初潮年齢や、出産回数が乳がんに関連する?~乳がんになりやすい要件と、遺伝性乳がんの話(専門医が語る乳がんセミナーvol.2)

  • 作成:2022/10/30

女性の9人に1人がかかる乳がんは、40歳を超えると発症数が急に増えていくのが特徴です。AskDoctorsではオンラインセミナーを開催し、乳腺専門医の法村尚子先生(高松赤十字病院胸部乳腺外科副部長)に、乳がんの特徴や検査方法、乳がんと間違いやすい良性腫瘍、乳がんの治療方法などを語っていただきました。当日の様子を、5回シリーズで紹介します。第2回は、乳がんになりやすい人や遺伝性の乳がんについて紹介します。 ※掲載されている内容は2022年7月時点の情報です。

法村 尚子 監修
高松赤十字病院 胸部・乳腺外科 副部長
法村 尚子 先生

この記事の目安時間は3分です

初潮年齢や、出産回数が乳がんに関連する?~乳がんになりやすい要件と、遺伝性乳がんの話(専門医が語る乳がんセミナーvol.2)

子どもを産む回数が少ない「少産化」が乳がんに影響?

乳がんにもいろいろなタイプがありますが、その約8割がエストロゲンという女性ホルモンの影響で増殖するタイプの乳がんです。そのため、乳がんになりやすいのは、長期間女性ホルモンにさらされる人だといえます。現代の女性は、初潮が早く閉経が遅い傾向になっています。そのため、人生の中で女性ホルモンにさらされるが長くなっているため、乳がんになる確率が高くなっているといえるでしょう。

また、女性の社会進出に伴って晩婚化や少産化が進んだことも、乳がんの増加に影響している可能性があると考えています。妊娠中や授乳期間中はエストロゲンの分泌は止まりますが、その期間が短いと女性ホルモンにさらされる期間がより長くなるからです。そのほか、乳がんが増加している原因として挙げられるのが肥満と喫煙です。最近では食の欧米化が進み、高脂肪食や過食など食生活が乱れている人が増えていると感じていて、そうした影響もあるのかなと思っています。

つまり、生活習慣に起因するさまざまな病気を予防することと、乳がんを予防することは共通しているので、毎日適度な運動をはじめ、健康的な食習慣・生活習慣を続けていただければと思います。ただ、いくら食事や生活面で気をつけても、乳がんを完全に予防することは不可能です。そこで定期的に乳がん検診を受けて早期発見に努めるのが一番大切だといえるでしょう。

遺伝性の乳がんは5〜10%と意外に少ない

次に遺伝性がんについてお話しします。がんには遺伝性のものとそうではないものがあり、乳がんの場合は、遺伝性に関するものは5〜10%で、その他の90%以上は遺伝と関係なく突然発症しています。そのため、意外と遺伝性の乳がんは少ないといえるでしょう。母親が乳がんになったから自分もなるかもと心配される方もいらっしゃいますが、案外その遺伝する確率は低く、乳がんの場合は「BRCA1」「BRCA2」という遺伝子の変異があると、変異がない人に比べて乳がん発症リスクが6〜12倍高くなるといわれています。

「うちはがん家系だから」という方もよくいらっしゃいますが、今や日本人の2人に1人ががんになる時代です。がんになった人が多い家族は、別に遺伝性ではなくて、たまたまがんになった人がたくさんいる家族、というケースが多いかなと思います。おじいちゃんは肝臓がん、お父さんは肺がん、お母さんは乳がんなどいろいろながんの人がいるような家族は、がんが多いだけで、あんまり心配する必要はありません。
ただ、BRCA1、BRCA2という遺伝子に変異があると、乳がんだけでなく卵巣がんになるリスクも高まるといわれています。血縁者の中に乳がんや卵巣がんになった女性が多く、男性まで乳がんになった人がいる場合等は、遺伝性のがん家系かもしれません。

