乳がんの治療は何通りもある!進化する精密検査と治療方法を、乳腺専門医が解説(専門医が語る乳がんセミナーvol.4)
- 作成:2022/11/03
女性の9人に1人がかかる乳がんは、40歳を超えると発症数が急に増えていくのが特徴です。AskDoctorsではオンラインセミナーを開催し、乳腺専門医の法村尚子先生(高松赤十字病院胸部乳腺外科副部長)に、乳がんの特徴や検査方法、乳がんと間違いやすい良性腫瘍、乳がんの治療方法などを語っていただきました。当日の様子を、5回シリーズで紹介します。第4回は、乳がん診断後に行う精密検査と治療についてご紹介します。 ※掲載されている内容は2022年7月時点の情報です。
この記事の目安時間は6分です
乳がん診断後、どんな検査を行うか?
細胞診や組織診などの検査の結果、乳がんと診断されたら、さらにいろいろな検査を行い、腫瘍の大きさ、脇のリンパ節への転移状況、乳がんのタイプなどを調べます。これらをもとに、手術をするか、手術の前に抗がん剤を投与(化学療法)するか、進行している時はどんな治療をするかなどを決定します。治療方針決定のための検査方法について紹介しましょう。
(1)血液検査
血液検査では、全体的な体の状態をはじめ、腫瘍マーカーと呼ばれるがんの値を調べます。腫瘍マーカーはあくまでも目安となるもので、がんがあるから上昇する、がんがないから正常値ということではありません。
(2)CT
次に、CTで乳がんや脇のリンパ節、全身の転移の状態を調べます。よく見えるようにするために造影剤も使用するのですが、造影剤はアレルギー、喘息、腎機能が悪い人には使用できません。CTで転移の状況を見て、乳がんの進行度も評価できます。
(3)MRI
MRIを用いて乳がんがどのくらい乳房内で広がっているのかを調べます。造影剤を使用し、しこりの部分だけなのか、その周囲に根を張っていないかなどを詳しく見ます。うつ伏せのまま40分程度かかりますので、うつ伏せのまま長くいられない人にはつらい検査かもしれません。CT同様に造影剤はアレルギー、喘息、腎機能が悪い人には使用できません。
(4)骨シンチグラフィ
がんの骨への転移を調べる検査です。まず微量な放射線を出す薬を静脈に注射し、それから浸透した約3時間経過後から機械の中で撮影を行います。骨にがんがあると、その部分に放射性物質が集まる性質を利用し、薬から出てくる放射線を画像化して診断を行います。
(5)PET-CT
がん細胞は正常の細胞に比べて多くのブドウ糖を取り込む性質があります。それを利用し、放射性フッ素を付加したブドウ糖 (FDG)を静脈に注射し、がん細胞に取り込まれたブドウ糖の分布を画像にして確認する検査です。まず注射後1時間ほど安静にして、30分から1時間ぐらいかけて撮影を行い、再び休憩するなどトータルで3時間ぐらいかかります。がん細胞の位置や大きさ、進行の度合いなどを体全体で見られる検査です。
※骨シンチやPET-CTは、転移の状況を詳しく調べるため必要に応じて行います。
乳がんの標準治療とは
検査が終わったら腫瘍の大きさ、リンパ節への転移の状態、タイプなどをもとに治療方針を決めていきます。治療の基本は外科手術です。薬や放射線だけの治療はまだ確立していないので、抗がん剤やホルモン剤、放射線治療はあくまで手術を補助し、再発予防としての位置づけとなっています。検診の普及により早期発見ができるようになり、また薬物療法の進歩によって治療後の長期生存が期待できるようになっているなど、乳がんの治療はとても進化していると思っています。
乳がんタイプの判定を行う
まず、乳管の中で発生したがんが乳管内だけにとどまっているか、そこから飛び出して血管やリンパ管まで浸潤してしまっているどうかを見ます。また、「ホルモン剤がよく効く女性ホルモン受容体を発現しているか?」「HER2と呼ばれるタンパクをがんの表面にどのくらい発現しているか?」「ホルモン受容体もHER2タンパクも発現していなか?」。これらを調べて乳がんのタイプを判定し、そのタイプに有効な治療法についても検討します。
部分切除手術ができない状態とは
手術には大きく分けて、部分切除と全摘術があります。また、大き過ぎる、複数ある、乳がんが小さいけど広がっているといった理由では全摘術しか選択できないということもあります。
部分切除を行った場合は、残っている乳房に放射線を当てる治療が必要になります。そのため、妊娠している、皮膚の病気があるなど放射線を当てられない場合も、部分切除の適用にはなりません。全摘した時は、乳房の再建術を受けることも可能です。
「センチネルリンパ節生検」でリンパ節切除を避けられる場合も
従来、乳がんの手術では脇のリンパ節を切除していましたが、合併症として腕のしびれやむくみが出てくることが知られています。そのため、脇のリンパ節に転移がある場合は仕方ないのですが、転移がない場合は切除を避けたいところ……。そこで行うのがセンチネルリンパ節生検です。手術中に乳輪の下に色素を注射し、その色素がリンパ管を通ってがんが最初に転移する脇のリンパ節(センチネルリンパ節)を染めます。このリンパ節を採取してすぐに検査に出し、30分程度でその結果が判明します。このリンパ節に転移がなければ、他のリンパ節にも転移がないと考えられます。一方、このリンパ節に転移があれば、他のリンパにも転移があるかもしれないと考えて、他の脇のリンパ節もすべて切除する手術を加えることになります。
ホルモン治療と化学療法、それぞれの役割
乳がんの8割は、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンを取り込んで増殖する、ホルモン依存性の乳がんです。ホルモン依存性の乳がんでは、体内の女性ホルモンを少ない状態に保って、乳がんの再発を防ぐという方法を採ります。飲み薬を5〜10年ぐらい飲むことが一般的です。閉経前の人は注射で何年か生理を止めるという治療も加えることもあります。
(1)化学療法の目的とは?
