明の方
精液を直接子宮内に入れてしまうと、感染や精液の成分により子宮のけいれんを引き起こし、痛みを感じることがあるため、通常は精液を洗浄して運動性の高い精子を選別し0.2ミリリットルから0.5ミリリットル注入することもあります。
人工受精をするタイミング
当然の事ですが、人工授精では、受精のタイミングを排卵日にできるだけ一致させることが重要と考えられており、排卵日の推定には、超音波による卵胞計測、尿中LH、血中LHなどを参考にします。実際には、尿中LHの量の急増(「LHサージ」といいます)の翌日に行ったり、排卵誘発剤である「hCG」を投与する場合は、投与から34時間から40時間後に、精子の注入をします。
自然の生理周期で行う場合以外には、「クロミフェン」や「ゴナドトロピン」による排卵誘発を実施することもあります。特に、原因不明の妊娠の場合には、ゴナドトロピンで排卵誘発をした方が、最も妊娠率が高いといわれています。
人工授精の副作用は、出血、感染、疼痛(とうつう、痛み)です。感染症予防のために病院によっては抗生剤を投与することもあります。
人工授精は6回までの間に妊娠する確率が高いといわれているため、それまでに妊娠に至らない場合には次に説明する体外受精にステップアップした方がよいと考えられています。
体外受精とはどんなもの?
「体外受精」とは、採卵手術によって得られた卵子と用手法(自慰行為、マスターベーション)によって採取した精子を体外で受精させて、再び子宮内に戻す治療のことです。受精が起こり、細胞分裂を繰り返して発育したもの(「胚」と言います)を子宮内に移植すると妊娠率がより高くなるので、一般的に2日から5日間の体外での培養後、可能な限り良い状態の胚を選んで子宮に戻します。
採卵手術の前には、排卵誘発剤を1週間前後使用し、卵巣を刺激します。この方法により数個から10個の成熟卵(受精可能な卵子)を得ることができます。採卵手術では、超音波で確認しながら卵胞に針を入れ、卵胞液と共に中に存在する卵子を吸い取ります。採卵の難しさや、存在する卵子の個数などをもとに、麻酔を使用するかしないか決めます。採卵手術後には、移植する胚にとって良い状態の子宮内膜にするため、薬を投与します。良好な子宮内膜の状態にならない場合や、排卵誘発剤による副作用で「卵巣過剰刺激症候群(卵巣が膨れがある症状)」となった場合には、計画的に移植するための胚を凍結保存しておき、体の状態が整った時に移植をできるように再計画します。双子以上の多胎妊娠は母児共にリスクが高くなりますので、子宮内に戻す胚の数は、「原則1個」とするように、日本産科婦人科学会は推奨しています。
体外受精による出生児は全世界で400万人を超えたといわれており、成人になった後、自身は体外受精を必要とせずに次世代の子どもを生んでいることがわかっています。体外受精によって生まれた子供に明らかな異常が生じることは現時点で証明されていませんただ、体外受精の技術自体が、実用化されたまだ歴史が浅い側面もあり、今後も長期的に観察が必要と考えられ日本でも大規模な出生後調査が進行しています。
体外受精のメリット
体外受精の特徴は、卵子と精子を確実に受精させることができる点です。正常な卵子と精子を確実に受精させることができればほとんどの場合は妊娠が成立するといわれています。つまり、卵子と精子に正常な妊娠する力があれば妊娠成立が可能ということです。体外受精以外の不妊治療では、妊娠しなかった場合に、卵子と精子が受精しなかったのか、卵子と精子に妊娠する力が落ちているかは判断できません。もし加齢などにより卵子と精子の妊娠する力が落ちている場合には、早い段階で体外受精を選択しないと妊娠できるチャンスをどんどん減らしてしまうことになります。そのような状況を避けるために、年齢や状況に応じてタイミング法や人工授精を経ずに、一気に体外受精に進むこともあります。
人工受精や体外受精は日本でできる?
