窓口をたらい回し、 同じ説明を何度もイチから…マイノリティが支援を受けられるのは「運次第」
- 作成:2022/10/22
今回は、誰からもあまり意識されず、話題にもならない「マイノリティが公的支援を受ける難しさ」がテーマです。この記事をご覧になってくださっているのは、発達障害に何らかのかかわりのある方が多いと思います。我々マイノリティ(少数派)が支援を受ける難しさについて、多くの方に現実を知ってもらいたいです。ひと言でいえば、「支援は、調べて出向いて交渉して勝ち取るものだ。向こうから支援はやってこない」ということです。政治、経済、行政において、少数派の希望や願いは叶えられにくいのが、残念ながら現実です。
この記事の目安時間は6分です
広い役所でいくつ窓口を回ったことか…
先日、通りがかりに見つけた自治体のポスターに、こんなことが書いてありました。
「子育て支援として、乳幼児などがおり、おむつを必要とする家庭に金銭補助をしています」
ふーん、良いことだな。…ん? 乳幼児「など」? など、って何?
どんな人のこと? 乳幼児以外も適応なのか? なら、長男にっちの夜尿用のおむつは? 乳幼児じゃないけれど、子どもだしおむつが必要だぞ? あれ? 補助される?
次々に疑問が浮かび上がってきましたが、ポスターに書かれているのは先ほどの文言だけです。自治体のホームページを調べても、詳しい情報はありません。
…というわけで、市役所に行って確認することにしました。自閉スペクトラム症の精神障害者手帳と、夜尿の診断書も持参しました。やはりこういった診断書=印籠が交渉には欠かせません。
子ども医療の窓口(4階)に向かい、詳しい話を知りたいとお願いしましたが…。
「うーん、うちは乳幼児にしか対応していませんねぇ。障害がある人はうちの担当じゃないです。多分、福祉担当の仕事かな? 福祉窓口に行ってみてください」
そこで次は、福祉窓口(2階)に行って相談すると…。
「うーん。高齢者の介護の対応しかしてないから、よく分からないなぁ。障害認定窓口に行って聞いてみてくれます?」
言われるがまま、障害認定窓口(3階)に行って質問すると…。
「うーむ。よく分かりません。基本的にうちの課の行政支援は、重度の知的障害や、脳性麻痺の人にしか対応してないと『思う』んです。生活支援課(1階)カナ?」・・・・・・。
広い役所の中で、階段を登り、降り、教えてもらった部署を探して歩き回り、また階段を登り…、
つ か れ る 。
奥からベテラン風の人が出ても、何も変わらず
こういうとき、自分たちはマイノリティだなぁと思います。
窓口をたらい回しにされることも、結局は対象ではなく支援が受けられないことも、それ自体は全く気にしません。 それでは、何が悲しくてしんどいか? それは、少し特殊な支援を受けようとしたときの「異様な難しさ」です。
窓口で手続きをする流れを表すと、だいたい次のような感じになります。
(1)まず、窓口の人に用件を言っても伝わらない。
(2)どうにもならなくて、ベテラン風の人が出て来る。
(3)結局、ベテラン風の人も対応の仕方が分からず「よく分からないから、〇〇窓口に行って」と言われる。
(4)最初の窓口の人は次の○○窓口までついてきてくれず、連絡しておいてくれることもない。そのため、次の窓口では、また最初の(1)から始まる。
この過程を、何度も繰り返すのです。しかもほとんどの場合、窓口の人は手続きをする際に、資料を確認しません。こちらからの質問に対しては、完全に記憶頼りの「そうした支援を『したことがない』ので、できません」という答えが返ってきます。
なので、こちらとしては、その日のその人の「できない」という回答が本当に正しいかどうかがよく分からないのです。その人が知らないだけなのでは?