がんが近くの組織に入り込んでいる「浸潤がん」の場合、発見された時点で血液やリンパの流れに乗って、ほかの場所にがんが転移している可能性があります。術後に抗がん剤治療(化学療法)を行う目的は、現在は見えていない、どこかに潜んでいるかもしれない微小ながんを根絶させることです。再発リスクが高いと診断された人は化学療法を追加で行うことをおすすめします。
(2)術前化学療法のメリット
最近は、手術前に化学療法をすることも増えてきました。そのメリットは以下です。
- 腫瘍が小さくなるので、全摘しか行えない状態だった人でも、部分切除ができる可能性が出てくる
- 早い段階から、どこかに潜んでいるかもしれない微小ながんを叩くことができる
- 抗がん剤がどれ程度効いているかを確認しながら治療できる
なお、術前治療の結果、より効く術後治療に変更することもあります(HER2陽性の場合)。
(3)化学療法の副作用とは?
抗がん剤は、がんを積極的に攻撃しますが、これが正常な細胞まで攻撃すると以下のような副作用が起こってしまいます。
- 吐き気、嘔吐、爪がボロボロに
- 脱毛
- 白血球が減少した結果、感染を引き起こして発熱
こうした副作用が嫌だから化学療法をしないという人も時々見受けられますが、最近は有効な予防法、対処法がたくさん出てきています。もし必要と判断された場合には、命を優先するために化学療法を行っていただけたらと思います。
がん細胞だけを叩く「分子標的治療」
がん細胞も正常細胞も無差別に攻撃する抗がん剤と違って、がん細胞だけを攻撃する治療薬です。副作用も出にくく、飛躍的に乳がんの予後が改善するといわれています。ただし、誰でも効くわけではなく、乳がんのタイプを調べて適合するタイプであればできる治療です。術前術後治療であれば、HER2タンパクが発現しているタイプが適合します。
部分切除のあとは放射線治療をプラスする
乳房部分切除術(温存術)を行った場合は、術後に温存した乳房へ放射線治療が必要です。照射することによって、乳房内の再発を半減させることができます。1回の照射時間は5分程度ですが、副作用のリスクを抑えるために一定期間、続けて照射することが求められます。「部分切除+放射線治療」と「全摘」は、同じような再発率ですので、自分がいいと思う方を選択するといいと思います。
乳がんの治療は、手術、薬、放射線などを組み合わせて行い、何通りもの方法があります。その患者さんにとって、どのような組み合わせの治療が最善なのか、主治医とじっくり話し合って決めることが大切です。
※次回は、乳がんの症状や診断、治療などについて、セミナー受講者からの質問に法村先生から回答してもらいます。
法村尚子(のりむら・しょうこ)
高松赤十字病院胸部乳腺外科副部長
香川大学医学部医学科卒業。乳腺専門医・指導医、甲状腺専門医、内分泌外科専門医、外科専門医等の資格を持つ。医学博士。患者さんの立場に立ち、一人一人に合った治療を提供できるよう心掛けている。プライベートでは1児の母。
香川大学医学部医学科卒業。乳腺専門医・指導医、甲状腺専門医、内分泌外科専門医、外科専門医等の資格を持つ。医学博士。患者さんの立場に立ち、一人一人に合った治療を提供できるよう心掛けている。プライベートでは1児の母。
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