人工授精や体外受精は保険が適用されませんが、日本国内で行うことができます。日本産科婦人科学会では、体外受精などの生殖補助医療を行っている病院やクリニックの一覧を毎年発表しているので参考にしてみてください(http://www.jsog.or.jp/public/shisetu_number/)。また、日本生殖医学会では生殖医療を専門医として資格を持つ医師を認定しています(http://www.jsog.or.jp/public/shisetu_number/)ので、不妊治療を始める前に、調べてみるのもよいでしょう。
不妊治療で、女性が手術を受けることがある?
不妊症の原因が手術でしか改善しないと考えられる時には、手術を行ってから不妊治療に入ることがあります。
女性の場合には、子宮内膜症や子宮筋腫、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜ポリープ、卵管障害などに対して手術を行います。
(1)子宮内膜症
子宮内膜症は、本来子宮内部にあるべき子宮内膜が、卵巣や腹膜などに移植され、生理の度に出血、癒着(本来くっついていないところが、くっつくこと)を繰り返す病気です。そのため、卵巣や卵管周囲が癒着してしまい、排卵障害や卵管障害を起こし不妊の原因となります。
子宮内膜症に対しては、お腹に小さい穴を開けて腹腔鏡と呼ばれるカメラを使用してお腹の中を確認しながら、癒着をはがす手術を行います。卵巣内に子宮内膜症を認めた場合には、レーザーや電気メスで焼いたり、取り除くことがあります。
(2)子宮筋腫
子宮筋腫は、良性の腫瘍です。発生する部分によって「漿膜下(しょうまくか)筋腫」「筋層内筋腫」「粘膜下筋腫」などと呼ばれます。子宮筋腫があると生理の時の出血量が増加することがあるだけでなく、子宮の形を変形させてしまう原因になります。受精卵が着床する子宮内の状態が整っていないことが、不妊の原因になることがあるので、不妊の原因と考えられる筋腫は腹腔鏡と呼ばれるカメラや、子宮鏡という子宮内を観察する内視鏡を使用して切除します。
(3)多嚢胞性卵巣症候群
多嚢胞性卵巣症候群は、卵巣にできる卵胞が成長途中で止まった状態になり、多数の嚢胞(のうほう、つぶのできもの)がある様に見える病気で、排卵障害となります。まず内服薬で正常に排卵が起きるように誘発します。しかし内服薬で不十分と考えられる場合などには、手術によって卵巣の一部に穴を開けて排卵しやすいようにすることがあります。
(4)子宮内膜ポリープ、子宮内膜増殖症
子宮内膜にできる良性の腫瘍のことをポリープと呼びます。小さいものでは問題にならないことも多いといわれていますが、ポリープがあることにより受精卵の着床障害が起きる可能性が指摘されています。子宮鏡と呼ばれる膣から子宮に挿入するカメラを使用し、原因となるポリープを切除する手術を行います。子宮内膜をポリープごと全て除去してしまう、「子宮内膜掻把(そうは)術」と呼ばれる方法が選択されることがあります。
子宮内膜増殖症とは、本来の子宮内膜よりも異常に内膜が増殖してしまう病気です。子宮内膜ポリープと同様に、受精卵の着床障害を起こす可能性があるため子宮内膜を除去する手術を行うことがあります。
(5)卵管障害
過去のクラミジア感染、子宮内膜症、腹部手術などの影響で、卵管が周囲の組織と癒着し閉塞(閉じてしまうこと)することがあります。卵管が閉塞すると、卵巣から排卵された卵子が子宮内へ移動できないため不妊症となります。
腹腔鏡を使用し、卵管と周囲の組織との癒着をはがす手術を行う場合や、膣から挿入できる「卵管鏡」というものを使用して、卵管を内部から広げる手術を行うことがあります。後者は「卵管鏡下卵管形成術」と呼ばれています。
また、クラミジア感染では、卵管の内膜が破壊されることがあり、卵子を移動させる機能が失われるため、不妊症となります。この回復は非常に時間がかかるため、体外受精を選択することが多くなります。
不妊治療で、男性が手術を受けることがある?