BRCA遺伝子検査を保険適用で受ける条件

遺伝性乳がんかどうかをはっきりさせるには、血液検査でBRCA遺伝子を調べる必要があります。ただ、現時点ではこの遺伝子検査を保険適用で受けるには、以下のような条件があります。
(1)45歳以下で乳がんを発症した
(2)60歳以下のトリプルネガティブ乳がん
(3)2個以上の乳がん発症
(4)乳がんになった人で、3親等以内の近親者内に乳がんまたは卵巣がんの発症者が1名以上いる
(5)男性乳がんである
(6)再発乳がんである

もちろん上記の条件を満たさない場合でも検査はできますが、その場合は保険適用外となり、何十万円もの費用がかかってしまいます。

遺伝性乳がんが疑われたら「乳房予防的切除手術」が保険適用に

以前、米国の女優アンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝子検査で「BRCA1」の異常があったと診断され、まだがんになってない乳房や卵巣を摘出したことが話題になりました。日本でも遺伝子異常があると診断された人には、あらかじめ乳房や卵巣を切除しておくという予防的手術が2021年に保険適用になりました。

この手術を受けるとがん発症を防げるので、生存率向上つまり長く生きられることが証明されています。ただ、実施する医療機関は限られているので、まだまだ一般的な手術だとはいえません。もちろん、がんになっていない乳房や卵巣を切除するということに抵抗がある女性も多いのかなと思うので、自分が「女性のがん(乳がん・卵巣がん)になりやすい家系」の可能性がある場合は、若いときから定期的に乳がん検診を受けたり、セルフチェックしたりすることをおすすめします。

男性も乳がんになる!

男性も乳がんになります。もしパートナーや近親者の男性が「男が乳がんになるわけない」と思っていたら、「いやいや、男性でもなるから」と伝えてください。何か気になることがあれば、乳腺外来を受診するようにおすすめいただければと思います。実際のところ、男性乳がんになるのは、乳がん患者100人のうち1人ぐらいと少ないのですが、遺伝性の可能性が高いことが懸念されています。男性乳がんの治療も基本的に女性の乳がんと同じで、手術や放射線治療、抗がん剤治療、ホルモン治療などを組み合わせて行います。

女性化乳房について

乳腺外来で診る男性の症状で最も多いのが、胸に痛みやしこりを伴う「女性化乳房」です。その原因はさまざまで、ホルモンのバランスが崩れやすい思春期や更年期に起こる場合もあれば、年齢に関係なく薬の副作用が原因のこともあります。

女性化乳房自体は良性のため治療の必要はありませんが、薬の副作用が原因だとされた場合には休薬したり、薬を変更したりして様子を見ることがあります。あるいは、その薬を内服するメリットが女性化乳房の改善を上回る場合は、そのまま薬を飲み続けることも多いです。
また、本人の希望により見た目を改善する手術を行うこともあります。

乳がんには遺伝性のタイプがあることや、男性でも乳がんを発症することなどはあまり知られていないので、そういった事実を少しでも広めていくことが大事かなと思います。

※次回は、乳がん以外で乳房にしこりを作る良性腫瘍について、法村先生に解説してもらいます。

香川大学医学部医学科卒業。乳腺専門医・指導医、甲状腺専門医、内分泌外科専門医、外科専門医等の資格を持つ。医学博士。患者さんの立場に立ち、一人一人に合った治療を提供できるよう心掛けている。プライベートでは1児の母。

病気・症状名から記事を探す

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行
ら行

協力医師紹介

アスクドクターズの記事やセミナー、Q&Aでの協力医師は、国内医師の約9割、33万人以上が利用する医師向けサイト「m3.com」の会員です。

記事・セミナーの協力医師

Q&Aの協力医師

内科、外科、産婦人科、小児科、婦人科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科、整形外科、精神科、循環器科、消化器科、呼吸器科をはじめ、55以上の診療科より、のべ8,000人以上の医師が回答しています。

Q&A協力医師一覧へ

今すぐ医師に相談できます

  • 最短5分で回答

  • 平均5人が回答

  • 50以上の診療科の医師