がんになったことを職場に伝える?主治医に相談していいの?「みんなで学ぼう! がん闘病中のコミュニケーション~職場編~」Club CaNoWオンライン医療セミナー
- 作成:2023/01/09
コミュニケーションでQOL(生活の質)は上がると言われるほど、がん患者さんにとってコミュニケーションは重要です。Club CaNoW では、2022年11月19日に「がんになったからこそ、大切にしたい周りとのコミュニケーションを学ぶ会」の第2回として、「職場編」を開催しました。ゲストは、北里大学医学部衛生学 北里大学病院総合診療科・トータルサポートセンターの武藤剛先生(内科医)。進行役は、医療機器メーカーの人事課長で、「がんと働く応援団」の廣田純子さんです。
この記事の目安時間は6分です
99人の患者さんのうち、「病気を職場に伝えた」割合は?
ClubCaNoWでは、会員の皆様(99名)と医師(115名)を対象に、職場のコミュニケーションに関するアンケートを実施しました。イベントは、そのアンケート結果を武藤先生に解説いただきながら進行しました。
就業している患者さんは、職場にがんを伝えるべきか、伝えるならいつどのように伝えるのかといった問題に直面します。ClubCaNoW会員の皆様のうち、就業している人のほとんどが「職場に病気を伝えた」と回答。伝えたタイミングは9割が「治療開始前」でした。
本人の意思にかかわらず、診断書の提出で伝わる場合もありますが、武藤先生は「伝えることが必ずしも正解とは限りません」と話します。自分のプライベートを共有するには相手との信頼関係が必要で、会社にはいろいろな人がいます。「伝えた方がうまく治療と就業を両立できそうな時は伝えましょう。とりあえず病気のことは言わずに頑張ろうと思っていても、治療を進めるうちに『やっぱり辛いな』と思う人もいます。それでも、産業医などに相談することで心が軽くなる場合もあります」
仕事の都合で、治療の時期は変えてもらえる?
医師へのアンケートで、「職場側に配慮を求めるために、病名は伝えずとも、症状や状況、配慮が必要な点などを伝えることは大切だと思いますか?」という質問に、93%が「大切」または「とても大切」と回答しました。
武藤先生は「会社に情報を伝えることで、より働きやすく、より治療しやすくなるのであれば、伝えたほうがいいと思います。ただ、どう伝えるか、あるいはどこまで伝えるかは、意見書を書く医師も悩んでいます」と実情を語りました。意見書の情報をだれが読むのか、それがどのように使われるのかが医師側には見えにくい課題があるようです。
また、「仕事状況や事情などによって、治療の選択肢や時期の相談はできますか?」という問いには、「可能」「積極的に相談してほしい」といった前向きな回答がほとんどでした。
同じがん種でもがんのタイプやステージ、治療法、治療による仕事への影響はさまざまです。武藤先生はこう話します。
「がんはその時々で戦略を変える必要があります。最初は大丈夫そうに思っていても、仕事を再開してみたら想像以上に大変だったという方はかなりいらっしゃいます。少し仕事をペースダウンした方がいい時、自分の職場でどんなリソースを使えるか、どうしたらうまくやっていけるかを考えるのが、患者さんと私たち医療職の役割だと思います」
患者さんの「ひとこと」がコミュニケーションのきっかけに
さて、医師が治療と就業の両立をサポートしたいと考えていても、外来では症状や治療の話を優先せざるを得ず、患者さんに仕事のことを聞く機会は少ないのが現実です。
一方、患者さんも医師に遠慮したり、伝えるタイミングがわからなかったりして、結果的に自分で抱え込んでいるケースが少なくありません。武藤先生は「医師に治療の説明を聞いた時に、『この治療をしたら仕事にどう影響するかを少し気にしています』というように、一言でもいいので伝えてください」とアドバイス。それがきっかけで医師も「どんなお仕事ですか?」などと聞きやすくなります。
また、がん診療拠点病院の相談支援センターや、患者さんの社会生活を支援するソーシャルワーカーなどに相談する方法もあります。
「さまざまな支援制度の使い方や、会社のだれに聞けばいいのか、就業規則のどこを見ればいいのかといったサポートを病院でも実施しています。職場でも病院でもない『産業保健総合支援センター』も全国の都道府県に配置されているので、活用してください」(武藤先生)
ストレスなく働き続けるコツとは~視聴者の相談に回答~
セミナーの後半では、事例を通して周囲とのコミュニケーションや支援の活用方法を考えました。医師が診断書に「仕事は難しい」と書いたことで結果的に退職に至った60代男性のケースや、職場復帰の際にトラブルになった60代女性のケースなどが紹介されました。
武藤先生からは「少し仕事をセーブするなど、ちょっと工夫すればできることはよくあるので、職場に出す意見書や診断書は主治医とよく相談しながら作ることが大事」「職場にどう戻るかは、職場復帰直前ではなく、治療が落ち着いて安定してきた頃から準備し、丁寧なコミュニケーションを心がけていく」といった具体的なアドバイスをいただきました。
また、ClubCaNoW会員の皆様からの相談に、武藤先生が回答するコーナーも設けられました。
「部下が比較的若いので、病気のことをどう伝えるべきか悩んでいる」「医師に『意見書は書けないけど診断書なら』と言われた。意見書と診断書で何か違いが出るものなのか?」「療養後、元通りに働けなくなった場合、職場とどう折り合いをつけていけばいいのか」といった切実な質問が寄せられました。
がんと共生するために「受援力」を育てる
武藤先生はセミナーの最後に、がんという病気について「自分がかかるまでは遠い存在に感じますが、ある日、突然ふりかかると人生が激変するぐらい重い病気。一方、身近にがんの方がいないという人は、ほぼいないくらい、ありふれた病気でもあります」と語りました。怖がりすぎず、共生していくことが大事とのことです。
そして会員の皆様に向けて、次のようなメッセージを送りました。
「いろいろな支援制度ができてきているので、困っているときはぜひ使ってください。そして、自分が元気になった時にほかの人が困っていたら助けましょう。そのように助け合える『受援力』が育つ社会になっていくことを願います。仕事に関しても諦めずに、ぜひ私たちをうまく使っていただければと思います」
ClubCaNoWでは定期的に、治療生活を応援するための会員向けイベントを企画しています。また、専門家の先生をお呼びして、治療の助けになるような医療知識をどこよりもわかりやすくお届けする医療セミナーも開催予定です。
次回のセミナーは2023年1月12日(木)19:00~20:15を予定。
テーマは「賢い患者になるために知っておきたい正しい情報の見極め方 初級編」です。
がんに関する情報があふれる時代に、知り得た情報が信頼できるものかを判断するのは非常に困難です。次回からは2回に渡り、今後に役立つがん情報の正しい見極め方について、慶應義塾大学病院 腫瘍センター副センター長の浜本康夫先生にご解説いただきます。
第1回となる1月は基礎編として、さまざまな情報網から正しい情報を見極める方法や、皆様も一度はご覧になったことがある「がん情報サービス」の活用方法をお伺いします。
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