男性の場合には、精液の活動、数、質の低下や、無精子症に対して手術を行うことがあります。
(1)精索静脈瘤
血管にこぶがあるため、精子を作ることが障害されることがあります。手術では、逆流の原因となっている精巣の血管を結び、逆流を防ぎます。手術後には、精子形成機能の改善による精液状態が改善して、妊娠率の向上が期待できます。
(2)無精子症
さまざまな方法を試しても精液中から精子を採取できない場合に、手術を行います。手術によって得られた精子を「顕微授精」(顕微鏡で卵子に、精子を注入する方法、後述)で使用します。
精巣から精子を採取する手術には、「精巣精子採取術(simple-TESE)」と「顕微鏡下精巣精子採取術(micro-TESE)」があります。精巣で精子がつくられているのに、精子の通り道が、過去の炎症などにより閉じているため、精液中に精子が見られない場合、つまり「閉塞性無精子症」に対しては、「精巣精子再手術」が行われます。陰嚢(いんのう)の皮膚を小さく切り、精巣組織の一部を採取する手術方法です。精巣内の精子形成は正常に行われているので、多くの場合に精子の採取が可能です。
一方で、精巣内での精子を作る機能が障害されているために精液中に精子を認めない、「非閉塞性無精子症」の場合には、顕微鏡下精巣精子採取術が行われます。陰嚢の皮膚を切って精巣を体外に取り出し、手術用の顕微鏡を用いて、精子がつくられている場所を特定して、精子をとります。ただ、精子の形成機能が障害されていますので、この方法を用いても精子の採取が難しい可能性もあります。
(3)精管閉塞パイプカット(精子が通る管を切ること)の手術後や、鼠径ヘルニア(そけい)の手術後など、精管の閉塞が原因で無精子症となっている場合に、閉塞している精管の先の部分と開通している精管同士をつなぎあわせる手術を行います。この手術法は顕微鏡下精管精管吻合術と呼ばれ、術後には約80-90%の症例で精液中に精子を認めるようになります。ただし、閉塞していた期間や原因などにもよります。
(4)精巣上体の閉塞
「精巣上体炎」などによって、精子を貯蔵する「精巣上体」という部分が閉じて、無精子症となっている場合には、「精管精巣上体吻合術(ふんごうじゅつ)」が行われます。精巣上体の一部を切開し、精管とつなぎあわせて、精子の通り道を確保します。閉塞の原因にもよりますが、約40%の方で精液中に精子を認めるようになります。
(5)射精管の閉塞
「前立腺嚢胞」などにより、射精管が閉じている場合には、尿道から内視鏡を挿入して、射精管を開通させる手術を行います。射精管は前立腺にあり、精子を含む精液が尿道に出てくる部分を指します。手術後には精液量と精液所見の改善が期待できます。
顕微授精とはどんなもの?
人工授精や体外受精でも妊娠しない場合には、顕微授精という方法があります。体外受精では、卵子が入っている培養液に、精子の混ざった液体を入れて受精するのを待ちます。顕微授精の場合は、細いガラスの針の先端に1個の精子を入れて、顕微鏡で確認しながら、卵子に直接注入します。体外受精で妊娠しない場合や精子の数が少ないなどの理由で体外受精での妊娠が難しい場合に適応(治療が選択されること)になります。顕微授精での受精率は平均で50%から70%です。
現時点で、体外受精に比べて顕微授精の方が、生まれた子供に染色体異常などが起きる可能性が高いとは言われていませんが、歴史の浅い技術ですので、まだ分かっていないリスクがあるかもしれません。現在、日本でも長期的に経過を観察している途中です。そのため顕微授精は、どうしてもこの方法でしか妊娠できないという夫婦を対象としています。
不妊治療の費用はどれくらい? 保険適用になる?
不妊治療の費用は、日本において保険が適用されるものとされないものに分かれます。
保険適用になるもの(通常3割負担)→タイミング法、排卵誘発剤の注射、子宮鏡手術や腹腔鏡手術
保険適用にならないもの→人工授精、体外受精、顕微授精など
病院によって違いはありますが、以下がおおよその負担額です。
タイミング法 3000円から8000円
排卵誘発剤の注射 1000円から3500円
腹腔鏡下手術1万40000円から3万80000円
人工授精は1万円から3万円
体外受精 20万から60万円
顕微授精 25万から50万円
胚凍結保存(受精卵を凍結して保存すること、自費) 5万円
凍結胚移植(凍結した受精卵を子宮に入れること、自費) 10万円
また、卵巣の予備機能を推測する「AMH(抗ミュラー管ホルモン)」や抗精子抗体などは自費です。不妊治療にかかった費用は、所得額によりますが国や都道府県、市町村からの助成金を受けられる事もあるので申請するようにしましょう。また、不妊治療にかかった医療費や病院への通院のための交通費などは医療費控除の対象になります。
費用に男女差はある?