問題は、制度ではなく現場にある
行政の手続きに温かさは求めませんし、支援の適応範囲が限られているのも当然だと思います。しかし「そうした『経験がない』ので、〇〇の支援は受けられない『と思います』」という態度はやめてほしいです。
反射的に、「それって、あなたの感想ですよね?」と言ってしまいそうになります。
支援が適応されないにしても、「あなたが希望した□□支援は、この資料に適応の範囲が書いてあって、あなたの家族は〇〇の区分だから適応できません」と説明されれば納得できます。
しかし、先ほどもお話したとおり、現実は違います。あまり言及されませんが、公的支援の多くは、窓口の人の記憶や経験をもとに運用されています。資料などが参照されるケースは意外と少ないのです。
そのため、多くの人が利用する支援制度の手続きは、どんどん洗練されていきます。他方、利用者の少ない制度は、アバウトに運用されるものです。例えばマイノリティへの支援は、どれだけ制度が充実していても、周知・運用の段階で機能しなくなります。
また、資料を参照してくれないので、「正しく申請しているのに、窓口の人の思い違い・経験不足で支援が受けられない」という事態も起こります。それでも、マイノリティ相手の手続きの方法は見直されません。利用する人がほとんどいないから。そもそも行政には、「まれな対応」を蓄積し、次に活かす制度やルールが存在しないから。
いつまで経っても、マイノリティの当事者や家族が置かれている状況は変わりません。どれだけ支援制度を調べ尽くして窓口に行っても、そこから先は「運次第」です。
その場で「この制度が、こういう根拠に基づき、この申請形式で受けられるはず」と説明できるレベルの人に出会えなければ、支援を受けられません。
窓口の人は、「正しい知識を参照してから答える」のではなく、「とりあえずの記憶や経験頼りに答えている」ように見えます。もし後になって説明が虚偽だと分かっても、責任を問われないから。制度について勉強しても、その知識が役立つ機会は少ないから。
なので、発達障害や自閉スペクトラム症の当事者や親にとって、公的支援はただ「受ける」ものではありません。膨大な量の情報収集と根気のいる交渉の末に「勝ち取る」ものなのです。
発達障害の子どもが受けられる支援は、親の「情報収集能力」「知識量」と「交渉力」、そして「運」で決まります。子どもの重症度や生きづらさ、支援制度がどれだけ充実しているかはあまり関係ありません。
これは決していいことではないのに、少なくともこの10年で全く変わっていません。おそらく何十年と同じ状況でしょう。支援制度は少しずつ変わって充実してきているはずなのに、それを運用する現場が変わらないのです。
窓口でたらい回しにされ、久しぶりにマイノリティであることの不利益を痛感しました。
今は「乳幼児以外に支援しないなら、『など』って書くなよ。ポスターを作るくらいに力を入れている制度なら、せめてホームページに条件を掲載してくれよ」と、やさぐれています。
支援を「受ける側」になって気づいた、忘れてはいけないこと
近年、喧伝されることも多いマイノリティ(少数派)支援。その様子を見た一部のマジョリティ(多数派)からは、「なぜこんなに優遇されているのに、マイノリティの人はまだ騒いでいるの?」と思われているかもしれません。
それでも、当事者の視点は違います。例えば、小学校の通級制度。
制度自体は、必要な人が全員支援を受けられることを目指してはいました。しかし、現実はごく少数の枠の取り合いで、長男にっちは不登校気味になって初めて枠を貰えました。
「支援制度がある」ことと、「その制度が、必要とする人に行き届き、簡単な申請で得られる」ことは、イコールではありません。そして、その原因の一つが、制度を運用する現場の不勉強や無理解です。
私自身の関わる医療においても、患者さんの生活をより良くするための支援制度はたくさんあります。高齢や疾患による生活保護や、高額医療費制度、訪問看護・ヘルパー制度…など、具体的な例は枚挙にいとまがありません。
しかし、制度の全体像やその患者さんが受けられる支援などを、全て把握するのは非常に難しいものです。
だからこそ、こうやって皆さまと情報共有をして支援を勝ち取って、暮らしが少しでも良くなるようにしていきたいです。
外科医師。妻(看護師はっは)と発達障害3児の育児中。記事中のイラストは、看護師はっはが担当。著書『発達障害の子を持つ親の心が楽になる本』(SBクリエイティブ)が2024年9月発刊予定。
・ブログ:「うちの凸凹―外科医の父と看護師の母と発達障害の3姉弟」
・ブログ:「発達障害の生活は試行錯誤で楽しくなる」
・note:https://note.com/titti2020/
・Twitter:@surgeontitti
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