不妊治療は、男性も女性も一緒に治療を行うので、線引きが難しいですが、不妊治療の費用は、超音波検査やホルモン検査、排卵誘発剤の注射など、女性に関連する金額の方が多いかもしれません。
例えば体外受精にかかる費用の内訳では、採卵と受精卵を子宮に戻す「胚移植」は各10万円で、精子の調整や授精、培養は合計で15万円となっています。この他にクリニックによって、排卵誘発剤や麻酔薬などの費用が加算されます。なお、男性の無精子症に対する精巣の切開手術は保険適用ではないため、約20万円から50万円と高額ですが、国の助成金の対象になっています。
総額はどれくらい?
女性の為の健康生活ガイド「ジネコ」を運営するバズラボが2010 年3 月から2012 年4 月の2 年間行った、不妊治療によって妊娠した方926人へのアンケートによると、不妊治療の妊娠までの平均治療費は140.6 万円でした。また、治療別に見ると、体外受精で妊娠した方の平均治療費は134.2 万円、顕微授精で妊娠した方の平均治療費は166.6万円でした。なお、調査では妊娠した方を対象にしているため、まだ妊娠できずに不妊治療をしている方を含めるとより高額になると考えられ、数百万という方もあるようです。
不妊治療に助成金が出る?
厚生労働省は「特定不妊治療支援事業」として不妊治療を行っている夫婦に対し、一定の条件を満たした場合に助成金を支給しています。
対象は、指定医療機関で医師によって特定不妊治療(体外受精と顕微授精)を受けた、法律上婚姻をしている夫婦です。ただ、夫婦合算の所得額が730万円以下で、妻の年齢は43歳未満の場合に限定されています。
助成金の給付内容は、1回の治療につき初回30万円、2回目以降15万円までで、採卵を行わない凍結胚移植などは7.5万円までになります。2016年4月からは、体外受精および顕微授精における治療過程の1つとして行われる「精巣内精子生検採取法」、「精巣上体内精子吸引採取法」「経皮的精巣上体内精子吸引採取法」にかかる費用に関しても、上限額15万円で給付されることになりました。助成の対象となる治療回数ですが、治療初日に妻の年齢が40歳未満の場合には通算6回まで、40歳から43歳未満は通算3回までとされています。自治体によって助成内容が異なることがありますし、自分の受けている不妊治療が助成対象になるかどうかを含めて、受診している医療機関などに問い合わせるようにするとよいでしょう。
不妊治療にかかる期間はどれくらい?
不妊治療にかかる期間は個人差があるので一概に期間は言えませんが、短いと3か月のこともありますし、長いと3年以上になることもあります。年齢や不妊の原因にもよりますが、検査と治療法をさまざま行っていると、あっという間に数カ月から半年が経過してしまいます。タイミング法から人工授精、体外授精へとステップアップしていくとそれぞれの治療方法を6回ずつ行うだけで、約1年が経過することが分かります。
「ジネコ」を運営する株式会社バズラボのアンケートによると、不妊治療の妊娠までの平均治療期間は25 カ月であることが分かりました。最も多いのは24カ月から35カ月で、全体の約20%を占めていました。治療別に見ると、体外受精の平均治療期間は29.2 カ月、顕微授精では平均治療期間は32.3 カ月でした。
この調査では妊娠した方を対象にしているため、まだ妊娠できずに不妊治療をしている方を含めるとより長くになると予想されます。また、新しい技術が開発されたり、既存の技術の精度の変化で、変動する可能性があります。自身が受診する医療機関の医師らに聞いてみるのも、1つの考え方でしょう。
参考URL ジネコのアンケート(リンク先PDF)
http://www.buzzlabo.co.jp/12053101.pdf
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